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2014-10-20

アマチュアスポーツ環境のフィジカルトレーニング(後半)

 コラム71号でも触れたが、ボールスポーツクラブの取材を進める中で『フィジカルトレーニングへのアプローチ』についての更に深い理解が必要だと痛感している。72号でも、アマチュアレベルへのフォーカスということで、既存のフィジカルトレーニングの概念を、いかに効率よく改善できるかを考察してみよう。

 コラム71号(前回)では『①練習計画のための必須情報』、そして『②練習計画へのアプローチの仕方』について紹介した。まずはトレーニング計画には何が必要か、そしていかにトレーニングを組み立てるか、という2つのポイントが主題となった。今回のコラムでは、実際にプランを実行するためのヒントを、具体的にいくつか提案したい。また各週のトレーニングカレンダー構成の例なども提案してみる。そこでは練習日数と試合日から、フィジカルトレーニングの“比重バランス”についても考察したい。

<プレーヤーの年齢や練習回数などにより、フィジカル比重は変化する>

◆フィジカルトレーニングに特化したプラン実行

 それでは各クラブのフィジカルトレーニングプランが作成できたと仮定しよう。指導者やトレーナーは、プランニングの実行という局面に直面する。そこでフィジカルトレーニングの大きなブロック別に、いくつかのポイントを検証してみたい。また何に注意しながらトレーニングに取り込むのかというヒントも追記してみよう。

◆フィジカルトレーニングの4大ブロック
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①パワートレーニング

 パワートレーニングを行なう場合、筋肉肥大や強度アップを求めても競技にもたらす効果は少ないかもしれない。まずは競技の特性に準じたパワー持久力、サブパワー、スピードパワーといった要素を考慮したい。単純に身体の幹を強くするだけではなく、各競技を研究することが大切なポイントだ。また怪我防止のプリベンティブトレーニングや体幹トレーニングなども、パワートレーニングの一種であることに留意しておこう。

 また週に行なうパワトレーニングは、トレーニング初日、中日に実行することが適している。シーズン前半には、フリーウェイトなどを通して、選手にトレーニングフォームを習慣付けさせることも可能だ。シーズンに入れば、素早く繰りかえすサブマックス・パワーからゲーム状況での局面的状況を作り出すことも可能だ。例えばサブマックストレーニングから、反応スピード、フィニシュ局面などのトレーニング移行などを行なうことも可能だ。

②スタミナトレーニング

 スタミナトレーニングだが、ただ長距離のランニングを行なうだけが持久力ではない。各競技に対応させるスタミナトレーニングには、有酸素運動、有酸素パワー、ミックス、インターバルリカバリー、スピードといったトレーニング要素を掛け合せることが大切だ。やはり競技の特性、週末の試合に予想される展開などを十分に把握してトレーニングを計画することが必要だ。そのためにもフィジカルトレーナーは、普段からチームに帯同して、トレーニング構成への努力を続けることが理想だ。

 またこのスタミナトレーニングだが、一般的には週のトレーニング中盤で実行することが適している。ハンド、バスケ、フットサルなど一般的なボールスポーツの特徴を考慮すれば、スタミナの中でも、“スピード持久力”が最優先課題となる。なおパワートレーニングとスタミナの併用だが、やはりプレシーズンが理想のトレーニング期間となる。

③スピードトレーニング

 スピードトレーニングといえば、短距離トレーニングやスプリント能力などに重点を置きすぎていないだろうか?実はボールスポーツの“スピード”には、実に様々な要素が存在することを忘れてはならない。例えば代表的なものには、ボールなどを関与させた様々な反応速度のトレーニング、また室内競技には欠かせない全方向への移動速度、コーディネーション速度、加速速度、などの要素がある。必要に応じて様々な要素を掛け合せれば、より実戦で必要とされるスピードを鍛えることができる。

 スピードトレーニングだが、週のトレーニング中盤、または後半に実行することが可能だ。特に反応スピードや技術スピード、アジリティースピードは試合に近いトレーニング最終日に実施してもよいだろう。なおパワートレーニングとスピードの併用は、怪我のリスクがもっとも高い組み合せである。そのためパワーとスピード要素を掛け合せる場合、練習負荷、練習時間、怪我防止には細心の注意を払いたい。

④怪我防止(プリベンティブ)

