2014-11-19

Vol.74  『遊びながらゲームを理解するTGFU方法論』

馬場 源徳


遊びながらゲームを理解するための『TGFU』方法論


 アナリティックトレーニングという言葉をご存知だろうか?ボールスポーツのトレーニングにおいて技術動作の実行は、何よりも重要なエレメントとして扱われてきた。正確に知覚、分析、決断、できても技術がなければ戦術目的を果たすことができないからだ。ボールスポーツにおいて、モバイル(多くの競技の場合は“ボール”を指している)を、守る、運ぶ、投げる、蹴る、打つ・・・そのような技術動作のスピード、精度、強度は多くの競技におい死活問題だ。ボールを代表とする“モバイル”のコントロールを上達させるメソッドとして、伝統的にはこのアナリティックトレーニング(分析的方法論)という方法論が多くのトレーニング現場で用いられてきた。

 アナリティックトレーニングとは、技術動作の完璧な追求を目的とする対人要素の薄いトレーニングを意味している。例えば野球でいうノック打ちの繰り返し、サッカーでは壁パスの繰り返しといった知覚決断要素に乏しいトレーニングを想像していただきたい。競技を問わず日本のボールスポーツ環境においては、対人決断要素の低いアナリティックトレーニングが重視されてきた事実が存在する。

 伝統的なアナリティックトレーニング、そこにある技術動作の実行の大切さを否定することは絶対にできない。また選手の上達を目に見える形で実現するには、アナリティックトレーニングが最も説得力のある方法論であるとも考えることができる。一方で近年の集団ボールスポーツでは、認知力、決断力がより豊富に要求されるグローバルトレーニングが、選手のインテリジェンスを向上させる方法論として注目されている。トレーニングに対人関係や決断要素を加えることで、状況認知、戦術決断、技術実行のサイクルを向上させる方法論だ。またその発展型として、インテグラルトレーニングと呼ばれる、技術、戦術、戦略、フィジカル要素を取り入れた総合トレーニンも広く認識されるようになっている。



 今回のコラムでは従来のトレーニングメソッドとは異なる方法論にフォーカスを当ててみたい。このコラムの主題が“TGFU(Teaching Games for Understanding)”と称されるトレーニングメソッドだ。遊び感覚のゲームを通して戦術、技術、戦略的な追求を行う方法論として、このTGFUの研究が欧州では進んでいる。このトレーニング方法は、知覚認識をゲーム形式(遊び感覚)のトレーニングの中に組み込んで、異なる角度から刺激しながら、選手はゲームを理解して必要なスキルを習得することを目的としている。このようにゲーム形式での習得を重視する方法論を“TGFU”-『理解を深めるためにゲーム形式で学ばせる方法論』と理解したうえで今回のコラムを進めたい。

 なおアナリティック、グローバル、インテグラルトレーニングと呼ばれる3種類のトレーニング方法論については、コラム12号『スペインから学ぶ3種類のトレーニング方法』でも紹介している。お時間がある時にでも参考にしていただきたい。




<単調なリフティングなどがアナリティックトレーニングの例だ>


 このゲーム形式による戦術や技術の習得を重視する“TGFU方法論”には様々なメリットが考えられる。数多くあるメリットの代表例は、以下の5つのポイントに要約することができる。このメソッドには、①戦術理解を助長させる、②競技への実用性と即効性、③認知決断力を助長する、④ゲームを読む能力を高める、⑤モチベーションと楽しみを与える・・・といったポジティブな効果が予測させられる。



①ゲームを通して戦術理解を助長させる

 戦術とは集団ボールスポーツにおいて最も大切なベースとなる。戦術的概念の基盤となる、スペース、時間、味方、対戦相手、ボールの状況、これらの戦術エレメントを組み込んだゲームトレーニングを構成することが、このTGFUでは大切なポイントとなる。最終的にゲームを理解して、制覇するためのトレーニングとしてはゲーム形式をはやくから導入することがベストかも知れない。遊び要素を含んだゲーム形式でのトレーニングにより、選手は楽しみながらも競技に必要とされる戦術を自然と習得することができる。


