サッカーJリーグ

2013-11-15

GM対談 in OKAYAMA <第3回>

 日本トップリーグ連携機構に加盟している国内のボール競技12リーグの中から、岡山の地で着実に前進している2つのチーム、岡山湯郷Belleと岡山シーガルズの両GM、黒田和則GM、岡野實GMにチーム運営の現状、岡山のいま、夢や理想などを自由に語り合って頂きました。進行はびわこ成蹊スポーツ大学の吉倉秀和助教です。ぜひ、チーム運営の参考にしていただければ幸いです。

なお、連日の猛暑の中、ご多忙にも関わらずご承諾下さった両GMには心よりお礼申し上げます。(全3回)

<第3回>

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左より、岡山湯郷Bell GM 黒田和則氏、岡山シーガルズ GM 岡野實氏、びわこ成蹊スポーツ大学助教 吉倉秀和氏


選手のセカンドキャリアを考える

吉倉  両チームとも日本代表選手がいらっしゃいますが、苦労はありますか?

黒田、岡野  それはないと思います。

岡野  苦労があるとすれば、肖像権がからむ部分での費用負担でしょうか。プロは個人事業主ですから。マネジメントが入れば、そことの交渉になりますが、栗原の場合、直接契約しました。ただ今年は3者間契約にする可能性もありますから、肖像権に関しては気をつけたいですね。彼女たちはバレーをして初めて輝くわけで、過去の栄光でタレントとしてだけではやっていけません。でもそこは割り切らないと。

黒田  お金で割り切れればいいんですが、職場を探すのが本当に大変ですね。例えば月額12万円ぐらいもらっていたとしても、福利厚生とか社会保険とかがある。会社は労働に見合った賃金を出し、選手は会社の広告塔になる。30人いれば30社必要になるんです。いまは選手の数が少ないので15社で間に合っていますが、今後はなかなか難しいですよ。会社同士で紹介してくれて職場を増やす方法もありますが。ただ、うちの選手は働いていると言っても、世の中の誰もが働いているわけで、サッカーをしにうちに来ているものの、引退後にどうするか、ということがあります。寿退社でなければセカンドキャリアが必要です。つまり、社会的な訓練を働いている会社でしてもらっているんです。それは次に役立ちます。

吉倉  その会社に残られる選手はいらっしゃいますか?

黒田  いませんね。なので、岡山大学のキャリア支援センターと選手の環境作りを始めています。

岡野  うちは親元を離れて来ている選手がほとんどなので、うちの課題は「地元の選手を輩出しよう」ということです。市内に、中高一貫指導の加計学園岡山理科大学附属の中高があって、今度インターハイに出ます。中学も数年前から全国大会に出始めたので、その選手たちがうちに来てくれることが課題です。引退後は寿退社ならいいんですが、親元で何をしているかと言ったら、特にないんですね。本当は地元の雇用先に戻してあげるのが理想なんですが、うちは自社で雇用しているので、何かイベントを起こしてそこでお金をもらう、という形を作りたいです。例えば、スターを育ててメディアに露出させていく、イベントに参画する、そうしたことを自前で組み立てて雇用を生み出して行くというのが理想型なんです。赤磐市と指定管理で関わり始めていますが公園全体をメディアとも組んでイベント村にして発信していくようなことも考えて行きたいです。メディアがつけばスポンサーが付きます。自前でやることが難しければ、イベント会社に入ってもらって巻き込んでもらうという形もあるかもしれません。チーム岡山の話をしましたが(注:第2回)、湯郷Belleとコラボレーションしてやっていくこともありだと思います。あとは資金の調達ですけどね(笑)

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左より、黒田氏、岡野氏

どんなチームも夢を描いている!

