サッカーJリーグ

2015-2-27

平成26年度日本トップリーグ連携機構 GM研修会 講演録 および ワークショップ 講義録 (2)

 2014年5月16日(金)〜18日(日)、味の素ナショナルトレーニングセンター(東京都北区)で行われた平成26年度 GM研修会の講演録、及びワークショップの講義録を掲載致します。この研修会は、クラブ型スポーツチーム及び企業スポーツの活性化に重要な役割を果たす各リーグのGM(ゼネラルマネジャー)、マネジメント担当者、各リーグ運営者などを対象にしたもので、当機構が平成20年度から行ってきた、マネジメント強化のためのコンサルティング・研究事業を具体的方策として各チームにフィードバックすることを目的に行われたものです。講義やグループワーク、情報交換や交流を通じて課題を共有し、解決策を研究・討議しました。

【ワークショップ】「企業経営戦略とスポーツ事業」

Jリーグメディアプロモーション アジア室室長

山下 修作(やました・しゅうさく)氏

yamashita

ファシリテーター

元株式会社アサツーディ・ケイ/株式会社セレスポ 顧問

村田 久満 氏

■村田

 今日はJリーグメディアプロモーション・アジア室室長の山下修作さんをお迎えして、「企業経営戦略とスポーツ事業」ということで、かなり大きなタイトルになっています。

実は昨日、皆さんのお話を聞いていたのですが、基本的には皆さん、社会貢献という一体感、そして地域貢献ということで、Jリーグが培ってきたスタイルの中で、お話しされていたと思います。ただ、今日はJリーグのサッカーの話ではなく、日本を代表する企業の方々ばかりなので、本来の企業経営、どうやって自分たちの領域を付加していくかというようなことをテーマに、考え方をリセットする。かなり大きな話になるかもしれませんが、その辺を念頭に置いていただき、午前中の講義を聞いていただきたいと思います。

それでは山下さん、お願いいたします。

■山下

 おはようございます。Jリーグメディアプロモーションの山下と申します。私は1975年生まれで、小学校1年生から大学まで、体育会でサッカーをやっていましたが、レベルとしてはアマチュアで、サッカーと関係のない業界に就職したのですが、ご縁があって、今はサッカー界でお仕事をさせていただいております。

 今日、このような場をいただいて、本当にありがたく思っておりますが、今日、話をさせていただくことは、サッカーの話ですが、お伝えしたいのは、サッカーを例にして皆様や皆様の企業に、何かヒントになることが一つでもあればということです。ですので、構えることなくリラックスして話を聞いていただいてき、一つでも、皆さんの普段のスポーツですとか、企業の方に活かせることができればと思っております。

 企業経営セミナーとスポーツ事業なんて、難しいことが書いてありますし、Jリーグのアジアセミナーってなんだろう?という感じかも知れませんが、ちょっとでも参考になる点があればと思います。Jリーグがアジア戦略を始めて2年半ぐらいになるのですが、思ってもみなかったほど、日本の企業が日本の役に立つのだということが見えてきました。

最初は考えもしなかったのですが。その事例をご紹介したいと思っております。あとは、少しでも皆さまのお役に立てればということで、ワークもやっていければと思います。

 では自己紹介します。今年で39歳。サッカーは大学まで体育会でプレイしていまして、今は趣味で月2回くらい。いろいろなスポーツを観に行くのが好きでして、アメフトもバスケもラグビーも野球も観戦します。観ること自体が好きですし、スポーツを勉強することが好きです。

 

 サッカー界の位置づけと「Jリーグメディアプロモーション」って何だろうという話をさせていただこうと思います。サッカー業界のHPに載っていたのものをそのままコピーしただけなのですが、「国際サッカー連盟」というサッカー界の頂点があります。その下に「アジアサッカー連盟」があって、その下に各国協会があるのですが、そこに「日本サッカー協会」があります。

 日本サッカー協会は、サッカー全体のことを取り仕切る。小学生のサッカーから社会人のサッカーまでというような組織で、その中のプロ部門として、「日本プロサッカーリーグ」もありますし、トップリーグに加盟している「JFL」と「なでしこリーグ」、それにフットサルなどがあります。

 プロ部門が「Jリーグ」でして、そのJリーグが持っている関連会社が3つあるのですが、そのうちの一つが「Jリーグメディアプロモーション」です。関連会社3つがどういうものなのかというと、「Jリーグエンタープライズ」がグッズ販売やプロパティの管理をやっています。「Jリーグフォト」というのは写真ですね。最後は弊社で「Jリーグメディアプロモーション」です。以前は「Jリーグ映像」という名前だったのですが、今やインターネット事業とかリーグのプロモーション事業もやっていて、なんでもやれるような社名にしちゃおうということで、2007年、「Jリーグメディアプロモーション」に社名変更しました。

 なんでこの会社がアジアなのか・・というところなのですが、これは後ほど説明させていただきます。私が抱いた勝手な危機感から、サッカー界はこのまま国内のマーケットだけを観ていると、将来はないのではないかと。どんどん少子化していくし、高齢化する日本をマーケットにするスポーツは、なかなか将来が見えてこないんじゃないかと思い出しまして、社内で提案し続けていたら、そのうち「じゃぁ、考えてみるか」みたいになってきて、「アジア戦略室」が立ち上がりました。

 Jリーグメディアプロモーションにアジア戦略室が立ち上がったのは、たまたま私が言い出した一人だったからという感じなのですが、この大きな枠組みの中、サッカー界の中のJリーグという中の関連会社の一つという位置づけです。自己紹介はこのような感じです。

 本日の流れですが、いろいろなスポーツ、いろいろな企業様といろいろな背景、おそらく企業的背景と地域的背景、それに各個人の背景もあるのだと思います。環境の違いもありますね。環境や考え方というのも、自分が普段から思っていることはですね、一度、紙に起こしてみたり、話し合ってみたりすると、だいぶ違った見方、普段、自分が気づいていなかった点に気づくこともあると思っています。そういった情報の共有を、ファーストステップにしたいなと。まずは1時間ぐらい、時間をいただきたいと思います。

 その次に、Jリーグは、実はアジアでこんなことやっていますという、ほとんど知られていないことを話します。この活動が、日本企業にとてもメリットになることが多いなということを感じていますし、他のスポーツでも、本当に使える事例だと思っているので、これを紹介させていただきます。1時間ぐらいいただいて、最後にサッカーの事例を聞いたうえで、皆様に使えるヒントを書き加えていただいて、皆様の企業やスポーツ、クラブのあり方などで、ビジョンを持っていただくという4つのステップで進めていきたいと思っています。

 まず、今日のゴールを設定しておきたいと思います。午前中のセッションゴールですね。

難しく構えていただくことはなく、私が伝えたいものはただ一つです。なんだかよくわからないけど、ワクワクしてきたというような感覚です。私の話とワークで、明日につながるようなもの、普段から抱えている課題が、解決できそうな糸口が見えてきてワクワクしていただけたらいいなと思います。それを今日のゴールに設定したいと思いますし、皆さんにそんな感覚を持っていただけたらと思います。