<ゲームや試合を通してこそ、選手達は戦術をより早く理解できる>


②ゲームの中からゲームのための実用性(浸透性)を発見する

 ボールスポーツのトレーニングにおいて、競技への実用性(浸透性)は欠かせない概念の一つだ。いかなるトレーニングにも、実用性(浸透性)がなければ、その意義を失ってしまう危険がある。敵対ストレスや状況認知を軽視したアナリティックトレーニングの中では、技術動作をどれだけ繰り返し習得しても、実際のゲームで同じパフォーマンスを発揮できるとは限らない。例えばノック打ち、壁パスの繰り返しで本当に正しい技術が見につくかという疑問がある。戦術状況や知覚認識に乏しいトレーニングは、競技への実用性(浸透性)を欠いてしまう傾向にある。アナリティックトレーニングの中で習得する技術動作は、複雑なゲームの中ではその効果が保証されにくい。しかし競技の戦術性を尊重したゲーム形式でトレーニングするTGFU方法論では、実用性の高い技術、戦術動作を習得することが期待できる。

③対人ゲームなどを通して認知決断力を向上させる

 集団ボールスポーツのトレーニングでは、ゲームの戦術的攻略に必要とされる認知力、決断力を培うことも必要不可欠だ。味方との関係、ライバルとの関係を理解しながら、ゲームに必要とされる認知決断要素を学び取るプロセスをトレーニングでより効果的に提供することも指導者には求められる。ゲーム形式によるトレーニングでは、スペースや時間といったエレメントも関与する。そのため戦略的な決断力を向上させることも期待できる。従来のアナリティックトレーニングよる技術練習では、以下のようなエレメントを学び取ることは困難となる傾向にある。

<TGFUトレーニングから期待できる要素>

◆集団プレーの中での先読み能力

◆ゲームパターンを分析する能力

◆戦術局面の理解、分析、直感、経験

◆スペースの掌握、利用、創造

◆時間、ルールなどの戦略的解釈

◆味方とのコミュニケーション

◆敵対コミュニケーション

◆指導者や審判とのコミュニケーション

 

④複雑なゲームを戦術、戦略から読む能力

 複雑なゲームを読む能力は、集団ボールスポーツを追及するためには欠かせない。インテリジェントな選手の条件の一つには、ゲームを読み、チームのパフォーマンスを向上させるという能力がある。しかしゲームを読むには、戦術的理解を深めることが前提となる。しっかりとした戦術トレーニング以外にも、ゲームの中での知覚認識を刺激しながら戦術判断を要求するようなトレーニングが必要となる。

 またインテリジェントな選手のもう一つの条件には、素早く正確な決断力、戦術理解、そして技術徹底というコンセプトの高い組み合わせがある。またインテリジェントな選手は、豊富な戦術コンセプトをしっかりと頭の中に整理して理解している。そして高い認知力、決断力、そして実行技術も備えている。あらゆる状況に合わせて、より正しい選択肢を実行することができる。ゲーム形式で行なうトレーニングでこそ、このようなインテリジェンスを養うことが可能となるだろう。

⑤選手のモチベーションを高く保つ

 ゲーム形式で競わせながら行なうトレーニングの方が、選手にとってモチベーションを高く保ちやすいことは容易に理解できる。性別、カテゴリー、競争環境を問わずに、競技を楽しむことは何よりも大きなモチベーションとなる。モチベーションが高ければ、何でも習得可能だ。選手が最大限にポジティブな姿勢でトレーニングと向かい合うために、指導者は競争要素を含んだゲーム形式のトレーニングを導入したい。個人、グループのモチベーションを高めるための『TGFUトレーニング論』にも注目したい。

<ゲームで競わせることが、低学年には最適かもしれない>


TGFUトレーニングゲームの構成に関するヒント


 TGFU (Teaching Games for Understanding = 理解を深めるためにゲーム形式で学ばせる方法)の構成理論についてだが、1982年にブンカーとソルフェらが提案した原理からヒントを得てみよう。このTGFUメソッドは様々なボールスポーツ競技に応用することが可能だ。ここで同トレーニング構成理論における、戦術理解を深めるための4大原則を考察してみよう。



 TGFU 方法論は、戦術理解の向上以外に、技術動作のトレーニングにも応用することができる。繰り返しになるが、単純な技術動作の実行だけならば、アナリティックトレーニングで補うことも可能だろう。しかし知覚決断レベルの低いトレーニングによる技術に特化した練習を否定することはできない。アナリティックトレーニングでは、何よりも技術動作の向上を目に見てとることができる。TGFUメソッドでは、戦術理解を優先目標としてゲームによるトレーニングを実践する。しかし摘出した技術的問題に対しても、あくまでもゲーム形式のトレーニングを用いながら、技術的な解決を試みることが可能だ。

