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2015-12-14

よりコンプリートなトレーニング発展のために(前半)

◆個人戦術の強化のためのトレーニング

 ボールスポーツにおけるよりコンプリートなトレーニング発展を考えてみよう。確かに理論上では、『チームの目標とトレーニング環境』、『チームの戦力や予算』、『競争環境とライバル』やカレンダーなどをベースに理想のトレーニングは構成される。しかしそのような論理的なトレーニング発展の過程において、選手個人レベルでクリアするべき条件がある。まずは以下のようなキーワードを考えてみよう。①自発的なモチベーション、②べースとなるフィジカル、③ボール扱いなどのテクニック、④インテリジェンスを駆使する個人戦術、⑤家庭問題や経済事情などからの環境背景、⑥どのような地域性、国民性かなどという文化背景。他にも条件は多くある。質の高い集団トレーニングを築くには、まずは個人レベルでの準備と成長が欠かせない。

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 選手のレベルアップのために、よりコンプリートなトレーニングを目指すには、何をどうすればよいだろう?まずトレーニングでは戦術発展を優先させたい。ピッチ内でのトレーニングにおいては、個人戦術の強化を大きな優先事項として考える。ゲーム側面を考えれば、インテリジェントな選手を育てるために、個人戦術強化は欠かせない。ゲームを理解して解決方法を探せる選手を、トレーニングから育成することは日本でも急務だろう。

<まずは個人レベルでの準備と成長が、強い集団のベースとなる>

 ここでタクティカル・アクションという概念を復習したい。選手が戦術的に行動するための行動パターンを、『タクティカル・アクション』と呼んでいる。ゲーム局面の観察、分析、決断、実行、学習のサイクルであり、戦術トレーニングではこのタクティカル・アクションに強い刺激を入れたい。そのようにして個人戦術の向上を目指すことが、戦術トレーニングにおける大きな課題となる。

<タクティカル・アクション。PDAサイクルまたはOODAサイクルに象徴される>
◆個人戦術の強化のいくつかのキーワード
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◆インテグラルトレーニングの導入

 ここで述べたように、戦術トレーニングを通じてインテリジェンスそして個人戦術を追及するには、総合能力の向上が欠かせない。それ以外にも現代のボールスポーツトレーニングには、様々なエレメントが求められる。限られた時間でいかにトレーニングの質を向上させて、個人戦術に秀でた選手を育てるのか?そこで『インテグラルトレーニングの導入』という解決方法がしばしば提唱される。体力、技術、戦術、メンタルをゲームに浸透できる形で効率よくトレーニングさせる方法論である。

 確かに短い時間のトレーニングから総合能力を向上させるには、指導者はインテグラルトレーニング方法論を活用できる。しかしインテグラルトレーニング方法論のみが全ての正解ではない。ここでのポイントは選手個人、味方選手、ライバルチームのスカウティング、背景やメンタリティー、インテリジェンスなどを考慮して選手やチームには何が必要なのかを分析することだ。その分析に基づいて、トレーニングや戦術計画を段階的に発展させる習慣が原点となる。

<インテグラルトレーニングを用いて多くの練習要素をカバーできる>

 いわゆる対人決断を必要としない“アナリティック・トレーニング”について考えてみよう。反復動作などに代表されるこのトレーニング方法論にも、近年では知覚認知レベルの引き上げなどにより進化が起こっている。アナリティックトレーニングは古くもなければ、悪いものでもない。アナリティックトレーニング、フィジカルトレーニング、局面の細分化トレーニング、状況連結によるトランジショントレーニングなど、その全てが必要とされる場合はある。チームが必要とする課題に、段階的に取り組むことがポイントだ。どんなトレーニングでも、意図的かつ誘導的なアプローチにより、知覚認知、プレッシャー、エラー、成功、ストレス、消耗を段階的に導入できる。段階的に選手のレベルを引き上げるために、必要なプロセスは必ず予習したい。そこでアナリティックトレーニングによるアプローチも有効となる場合も多い。私達が小中学校で基礎学力を徹底することの大切さを、その例として考えていただきたい。

<反復トレーニングなどでも、精度や強度を追及するならば有効だ>
◆理想のトレーニング構築のポイント

 ボールスポーツにおける『理想のトレーニング構築』を簡単に要約することはできない。トレーニングの理想やその構築方法とは、各指導者やその背景によっても異なるからだ。いずれにしても指導者は、各自のトレーニング原則を理論立てて整理しておきたい。競争カテゴリーという前提であるが、筆者の意見では理想のボールスポーツのトレーニングには3つのポイントが存在する。それが、①ゲームを越えた複雑性、②高いインテンシティー、③ゲームへの浸透性、である。毎日のトレーニングから試合よりも複雑な状況を、より高い強度やスピードをもって、試合局面を理解しながら実戦に応用できるトレーニング構築がコンセプトの中核となる。そのようなトレーニング構築を行なえば、決断力を助長しながら超回復の原理によってトレーニングレベルを引き上げることが可能となる。

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①『ゲームを越えた複雑性』 実戦よりも複雑なトレーニングへと難易度を引き上げる過程で、選手の決断は向上していく。トレーニングのルール付け、スペース、人数、条件によって難易度は自由に引き上げることが可能だ。難易度の高いトレーニングに慣れることで、試合のゲームがより簡単と感じれるような習慣を作り出す。

②『高いインテンシティー』 実戦よりも高いインテンシティーで行なうことで、分析、決断、実行をより速くする。素早い決断からのゲーム展開にトレーニングの時点から免疫を作る。ゲームリズムやプレッシャーが楽と感じるような、高いインテンシティーのトレーニングによって、フィジカル及びメンタルの向上も期待できる。

③『ゲームへの浸透性』 そして実戦のゲームへと浸透性(互換性)のあるトレーニングにより、試合に近い成功・失敗体験をもたらし決断をより明確にする。それらの過程において選手達は、自分達に実行可能なアクションを選択、実行、分析、記憶できる。浸透性を持たせることで、トレーニングが疑似体験の場所となる。

<ゲームで起こる状況をより難易度を上げてトレーニングする>
◆コラム前半のまとめ

 戦術トレーニングでは、フィジカル、技術、戦術、戦略をマネージメントして時間の効率化をはかることが望ましい。そのためにはインテグラルトレーニング方法論も解決策の1つだろう。しかしいかに素晴らしいトレーニング環境があり、トレーニング構築の方法があっても、選手の環境背景とモチベーションが全てを左右する。適切な環境と真のモチベーションがあれば、実に多くのことを達成することが可能となる。すなわちスポーツに向き合うメンタリティーとバックグラウンドこそが、理想的なトレーニングの発展には必要不可欠だ。