難しいことをやるのではなく、ワクワクするようなことを考え付いていただくところをゴールにしたいと思います。

 最初は、環境志向を共有化しようということです。今回、このお話をいただいたときに、企業スポーツの方々に対して話をということでしたが、今、私も観ている「ルーズベルトゲーム」は、まさにそれをやっています。社会人野球がテーマでして、社内からは「なんでおまえら、会社が傾いてきているのに給料をもらって野球やってるんだ!」みたいなことを言われながら、そのチームが、社内での立ち位置を逆転してくというようなものです。ドラマなので象徴的に表現されており、「そんな風にはみんな思ってない」みたいなことをあえてドラマ仕立てにしています。

 日本全国の人に、これがウケるということは、企業スポーツってこういうものなのかと考える人が出てくるような気がしています。このドラマでお荷物みたいに見られ、苦境に陥った野球部は廃部というもので、それが一般的な人たちの企業スポーツに対するとらえ方ではないかと。ただ、私自身はそうは思ってなくて、企業スポーツって、すごく企業に役立つものだと感じているんですね。このドラマのように大逆転できるようなことが、このセッションでできればいいなと思います。今、企業や自治体からすると、スポーツって労務対策とか福利厚生、あとは費用対効果の見えない広告宣伝費みたいなものです。企業側から見ると、こんなふうに感じている人が社内では多く、一般的にはこういう風に見られているものなのかなと。

 そういうところはサッカーと同じですね。Jリーグも、大企業がJクラブを活用して企業の売り上げを伸ばそうという発想は、今まではなかったと思います。Jリーグが立ち上がる前に、社会人サッカーとしてのクラブを持っていて、その延長線上にあるだけかもしれないですけど、その状況を大逆転していくことはできると思っています。企業とスポーツの立ち位置を大逆転していく。企業がスポーツを活用して、企業の価値を上げていく、売上を上げていくことが本当にできると思っています。

********

 

 さて、次はアジア戦略について話をさせていただきたいのですが、まったくメモをとる必要のない、話を聞いていただくだけで十分と思います。サッカーだからできるというようなことではありません。サッカーの事例はどこか皆さんのお役に立てればという観点で話をしたいと思っています。もともとサッカーというのは、日本においてはマイナースポーツでした。トップレベルのJSLを観に行ってもガラガラでしたし、本当に企業に支えられているスポーツでした。高校サッカーだったら満員になるけど、大学も社会人も、全くお客さんが入らない。高校サッカーが最高峰だったと、自分の中では思っています。そして世界との格差が本当にあって、ワールドカップなんて夢のまた夢でしたし、TV観戦もですが、参加するスポーツだとは、思ってもいなかったです。今の日本代表は人気がありますが、Jリーグには有名な選手が少ないし、地上波でも見る機会があまりないし・・みたいに思われているかもしれません。しかし、そんな状況を逆転していく「ルーズベルトゲーム」みたいな話を、Jリーグの価値が上がるという話をしたいと思います。

 先ほどもちょっと出ましたけれど、企業、自治体とスポーツの価値を変えていきたいと思いまして、サッカーだけでなく、スポーツ全体で価値を変えていきたいと思っています。その中で、サッカー事例の話をさせていただければと思います。先に言っちゃいますと、Jリーグは去年、実は世界121か国で放映されました。「日本では全然見ないじゃん」と思われるかもしれませんが、世界中ではすごく見られているコンテンツになっています。

 去年、浦和レッズとタイのクラブの試合があったのですが、タイから100人ぐらい観戦しに来たファンがいました。TVで取り上げられましたけれど、フランスから年に5回くらい、浦和レッズの試合を見に来るフランス人がいます。田中達也が移籍するという場面で号泣するような人です。

 去年、変わったユニフォームを着ているなと思って見ていたら、バルセロナのアウェイユニフォームを着ていて、話をしたら香港から来たという人もいました。浦和レッズを見に来たというよりは、日本観光で来ましたと言っているんですね。観光目的や行き先を聞いたら、浅草、秋葉原、ディズニーランドとサッカー観戦という。我々がミラノに行ったとき、ACミランでもインテルミラノでもいいのでサッカーの試合を観てみるか、NY観光に行ったらヤンキースでもメッツでもいいので野球を観るかといった感じに近いですね。香港の方々は、日本はアジアだし、きれいなサッカー場もあるし、サッカーが好きだから観に行くかといった感覚でスタジアムに来ている外国人が増えてきているという実感があります。

この方々はシンガポール人ですね。川崎フロンターレを観に来たと言っていました。等々力競技場にいましたね。先週も香港からフロンターレを応援しに来た兄弟がいて、サポーターが「一緒に応援しようよ」と言って、サポーター中心のエリアで応援して、夜は一緒に飲みに行ったようです。

 スコットランド系オーストラリアの方は、中村俊輔がスコットランドでプレイしていたので、そんなことも踏まえて応援しに来たと言っていました。よくよく話を聞いたら、3週間の日本旅行をしていて、最初は長崎に行き、たまたまやっていたJ2の長崎対徳島の試合を観たと。「ディビィジョン2!」なんて嬉しそうに言っているのですが、全く日本語が喋れないのに、サッカーって聞いただけで観に行っちゃう。その翌週は京都に行き、これまたJ2の京都対長崎をやっていたから、また観ちゃったよと話していました。J2の試合を観ながら、最終的に中村俊輔が優勝をかけた戦いで、等々力競技場の、フロンターレ対横浜F・マリノスの試合を観に来たと。武蔵小杉の駅が最寄りなのですが、駅からの行き方がわからないから、中村俊輔のユニフォームを着た横浜F・マリノスサポーターに声をかけ、スタジアムまで連れてきてもらって、お礼にコアラの人形をあげて、お返しにタオルマフラーをもらった。同じ日なのですが、スコットランドからわざわざ観にきた人もいたり、ロンドンから来た人もいた。最近は、結構、海外からお客さんが来るようになっているなという実感があります。

 そんなこともありまして、ちょっと枕詞を入れたいのですが、日本においてバルセロナのメッシとかネイマールがいて、世界でも最高峰のクラブと言われているバルセロナよりもJリーグのクラブの方が優れていることって何かな?と考えるとですね、基本的には皆さん、ないんじゃない?と思いますよね。スター選手もいないし、サッカーのレベルはバルセロナに比べれば低いし、お客さんの数も違うし・・というと、優れていることなんてない?と思いますよね。