 怪我防止のためのフィジカルトレーニングだが、ストレッチがその代表となる。最もよく見られるこのストレッチ運動(柔軟性)だが、しっかりとタイミングを考えて①静的ストレッチ、②動的ストレッチ、の2種類を分別したい。またストレッチの他にも、体幹系のサーキットトレーニング、プロピオセプションなどを導入して、怪我の防止や体力向上を目指すことが可能だ。怪我防止のためのトレーニングは、普段のトレーニングの至る所に組み込むことが望ましい。特にストレッチは、全てのセッションに組み込むことが必須だ。またトレーナー達は、選手のフィジカル状態や必要性を把握して、計画性を持ちながらも臨機応変にトレーニングを計画する必要がある。

<練習でも試合でも、ストレッチは欠かせない習慣にしたい>

◆フィジカルトレーニング分配例

 ここで以上の情報を整理しながら、ある1週間におけるフィジカルトレーニングの計画例をリストにまとめてみよう。週末が試合と仮定して、月曜日からどのようにフィジカル要素をインテグラルトレーニングの中に組み込むかの例えだ。もちろん競技特性、練習環境、チームの状態など様々な要素が、このトレーニング計画を変化させる可能性がある。

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<練習の中で、どのようにフィジカル要素を意図的に組み込むかが大切>

◆フィジカルトレーニングの比重バランス

 それでは最後に、試合とトレーニング日数から考えるフィジカルトレーニングの比重バランスを考えてみる。ここでの“バランス”とは、トレーニングセッションの数と試合数から計算して、フィジカルトレーニングをどの程度追及するべきかという目安だ。週に1度しかトレーニングする時間のないクラブと、週に4回のトレーニングを行なうクラブでは、フィジカル要求へのアプローチも全く異なることは明白だろう。

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1トレーニング + 1ゲーム = ストレッチ、体幹トレーニングのみ

 トレーニングが週に1度しか行なえないならば、最低限のストレッチ、体幹トレーニングのみを行なうように心がけたい。独立したフィジカルトレーニングは全く必要なく、まずはボールゲームの質を向上させることに集中する。またトレーニングは全て、ボールを用いたインテグラル形式のトレーニングが理想的だろう。

2トレーニング + 1ゲーム = 怪我防止、体幹、スピード系

 週に2度のみのトレーニングとはいえ、ストレッチを習慣として身につければ、隔週などで怪我防止のためのプリベンティブサーキット、体幹強化、またはスピードを意識した特殊なトレーニングを追加することが可能となる。ここでも最優先はボールゲームの向上であり、トレーニングからボールを切り離すことは至って危険と筆者は考えている。

3トレーニング + 1ゲーム = スタミナ、パワー持久力、インタ-バル系

 週に3回のトレーニング環境があれば、ストレッチ、プリベンティブなどの他、スタミナトレーニング、反応スピード、技術スピード、複数方向へのスピードトレーニングなどを導入することが望ましい。この場合、週に30分~60分ほどフィジカル要素に重点を置いたセッションを設けることが可能だ。

4トレーニング + 1ゲーム = ウェイト、パワー、体幹トレーニング

 週に4回のトレーニング環境があるならば、ウェイトなどで負荷をかけたパワートレーニングの導入が推薦できる。これだけの練習時間があれば、パワートレーニングを負荷をかけて強化することが可能だ。ストレッチ、スタミナ、スピード、体幹トレーニングなどにも、ウェイトなどで、エキストラの負荷や難易度を足す工夫も実践したい。

5トレーニング + 1ゲーム = 全てのフィジカル要素

 週に5回のトレーニング環境があれば、戦術練習や技術練習をハイレベルに実践しながらも、フィジカル要素に必要なものは全てカバーすることが可能だ。プロフェッショナルに限りなく近い環境として、完璧な競技熟成を目指すことができる領域である。

6トレーニング + 1ゲーム = 理想のトレーニングが可能

 週に6回以上トレーニングする状況にいれば、間違いなくプロフェッショナルの環境またはそれに近い状態に到達できるはずだ。選手やスタッフの生活の優先も競技であり、徹底した理想のトレーニング追求が可能となる。またそれだけの練習時間には、相当の環境設備、施設、器具、トレーナー、セラピストなど、多くのスタッフの参加も必要不可欠となる。

おわりに

 伝統的なスタイルから、フィジカルトレーニングを追求することも大切だ。しかしまずは可能な限り、ボールゲーム競技からフィジカルトレーニングを切り離さない努力を行ないたい。練習時間が限られたアマチュア環境では、この問題こそが死活問題だ。ゲーム形式の練習、またはボールを用いたあらゆる練習でも、いくつかのルールを工夫・導入すればフィジカルトレーニングを代用すること可能なはずだ。指導者とフィジカルトレーナーが協力して練習を計画すれば、より効果の高いインテグラルトレーニングが実践可能となるはずだ。