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2014-12-1

ボールスポーツにおけるトレーニング計画の重要性

『ボールスポーツにおけるトレーニング計画の重要性』

 ボールスポーツの指導者としては、タスク管理、計画性、競技知識、経験などが総合的にあってこそ指導者としての能力が評価される。現代のボールスポーツにとって、指導者の役割がマルチタスク化していることは紛れもない事実だ。指導者にとって、日々のトレーニングと向き合うにあたり最も大切なタスクとは何かを考えてみよう。

 あらゆるスポーツを指導する立場の人間にとって、欠かせない優先課題は何だろう。トレー二ングや試合で最も効率よく結果を出すために、豊富な経験や知識などが求められるのは確かだ。しかしボールスポーツの指導とは高い計画性を含み、高度なタスク管理能力が問われる作業という大前提を忘れてはならない。

 それぞれの指導者は、トレーニング環境と向き合うにあたり、様々な経験と“引き出し”を備えておくことが好ましい。競技知識、経験だけではなくスポーツ心理学、人生経験、社会経験、マネージメント能力などをフル活用して適切なトレーニング計画へと効率よくアプローチすることが必要な時代にいる。

 現代のボールスポーツ指導者の計画性とプロフェッショナリズムを代表するエレメントをまとめると、以下の5つのキーワードをリストアップできる。

 1.トレーニング計画性、2.トレーニングへの参加率、3.グループマネージメント能力、4.競技に関する知識と経験、5.社会的能力やその他の経験・・・これらのエレメントを備えていなければ、指導者としてスポーツグループを率いることは困難とされている。この中で最も大切なエレメントは、間違いなく『トレーニングの計画性』だ。

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<指導者は計画性を向上させるために、常に試行錯誤すること>

 指導者としてまず毎回のトレーニングに欠かせないのが、『トレーニングに対する計画性』ということを、今回のコラムでは強調したい。トレーニングを綿密に計画するということは、トレーニングへの理解、参加、試合への活用性、試合からのフィードバック、選手の管理、競技への解釈、目標の調整、などあらゆる要素を総合的に分析することが必然的に要求されることを意味している。計画性を持つということの大切さは計り知れない。また何よりも選手からの信頼を勝ち取るためにも、トレーニングの計画は必要不可欠な指導者の責任となる。

 計画がより困難となる、アマチュアのスポーツ環境にフォーカスして考えてみよう。プロフェショナルの環境ではないからこそ、トレーニングに対するより包括的な計画性が必要とされるはずだ。たとえば競技経験のない指導者や、父兄コーチがチームの練習環境を向上させるための最短距離での近道は何だろう?

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 あなたが仮に選手としての経験もなく、競技への理解も乏しく、限られたトレーニング時間しかないと仮定しよう。指導者として、あなたは何を優先するべきだろうか。やはり『トレーニングに対する計画性』を意識することだろう。毎回のトレーニングを試合や目標などと照らし合わせながら、合理的に計画することに、スポーツのエッセンスが詰まっているだろう。ここでトレーニングの計画に伴う、いくつかの重要なポイントを以下に列挙してみる。

①トレーニングは終始にわたり、一貫性を持たせること

 マイクロサイクル、メソサイクル、マクロサイクルによる計画メソッドであれ、トレーニングには一貫性を持たせる必要がある。マイクロサイクルでのトレーニング計画ならば、短期間で目に見える一貫性をトレーニングに組み込むことが期待できる。また毎回のトレーニングセッションの構成を見ても、アップからクールダウンに至るまでしっかりと論理的に、トレーニングセッションを構成することがパフォーマンス向上の鍵となる。

②適当にトレーニングをでっち上げる感覚を与えない

 トレーニングの時間は短く、高い強度で実行することが選手たちにとっても理想的だ。そのためトレーニングはコンパクトに、時間を無駄にせずに実行したい。その場でトレーニングを適当に考えだした、そのように選手に誤解されないためにも計画することが大切だ。選手達もトレーニングに対する計画性を実感することで、指導者へのリスペクトを強く抱くようになる。しかしトレーニングがその場しのぎだったり、論理性に欠けたり、間延びし過ぎてしまうと、グループ内における指導者の権威を落とす危険が生じてしまう。