 日本という枕詞を付けた瞬間に、皆さんのクラブに共通して言えることかもしれないのですが、例えばこんなことが優れた部分かなと思っています。

2008年、モンテディオ山形というチームがアウェイの愛媛の試合で、J1昇格を決めた直後、おじさんが泣いているんです。このおじさんは、モンテディオ山形がなかったら、感動して人前で泣くことなんて、一生なかったかもしれない。もしかしたら愛媛県に一生来なかったかも知れない。山形という地元にJクラブがあることによって、こういう感動や、ユニフォームを来て愛媛まで行くぞみたいなことが起きている。日本にいて、バルセロナの試合をテレビで見て、こういうおじさんが泣くかというと、多分泣かないのではないかと。例えば、大分トリニータというチームがJ1昇格を決めた瞬間の汚い男たちの泣き叫ぶ姿にしても、バルセロナの試合を観て、これだけの男たちが密集して泣くことはないのではないかと感じます。

 セレッソ大阪も2年前は、降格しそうだったんですね。J1ギリギリ、最終節で残留したのですが、その時にお母さんと子どもが「よかったねー」って、試合会場で抱き合っているんです。こういうこととか。徳島ヴォルティスが、J1の昇格を決めて、娘さんがお母さんに寄り添って「よかったねー」って。こういうことって、地域にクラブがあって、企業に支えられながらやっていること。皆が自分のクラブだと思っているからこそ、こういう感動が味わえている。皆さんの企業でも、社員の方々が「自分たちのクラブだ」「自分たちが愛しているクラブだ」となれば、こういうことが起きていくのではないかと思いますし、山形、大分、セレッソ、徳島、Jリーグが93年に開幕した時は、Jリーグクラブではなかったと思いますが、「J」が拡大してできていった。

 元からあったところ、企業スポーツだったところ、JFLだったところが昇格したのですが、本当にまだ可能性があるし、ポテンシャルもあると思っています。ただ、今の段階だと、こういう事例を見せても、企業、自治体からすると、スポーツは費用対効果が見えない広告費だったり福利厚生だったり、自治体からすれば助成の対象みたいに思っているところが大部分でしょう。私なんか、スポーツに携わっているから、すごいスポーツ視線で考えるのですが、国の予算の付き方などを見ていると、スポーツってものすごく扱いが小さい。文化交流とか教育にかかる費用の何十分の一しか、国はスポーツにお金をかけていない印象があります。

 まだまだ日本においては、スポーツの価値は低いと思っています。そんな中で、それをどう逆転していくのか。ルーズベルトゲームじゃないですが、40年前の歴史を振り返ってみて、日本サッカー界で最高峰というと西が丘ですね。隣の。芝なんか青くないですし、こんな状態で10年経って、日本サッカー界が進化したかというと全然していません。国立競技場も、芝も緑色じゃないし、芝生でやっているのにドロドロですよね。お客さんも雨が降って、傘をさしていても、お客さんが少なくてまったく視界を妨げないので誰も文句言わない。

 こんな状況の中で、川淵さんたちが、日本をワールドカップに出したいと。日本をワールドカップに出すためには、国内のプロリーグを整備することが大事だって言って、Jリーグを作ろうとなったのですが、この状況だと「成功するわけない」と思いますよね。タダでもお客さんが来ないのに、有料にしてプロ化して、お客さんが入るわけないって、99.99%の人が思ったでしょう。ボクも日本にプロができると聞いたときは「絶対にうまくいかない」って、自分がサッカーをやっているのに思いました。

 ただ、93年5月15日、国立は奇跡的に満員で始まったのです。そこからどうなったかというと、開幕した当初は10クラブで始まって、20年経って40クラブ30都道府県。今年はJ3という3部リーグも作りましたので、51クラブ36都道府県ということで、日本全国に広がっていきました。目標だったワールドカップも5回連続出場。もう間もなくブラジルワールドカップが始まりますけども、オリンピック出場も実現できるようになってきた。今日もさいたまスタジアムで、浦和レッズとセレッソ大阪の試合があり、チケットが完売になっています。こんなふうにお客さんが入る試合は、もちろん全試合ではありませんが、世界中から「サッカーが弱かった日本、最弱国だった日本が、タイ、マレーシアより全然弱かったのに、なんでこんなになっちゃったの?」と不思議がられる状況があります。

 Jリーグができて最初の20年は、日本全国に広げるだけでよかったねということだったと思います。しかし今後は、高齢化、少子化してくるのは目に見えていて、世界一の高齢化社会が見えている中で、次の20年を見据え、クラブをどんどん増やし、日本全国に100クラブ作ろうとしている。私は2009年の終りぐらいに、「このままのビジネスモデルだとマズいんじゃないかな」と思い始め、そのようなことを考える役割ではなかったのですが、当時はJリーグのネット事業やプロモーションをやっていたので、何とか新しいビジネスモデルを考えなければならないのではないかと考え始め、会社に提案しました。

 Jリーグは放映権料とスポンサー料という2つの大きな柱で支えられていますが、高齢化少子化で人が減っていくということは、放映権料もスポンサー料もなかなか増えないですよね。日本でものが売れなくなってくる中で、企業が広告費としてサッカーへの予算を増やすかというと、そうはならない。今までの延長線上ではない、当初は「第3の柱」って思っていたのですが、とにかく新しい活動をして、収入の柱を作りつつ、元からの放送権料とスポンサー料も大きくなる活動をした方がいいのではないかと。

 骨太の3本の柱ができていくといいなと考えていました。この「第3の柱」が、日本を飛び出す感覚かなと考えておりました。当時のJリーグの数字ですが、クラブの売上を除き、リーグ単体の売上が、年間120億円。アジアではダントツだった。カタールやUAEは政府の補助金等でやっていまして、ちゃんとマーケティングをやっているオーストラリアから見ると5-6倍、韓国、中国は当時は大体10億円ぐらいだった。ダントツでアジアの中ではJリーグが稼いでいるというのは見えたのですが、世界で見ると、プレミアリーグではイングランドが稼ぎ頭です。約2500億円。ドイツのブンデスリーグ、スペイン、イタリア、フランスとなるのですが、これはもう無理だと感じました。Jリーグのマーケットは、2500億円などという世界基準には到底追いつかないと。

 しかしいろいろ調べてみると、イングランドのプレミアリーグって、1992年、Jリーグが開幕する1年前に、もとからあったプロリーグを改編し、プレミアリーグを作ったのです。当時はここまで差がなく、あまり経営規模が変わらないような感じでした。そこから一気にここまで成長したのですが。その理由が95年位のことです。衛星放送ビジネスが盛んになり始めたのですね。

 Jリーグは20年間で日本全国に広げ、人口1憶2000万人に対してどんどん浸透させようという戦略だったのですが、プレミアリーグは、世界中にマーケットを広げていった。世界208か国に放送をどんどん送ることをやり、20倍もの差がついてしまったのです。

94-95年、現役ブラジル代表がJリーグに来たのは、当時は給料がほとんど変わらなかったからなんですね。同じぐらいの給料をもらえるのなら、ヨーロッパじゃなくて新しいJリーグで挑戦してみようかなというブラジル代表もいたのです。しかし今は、給料も10倍ぐらい違う。こうなってくると、実力がある人は、どんどんあっちに行ってしまう。人、もの、金はどんどんヨーロッパに集まっているのが、今のサッカー界の現状です。

