日本フットサルリーグ

2014-2-17

Fリーグの熱い空気を伝える。それがプロの撮り方。

 他のスポーツには類を見ない迫力とスピード感が魅力のフットサル。肉眼ではとても追い切れない、選手たちの激しい動きや一瞬の表情をプロのフォトグラファーは確実に捕らえます。今回ご紹介する、Fリーグオフィシャルフォトグラファー 軍記ひろしさんもその一人。2012年、図らずも弾丸シュートを顔面でセーブしてしまった軍記さんですが、最高の瞬間を捕らえるためには、リスクも厭わない気持ちは一体どこから来るのでしょうか。(前編より続く)

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Q : ファルカンのシュートが当たって、試合は止まったんですか?

 いえ、ピッチの外のことなんで、試合は止まらなかったんですが、ドクターが来て医務室に連れて行かれ、救急車で病院に運ばれました。でも決勝戦ですし、ここで帰るのはイヤだし、まだ痛みも感じていなかったので、ワセリンを傷口に塗ってもらってピッチに戻りました。試合後に病院に運ばれてから9針縫いました。FIFAの指定していた病院だったんですが、大会中来たのは僕一人だけだったそうです。病院では、あの瞬間をテレビで観ていて「あいつ来るぞ」と言っていたらしいですよ(笑)

Q : 大変な事故でしたが、大事にならなくて良かったですね。

 タイの病院で縫ってもらったんですが、だんだん腫れて来て、早く日本の病院に行きたかったので、翌々日に帰国しました。検査の結果、眼底骨折もなく、眼鏡があったせいか眼球にも問題はありませんでした。青あざはかなり長く残りましたが、首が痛い、頭が痛いというむち打ち症の状態が1ヶ月ぐらい続きました。とっさに目をつぶっていなかったら、今の仕事はしていませんね。

Q : その後、トラウマというか、怖くなることはないですか?

 結構トラウマはあるので、絶対に割れない眼鏡を作りました。絶対に割れないレンズで、金具が一切ない眼鏡で、オークリーという割れないのが売りのメーカーのものです。サッカーのダービッツという選手が試合中につけていたゴーグルの現代版のようなものです。試合でも使えるぐらいの強度があります。トラウマ克服用ですが、よく見えて良いですよ。あの事故のせいで、シュートが枠に来ないとわかれば逃げるようになりましたね。

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Q : ボールが当たることはよくあるんですか?

 他のカメラマンでボールがぶつかったというのは聞きますが、怪我をしたという話は聞いたことないですね。本格的にフットサルだけ撮っている人は少ないんです。カメラ一台で撮っているのであれば逃げられるんですが、僕みたいに二台カメラを持ってガッツリ撮っているとよけられないですよ。それにファルカンのは早すぎてボールが見えなかったです。重かったし、パワーが全然違います。

Q : ファルカン自身はボールが軍記さんに当たったことに気づいたでしょうか。

 気づいていなかったようですね。本当は気づいてくれて、ユニホームぐらいもらえれば良かったんですが(笑)。一番好きな選手だったんで、アピールしに行くのも彼に心配の種を増やすだけなのでよくないと思いました。貴重な体験でしたよ。ただ一人、億単位で稼げる選手ですからね。みんなに「おいしい」と言われることもあります。

 ただこの試合は、日本の試合ではないのに、僕が好きで撮りに行っていたので、協会にはご迷惑をかけて申し訳なかったと思っています。

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Q : さて、話を戻しますが、激しく動いているものを撮る難しさはありますか?

 フットサルを撮影するのは、トップクラスに難しいと思います。動きもそうですが、とにかく環境が悪い。体育館は暗いんです。屋外で撮る時はオートフォーカスの精度も上がりカメラの能力にも余裕を持って撮れますが、室内はただでさえ暗いのに経費節減でさらに暗いことも多いので撮りづらいです。それに、僕が撮り始めた頃に比べて、選手の動きのスピードも上がりました。フットサルは細かい動きが多く選手を追い続けるのが非常に難しい部分があります。それから、戦術的なこととか、競技をある程度理解していないとダメですね。ちょっとずれるとフレームアウトするので、予測しながら狙ったり。

 ただ、リーグのオフィシャルになって撮り方が変わりました。新聞記者のような報道なら撮るべきはゴールシーンですが、いま僕はより迫力のあるものを撮ろうとしています。あまり盛り上がらない試合でもそう思わせないように撮ろう、決定的なシーンを追いかけるよりも熱いシーンを撮ろうと。例えば去年カズさんが出た時、報道はみなカズさんを追っていましたが、僕はFリーグの熱い空気を伝えることを優先しています。

 リーグオフィシャルは報道じゃないと思いますよ。感覚としては。ありのままを撮るのが報道、リーグの良い部分を見せるのがリーグオフィシャル。ちょっとファッションと似ていますよね。それがプロの仕事だと思います。

 報道する以外のところに、写真の良さがつまっていると思います。空気を撮る、空気を切り取る、それが魅力だと思いますよ。そういうものをたくさん露出できれば、Fリーグももっとよく見えて行くのかなと思います。10年たったら写真展とかやりたいですね。

Q : フットサルの最大の魅力は何だと思いますか?

