日本ソフトボールリーグ

2013-4-16

チームスポーツのボジティブな面を見せて行きたい

 4月20日(土)、ナゴヤドームで女子ソフトボールリーグが開幕します。日本の女子ソフトボールの歴史で、ひときわ輝きを放っているのが、ルネサスエレクトロニクス高崎の上野由岐子選手です。上野選手は、悲願の金メダルを獲得した2008年北京オリンピック、42年ぶりの優勝でロンドンオリンピック選手団に大きなパワーを与えた2012年世界選手権、そして強豪ニッポンのベースであるリーグの場で、12年にわたり投げ続けてきました。リーグ開幕前の上野選手にいまのご自身とチームについて語っていただきました。

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Q : まもなく開幕ですね。練習練習の毎日だと思いますが、いかがですか?

A:そうですね。開幕を前に日々練習に集中しています。全体の練習と個人の練習ははっきりわかれていて、メリハリを考えながら形式的に流れないようにしていますね。個々のトレーニングメニューは、実際に自分でやりながら、ペースを考えて指導するようにしています。休みは週に1日、曜日に関係なく取らせてもらってます。

Q : 初戦の対戦相手は昨年の覇者、トヨタ自動車です。開幕に向けてチームのムードはいかがですか?

A:ふたを開けないとわからない、というのがうちのチームの特徴で、もちろん勝っていきたい、今年こそ優勝したいと思いますけど、一人の力では勝てないのがソフトボールですからね。チームとして、開幕から決勝トーナメントまでの1年でどれだけ成長できるか、開幕でトヨタ自動車とどれだけ戦えて、最後にどれだけ戦えるようになるか、伸びしろを伸ばしていきたいです。

 昨年は、どちらかというと後輩たちが先輩たちについていくのが精一杯で、とにかく死にもの狂いでがんばったシーズンでしたね。だからこそ一体感もあって、最後には、これなら勝てるというチームに仕上がったと思います。新人たちについて言えば、のびのびプレイするのが一番なので、今年はまずそれができるかできないかですね。考えなければならないのはシーズン後半、来年から。私たちは彼女たちがのびのびプレイできる環境を提供したいです。メリハリをつけながら、ダメなことはダメと言える先輩後輩関係でありたいと思いますね。

Q : 選手の皆さんは寮生活をしていらっしゃるわけですが、コミュニケーションの面で気をつけていることはありますか?

A:この寮は2人1部屋(注:柳川マネージャーによると、入口は同じですが、それぞれのスペースは分かれているそうです)で、いま選手が18名、マネージャーが2名いるんですが、本当に四六時中一緒というイメージはありますね。友達という感じではなくて、一緒に助け合うけれど、時には叱ったりもしなければならない。チームとして、たくさんの個性をどれだけ一つの色に染められるか、それが難しいところであり、大事なところです。

 女性の集まりですから、いろいろなことも相談しますし、他人だけど他人じゃないというのがうちのチームの良さかな。血はつながっていないけど、縁があって集まった兄弟(姉妹?)という感じ。監督(宇津木麗華監督)は「あなた方を守って上げるんだからついて来なさい」と言ってくれるお母さんのような存在なので、兄弟である意識は高まりますし、それが理想形でもありますね。

Q : 「黄金バッテリー」の相方、峰幸代さんも上野さんの妹さんというわけですね。

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A:だいぶ年下(注:6歳年下)ですが、バッテリー組んで4年経っているので、信頼関係は深まっていると思います。峰自身も最初は自分のことで精一杯でしたけど、余裕ができてきているし、今では年下のピッチャーも増えて、キャッチャーとして世話ができるようになったと思います。キャッチャーというのは受け身でありながら、チームという扇の要でもあるという、難しいポジションです。一番頭を使うし、包容力がないと信頼されない。技術的な面ではなくて、人として私生活でどれだけつながっているかが信頼感につながるんです。彼女もそんなキャッチャーになってきたな、と思いますね。

 多分、色々なピッチャーとやってきたことが成長につながったんじゃないかな。自分だけではなくて、技巧派や速球派や色々なレベルのピッチャーと組んで、彼女たちをどれだけ活かすかを体験したことがよかったんだと思います。

Q : 上野さんはピッチングコーチも兼任されているわけですが、チームの「姉」としてどうありたいと思っていますか?