 ここで絶望しかけたのですが、よくよくこの数字の内訳をみていくと、2500億円のうち1300億円位、約半分は海外の放映権料だったんですね。その1300億円は208か国の海外放送で、うち7割の収益が、実はアジアからだった。タイなどは、年間100億円近くをイングランドのプレミアムリーグに払っているんですね。タイだけでです。2000億円以上のお金が、アジアからヨーロッパに流れている。サッカーに使うお金で、アジアのお金なのに、支払先がアジアじゃなくてヨーロッパなのです。アジアとヨーロッパの格差を、アジアのお金が作っているという皮肉な状況が見えてきた。しかしこれってチャンスかもしれない。アジアで2000億円の金がサッカーに使われているのに、支払先はヨーロッパ。これは、チャンスがあるんじゃないかと思いました。

 2000億円の一部をどうにか獲得して、Jリーグが海外に出る財産にしようかなと。

では、Jリーグが海外に出ていく強みは何かと考えた。3日ぐらい考えましたが、何も思い浮かばない。ドイツのブンデスリーグは平均観客数がJリーグの2倍以上だし、イングランドのプレミアリーグは、世界中から注目を集めている。Jリーグには強みがないのではと思ったのですが、ヨーロッパ中心のサッカー界からすると、弱みでしかないようなことが、実際はJリーグの強みになるのではないかと思った。逆転の発想です。

 それはアセアンを軸にした考えだったのですが、例えばアセアンのサッカーレベルで考えると、70-80年代はアセアンよりもJリーグは弱かった。それが、グーっと伸びて、アセアンを追い越し、今やワールドカップ常連国になってしまった。アセアンからすると、中国、韓国はもとからアセアンより強かったし、ヨーロッパなんてもっと強かったのですが、自分らより弱かった国が、たった20年でワールドカップ常連国になったというのは日本だけ。日本はオンリーな存在なのです。

 20年で最弱レベルだった日本が強くなった歴史。ヨーロッパ中心のサッカー界では、アジアなんて端っこの端っこなのですが、「弱かったこと」「歴史が浅いこと」「アジアにいること」この3つが逆に日本サッカー、Jリーグの強みになるのではないかなと思いました。弱かった者が強くなっていくという体感したノウハウをJリーグは持っています。たった20年で成し遂げたノウハウと、アジアならではの親近感。あの日本がやれたのだったら、オレたちにもできるんじゃないかみたいな感覚。

 そしてアジアにいることでは2つあります。今後の経済成長センターであるアジアの一員であること。さらには「共に成長しよう」というメッセージを言えるのが大きいと思います。

これがキーワードになると思っています。例えばヨーロッパの「マンチェスター・ユナイテッド」や「アーセナル」などの名門クラブが、日本だけでなくインドネシアやタイ、香港などに、夏になると遠征に来ます。いわゆる出稼ぎですね。1試合やって数億円もの金を稼いで帰るんです。彼らは、いかにアジアから稼ぐかという視点でしか考えていない。しかし我々は、「一緒に成長していきましょう。だってアジアの一員じゃない」と言える。ヨーロッパの人が「一緒に成長しよう」と言っても、搾取でしょうと言われるが、我々は、「共に成長しよう」と言える。メッセージが出せる。一見、全く強みに思えないようなことが、Jリーグの強みになると。最初はですね、そのノウハウを持ってタイ、インドネシアのリーグからお金を稼ごうと考えていたんですね。

 私は、日本は今、高度経済成長期ですという風にうそぶいているのですが、皆さんはそうは思わないですよね。GDPはなかなか伸びないし、高齢化、少子化といった課題も多い。

日本は一つの国ではなくて、日本を一つのエリアと考えて、「日本+アセアン」という視点で考えると、日本+アセアンが、一つの経済共同体ですと考えた瞬間、高度経済成長期になると思うのです。

 例えばですが、日本の中で北海道だけ考えて、「いや、北海道は低成長ですから」と言っているのと同じで、日本プラスアセアンという枠組みで考えると、そんな中の日本地方ですと考えればいい。アセアンの経済は、うなぎのぼりですよね。人口が増え続けているのもアセアンだし、そこに日本の人口と日本の経済が足されたら、まだまだ日本は経済成長期の真っただ中だと言える発想ができる。僕らが3丁目の夕陽の時代に生きていたのであれば、いろいろな投資、チャレンジをしてみようとなっていたでしょう。アセアンの人たちは、これから本当に良くなると本気で思っている。そこで一緒に取り組んでいくと、自分たちは今、高度経済成長期にいるのではないかと思うでしょうし、日本が世界一になるためのものすごい支援を日本は持っていると思う。これさえあれば、日本は世界一になれると思っているのですが、それはまだ眠っていて、発揮できていない。

 日本の勤勉さと技術は世界でもナンバーワンですが、足りないものをあげるとしたら、それは「ワクワク感」です。技術があって勤勉さがあって、ワクワクしてみんなが前向きに仕掛けてやろう!となると、日本はものすごく強い国になると思っています。ブータンが、「グロスナショナルハピネス」(GNH)、「幸せと世界一の国です」と言っていたので、日本は「グロスナショナルワクワク」という指数を作って、「GNWは世界一です」みたいなことで、日本に来ればみんなワクワクするし、日本人はワクワクしまくっているぞなると、いろいろな価値観が変わってくるのではないかと思うのです。ただまだ、このワクワク感は持てないような気がしています。とにかく日本という視点だけでなく、日本とアセアンという視点で考えると、自分たちが成長期にいるのだと感じます。

 ではアセアンでは、サッカーはどれだけの人気なのか。色だけで見ていただきたいと思うのですが、ここが台湾でここがフィリピンで、ここがインドなのですが、台湾、フィリピン、インド以外のところでいくと、サッカーというものが、その国ではものすごく人気の高いスポーツだということが見えてきます。これはチャンスです。サッカーでアセアンに出ようと思ったときに、すごい人気スポーツなのだと。さらにアセアンはワールドカップに出たことがない。1回だけインドネシアが、「オランダ領東インド」という名前で1938年に出たのですが、それ以外はない。今、経済がメチャクチャ伸びて、お金持ちが増えて、お金持ちが自分のサッカークラブを持って、プロリーグを作ったりして、めちゃくちゃお金をかけているのですが、アセアンはノウハウがなく、うまく回っていないという現状が見えてきました。

アセアンの中ではライバル意識があって、我先にとワールドカップに出たいと思い、くすぶっている状況があることも気づいた。お金もあってノウハウも欲しています。でしたらこれは、コンサルできるという風に考え、売りに行こうと思ったのですが、ふと考えた時、Jリーグがタイのプロリーグにコンサルして10億円稼いだとしても、130億円にしかならない。ヨーロッパとの差が全然埋まらないなと思いました。

