2016-11-5

東京五輪「有明アリーナ」を考える

今回は皆様にこの有明アリーナの可能性について、スポーツ界とはまた違った角度からのご意見を頂戴いたしましたので、ここにご紹介させて頂きます。
 
 
<有明アリーナに関するコメント>
冨山和彦
 
 五輪施設整備にあたっては、コストとして考えるべきものと、将来の成長に向けた先行投資、「稼ぐ力」を持つ設備への先行投資として考えるべきものとを混同してはならない。
 
 その点、東京はロンドン、ニューヨークなどと比較して、多目的アリーナを含む国際規格の大型集客施設が少ない。東京がアジア最強の国際都市として成長していくうえでこの問題は致命的になりかねない。
 
 今や世界の消費の軸は「もの」から「こと」へシフトし、ライブエンターテイメントは世界的な大成長産業である。わが国も例外ではなく、「失われた20年」と言われる停滞の時期にあっても、ライブエンターテイメント市場は一貫して成長を続けてきた。その中核的なインフラは、アリーナなどの大型集客施設である。
 
 なかでもスポーツライブエンターテイメントは巨大産業領域に変貌しつつあり、特に日本が位置するアジアのタイムゾーン(ゴールデンタイムにライブ中継を視聴できる経度時間帯)には、10億人、20億人の観客が視聴、来場するポテンシャルがある。だからこそJリーグは今年英国に拠点を置く国際スポーツメディアと10年間2100億円の巨額なインターネット配信権契約を締結するに至った。これとてタイムゾーン人口がアジアよりはるかに少ない欧州における、イングランドプレミアリーグの一年間の放映権料(約3500億円)よりもはるかに少額であり、今後の東京を中心とするアジアのタイムゾーンの潜在価値は計り知れない巨大なものなのである。
 
 有明アリーナは都心、そして羽田からのアクセスがよく、絶好の立地であり、ここに日本の技術、英知を集約した最新大型施設をつくれば、五輪後もスポーツイベント、コンサートなど世界から集客できる施設、さらには最新の映像音響技術を駆使したライブ中継(先日のリオ五輪の閉会式では、エンターテイメントソリューションの世界における日本のハード&ソフト両面での圧倒的な力量が存分に証明されている)がアジアの巨大市場に配信、放映される基点として活用されるのは間違いない。
 
 東京オリンピック、パラリンピックは、こうしたスポーツ&ライブエンターテイメント産業の大イノベーションを日本から巻き起こす最大のチャンスであり、この周辺に宿泊施設、飲食などの商業施設と合わせて総合整備することで、世界最強の「稼げる」エリアと「稼げる」スポーツ産業を創出することができる。そして、この「稼ぎ」がスポーツの普及育成に還元されることで、スポーツの産業的発展と文化的発展がシンクロする好循環をこの国に確立できる絶好機が訪れているのだ。
 
 コストへの懸念は民間からの投資も入れて考えれば問題ない。「稼ぐ力」を持っている施設整備には国内外から民間資本はどんどん入ってくる。方法論的にはコンセッション(運営権売却)方式や、東京都が整備後に民間に売却する方式なども考えられる。過去の五輪でもそうした事例があった。こういう官民協業型のビジネスで使うことを前提で整備すればよいのであり、単なるコストサイドだけで考えるべき問題ではない。
 
 繰り返すが、魅力あるグローバル都市に、優れた大型文化・スポーツ施設が十分に整っていることは世界の常識である。有明アリーナを行政コストの削減という視点から評価するのは明らかに時代逆行であり、むしろ有明テニスセンターなどを含めた、より大きな規模でのスポーツ&ライヴエンターテイメントクラスターを東京湾岸エリアに形成するという大構想を連動させ、戦略的な先行投資プロジェクトとして位置付けるべきである。その場合、縮小どころか、より大規模かつ高機能の施設としての整備をも視野に入れるべきである。
 
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株式会社経営共創基盤 代表取締役CEO冨山和彦様
ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表
取締役を経て、2003年に産業再生機構設立時に参画しCOOに就任。
解散後、IGPIを設立。
オムロン社外取締役、ぴあ社外取締役、パナソニック社外取締役。
経済同友会副代表幹事。