バレーボールVリーグ

2014-1-20

選手が輝くことが何よりも嬉しい

 いま熱い戦いの最中にあるV・プレミアリーグ女子、久光製薬スプリングスで、2013年4月から指導にあたっているのが安保澄コーチです。故郷広島で世界一の名セッター故 猫田勝敏氏から学んだ精神を常に忘れず、日々選手とチームの成長に尽力されている安保コーチにお話を伺いました。(前編より続く)

会って話をすることが一番大事

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Q : 4月にコーチに就任されたばかりですが、選手の皆さんとのコミュニケーションはうまく取れていますか?

 まず選手たちの話を聞く場を設けました。これからは特に若手の選手と話す機会を増やそうと思っているところです。個々にでも、グループでも、練習の前後や事ある毎に話をする機会を作りたいです。話をするということは相互理解のために重要なことです。選手には「わからないことがあったら聞きなさい」という気持ちでいます。私の方も「わからないから選手に聞いてみよう」と思うことがありますからね。選手の忌憚のない意見が練習のヒントになることもあるんです。新参者として緊張していたんですが、選手たちは最初からフレンドリーに接してくれているので、よかったです。

Q : 中田久美監督とのコミュニケーションはいかがですか?

 毎朝、ミーティングをしているんですが、もっと話し合う機会を増やしたいですね。僕はまだ日が浅いので、監督ともコーチ同士ともまだまだです。今後は化学反応を起こして行きたいですね。それぞれの性格的にいい部分も悪い部分も認識した上で、異論があることが当たり前の空気感にならないと組織として機能しないと思うんです。「飲みニケーション」も大事ですよ。この建物(兵庫県神戸市の専用体育館)のどこかに円卓みたいなもの、角張った机じゃなくてみんなが向き合えるような場所を作りたいと考えているんですけどね。これも勝つための一つの方策です。

 私は全日本で仕事している間にお酒が飲めるようになったんですよ。眞鍋さんは量を飲む方ではないんですが、飲む機会は多かったです。夜には必ず飲みながら話し合っていたんですが、お互いを理解する上で非常に意味がありました。ホンネが聞けたり、意外な発見があったり。人と会って話すことが情報伝達として一番早いし、正確だと思います。

女子選手のセカンドキャリア

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Q : 大学生の頃からずっと女子チームの指導をされていますが、今後、女性監督第一号である中田久美監督に続く方は出てくると思いますか?

 トップレベルのバレー経験者から指導者をめざしている女性は少ないと思います。実業団チームは高校卒で選手になっている場合が多く、引退後、大学などで専門的に学ぶ道を選択する選手が少ないんです。ただ今後は増えてくると思いますよ。私が、武富士バンブーにいた時には、チームのコーチングスタッフは、選手のセカンドキャリアを考え、情報を比較的多く提供していました。シーズン終了後、引退を申し出る選手に、それからのビジョンが描けていなければ認められないと言ったこともあります。武富士のメンバーの一人に、引退後、東京女子体育大学に進み、いま指導者をめざしている者がいます。

 現役の間は、選手としての目標、選手としていつまでにどうなっていたいか、何で自己実現したいかを描いてほしいですが、引退後どうなりたいのかを別物として考えるのではなくて、長い時系列の中で考えてほしいです。選手としての10年、その後の10年も同じ時間軸にのせてほしい。機会があれば、選手にそんなことも伝えて行きたいです。

 一年に300日、一日6時間、練習やトレーニングに費やすとしたら、一年で1800時間にもなります。選手は、それだけの時間を長く積み重ねて来ているので、アスリートだからこそ学べたこと、それを伝えることができます。引退した選手に学び直しの機会を与えて、社会に貢献できる人材を育成することはどの競技でも考えられることだと思います。簡単なことではありませんが、そういうサイクルができることがトップのスポーツの存在価値だと思うんです。例えば為末大さんは理想ですね。バレーからも社会に意見できる、情報発信できる人材が出て来てほしいですね。

感性を磨け 〜指導者をめざす人たちへ

Q : 指導者になろうかどうしようか迷っている方がいたら、どんな言葉をかけてあげたいですか?

 人のためになる、人の力になる、ということに徹することができるのであれば、本当にやりがいのある仕事だと思います。指導者が選手以上にがんばらないと成果は得られません。大変ですが、選手が輝くことに喜べる、人のために汗をかくことをいとわないのであればこんなに楽しいことはないです。選手は一人ではがんばれません。だからこそコーチが大事で、必要とされるのです。

Q : Q:それでは、すでに指導者をめざしている方へのアドバイスをお願いします。

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 指導者に必要な資質はいろいろあると思います。責任感、情熱、マネジメント能力、選手への愛情、これらはあたりまえのことです。一番大事なのは、覚悟です。指導者やコーチとして指導の現場につけば、何かしらゴールがあるわけですから、そこに向かって行くために、何でもする覚悟をすること。覚悟をした人は強いです。

 コーチとして下積みの苦労をしている人はたくさんいらっしゃると思います。自分もそうでした。その時、筑波大の都澤先生に言われたのが「感性を磨け」ということ。感性とは、いろいろなことに気づくということです。例えば、自分が珈琲を飲みたいと思った時、まわりの人はどうだろうかと察して、珈琲を入れて差し上げるなど、気づいて自分が行動できるかどうかだと。その言葉が突き刺さりましたね。それまで自分のことばかりだったな、と。感性は持って生まれたものだけではなくて、気づこうと努めることで変わります。想像することでも変わると思います。「感性を磨け」。それが、コーチ学を学び始めた時に言われた言葉でした。

信頼とは約束を守ること

Q : 指導者として選手に信頼されるとしたら、それはどのような部分でしょうか。

 基本的に、信頼とは約束を守ることだと思います。まず、到達したい目標から逆算して正確なシミュレーションをし、スケジュールをたて、それをきちっと守り、進めること。そしてその成果を出すこと。また、選手から自主練習のボール出しの要望があればその度にそれに応える、上達のヒントを選手に提供する。それらを繰り返し積み重ねることが信頼につながるのではないでしょうか。ですから、日々、勉強です。

Q : チームとしての目標、そしてご自身の目標を教えて下さい。

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 チームとしての目標は、まずアジア1になり、そこから世界に打って出ることです。目標としているアジアクラブ選手権に勝つためのマネジメントが私の仕事です。世界に出たときに困らない準備をしていきたいです。

 自分自身の目標は、このチームからたくさんの選手にオリンピックに出てもらうこと。バレーの選手にとって最大の目標はオリンピックでメダルをとることですから。そしていずれは男女でメダルをとりたいです。それは、自分が男子チームを指導するということではなく、自分のコーチングが他チームのコーチや、延いては男子のチームにも好影響を与えていくような存在になれたら、という意味です。

目標としてはもうひとつ、自律した選手をいかに多く育てるかですね。眞鍋さんもおっしゃっていましたが、日本のアマチュア選手が普通にやっていては世界のプロ選手には敵わない。であれば、日本を背負うんだというくらい誇りを持った、意識の高い、自律した選手を育成することです。目標というよりもミッションですね。

とにかく今日より明日が良くなるように、それを日々考えて、やるのみです。

(完)

*ご多忙のところ、取材に応じて下さった安保コーチ、久光製薬スプリングスの皆様に心よりお礼申し上げます。

久光製薬スプリングス 公式サイト

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