 10億―20億円を稼ぐことを考えていたら、ヨーロッパはどんどん伸び続け、こっちは低成長になると。これでは全く面白くないなと思ったんです。Jリーグ、ちょっと稼いでもらうなんて、構造も変わらず、今のヨーロッパとアジアの差を埋められないと思った瞬間、考えを改めまして、ノウハウを売るのはやめようと思った。タダで出しちゃおうと思ったんですね。最初はアジアのお金をJリーグのためにと思ったのですが、アジアのお金はアジアのためにと考え直した。自分の国に使ってください。タイが年間100億円をイングランドプレミアリーグに払うのだったら、そのうちの10億円でも、あなたの国の代表が強くなるため、あなたの国のクラブに使ってみたら如何ですか?。そうしたらワールドカップに使づきますよと。そのために、我々はサポートしますと。

 ヨーロッパに流れているお金を、アジアのために還流させるためには、自分の国のリーグは面白いと思ってもらって、誇りを持つことが大事だと。誇りを持ってもらうには、競技のレベルが高い運営もマーケティングもちゃんとしていることが大事。であれば、アセアンよりも進んでいて、アジアの一員であるJリーグがノウハウをタダで提供しますと。まず、みなさんが大きくなってください。そしてヨーロッパに流れているお金の一部を自分たちで使ってください。それはどういうことかというと、今のアジアのサッカー界においてJリーグは120億円で、そこそこ占める割合は大きいのですが、世界的に見ると全然小さい。そうすると、Jリーグが大きくなりたいと思っても、アジアの枠は絶対に出られないから、自分たちがアジアのマーケットを大きくするために、自分たちが培ってきたノウハウを、どの国に対しても無償で出して、同時多発的に、アジアのサッカーリーグがポンポン成長していく状況にする。アジアのマーケットを大きくしていく中で、自分たちも成長して大きくなっていく。これが「共に成長しよう」ということだと思うのです。ノウハウをちょこちょこ売っている限り、Jリーグ自体も大きくならないですし、アジアもなかなか大きくならないので、逆転の発想でノウハウをタダにして、アジア自体を大きくしましょう、その中で自分たちも大きくなっていこうと。これが「共に成長しよう」なのです。

 私はこういうことをやっていきたい。その時、「周りを強くして、自分たちはどうやって成長するんだ」とか、「日本がワールドカップに出れなくなったらどうする」といった、小さい突っ込みをいただいたのですが、そこは「何言っているのですか」と。ワールドカップに日本が出られなくなるくらい、アジアのレベルが上がれば、それは結果的に、日本がワールドカップの優勝に近づくということではないでしょうか、という話をしました。

 日本代表は2050年までに、ワールドカップで優勝するという宣言をしているのですが、今みたいにアジアのレベルが低いと、ワールドカップアジア予選を戦う3年間と本大会の戦い方が全然違ってくる。アジアでは自分たちが主導権を握って、ボールを回せますが、世界レベルになると逆のパターンになる。それがヨーロッパや南米は、自分のいるエリアのレベルが高いから、4年間ずっと、同じ戦い方ができる。そういうふうに、アジアのレベルが高くなって、4年間、同じサッカーをやっていかないと、本当にワールドカップ優勝なんてできない。そのためにアジアのレベルを高くしましょうよと言って、ノウハウを出して行こうということになるのですが、じゃあ、どうやって成長するの?というときに、日本+アセアンで、1億人が見たいと思っているリーグから、7億人が見たいと思っているリーグにすることにより、単純計算ですが、スポンサーの価値も7倍になるし、見たい人が7倍になれば、放映権料も7倍になると思うので、日本だけの視点で考えると、コンサルティング、マーケットもシュリンクしていくだけじゃないという中で、自分たちは日本のリーグだけど、アセアン諸国のサッカーを観たいと思わせるリーグにすれば、伸びていくということを考え、そのためのノウハウをどんどん提供し、アセアンのレベルを上げていこうと。

 アジア全体でサッカーのレベルアップをすることも大事なのですが、ここは企業スポーツの皆さんにとって、キーワードになってくるかと思い、事例を紹介していきますが、アジアでJリーグの活動をしていて、存在価値を高めていくことによって、企業の皆さまの本業の方に役立つ方向が、今見えてきています。これは後ほど説明します。対象国はアセアンを中心とした国。タイ、ベトナム、ミャンマー、カンボジア、シンガポール、インドネシアは、すでにリーグ間提携をしていて、ノウハウをただで提供しますよ、出向しますよと伝えています。

 やることは3つ。放送を広げました。1億人が見れるリーグを7億人が見れるリーグにすることにより、現状のスポンサーの価値を上げることもできます。日本では、テレビで見る機会が多くないですよねみたいに、企業、スポンサーの方から言われたときに、「何言っているんですか、世界121か国で御社のロゴが露出していますよ」といった営業トークもできますし、世界的にどんどん露出することを優先し、放映権料で稼ぐというより、今は露出を増やして、スポンサー企業の費用対効果を上げることをやっています。あとはノウハウ提供のセミナーやサッカー教室などの活動をアセアン各国でやったり、スター選手の獲得もやっています。こんなことが、実は地域の活性化になるんじゃないかと思っています。

 アジア、アジアなんて言っていないで、Jリーグは地域密着を謳っているんだから、アジア展開より地域密着をもっとやるべきだという人もいるのですが、私は、アジアに出ることが地域活性につながると思っています。それは何かというと、Jリーグは、各クラブに必ず地域名が入っているんですね。コンサドーレ札幌、ヴァンフォーレ甲府と。そうすると、例えばクールジャパンということで、ファッションとかアニメとかグルメとか世界中に押し出していきましょう、ドラマを見てもらいましょう、音楽を聴いてもらいましょうってやってるのって、日本を押し出してはいますが、なかなか地域につながってないんです。ただ、サッカーチームは必ず地域名が入っているので、海外からすると、日本の枠を飛び越えて、いきなり海外と地域がつながることができるので、地域に対するすごいメリットがあるのです。海外からお金が入ってくれば、それでJクラブの地域密着活動の数やバリエーションが増やせるので、地方経済が特に疲弊して行く中、企業がクラブをなかなかサポートすることができない中、日本を飛び超えて地域にお金が入ってくる事例があります。それは後ほど説明したいと思います。

 あとは日本企業、自治体のグローバル成長戦略に使えるかなと思っています。そんなに甘くないって怒られると思うのですが、先ほどの80年代のスカスカの国立競技場で、ワールドカップ出場を夢見ていたぐらい、不可能だと思われるし突っ込まれるかもしれませんが、私が絶対にやりたいと思っていることはですね、これは一つの例えですが、サッカーで発電所を受注するみたいな、ちょっと今の常識では考えられないかもしれないようなことなのです。どういうことかというと、アセアンのサッカー界に携わっている方々には、お金も政治力もある方が多くいます。