③シンプルかつ到達可能な目標をトレーニングに設定する

 いかなるトレーニングも構成を複雑にせず、つねに選手達にとって実行が可能な難易度に設定することが望ましい。毎回のトレーニングを通して、挑戦感、挫折感、達成感を選手に適度に与えることが大きな刺激となる。トレーニングメニューの技術、戦術的なポイントに限らず、選手にとって到達可能なトレーニングバリエーションを準備しておきたい。課題復習、チャレンジ、達成感、課題摘出・・・といった要素を、トレーニングの中で指導者が上手く操る術を身につけたい。そトレーニング計画があれば、そのようなトレーニング構成も目指すことが可能だ。

④トレーニングにおける技術、戦術、戦略、フィジカルの適用

 毎回のトレーニングサイクルやセッションにおいて、課題として取り組んでいる技術、戦術、戦略、フィジカル面でのエレメントをメニューに組み込むことも指導者の大きな課題の一つだ。トレーニングサイクルに左右されずに、必ずトレーニングのいたるところに課題とするエレメントを組み込みたい。例えばリバウンドが課題となる試合を控えるマイクロサイクルでは、リバウンドやその前後動作、類似状況などを盛んにトレーニングの中で再生することを意識する。またシーズンの序盤、スタミナ要素をトレーニングしたい時期などは、トレーニングの時間などを長めにしたり、有酸素トレーニングの割合を高くとったりする工夫を行なう。

⑤試合や目標と照らし合わせながらトレーニングを進化させる

 全てのトレーニングは、試合や目標に準じて計画することが前提となる。これは結果を求められる競争レベルによる、マイクロサイクルの原理に共通している。しかし低学年では、自分たちの目標を基準として考えることが大切だ。その中間となる育成年代では、試合への“準備とチームの進化のバランス”をトレーニングで巧みに追求したい。それでも育成年代終盤からエリートクラス、またはトップチームになれば競争環境(試合)のためのトレーニングという定義が一般的となる。カテゴリー、レベル、競争環境などによりトレーニングサイクルの種類、優先順位にも大きな差が生まれる。当然ながら、トレーニング計画の内容もそのような事柄に影響を大きく受ける。

<選手にトレーニングや試合への計画性を理解させるのも重要だ>

⑥計画したトレーニングに基づき、変更など臨機応変に対応する

 トレーニングをしっかりと計画しながらも、セッションの当日の状況や急遽の変更にも臨機応変に対応する習慣をつける。トレーニングに臨機応変に対応するという項目だが、大きくは以下の3種類の状況対応が考えられる。

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A)トレーニングに参加する選手数が変更される。

 選手の人数、ゴールキーパーの人数などが急遽変更することは頻繁にありえる出来事だ。事前に計画したトレーニングをベースとしながら、しっかりと戦術、技術、フィジカル、戦略的なポイントを変更しないままメニューを修正する習慣をつけたい。トレーニングに参加する選手の人数差が、2、3人の変化ならば計画通り、また計画したものに類似したトレーニング構造を保つことが可能だ。また特定ポジションの選手(GKなど)が急遽トレーニングに出席、欠席することにより、戦術トレーニングに大きな変化が強いられることも考えられる。ここは指導者の成長どころでもあり、腕の見せ所でもある。臨機応変にグループを操る、計画した目標を達成するためのアレンジを施す。急遽の変更などの逆境もポジティブなチャレンジとして受け止めることが大切だ。

B)トレーニングコーチ陣などの人員に変更が発生する。

 フィジカルトレーナーが突然欠席する、心理カウンセラーがチームを定期チェックに来る時間に変更が発生した、マネージャーが練習に遅れる、セカンドコーチしか練習に出れない、総監督が熱で欠席・・・トレーニングコーチ陣にも様々な予測不能の出来事が起こりえる。トレーニングの計画をしっかりと練りながらも、コーチングスタッフ内での連携は何よりも大切だ。ボールスポーツのトレーニングは複雑なパズル。誰も欠く事はできない。しかし達成したい全体図がイメージできていれば、順序や行程が多少変更されても同じイメージを作り上げることが可能となる。