黒田  地域が求めているものと、我々が求めているものとの差というのはありますね。うちは優勝して何かの恩返しをできれば、と思うんですが、地域はお金を求めますからね。だから私は「湯郷Belleというチームがコップにどんどん酒を注いで行くから、地域はそこからこぼれて皿に落ちたものを飲んでくれ」と言っているんですよ。コップの中を飲んでしまったら空になってしまう。これがなかなか伝わらないんですよ。こういう傾向は昔から地元にあるんですけどね。一昨年なでしこの合宿があって、一週間で10億円の経済効果がありました。直接旅館に落ちたのが6億5千万、一時効果が2億、労働力の発生で1億、PR効果に至っては、岡山全体で100億もあるんですよ。そういう効果が現実に出ているんです。付加価値の利用というものをもっと地域で考えてほしい。観光協会だって温泉旅館組合だって、もっとうちを活用してほしいです。でもいま青年部が温泉にできて色々なことを始めていますよ。ホテルや旅館だけではなくて、サラリーマン、農業、色々な人がいるからアイデアも出て来ています。例えば助成金を使って、湯郷温泉でグラウンドを持てばいいんです。それぐらいの度量がないといけませんよ。

岡野  既存の施設だけで何かをやろうとしても、自由度がないですよね。地域が「施設を自由に使って下さい」というのが理想です。人を集めるアイデアはあるんですから。私たちは体育館と寮が欲しいと思っているので、商工会議所の皆さんに、岡山のアクセスのいいところに建ててくれないか、と夢みたいなことを言ったんです。人が集まれば商売もできる、そんなゾーンにしたい、ゼビオアリーナ仙台のようなイメージのものがあったらいいよね、と言ったら、「それ、具体的に場所はどこですか?」と言われました(笑)

黒田  夢をみるところから始めないと何も起こりませんよ。うちだって、こんなところ(美作)からオリンピック選手出しますよ、なんて夢のようなことを言ってたら2人も出たじゃないですか。夢は大事ですよ。

岡野  経営者はなかなか投資しないのが現実ですが、どんなチームも夢を描いているんです。これは企業経営とはちょっと違うと思います。すばらしいブランド、湯郷Belle、シーガルズというブランドがあるんだという発想になかなか行かないんですね。

黒田  夢をみるということは、子供たちに有形無形の夢を与えることです。ともすると固まってしまいがちですが。

吉倉  経営と夢と、両極端のものをすすめるのは難しいでしょうね。

黒田  私は行政の出身だから計画を立てるのは好きなんです。でも計画というのは大体、立てたら立てっぱなし。でもうちはそうではなくて、一つ一つフィードバックして5年過ごして、今年、第二次の5カ年計画を出します。総括してみるとなかなか実現できていないことが多いので、一番年下のチームの子供たちについてくるお母さんたちで「湯郷Belleママーズ」を作ろうかと思っているところです。ママさんバレーはよくありますがママさんサッカーは少ないですから、全国大会に出られそうですし。岡山県民は燃えやすく冷めやすいと言われていますが、ファジアーノ岡山の観客は減っていませんからね。傾向が変わって来ているかもしれませんよ。

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黒田氏 岡野氏 吉倉氏

選手雇用は自給自足で?

吉倉  選手を獲得していく時の判断基準はありますか?

黒田  特に決めてはいませんが、うちに来る時には自動車免許を取ってこい、自分の分は働け、と言います。そのかわりサッカーに必要なものは提供します。

岡野  スカウトするお金がないので、中高一貫指導に頼るしかない、実業団で通用する選手を自前で育てるしかないです。そして、うちは親御さんがうんと言ってくれるチームでないといけない。サラリーの点でもね。10年、合宿所に入れて育てて来てやっと山口(舞)みたいな選手が出てきました。栗原(恵)は別格ですが、山口は全国ベスト8ぐらいの実力の高校出身です。あの二人は高校時代に岐阜国体で対戦して、ベスト4を賭けた試合で山口が負けているんです。そのぐらい地味な選手ですが、世界で戦ったことに意義があります。選手の雇用はそこが原点です。自給自足ですよ。

黒田  うちは岡山出身の選手が今は一人しかいません。岡山出身者が欲しいですが、大学とかに行くと帰って来ないだろうし、県内の学校が県外に出してしまう現実もあります。自給自足はできませんね。

岡野  育成力というのがないと難しいでしょうね。親御さんは先立つものを考えるので、条件のいいところを望みます。

黒田  育成にどれだけお金をつぎこむかというのも、これからの課題になるでしょうね。(下部組織である)作陽高校とは別にU-18を作ってサッカーをそこでできるようにしたいと思うんですが、指導者がいないんです。うちの監督では難しいし、別に雇わなければならない。これがなかなか難しいんです。

岡野  バレーの場合は、就実学園という強豪校があって中高一貫指導していますが、選手は県外に出て行きます。ですが、加計学園岡山理科大付属高校が就実に肩を並べるほどになってきました。シーガルズに子供を入れてみようか、と親御さんに思ってほしいですね。

黒田  (県外に出て行ってしまうのは)地元のどんなご利益のある神社よりも、隣の氏神さまの方が効果あるように見える、ということでしょうね。

吉倉  自分の町で生まれ育ち、世界に飛び立つ選手が出たらベストですね。

岡野  選手として活躍した後に、チームを離れずに雇用されるような形ができて来たら理想ですね。

チームの理想像は?