 例えば、Jクラブが、その国のサッカー強化に役立つようなサッカークリニックをやって、その国の代表が凄く強くなったとなると、その大金持ちの方がは、「ありがとうJクラブ、ありがとうそのスポンサー企業」となり、「そこに発電所を2機お願いします」みたいなことになる可能性があるのです。全く現実のものとはなっていませんが、実現すれば、今まではスポンサーロゴが掲出されていたとしても企業からすると、それで製品やサービスが何台、どれだけセールスが伸びたんだ、費用対効果が測れないですねって、言われていると思うのですが、皆さんも同じような状況だと思います。プロスポーツやっているチームは、費用対効果を図れないという風に言われるのが辛いところで、不況になると、費用対効果が悪い広告費から削ろうとなる。

 しかし、先ほどの発電所の話が実現すれば、逆転すると思うんですね。サッカーがあったからこそ、発電所が受注でき、1000億円の売上になりましたと。企業としては、サッカーを使って、どんどんアジアにパイプを作り、それで企業の受注を支えていこう。日本国内の受注でなく、海外での受注に使っていこうという風になればですよ、企業スポーツのあり方が変わっていくと思っています。これはサッカーの例ですが、皆さんのスポーツもそういう発想ができます。どこかに絶対にヒントがあって、どこかにチャンスがあると思っていいます。もしこんなことができると、ものすごくプラスになりますね。

 これで中国、韓国の企業との差別化にもなると思っている。なぜなら中国リーグ、韓国リーグからアセアンの人たちは学びたいと思っていないのです。中国、韓国は八百長が激しくて、逮捕者が出るほどなので、クリーンな日本のリーグで、しかも昔弱かったのに、いきなり成長したノウハウを持っている日本のリーグから学びたいと思っている。そこで感謝されるので、クラブも今、動いているのですが、中国、韓国企業との差別化も、まずスポーツが切り開いていくのではないかと。

 そんな観点で、Jリーグはなんでそんなにたらたら仕事をしているのだと。外務省とか経産省とか、経団連とかジェトロとかですね、そういうところと組んで、いろいろやっていきましょうよと声をかけてもらえるようになってきています。船に例えると、Jリーグ号は勝手に世界に出ていってますよと。それで世界の多くの国で放送されたり、要人とのネットワークを作れているのですが、それをサッカー界やスポーツ界に留めておくだけじゃもったいないから、日本のアニメ、ドラマ、音楽、ファッション、自治体、企業、他のスポーツも含めて、オールジャパンで出ていって、日本全体としてもっともっと成長していくようなことやりませんかと。Jリーグはそのプラットホームになりますよ、というようなことを考えています。国内のリーグで地域密着だけを考えたら、もしかしたらこれぐらいの価値だったかもしれないところが、我々にはノウハウがあると。Jリーグが培ってきたノウハウがある。

それを無償で出すって決めた瞬間、実は眠っていた大きな価値が見えてきた。

 ただですね、我々がノウハウがあると言っても、Jクラブの方々は、「ノウハウなんか全然ないよ」って言うのです。皆さんもそうだと思うのですが、我々自身が普通だと思っていることが、アセアンの人からすると、ものすごいノウハウなんですよね。もう、すでにこういうことやってますと言うと、わぁーってメモっているのですが、普通のことなのです。日程を色々な条件を鑑みてシステムで作っていることはJリーグとしては普通のことなのに、彼らかするとノウハウだと思われている。このような感じで、皆さんが気づかれていないだけで、たくさんのノウハウをお持ちなんですよ。ただそれを、どこで発揮するかとか、誰に届けるかとか、何に使えるかというところで、見えてくる見えてこないというところがあるかなと。絶対にアジアに出るというような話ではなくて、気づきがあればと思って話をしています。

 そして私が絶対にやりたいと思っていることは、企業、自治体からすると、下に見られるような感じのスポーツが、アジアに出ることによって、サッカーがあったからこそ発電所が受注できたという話になると、素晴らしい営業ツールだと評価される。スポンサーになることは、コストじゃないのだと。営業ツールとして、アジアビジネスでのビジネス展開のための必要経費だからと思われ、払ってくれるようになると、スポーツの価値が逆転していくと思いますし、スポーツが企業の価値を上げていくことに貢献できる。この相乗効果のスパイラルをどんどん生んでいくことが可能と思っています。今の考え方も素晴らしいが、ちょっと枠を広げてみたり、ちょっと視点を広げたり、いろいろな意見を聞いてみたりすると、企業のクラブスポーツというところのあり方も、ポジティブになっていくのではないかと思っています。

 2012年1月にアジア戦略室が立ち上がり、4人でやっています。タイ、ベトナム、ミャンマーなどASEAN各国において、リーグ経営やクラブ経営のノウハウを無償提供にすることで、日本が感謝されて、現地の政財界の大物とパイプを作れるというのは、日本企業にとってもすごいメリットになるかなと思います。今そのパイプをJリーグとかサッカー界とかスポーツ界にとどめるのではなくて、いろいろなところに紹介していただき、経済が伸びたアセアンの国で、企業や自治体が、ビジネスしていくことに役立てればと思っています。

 例えばですね、サッカーが何に使われるかというと、これは鹿島アントラーズなんですけども、昨年の6月4日にですね、日本とベトナムの国交40周年だったのですが、交流のメインイベントの一つとして、外務省のサポートも得て、ベトナムにおいて、U-23ベトナム代表と試合をしたんですね。この日の同時刻には日本代表の試合があり、本田がPKを決め、ワールドカップ出場が決定したんですけど、その裏では鹿島アントラーズがベトナムで試合をやっていました。私は、もちろんベトナムにいたのですが、こちらも結構なお客さんが入っていましたし、テレビの生中継もあったので、鹿島アントラーズのスポンサー企業にとっても大きな露出になったと思います。

 次はクラブの話もしていきますので、皆様、この話も落とし込んでいけるヒントにしてください。地域活性の事例と企業に繋がったインパクトのある事例を紹介します。

 ベトナムのスター選手でレ・コン・ビンという人がいます。ベトナムの「カズ」「長嶋茂雄」的な人です。サッカーが圧倒的な人気の国なので。それぐらいのスター選手が2013年、「コンサドーレ札幌」に加入しました。地元ではトップニュース扱いだったのですが、コンサドーレ札幌のサポーターが、そんなスター選手が来るなら、ちゃんと出迎えしなきゃということで、彼が初めてスタジアムに来る日に、皆がベトナム国旗を買ったり、作ったりして、数千枚をスタジアムに掲げました。またYoutubeでベトナム国歌を勉強した女性が、試合前にトランペットでベトナム国歌を吹いたんですね。これでレ・コン・ビンは感動して、「こんなふうにして日本に出迎えてもらって感動して泣きそうになった。北海道の人たちは最高だ!」みたいなコメントを出した。これがベトナム中に、その写真とともに広がった。そうするとそれを見たベトナムの人たちが「北海道はいいところだ」という感じでコメントが広がり、北海道の好感度がすごく上がったんですね。

