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2016-1-25

スポーツ環境における情報活用について

はじめに(前回コラムについて)

 前回のコラムでは、現代スポーツ環境にあふれる情報分類について考察した。①スナックインフォメーション、②コアインフォメーション、③エンピリカルインフォメーションという3種類の情報については前回コラムを参照していただきたい。その3種類の情報は異なる特性の情報だが、どれもがアイデアの取得、モチベーションの維持、信念の確保などに必要となることには留意していただきたい。


 情報を鵜呑みにしない。情報をしっかりと分類して査定する。この情報の蔓延する時代に、スポーツ情報を分類することは欠かせない。それでは整理された情報を、いかにトレーニング環境に活用するのか?今回のコラムでは、それぞれの情報をスポーツ環境に活用するためのポイントを整理してみたい。

情報取得よりも目標設定を優先する

 情報の価値=目標により変化する。情報の価値は各自の目標設定によって、大きく意味合いが変わる。ある情報を活かすも殺すも、自分次第なのだ。目標設定は情報内容に左右されるべきでもない。情報に目標が左右されては長続きしない。揺るがないこと。いかなる情報を吸収する場合も、まずは自分の目標を明確に持つことが優先だ。目標がなければ、情報に何の価値すらも生まれない。

 目標設定などは、情報取得に影響を受けてはならない。それぞれの環境で、「①何を目標として、②何を信じて、③何を実行するのか?」を徹底することが、情報を有効利用する前提条件だ。情報は目標に合わせて探すものだ。スポーツ環境の指導者ならば、情報取得前後のトレーニング過程などにも一貫性を意識したい。いずれにしろ目標設定を明確に持つ。他人に流されない。情報に左右されない。そして環境に向き合いながら現実目標を設定するのは、トレーニングする本人達しかいない。


情報の価値は目標、哲学、性格、背景によっても変化する

 目標だけが情報の価値に変化を与えるわけではない。各選手や指導者が求める哲学によって、情報の意味合いも活用性も左右される。哲学や性格という問題である。人間は不必要な情報に対しては、長期的には拒絶反応を起こしてしまう。そのため「信念にそった目標設定」は、個人の最大の責任課題である。スポーツ環境において選手、指導者がそれぞれ自分の目標を明確にすることで、問題改善(環境改善)のための情報交換が可能となる。個人の目標、哲学、性格や背景によって、問題改善に対するアプローチも激変する。スポーツ環境における情報と問題解決は、実に流動的な側面を含んでいる。

情報+コンセプト+トレーニング=有意義な変化

 情報とコンセプトを学ぶとは、コンセプトの単語を知ることとは異なる。情報を得たら、コンセプトを理解し、そして実行に移せることが条件だ。その背景や思考を十分に理解し、いかなる環境でも実行に移し、継続できることで「コンセプトの理解」と称する。新しい情報によりコンセプトをいくら学習しても、何も変化が生じなければ意味がない。コンセプトを理解して、何かに変化を与えるためには、日々のトレーニングによる試行錯誤をできる環境と「実行力」と「哲学」も必要だ。その先に指導者は、方法論の熟知という課題にも直面するだろう。トレーニングや試合で起こった現象を再現させたり、難易度を下げて模倣したり、掘り下げて改善したり、段階的に発展させるためにも「方法論の熟知」は鍵となる。

方法論とはあくまでも他人のもの

 方法論を学ぶにあたっての問題点は、それが受け手(聞き手)のオリジナルではないことだ。本来は自分の信じるトレーニング方法こそがオリジナルであり、その目標と環境に合わせてしか方法論は発展しない。いくら新しい方法論を知ったとしても、簡単にトレーニング効果の向上は期待できない。新しい情報などによって習得する「方法論」と呼ばれるものは、他人からの借用物と肝に命じるべきだ。そこには「①コンセプトの理解、②試行錯誤の継続、③方法論への深い理解」などが大前提となる。

 他人の方法論などを学ぶ場合、まずはゲームコンセプトを深く理解することが優先となる。ゲームコンセプトの理解により、新しいコンセプトや方法論を独自なものにカスタム化させることが可能となる。自分たちの目標、現状、必要性、能力、環境にトレーニング方法論を順応させてカスタム化するためには、まずは「ゲームを理解する」ことが重要だ。