吉倉  最後に、今後目指していきたいチームの理想像について教えて下さい。

岡野  さきほどお話した通り、岡山出身の、世界で活躍するような選手を育てたいです。それが私たちの仕事かと。そうすることでセカンドキャリアも含めて地元に還元していくそれがあるべき姿だと思います。富山国体が終わって優遇措置がなくなった時に、チームの存在価値をどこにおくかが課題でした。そして2001年選んだのが岡山でした。河本監督が岡山出身ですし、選手も岡山で頑張りたいと言いました。3年後にはチャンピオン、5年後にはオリンピック選手を輩出する、というのが目標でした。いみじくも12年経ってしまいましたが、昨年それは実現しました。具体的目標としては、2年後にはリーグ優勝したいです。宮下遥はポスト竹下(佳江)になって、リオで頑張ってくれると思います。若手の川島(亜依美)、関(李香)の2トップはどちらか一人でもリオで活躍してくれたら嬉しいです。さらに栗原がワンポイントエースで出てくれたら夢のような話ですけどね。

黒田  うちは何があっても、今のスタイルを変えるつもりはありません。選手は仕事しながらサッカーをする、それに見合わない選手は仕方ないです。うちは、トップの選手が来ることは元々ないですからね。ギャラの問題で無理です。でも田舎という、都会にないものがあります。猫の子が生まれたことがニュースになるほどの土地ですから、社会人としての訓練ができるんです。若い選手の場合、高校で活躍してメディアに追いかけられて天狗になってしまうことがありますが、これはダメ。とにかくサッカーに集中させます。うちは妥協しませんよ。少ない給料の中でやっていて、女の子だから辛いこともあるだろうけど、このスタイルは変えたくないです。うちは選ばれる側なんです。メディアには「チームは変わりましたか?」と聞かれますが、「何も変わらないのがうちのチームの変わっているところだ」と言うんです(笑) まちの活性化が一番大きな目標でもあるから、それは忘れません。自分がいる限り、これでやっていきます。お金はフロントが頑張ればなんとかなる。とにかくこのスタイルは変えない。目標がぶれたらできないことです。ただ今年は、地域活性化を地域貢献という言葉に変えました。貢献することで活性化につながりますから。私たちは形のあるものを売っているわけではないんです。夢しか売れない。夢、ドリームを買って下さい、それしか言えませんよ。そのためにもまずカップ戦とリーグ戦で優勝しなくてはね。

<終>

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黒田和則氏 プロフィール

昭和20(1945)年12月6日生まれ。美作町助役を経て、平成13(2001)年5月岡山湯郷Belle 部長、12月G Mで現在に至る。平成13(2001)年 5月より日本女子サッカーリーグ評議員代理、平成23(2011)年4月から一般社団法人日本女子サッカーリーグ理事(現職)。

岡野實氏 プロフィール

昭和23(1948)年石川県加賀市生まれ。NECフィールディング関西第二支社長を退任後、平成18(2006)年4月岡山シーガルズ企画部長就任。平成21(2009)年6月岡山シーガルズの運営会社、株式会社ウォーク取締役。平成24(2012)年7月〜GM(ゼネラルマネージャー)に就任。一般社団法人日本バレーボールリーグ機構理事。

吉倉秀和氏 プロフィール

1983年大阪府出身、びわこ成蹊スポーツ大学助教。平成21(2009)年早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修了。平成19(2007)年より日本トップリーグ連携機構サポートスタッフとして従事。スポーツマネジメントを専門とし、現在は、当機構トップレベルスポーツクラブマネジメント強化プロジェクトプロジェクトメンバーも務める。

岡山湯郷Belle 公式サイト

岡山シーガルズ 公式サイト