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2015-5-18

集団戦術の基礎となる1対1というコンセプト(前半)

 バスケット、ハンドボール、サッカー、フットサルのようなボールスポーツの攻撃性質について考えよう。多くの指導者などは、頻繁に『戦術』という言葉にフォーカスを当てる。確かに、戦術動作、フォーメーション、パターン、連携動作など・・・指導者はトレーニングにおいて、攻撃の『システム』と『プロセス』に重点を置く傾向にある。例えば、フィニシュまでの過程、攻撃トライアングルの形成、セットプレー、フォーメーションなどの追求がその例だ。しかし平行して、決して無視できない攻撃コンセプトがある。それが『1対1』というマイクロ局面だ。今回のコラムでは、集団戦術の基礎ともなる『1対1』のコンセプトについて考察したい。

<1対1に勝れば、簡単にゴールを脅かすことが可能となる>
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 まずは指導者(またはチーム)が攻撃局面を操る場合、トレーニングに必要不可欠となる2つのフォーカスを復習したい。それが①集団機能の向上と②個人能力の向上である。言葉を置き換えれば、ボールスポーツのトレーニングには集団戦術の向上と同時に、選手個々の能力を引き上げることが求められるのだ。

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 一般的には戦術トレーニングにおいて、選手は戦術的にコーディネートされ機能する。またボールスポーツ、特に室内の場合はそのサイズや音響からも指導者が戦術介入するレベルも高いこともある。そのためトレーニングの時点から、指導者は指揮官として、集団におけ存在価値を発揮するのが求められる。

<フットサルでは多くの場合、1対1が最終的に勝負を決める>

 『指導者は将棋士のように選手(駒)を戦術的に操る。しかし駒の能力を最大限に高めるトレーニングを行なうのも指導者の仕事だ』

 伝統的に戦術の熟成や集団によるチームワークを、個々の能力を掛け合わせることで、欧州のボールスポーツは素晴らしい結果を出してきた。しかし個々の能力を高める(駒の能力を高める)という任務については、近年における絶対的な練習量の減少や、子供達の体力低下などから、向上が疎かになる傾向にある。圧倒的なタレントを持った選手は、多忙な日々や限られた練習環境のために発掘されにくい時代を迎えている。

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 確かに『インテリジェントな選手を育てる』と私達は提唱するが、その基礎となる個人戦術、そして個人技術の向上を指導者は義務付けられている。それでは以下に『インテリジェントな選手』に必要な個人技術を、攻撃の個人能力という観点から考えたい。

◆個人能力のレベル分類(攻撃)

① 個人能力により集団目標を達成する技術
 ボール保持、プレス回避、エリア前進、ボールキープ、フィニシュ、得点などを個人で達成する。チームで実行する前提の戦術局面を、個人能力で打開・達成する能力・技術。周囲のプレーヤーを勝利に導く。

② 個人能力により集団の能力を引き上げる技術
 高い精度のパス、ドリブル能力、相手をひきつける能力などで集団能力を引き上げる。高い技術を駆使しながら、個人の能力によってチームのパフォーマンスを引き上げる。周囲のプレーヤーを助ける能力に長けた選手。

③ 集団戦術に順応してアクションを実行できる選手
 味方選手が作り出したアドバンテージを、個人選手が利用する。戦術的なアドバンテージ、数的有利、サポート、フィニシュチャンスなどをしっかりと理解した上で利用する。周囲の選手を理解しながら、任務を果たせる選手。

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 このように選手の個人能力レベルを3段階に分けることが可能だ。明白ではあるが、『①個人能力をもって集団の目標を達成する』ほど困難なことはない。しかし個々が相手守備にとって危険な存在となるように、選手を日常からトレーニングすることは、指導者にとって重要な任務であると覚えておこう。

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◆個人能力の分類(攻撃)

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A)ボールを保持しながら、敵に切り込む能力(ぺネトレーション)
 ボールを扱う技術能力
 敵を欺くフェイント能力
 ボールを保持と移動スピード
 ボールを守るための身体能力

B) ボールを受けるためにスペースを勝ち取る能力
 オフボールでの動き(マークあり)
 オフボールでの動き(マークなし)

 スペースを掌握する能力
 タイミングを把握する能力
 ゲームを先読みする能力
 戦術を理解する能力

◆1対1の局面のフィニシュ範囲を広める

 シュート動作などに代表される『フィニシュ』という攻撃の最終目的。そのフィニシュ動作、範囲、角度、方向を広く保つための技術とスピードは、ボールスポーツで危険な選手になるために必要不可欠だ。守備のマークがカバーしても、ある程度遠い距離で、様々な角度から、素早く強力なシュートを実行する能力を指している。有効なシュート範囲が広ければ、より効果的に守備を引き出したり、守備の注意力を固定することが可能となる。そのような能力で、集団によるフィニシュのバリエーションが広がることは確かだ。

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 選手は可能な限り、左右どちらの方向にでもドリブルできるようにトレーニングする。左右対称に完璧にボールを運べるまで、アナリティックトレーニングなどを用いて繰り返すことも大切だ。この左右対称に技術実行を行なう能力は、パス、シュート、守備についても同じである。また方向転換などにより、守備を瞬間的に破壊することもドリブル能力の一つである。そして過度にドリブルや1対1を仕掛けると、チームワークに弊害が出ることも強調したい。ボール回し(パス交換)の方が、ドリブルよりもボールの移動スピードが速い。この原則をしっかりと戦術的に念頭に入れながらも、ドリブル動作を推奨したい。

overseassports86_10<遠い距離からのフィニシュ能力により、守備全体を強制できる>

◆1対1を行なうための基本条件

 あらゆるゲーム構築の手段とその過程は、最終的には『1対1』の局面に集約することも可能だ。ボールを保持しながらの1対1の能力は、以下に解説する2つの状況下(①空きスペースの利用+②ドリブル能力の突出)において基本的には有効となる。

① 空いたスペースが利用できる
 スペースを生み出し、それを埋める。そのためには味方選手とのタイミングやコーディネーションが大切となる。スペースを埋めるアクションには、ドリブルでボールを運ぶ概念も含まれている。1対1を行なう場合、空いたスペースが存在することは大切な条件だ。味方が作り出すスペースを見つけ出すため、周辺認知や戦術理解も同時に要求される。

② ドリブル能力に突出している
 1対1を仕掛けるには、高いドリブル能力があることが望ましい。その能力に欠けていると、シュート力があっても効果的にフィニッシュへとたどり着けない。また相手に危険を与えることも不可能となり、味方選手にも攻撃のオプションを提供できなくなる。ドリブル能力または有効なフィニシュ能力の欠如は、守備にとっては対処しやすい状況となる。

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 『左右対称のドリブル能力、方向転換、リズムチェンジの速さ、そして幅広いフィニッシュエリアこそが、選手をもっと危険なプレーヤーへと進化させる』

*研究対象 ヘスス・カンデラス氏