 知名度を上がっても、好感度はなかなか上がりにくい。自治体が1円もお金を払わず、サポーターがこういう対応をしたことで、北海道の好感度がうなぎのぼりになった。レ・コン・ビンの活躍、一挙手一投足が現地で報道されたことで、住友商事がベトナム語で、コンサドーレ札幌の看板を出しました。ベトナムで好感度を持たれて、めちゃめちゃ見られているコンテンツだから、J2だとか札幌だとかは関係なく、住友商事がマーケティングをするため、コンサドーレ札幌にお金を払ったのです。アジアで活動したことによって入ってきたお金だと思います。このお金が入ってくることによって、地域に還元されていくことにもなる。そんなことも起きたため、去年、ベトナムでパブリックビューイングをやったのですが、その時も北海道の観光PRみたいなビデオを流して、パンフレットも600部預かっていったのですが、観客が1000人ぐらいきて、足りなくてクレームが出るほどの状態でした。多くの皆さんが集まり、観てくださった。それだけ支持されているというのがあって、去年、日本とアセアンの特別首脳会談というのが12月に開かれたのですが、そこにレ・コン・ビン選手が国賓的な扱いで招待を受けて参加したんですね。各国首脳、AKB、レ・コン・ビンといった風景で不思議な組み合わせの光景でしたが、国としてもスター選手を使えるぞみたいになってきた。

山梨県がインドネシアと交流事業をやっているんですね。インドネシアから富士山観光に来る人は、山梨県に泊まってもらって富士山観光をしてもらう。その流れもありインドネシアのスター選手であるアンディック選手をヴァンフォーレ甲府の練習に参加しました。この時は、県が宿泊費等をサポートしているので、練習が休みの日に、県の産業ということでブドウ狩りに行ってもらった。そうしたらそれが現地では新聞の1面にカラーで大きく載ってしまう。連日、山梨の名がインドネシアに出ていく。スター選手を通して、山梨の名が出ていくといったことがありました。

 かたや、もう一つは富士山を巡る争いです。静岡県の方は、タイの代表選手を連れてきて、清水エスパルスに練習参加させ、練習が休みの日に、富士山観光に行きました。当然、現地では、露出になる。その後、11月28日に、静岡県とタイ政府観光局がパートナーシップを結んで、静岡空港に直行便を飛ばし、そこから富士山観光を企画するみたいなことになった。地域にあるクラブは、海外に出ていきたい自治体とか、海外から観光客を呼びたい自治体に活用されている事例になります。こうした使い方が、Jリーグとか皆さんには出てくるのではないかなと思います。

 今、各クラブもいろいろと積極的に活動していて、どんどんアジアに出ていき、海外のクラブとパートナーシップを結んだりというようなことをやっています。

 実際にはどんなことをやっているのかというと、例えば、セレッソ大阪はタイで「ヤンマーサッカー教室」をやっています。サッカー教室をやっているだけで、ヤンマーにメリットがあるのかな?と考えてしまいますが、戦略的に考えられていて、それは私が考えたのではなく、ヤンマーとセレッソが考えたことなのですが・・。まずセレッソ大阪は、タイのバンコクグラスというプロチームと提携をしたんですね。提携したうえで、ここに対して育成のノウハウを伝えます。そのうえで何をしているかというと、

 タイの農業の重要拠点で、地元農協と共催でサッカー教室をやる。香川真司を輩出したクラブが、この街ににサッカー教室に来てくれたぞとなると、農協のトップはものすごく喜ぶ。こんなところにJリーグを連れてきたというだけでもすごいことですが、そこから優秀な子供たちをバンコクグラスの下部組織に移籍させてあげる。そうするとヤンマーと農協が、田舎の光が当たらなかった子供たちに、チャンスを与えているといったいいイメージを持たれて、農業の重要拠点で好感度が醸成されるので、農協の人も鼻高々で、ヤンマーの取り扱いを大事にしてくれるようになるといったような現象が起きる。農業の重要拠点で、ヤンマーが売れていくことになると。ヤンマー的にはマーケティング的、この事例が大成功したので、今年はタイ全土に広げていきたいといった感じになっている。昨日発表したのですが、6月28日には、ミャンマーにおいてヤンマーが、ミャンマー代表と試合するのですが、どんどん枠組みを広げていくような活動をしていこうと。

 次はガンバ大阪。パナソニックがやっている事例として、何をやっているかというと、子供たちに夢を与えようということは企業にとって非常にイメージアップになる。ガンバ大阪が何をやったかというと、インドネシアとインドはパナソニックの主戦場なんですね。人口2憶4000万人のインドネシアにおいてはサッカーが人気なので、114人の子供を選抜し、そこから1週間ぐらいトライアウトみたいなことをして、そのうち3人を日本に連れてきて、ガンバ大阪のユースに、さらにトライアウトさせる試みをした。それを全部、収録しておいて、現地のテレビで8回シリーズの番組にして流した。そうすると、インドネシアの子供たちにチャンスを与えているといったイメージになり、サッカーも大好きな国民なので、企業イメージがあがることにつながる。

 本当に自分たちが、ビジネスにつなげてもらうためにJクラブを活用してもらうのだという風に変わってきた。経産省の方と話していて改めて気づいたのですが、例えばイングランドのプロチーム、スペインのプロチームって、ユニフォームの胸のスポンサーを考えると、自国企業があまりないんです。アジアのエミレーツ航空とかチャンビアとかが付いていたり。日本においては、Jリーグはトヨタ、日産、マツダ、日立、パナソニックなど、もともと自国のグローバル企業がスポンサーについてくれている。世界中見てもこんな環境は日本ぐらいしかない。Jクラブも、もう日本にとどまっていないで、グローバルに出ていって、企業業績を伸ばすことに役立ったとなれば、企業内でのクラブの立ち位置が変わってきますよね、といったことを経産省の人から言われ、確かにそうだなと思いました。

 違った事例だと横浜F・マリノス。タイのスパンブリ―FCと提携したのですが、このチームは元首相の息子がオーナーのチームで、スパンブリ―県とうところではものすごい実力者。彼に何をやってもらったかというと、タイに進出したいIT企業の「バイザー」という会社を横浜F・マリノスのアジアスポンサーになって頂き、横浜F・マリノスの育成ノウハウを無償提供する代わりに、オーナーのビジネスネットワークをバイザーに紹介してくださいということをしました。「ノウハウを上げる代わりに、タイのIT企業を紹介してください!」と。

 タイに進出したい企業は、たくさんあると思うのですが、普通は会社設立して現地調査して、なんだかんだと面倒くさいと思います。しかし、このルートを使ったことによって、バイザーは進出する際の時間的、費用的リスクを全て吹っ飛ばした上で、さらにビジネスの基盤を作って進出できる環境をサッカークラブによって整備できてしまった。費用対効果が見えない広告でなく、進出する際のコスト。そしてリスクを低減するためのコストを、バイザーは横浜F・マリノスに投じた形になった。

