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2015-6-2

集団戦術の基礎となる1対1というコンセプト(後半)

 1対1のコラム後半では、1対1による仕掛けを、技術・戦術的なエレメントから分類してみよう。具体的には、1対1の『①目的、②手段、③固定原理、④フェイント、⑤選手の特色、⑥タイミング』などについて考察したい。まずは以下に、筆者なりの1対1の戦術目的、また技術概要の簡単な図を作成してみる。

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◆集団戦術における 1対1の『目的』とは
 守備の方向を間違った方向へと誘い込む
 相手守備(マーカー)のバランスを崩す
 守備全体の注意を引きつける
 守備の主導権を奪い受け身にさせる
 パスコースを作りだす

◆集団戦術における 1対1の『手段』とは
 多方向への技術移動による優位性
 方向転換によって生み出す優位性
 リズムチェンジ(速度)からの優位性

◆ドリブルを仕掛ける前に
 まずはドリブル、1対1を仕掛ける前のコントロール、ボールの受け方について考えてみたい。前回のコラムでも触れたが、オフボールでの駆け引きも1対1の個人能力の大切なパーツとなる。ボールを有利な状況(よりフリーかつ危険な位置で受ける位置)で受けることは、自然と1対1の流れを有利にするための大切な条件だ。このボールの受け方という戦術エレメントを無視しては、1対1やドリブルは成功が困難とも考えられる。

◆ドリブルによる引き付け(固定)の原理
 ドリブル・フェイントをしかける場合、相手守備に可能な限り近いポジションで実行することがポイントだ。相手に近い位置から仕掛けるアクションは、引きつけの原理(固定)と呼ばれている。引き付け(固定)だが、1対1などの個人戦術アクションだけではなく、2人組などの集団戦術にも応用できるコンセプトとなる。例えばワンツー、ブロック、などでも引きつけ(固定)は必要不可欠なポイントとなる。

<スペース認知、タイミング、そして相手をひきつけるのは戦術要素>

◆フェイント動作のポイントなど
 フェイント動作を取り囲む主要エレメントが、①方向転換、②リズムチェンジだ。そして③技術動作、④反応速度の高さもポイントとなる。ここでの反応速度とは、守備の反応に対して、瞬時に裏を突くアクションを実行する反応速度を指している。さらにフェイント実行には、⑤タイミング、⑥技術動作の選択決断も伴われる。先述にもあるように、選手は利き足・利き手によらず、左右どちらにでもドリブルを実行することが理想となる。

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◆フィニシュへの完結性
 フィニシュの意図や危険性を伴わないドリブルは皆無に等しいとも批判する指導者も多い。確かに守備に脅威とならないアクションは、チームにとってネガティブな結果を招く可能性も高い。そのためドリブル動作は、まず前提として短い時間の中でフィニシュへと完結できることを理想にしたい。フィニシュへの完結性に欠けたドリブルは、守備に脅威を与えることができない。

◆ドリブルのタイプ
 ボールさばきによるフェイント (テクニック)
 スピードによる打開 (シンプル)
 守備の対応に反応する (コンプレックス)
 ボールを守るための安全ドリブル(セーフティ)

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◆ドリブルを仕掛ける有効性
 ドリブルや1対1の仕掛けの種類によっては、攻撃テンポリゼーションを引き起こすことが可能となる。味方選手がマーク外し、スクリーン、ペネトレーション、ブロック、という様々な戦術アクションを起こすための時間を与える。

◆ドリブルからの展開目的
 ドリブルにより相手の守備バランスを壊す
 守備に対してゲームの主導権を握る
 守備を驚かせる、攻撃に即興性を持たせる
 フィニシュに有効なポジションを獲得する
 守備の注意方向を固め、密集地帯を作り出す

◆1対1に注意するタイミング
 1対1のために、無駄にゲームスピードを落とす場合
 自陣エリアなどで、過度のリスクを背負う場合
 味方またはボールホルダーにフィニシュが可能な場合
 フィニシュに有益なパスコースが確保されている場合

<1対1はタイミングと前後のアクションがポイント>

◆1対1を仕掛ける判断基準
 A) 許容される1対1アクション
  シュートエリアに侵入するため
  シュートアングルを確保するため
  ボールホルダーにパスの選択肢がない
  次の攻撃アクションへのテンポリゼーション

 B)1対1が有効となる状況
  ボールを守備ゾーンから運び出すために
  ボールを確保した直後のアクションとして
  ボールをインターセプトした直後の軌道付け
  ボールをインターセプトした直後の守備の引き出し
  合理的なスペースで『2対2』などが発生した場合
  守備のプレスからの回避方法(ボール確保)として
  オフボールの選手に戦術時間を与えるため
  オフボールの選手に戦術空間を与えるため
  攻撃テンポリゼーションとして
  速攻・トランジションでパスが確定しない場合

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◆1対1が有効にならな状況
 周辺認知がしっかりと成立していない場合
 フィニシュに有利なパスコースが確定している
 味方自陣内や、敵に囲まれている不利な状況で
 フィニシュラインやその角度が確保されている
 コーナーやエンドライン付近など角度のない場所で

◆ドリブルに必要とされる能力

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◆おわりに(まとめ)
 ドリブルの連動アクションについては、正確なパス、シュート、またはフィニシュ動作への『連動性』を持たせることが望ましい。またドリブルを仕掛ける前の、ボールの受け方や体勢も大切だ。そしてボールの持ちすぎや不要なドリブルには注意したい。ドリブルで仕掛ける場合、守備との距離感を適度に保つことも、選手にとっては大切な空間能力となる。そして1対1という局面には、技術、リズムチェンジ、方向転換、フェイント、そして相手を騙すタイミングと反応スピードも大切だと覚えておきたい。

<ボールを守る、運ぶ、フィニシュする。ドリブルの効果は幅広い>