一般社団法人 日本トップリーグ連携機構

日本トップリーグ連携機構は、ボールゲーム9競技の日本の最高峰12リーグの競技力の向上と運営の活性化を目指した活動を行っています。

あそビバ!

「あそビバ!」プログラム開発の背景

7.投げる動作フォームの発達例
〔幼少年期の動作の発達〕

「投げる」という動作には、サッカーのスローインのように両手で持って頭の上から投げる、ソフトボールの投手のように下から投げる、両手で下から投げる、チェストパスをするなどというようにいろんな投げ方があります。
 ここでは、幼稚園の年長の子どもたちを対象に、「投げる」を1つの例として、片手でボールを持って上手で投げる、いわゆる野球型・ソフトボール型の投げ方を使って評価をしています。
 上の写真(パターン1)では、子どもはただボールを持って、放っているだけです。ところが、下の写真(パターン2)では、ボールを持って、投げる前に体をひねっていることがわかります。下の写真の子どものほうが、からだをひねるという動きが、発達しています。

投球動作の動作発達段階の度数分布

次の写真を見てみましょう。1枚目の写真との違いは、足のステップが確認できます。上の写真(パターン3)の子どもは、右手で投げて、右足を出しています。あまりかっこよくはない投げ方だと思います。しかし、ほとんどの人が、初めてボールを持って投げるときには、足を出したとき、投げる側と同じ側の足を出しています。
 この動きには理由があって、からだのバランスを取るために、同じ側の手と足が出るようになっています。逆に、反対側の足を出すと不安定になります。子どもたちは、自分たちの経験の中から安定した動きを選び、投げる側と同じ側の足が出るようになっています。
 実際には、この投げ方では遠くに投げたり速いボールを投げたりすることはできません。そこで、子どもは目的を持って遠くに投げるために、他の子どもや先生たちの動きを見ながら、逆足を出すように発達していきます。
 動きのフォームを、指導者が正しい動きを伝えるということも大事ですが、幼少年期の子どもにとっては、目的を明確にさせて自分で動きを良くしていくということが大事だと考えています。幼少期の時点で、子どもに対して「左足を出せ!」と言ってしまうと、その時はできても、自分のものとして体得できない、といった研究もあります。

 下の写真(パターン4)の子どもは、この中では最もよい動きです。体を大きくひねっていますし、脚も腕もバランスをとって上げています。大きなステップで、フォロースルーもできています。紹介したようにパターン1、2、3、4の流れで、足のステップが始まって(パターン3)、この子(パターン4)に至ります。パターン4の次には、パターン5というのがあって、野球の投手で遠くに投げるためにワインドアップモーションをして投げるというようなものがあります。写真がないのは、幼児期の頃にワインドアップモーションで投げる子どもが、今はほとんどいません。
 写真の中で動きが未熟な子ども、ひねらずにボールを放っている子どもは、パターン1です。逆足を出して大きな動きでひねって投げている子どもをパターン4とします。投げ方で分類すると、今の子どもたちは、パターン1とパターン2がほとんどです。足のステップがなくて、少し体をひねりながら投げています。
 パターン3は、ステップはしますが、同じほうの足を出しています。パターン3は、男の子にはいますが、逆足を出せる女の子はほとんどいない状況です。

〔投げる動きの洗練化〕
男子における各動作様式の動作発達段階の割合動作発達得点(35点満点)の平均値の比較(男子)疾走動作得点の比較

動きに着目した研究は、1985年頃、日本において体力低下が始まったと言われている年に体系化されていました。日本の子どもたちのいろんな動きをみる基準が具体化されました。
 1から5までの動きの基準は、85年くらいにまとめられた基準です。当時の基準では、グラフは正規分布を示していました。正規分布では、中央の値「3」が最も高く、次に「2」「4」の値が高く、両端の値「1」「5」が低くなっている山形の状態です。
 しかし、現在のデータは、25年前の基準を使って、今の子どもたちの動きを評価すると、大きく左に寄ります。今の子どもたちは動き方が洗練化されていないことを示します。いろんな動きを経験することもなく、一つの動きも上手になっていない、ということになります。
 これは、ある特定のスポーツをやっていて、そのスポーツに含まれている動きは上手です。小学校高学年を対象に、少年団や幼児の頃からサッカーあるいはバスケットボール、野球だけをやっていた子どもを調査しました。その結果、サッカーをやっている子どもは蹴ることは非常に上手ですが、投げることやボールをつくことは上手くできませんでした。バスケットボールをやっている子どもは、ボールをつくことは非常に上手だけれども、蹴ることは上手くできないというように競技特性が出てしまうという実態を把握しています。
 「投げる」という動きを中心にお話しましたが、他の動きでも同様のことが起きていると考えられます。

〔50m走でまっすぐ走れない大学生〕

山梨大学では、毎年大学1、2年生1,400人くらいが、全員体力テストを受けます。20年間ずっと体力テストを見てきましたが、18〜19歳の男子の学生の投球動作は、前述したパターン1、パターン2の学生がたくさんいます。ハンドボールを持って、ひねることができず、ボールを持ったら、少し引いて正面に放るという投げ方をします。記録は、6〜7m程度です。18〜19歳というのは、体力・運動能力のピークで、個人内でピークにある年齢です。この時期の投げた距離が、6〜7mということは、これが一生のうちで最も投げた距離になってしまいます。
 50m走では、2人から3人が、一緒に走って測定をしています。陸上ではレーンがあって、3レーン、5レーンというように、間を空けて走るようにしています。1レーンは、約1m25cmですから、隣で一緒に走る人とは少なくとも1m50cmくらいは空いているはずです。この50m走で3人並べて測定をすると、15回に1回くらいは途中で測定をやめさせることがあります。その原因は、フライングではなく、隣のレーンの走者とぶつかるからです。
 最近では、50mを全力でまっすぐ走れない大学生がたくさんいます。まっすぐ走るだけの経験ではなくて、横に走ること、後ろに走ること、いろんな物を持って走ること、ボールを投げながら走ること、いろんな経験がないことから、まっすぐ走るのもままならないという学生も出てきました。
 このように動きというのは、経験とともに上手になっていくはずですが、動きが上手くならず、低いレベルで留まってしまっている子どもがたくさんいます。