 あと川崎フロンターレ。東急電鉄さんがスポンサーに入っているのですが、ベトナムで東急電鉄さんが、都市開発を受注した。ビンズン省という場所で土地を切り開いて、街を作り、さらに街の価値を上げていくといった形です。ベトナムのビンズン省の開発を受注し、ビンズン省にあるプロクラブとの試合をするために、川崎フロンターレを連れていきますということになった。地元のビンズン省からすると、J1のクラブがこんな街に来てくれるのかと大騒ぎになる。何が起きたかというと、スタジアムに現地のVIPの方々が本当に多く来場されました。ビンズン省の共産党書記長、人民委員会委員長、共産党元書記長みたいな感じで、ものすごい人たちがずらっと並んだ。これはサッカーだからできたみたいなところがある。アニメのイベントだとこういうVIPはなかなか出てこないのですが、サッカーだとサッカーがもともと好きということもあり、出てきた頂ける。

 現地では、「フロターレを連れてきてくれて、東急、ありがとう!」みたいに盛り上がっている。スタジアムで東急の会長が「貢献できてうれしい」みたいなことを言うと、サッカー場にいる名だたる地元のVIP との関係も一気に深まる。すると、今後、都市開発をしていくなかで、何がしかの交渉ごとが出てきたときにも有利に働く感じになる。

 ビジネスのパイプ役に、たまたまサッカーが役立ったという事例ですが、企業の海外ビジネスのアシストにスポーツが役立ち、スポーツに対する企業側の価値観が変わってくるというケースです。費用対効果が見えないなんていうことも言われなくなる。サッカー以外のスポーツでも、いろいろなことができると思います。似たような事例をどんどん作っていければと思います。

 企業において業績貢献、社会貢献。そして国内や海外問わず、企業スポーツの立ち位置はどうなのかというと、宣伝効果というメリットもありますが、デメリットは、費用対効果が見えない、コストが見えないといった声があると思います。日本人のほとんどがそうだと思うのですが、企業スポーツの枠って、自分たちで決めてしまっていで、海外でも、もっと親企業の業績に貢献することが可能だという風に、考え方を変えるだけで大きく変化します。そうすると企業内においての存在感、一体感もどんどん増して、皆が応援してくれるようになる。現在がここなら、将来はここへ抜け出せという話ではなく、こういう風に枠を広げていくこといいのかな。国内で社会貢献することはもちろん続けつつ、海外も含め、各企業の業績に役立つような存在になっていくと、企業スポーツの未来は明るいと思っています。

 

■村田

 夢のある話でした。逆転の発想で、前半は従来の企業型スポーツはどうあるべきかというところに話がいくのかなと思いましたが、突然、バラッと夢が広がって、ホストセンターじゃなくて開発センターという意識でいけるのではないかと思いました。企業スポーツの仕組みは、素晴らしい日本の仕組みだとおっしゃられていましたので、これを輸出する仕組みにしたらどうでしょう。

 アセアンに冠たる企業の皆さまは、いろいろな工場をお持ちだと思いますし、福利厚生とか、いろいろなノウハウもあるでしょうから、まずはそれを活かすとか、広がる話がいっぱいあると思います。

 今日の話は、サッカーだけじゃないかと思われるでしょうが、実はVリーグの久光製薬さん、売り上げ規模でいうと2000億円ない会社ですが、世界クラブ選手権に出ています。そして東南アジアで商品販売に貢献しています。国内にとどまっていると、そこで終わっちゃいますので、考え方次第だと思うんです。従来の課題じゃなくて、新しい気付きとして考えていただければと思います。 ありがとうございました。

■山下

 質問はありますか?私は、「ひとり勝ちに未来はない」というのが持論でして、サッカーだけが目立つのは全く意味がなくて、日本のスポーツは、企業にも役立って、自治体にもメチャクチャ役立って、世界で日本だけしかこのビジネスモデルを持っていないぞといった感じになると、日本のスポーツの価値があがって、世界全体のスポーツの価値を上げることにつながるといったことになる。日本がそこを率先するのをすごくやりたいと思っています。今日のこの機会をいいチャンスにして、皆さんとコミュニケーションを取らせていただきたいと思っています。ありがとうございました。

Q:サッカーの規模の話で120億円というのがありましたが、この根拠を教えてください。

■山下

 120億円のうちの50億円位が国内の放映権料ですね。スカパーとかNHK とか民放各社といった形です。あと40億円位がコカ・コーラをはじめとする各企業様からのスポンサー料ですね。残りの30億円位は、年2回、自分たちで主催試合をやっているのですが、そのチケット代と、あとはグッズが売れた時のプロパティの権利料や映像販売した時の販売量です。そのような内容で、トータル120億円位となっています。

Q:Jリーグの各チームとも、年間20-60億円位の規模で売れていますよね。そういったものの中から120億円は出てくるのですか。

■山下

 リーグがまず120億円稼いで、各クラブで分配するのですが、J1で2憶ちょっとくらいでしょうか。J2が1億円ちょっと位戻している感じですね。それ以外は、各クラブがセールスとかチケットで稼いでいます。今ですと浦和レッズが50億円ちょっとですね。J2の下で行くと4憶とか5億円でやっていたりする。バラつきはある。

Q:そっちの方は新潟などクラブの売り上げは入れてないのですね。

■山下

 入れてないです。入れたら700億円ぐらいですか。

 何でも聞いてください。本当に、タイ、アセアンという目線で見ると、バスケでもバレーでも日本の方がレベルが上だというのがありま。ですので、いろいろなことを伝えられると思いますし、例えばラグビーワールドカップにタイが出るかもしれないとなったら、すごく力を入れてくる状況になる可能性があります。いろいろなチャンスが眠っていると思います。さきほど言い忘れたのですが、リーグ間提携をする時、決めゼリフがあるのです。「我々がノウハウ提供して、あなた方をワールドカップに出したい。ワールドカップに出すためにサポートします」というものです。これ、好感度が半端ではないのです。

もし本当にワールドカップに出られたとなると、「日本ありがとう!」となる。「あなた方のクラブを強くしたい。ひいてはタイ代表をワールドカップに導きたい」と言うと、例えばですが、「フロンターレのおかげでワールドカップに出れた、ありがとう富士通!」といったふうになる。そして、その国における富士通のロイヤリティとか好感度が大変なものになりますよね。ワールドカップ初出場というのは、その国にとって1回しかないので、それを日本企業がサポートしたのとわかったら、日本企業の好感度はすごく高くなる。そういう意味で、日本企業を背負って、海外に出ていくのは、日本にとっては非常に意味のあることだと思います。  (了)

☆ 株式会社Jリーグメディアプロモーション ウェブサイトは こちら