C)トレーニング環境やマテリアルに大きな変更が生じる。

 トレーニング環境に変更が生じることも考えられる。室内コートが使用できない、練習会場が変更される、使用可能なジムスペースに変更がある、ゴールが利用できない、特定の器具や道具が使用できる(できない)、練習時間が変更となった・・・このようなトレーニング環境の変更にも、指導者はしっかりと対応する術を知っておきたい。環境やマテリアルの問題にも屈せず、常に解決方法を探し、計画されたトレーニングに基づいて、チームが必要とする課題にアプローチする。総合的な管理能力、計画能力、順応能力といった懐の深さが指導者には必要となる。

<マテリアル、環境、用具、スペースなどはトレーニングのポイント>
トレーニング計画は大きく3種類に分類できる

①怪我防止のためのトレーニング計画

 怪我を未然に防ぐために合理的にトレーニングを計画することが、指導者には求められる。いかに素晴らしいトレ―ニングを実行しても、選手のフィジカルコンディションを効率よく管理することを心がけたい。また選手のコンディションを万全に保つための、メンバー招集やトレーニング構成なども工夫したい。トレーニング環境に応じて、下部組織の選手をトレーニングに参加させるなどして、チームとして長いシーズンを戦うなかで、長期的な怪我やストレスを避けるバランスを考慮する。長いシーズンで疲労困憊やオーバーワークが起こらないように、また常に高いパフォーマンスを発揮できるような、トレーニング配分も計画する。練習環境、道具、トレーナーの人手などを考えて、最も効率的なトレーニング計画を行なう。怪我を未然に防ぐために、もっとも適切な時間帯にトレーニングを設定する・・・以上のようなのコンセプトを考えながら、しっかりとシーズン全体の計画を練る。指導者のトレーニング計画スキルの中でも、最も難しいポイントかもしれない。

②シーズンの目的や重要性などを考えてトレーニングを計画する

 指導者はトレーニングの強度などを考慮しながら、長期的なスパンで計画を組み立てる。昨年のシーズン、また来季のシーズンに向けたチームの目標などをチームの状態に照らし合わせてトレーニングを計画する。チームの目標などをまずは設定して、どの程度の投資が可能かを考慮する。シーズンの重要性を考えて、どの程度までトレーニング強度を高められるかを熟考する。またカレンダーを見て、トレーニングの達成可能レベルも設定する。過ぎ去ったシーズンなど、以前のトレーニングの発展と進化を分析しながら、トレーニングの過程をプランする。

③毎日のトレーニングにおける進化を考えながらトレーニングを練る

 指導者として、毎回のトレーニングが終わるたびに評価と反省を習慣づけたい。技術的にトレーニングの目的は達成できたか、戦術的に選手達はミッションを実行したか、フィジカル面ではどれくらいの強度のトレーニングだったか、そして練習環境の気温や湿度はどうだったか。様々な毎回のトレーニングデータを考慮に入れながら、トレーニング計画に変化を与える能力と経験が、指導者には求められる。フィジカル面、技術面での個人差をトレーニングの中にどう適応させるか。特定の選手たちに、異なるトレーニングメニューを的確に提供できるかなどもポイントだ。練習環境、気温、湿度、時間帯なども、毎回のトレーニングを構成するための大切なデータとなる。

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 ボールスポーツの指導者には様々なタスクを管理しながら、毎回のトレーニングを計画する能力が問われる。しかし残念ながら多くの指導者は、より優れたトレーニング計画のための努力と工夫を怠っている。シーズンが混沌とした状態のまま終わるのか、それとも計画と実行の積み重ねの中で有意義なシーズンとなるか。その全てが指導者の管理能力と情熱にかかっている。適切なトレーニング計画を練るには、最低限のマテリアル・リソースが必要となる。データを記録する方法、トレーニングを管理する方法、試合を記録する方法、統計をとる方法などだ。論理的で建設的なトレーニングを計画するために、われわれ指導者には常に工夫と努力が求められる。