◆技術特化(または個人戦術)のためのゲーム構成


1.リレー形式による技術的な競争ゲーム(精度、スピード)

2.ネットまたは壁打ち形式のゲーム(精度、反応、スピード)

3.シュート形式のゲーム(精度、パワー、スピード)

4.陣取りゲーム形式のゲーム(個人戦術、スペース概念、戦術理解)

 スペースの掌握が求められる競技において、ルールなどに工夫を施した陣取りゲームを導入することが可能だ。例えばバスケットの選手がハンドボール形式のゲームを行なうことは、スペースの利用やブロックの打開など多くの戦術要素を含んでいる。また反射スピードが求められるボールゲームの技術向上のためには、壁打ちゲームのバリエーションなどを導入することで、ゲームを通しての技術向上を試みることができる。ドッジボール形式のゲームを、フットサルの技術で応用することで、技術実行のスピード、精度、強度を向上させることが可能だ。またバレーボールの選手が、バトミントンなどのゲームで反射スピードなどを鍛えることも可能だろう。

 それではTGFU (Teaching Games for Understanding)を活用する指導者または選手達の役割について考察してみよう。指導者はどのようにして、ゲームを通して戦術理解の向上、または技術改善といった問題に直面するのか。いくつかのTGFUトレーニングへのアプローチ方法を以下に列挙したい。

◆指導者のTGFUへのアプローチ方法


A)ゲームの形式を試行錯誤して考案する

B)ゲームの流れや技術動作を観察する

C)選手にゲーム中の戦術的解決を考えさせる

D)ゲームを観察した後、戦術的介入をもって改善させる

E)ゲームを観察した後、技術的介入をもって改善させる

 TGFUトレーニングメソッドの中で、指導者に求められる最も重要なポイントは、“ゲームの形式を考え出すプロセス”であることは間違いない。指導者には試行錯誤しながら、選手たちの戦術理解を助けるような遊び“ゲーム”を考え出す課題がある。特定のゲームの形を用いながら、最も効率的に戦術コンセプトを組み込むことは容易ではない。また選手側にもはっきりとその戦術的意図が見えるように、ルールに工夫を施してトレーニングを構成するのも指導者のスキルだ。ゲームと戦術コンセプトのリンクを選手が自ら発見することに、このゲーム形式によるトレーニングの意味がある。指導者はその発見に対するヒントや導き出しを、選手のために順序的にサポートすることが求められる。


<ゲーム形式のトレーニングには、実に多くのメリットが存在する>


TGFU方法論の2大メリット


(①戦術コンセプトの浸透性 + ② 選手のモチベーションの向上)





 楽しみながらのゲーム形式の中で、選手は素早く戦術的な成長を遂げることができる。また日頃から問題解決や自己発見の習慣を持つようになれば、選手は高いモチベーションを保ち、新しいチャレンジに対して積極的な態度を持つことができる。その反対に、失敗を恐れて、チャレンジに消極的なグループは、いかに技術動作や戦術理解に優れていようとも、高いモチベーションを持ったグループに勝ることは不可能だ。知覚認知や戦術理解というキーワードも大切だが、やはり選手の自己発見とモチベーべションを保つための工夫を怠ってはならない。

 なおTGFU 方法論だが、特に育成年代、または幼少期のスポーツトレーニングメソッドとしても大きな効果が期待できる。幼い青少年達が早くしてゲームコンセプトを理解しながら、遊び感覚のゲーム形式による技術、戦術習得を実現できれば、それは理想的なトレーニングと定義できるだろう。





馬場 源徳(ばば もとのり)

 1981年日本生まれ。上智大学比較文化学部卒業。アルゼンチン・ベルグラーノ大学南米文学科修了。東京、ブエノスアイレス、バルセロナから台北を経 て、現在スペインに拠点を置く。世界最高峰のスペイン・フットサルリーグ1部では、日本人初のデレガード(記録・分析班)としてもベンチに入りを果たし、休むことなく最前線でボールスポーツを研究し続ける。