A:背中を見せられるかどうかが大事ですね。尊敬とかはどうでもよくて、先輩として恥ずかしくない背中をしているかどうか。うまいかどうかではなくて、私生活、言葉一つ、行動一つとっても恥ずかしくない自分であるかどうかが大事だと思います。特にピッチャーはみんなが見ているので、本気なのか、いっぱいいっぱいなのか、手抜きしているのか、全部わかってしまいます。時には知られたくないこともたくさんあるわけですが、何かを伝えなければならないポジションでもある。みんなにやる気を与えられる姿でいることが一番大事です。

Q : いま、スポーツの指導に関してさまざまな問題が起きています。どうお考えですか?

A:体罰の問題で、厳しいということに関して難しくなっていますが、私は強いチームに厳しくないチームはないと思うんですよ。厳しいからこそ礼儀も知ることができて、大事なところを感じることができる。細かいところまで指導してくれる人がいるから、強くなるんです。ただ、みんな強くなりたいと願っても一人一人感じ方は違うので、指導者にどれだけ愛情があるか、どれだけ思いが伝わっているかが必要なんです。

 スポーツのネガティブな面がクローズアップされがちですが、そうさせないだけのものを自分たちは出して行かなければならない。そこに目を向かせてしまう自分たちにも何か原因があるのかもしれませんし。でも他に注目されるべきことはたくさんありますよね。例えば、元気さとか溌剌とした感じを見て、元気をもらうわけじゃないですか。明るさや笑顔、それがチーム競技のよいところだと思うんです。苦しいのはみな同じ。でも笑顔になれる一瞬のためにがんばっているんです。これだけ多くの人がソフトボールをやっているのにこのチームにいるのは、人にはない何かを持っているからなんだ。そんなことを後輩たちには伝えていきたいですね。

 とはいえ、10歳も年下になると何を考えていて、何が常識なのか、自分とは違っていて、わからないことも多いんですよ。10歳しか変わらないのに、一体この10年に何があったんだ~!みたいな(笑) でも向かうベクトルは同じですからね。うちにはソフトを本当にやりたいと思っている選手しかいませんから。

Q : 野球、ソフトボールに続き、レスリングもオリンピック競技から除外されようとしています。そのどれもがオリンピック競技であってほしいと私たちは思っているわけですが、非常に難しい状況になっています。上野さんはこの問題をどうお考えですか?

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A:正直、オリンピック競技に復帰することは難しそうですけど、私はもっと大きな面から、どの競技が選ばれようと、一人の日本人として日本選手団を応援する人間でありたいです。もちろんソフトボールは子供たちのためにも復帰してほしいと思いますよ。でもそう思っちゃうといがみあうことになるし、そこまでしてオリンピック競技に戻る意味があるのかなとも思うんです。応援しあえるから応援してもらえる、ソフトボールはそんなスポーツでありたい。ソフトボールってそういう競技なんだよ、と子供たちに教えられるスポーツでありたいです。その延長線上にオリンピックがあれば最高ですけれど、自分としてやるべきことはやってきているし、あとはもうどうにもできないですからね。ただ願うだけです。

Q : 4月10日、岸体育会館で行われたメディア懇談会で、宇津木麗華監督が「上野選手の魅力は熱いハート」とおっしゃってました。監督との出会いは上野さんにとってどんな意味を持っていますか?

A:ほんとに衝撃的でしたね。年も離れていたし、自分が新人の時に麗華監督はすでにベテラン選手だったので、レベルが違いすぎて「この人は何なんだ!こんな『適当』なのにプレイできちゃうんだ!」というのが最初の印象でしたね。「適当」というのは、ちょっと抜いてもできてしまうということで、積み重ねがあるから、集中しているからできるんです。何も知らない新人はがむしゃらにやるばかりで、見抜く力もありませんから、本当にこの人はなぜこれでも大丈夫なんだろうと思ってました。でも、あの頃思った「適当」が、今の自分なんですよね。 (後編に続く)

☆後編では、宇津木麗華監督への思い、モチベーションの変遷、意外な食生活と驚きの目標!?などのお話を掲載します。ご期待下さい。

上野由岐子選手 プロフィール

ルネサスエレクトロニクス高崎 女子ソフトボール部 公式サイト

日本ソフトボール協会 公式サイト