 一番言われるのはスピード感や激しさですが、スポーツすべてに通じる、筋書きのないドラマティックな展開が多く起こりやすいのがフットサルです。バスケットボールなどとは違って、入る点数が少ないだけに大きなドラマになりがちなんです。

 今までの経験上、黄金スコアは5-4の試合だと僕は思うんですよ。5-4の試合には魅力がつまってます。他の点数にはないですね。例えば、0-4で負けているチームが3-4になり、残り4秒のPKで同点に追いつき、残りで逆転。このパターンが最高です。

Q : そんな試合、観たいですね。

 でも最近はなかなかないんですよ。各チーム、点を取られない戦い方を重視していますから。いかに失敗しないかを突き詰める。その傾向が世界的に加速しています。勝つためのフットサル。ヨーロッパは特にそうで、スペインもそれでトップになりました。ワールドカップなどの国際試合ならそれでもいいんですが、雑なところにもフットサルの魅力があるので、そこを大事にした方がいいと僕は思います。ブラジルが魅力的なのはそこです。フットサルはサッカーと違って、なかなか人気が上がりません。目を離さずに集中して観ないといけない競技なので、引き込まれるようなスターの登場に期待したいですね。

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Q : やはりスターの存在は大きいですか?

 大きいですね。リカルジーニョ(名古屋オーシャンズ)のような選手がいると集客もアップします。人は選手を応援するんですよね。エスポラーダ北海道にカズさんが出場した時もチケットはすぐに完売。グッズも売れて、メディアも動きました。魅力ある選手がいれば、世の中は盛り上がります。付随して本も売れますし、色々なところでお金が動き、媒体が立ち上がることもあります。

 あとは地元のスターを育てないとダメでしょうね。最近では名古屋オーシャンズの森岡薫選手が自伝を出しましたが、そういうことが他のチームでできるといいですね。

フットサルがうまいだけではなく、他の部分で人としての魅力があるとか、各チームに一人ぐらいはそういう、持って生まれたものを感じられる人が欲しいですね。

 

Q : これからの日本のフットサル、Fリーグのどんな点に注目してほしいですか?

 プレイオフ制度ができたので、名古屋オーシャンズ以外から浮上するチームを期待できる展開になると思います。そして、Fリーグを盛り上げて行くために僕たちができることは感動的なシーンをたくさん残し、どれだけ露出できるかだと思います。

 子供たちはレベルアップしていますから、プロを目指す選手がもっと増えてほしいです。そうすれば才能ある選手ももっと集まるでしょう。結果的にそれがフットサルの魅力のアップにつながると思います。今の選手達には自分のアスリートとしての力を利用して、自分でもっと見る人に個性だとかフットサルならではのプレーをアピールしていってほしいです。

 それは僕の立場からはどうすることもできない、そこをどうするか考えていられるのが、この仕事をする楽しさなのかもしれません。

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<取材後記>

 「ネットを使ってどんどん写真や情報を発信していきたい」と語っていらした軍記さん。ライブでの観戦とは別に、その激しい戦いの一瞬を切り取った写真を見ることも、スポーツの大きな楽しみです。Fリーグの試合を観戦する時には、試合の合間にぜひピッチ脇でチャンスを狙う、ファッションセンス抜群の軍記さんを探してみて下さい。その瞬間に生まれた写真に、いつかどこかできっと出会えるはずです。 

軍記ひろしさんの写真に見るFリーグヒストリー
軍記さんご自身にセレクトしていただいた写真を掲載しました。ぜひご覧下さい!

軍記ひろしさん プロフィール

1978年富山県生まれ。写真家。

18歳で上京し日本写真学園に入学。

卒業後、フリーの写真家として活動をはじめる。友人に誘われ観戦した競技フットサルに魅了され、以降フットサルシーンの最前線で撮影を続けている。競技フットサルの頂点に位置するFリーグの創設に合わせ自身が代表を務めるfutsalgraphicを設立。2008年からFリーグのオフィシャルカメラマンを務めている。また、スポーツ写真だけでなくサッカー・フットサルブランドのカタログ・広告写真の撮影、フットボールカルチャーマガジン『GREEN』の制作にも関わるなど、幅広く活動している。

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