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2015-6-15

シンプルなチームマネージメントについて

 団体競技のチームにおいて、コーチングスタッフはどのような課題にフォーカスしながらトレーニングサイクルを構成するのか?あなたが指導者ならば、どのようなプロセスでチームを作り上げるだろう。今回のコラムでは、チームの構築方法やマネージメントについての大切なヒントを探してみたい。まずはチーム構築における、重要コンセプトを書き出してみる。

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現実的な目標を設定する

 チーム構築は当然ながら、まずは自分達のリーグレベル、選手層、予算、練習時間などを考慮することから始めたい。そして現実的な観点から、到達可能な目標を設定することが、計画の第一歩となる。現実的な目標が定まったら、トレーニング計画を始めることが可能となるからだ。

 トレーニングの計画では、どのようなトレーニングモデル、コンセプト、タクティクスを選択するのだろう?競争レベルで奮闘する多くの指導者は、選手のレベルや背景を無視した非現実的なトレーニングレベルやゲームシステムを設定していないか?また指導者は、自分達の価値を高めるために、不必要なまでにゲームコンセプトやトレーニング過程を複雑化していないか?多くのポイントについて、考え直してみる必要がある。

 『ゲームとは実は結構単純なものかも知れない。ゲームを複雑化させているのは、指導者に責任がある場合が多い。不必要にコンセプトやトレーニングを難解にするのは危険である(サンティアゴ・バジャダレス氏)』

<指導者はゲームコンセプトなどを難解にしないよう、日頃から注意する>
シンプルなコンセプトに勝るものはない

 ゲーム構築のコンセプトは、シンプルにガイドすることが最良だろう。選手達の理解を複雑化することに、何のメリットがあるのか?指導者にとってのチーム構築に大切となるエレメントが、ゲームコンセプトである。そのゲームコンセプトを選択する場合、トレーニングの過程において、選手の能力を最大限に引き出すように工夫したい。また選手の個性、監督の個性を引き出すようなチーム作りを行なうには、過程の段階ではシンプルなゲームコンセプトが適している。簡単なコンセプトを理解すれば、選手は各自のプレーに集中することが許される。そして決断力が助長される。その上にチームカラーとプレースタイルを掛け合せることで、より完全なチームへと進化することもできる。

 またゲームモデルをシンプルに保つことには、グループの共通理解という相乗効果を生み出すことが期待できる。戦術などの共通理解は、チーム作りにおける規律という観点からも必要不可欠だ。選手それぞれが自然体でプレーできるだけではなく、グループとして戦術意識を統一しながら、同時に即興性を含んだ集団プレーも可能となる。

<ゲームモデルはシンプルに、トレーニングは細かく>
選手の能力を引き出すというメリット

 細かいルールなどで縛り付けられた選手達は、共通理解にたどり着けないまま、自然体でプレーすることもできない。プレーに対する責任や挑戦を負えないまま、選手達は指導者が提案するシステムやルールによってロボット化してしまう恐れがある。それとは反対に、戦術コンセプトがシンプルな場合、選手達はすぐに共通理解に達成する。その中で選手達は、各自の能力や特徴に合わせて自らの決断を下しながら、状況を打開する能力を助長できる。そうなれば指導者には、シンプルな戦術からのバリエーション、修正、方向付けなどが求められる。そのような観点からも、高い競争レベルでは指導者の能力が大きく問われる。自由にプレーさせる、しかし無限の可能性を与える代わりに、無限の介入が指導者には求められる。

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競争レベルの向上に伴うゲームの乱れ

 エリートレベルの競争になれば、トレーニングや試合のリズムは非常に高いものとなる。インテンシティーである。そのようなハイテンポの中で、絶え間なく決断を下すのは選手自身でしかない。素早い展開の中で、セットプレーや特定の戦術などを除き、選手が指導者の意図やシステムに従ってプレーすることは困難となる。高いレベルの競争に従事する選手となれば、なおさら指導者の秩序を守ってプレーすることは難しい。ゲームの秩序を保つことは容易ではない。それは選手の意図ではなく、競技の複雑性に起因する部分が多い。そのためシステムを複雑化するということは、選手の自由を奪い、システムとの矛盾を助長する危険性を含んでいる。選手の能力を引き出すためには、システムや約束事をシンプルに保ちたい。そこからチーム内での結束を高めることが優先事項とも考えられる。

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選手に自由にプレーさせる、考えさせる

 システムをシンプルに保つとは、簡単なプレーをオートマチックに実行させることの同義語ではない。システムをシンプルに保ちながらも、選手には決断を自由に与えることが理想的だ。システムはシンプルに、しかし日常のトレーニングから選手には決断を迫る。トレーニングは細かく。シンプルなシステムの中でも、細分化されたトレーニングから様々な現象を引き起こす。最終的に選手は、異なる状況に対応することを習慣づける。

 その他にも、個々の選手達がそれぞれ成長できるようなポジション分け、ローテーション作り、システム構成、グループ分け、トレーニング構築にも細心の注意を払う。包括的なグループバランスを考慮しながら、個々の技術、戦術、戦略、タレント、性格、体質などを見抜く。そして選手個々を、選択するシステムの中における最良の組み合わせにより、チームとして機能させることも指導者の任務だ。

<トレーニングでは常に、戦術をガイドしながらも選手達を考えさせる>

 このようなチームトレーニング構成のポイントを考えれば、指導者の任務は、技術・戦術的なポイントよりも、心理的な要素が強く影響を与える傾向にある。均衡した実力の選手達を扱うなかで、戦術もしかりだが、心理的かつ戦略的な選手のマネージメントも重要となる。そのような目には見えないパフォーマンスも、チーム構築には大切なポイントとなる。