<実践経験のないコンセプトや言葉だけでは、情報が形骸化してしまう恐れがある>
インフォメーション氾濫による形骸化の恐れ

 インフォメーションの氾濫によって、情報の形骸化の恐れが発生する。手安い情報だけのスナックインフォメーションを氾濫させても、学習の効率性は上がらない。情報はコンセプト、そして実用化へのヒントを導いてこそ意義がある。それは情報の責任でもあり、また受け手(聞き手)の責任でもある。氾濫する情報を淘汰するのは、受け手(聞き手)の役目だ。その情報によって何の活用性を見いだせるか?その情報によって何を動機づけられ、何を行動に移すのか?そこでは自分たちのモチベーションや目標が大きな原動力となる。

「即席搾取型」と「理想追求型」という2種類の人間性

 スポーツ情報の有効利用をする人間にも、社会と同じように「即席搾取型」と「理想追求型」の2種類が存在する。要約すれば「即席搾取型」の人間とは、目の前の利益を追求し続けるタイプの人間だ。そして「理想追求型」の人間とは、目先の利益よりも本質的な目標を追求するタイプを意味している。目先の利益だけでは長続きしないが、理想や目標の追求ばかりでは目の前の問題をクリアできない。スポーツ情報とその利用についても、同じように2種類の人間性が比較できる。情報のタイプに例えれば、「即席搾取型=スナックインフォメーション」と「理想追求型=コアインフォメーション」、どちらが優れているか?この2種類に優劣関係は存在しない。社会活動にもスポーツ環境にも、このような両者のメンタリティーバランスが必要となるだろう。


2つの異なる指導バランスとそのスピード

 情報における「即席搾取型」と「理想追求型」のバランスを考えながらも、指導スピードについて考えてみたい。指導者や選手は、目の前の問題をクリアする短期指導(短期的スピード)と、大きな目標への成長過程を重視した長期指導(長期的スピード)の2スピードを調整してトレーニング環境と向き合いたい。トレーニングサイクルに例えれば、「即席搾取型=マイクロサイクル思考」そして「理想追求型=マクロサイクル思考」という整理の仕方も可能だ。

①即席搾取型=目の前の効率や利益の追求のために最善結果を考える。
②理想追求型=哲学と理想からなる長期目標のための過程を優先する。

 そのように異なる指導スピードによっても、追求する情報なども変化する。スポーツ情報の価値は、指導者の置かれる指導環境やトレーニングサイクルスピードにも左右されるのだ。なお今回のコラムでは、中期的サイクルとなるメソサイクルについては言及しない。


おわりに(まとめ)

 この時代、私たちは蔓延する情報と直面しながら生活している。それはスポーツ環境も同じである。ある1つの情報とは、多くを変化させる可能性を秘めている。しかし意味のない情報や歪曲された情報も世界には蔓延している。まず私たちは情報を取得するさいに、明確な「現状理解」と「目標設定」を行なう必要がある。そしてコンセプトの理解、トレーニングなどによる試行錯誤を勤勉に両立させる環境を確保する。目標や環境が揺らげば、情報に踊らされてしまう。またゲームコンセプトの深い理解がなければ、選手も指導者も感覚実行を繰り返すマシーンとなる。そして方法論に基づいたコンセプトの適用がなければ、このマシーンはすぐに淘汰破壊される。

 整理分類された情報(このコラムでは3種類に分類している)を、必要に応じてフィルターする経験も必要となる。強い目標と環境を備え、コンセプトを掌握できても、新しい「情報」をトレーニングで具現化する方法論の理解、継続がなければ、成功例や失敗例をトレーニングで再現できなくなる。つまり情報から学んだコンセプトを、トレーニングサイクルの中で意図的に試行錯誤できなくなる。「情報」とは、目標設定、コンセプト掌握、方法論の熟知、トレーニング継続、試合による実体験の環境があってこそ、広い意味での価値を得る。そしてトレーニングサイクルの過程でこそ、あるスポーツ情報を淘汰したりカスタム化する経験が得られる。トレーニングについては、「即席搾取型」と「理想追求型」という2つの異なるメンタリティー、スピード、バランスを調節したい。スポーツトレーニングを計画、実行、改善する手腕を磨くためにも、情報の整理と利用は受け手(聞き手)にも大きな責任がある難しいテーマでもある。