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2015-7-13

インテグラルトレーニングの計画について

 私達のボールスポーツにおいて、インテグラルトレーニングという方法論が広く理解される時代にいる。その中で技術、体力、戦術、メンタルという4つのブロックは切り離すことが難しい。効率よく、技術、体力、戦術、メンタルの強化を図ることが、このようなトレーニング方法論の大きな特徴でもある。また個人戦術の助長という概念についても考えよう。個人戦術とは、選手がインテリジェントな選手に成長するための大切な土台となる。その個人戦術を正しく助長するには、やはり技術、体力、戦術、メンタル的な発展を伴うことが欠かせない。

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 インテグラルトレーニングにおいて、技術、戦術、体力、メンタルの優先順位は頻繁に討論されるテーマでもある。しかし以上の4大要素は、実に複雑に関連している。例えば、ボールスポーツにおける技術とは、対戦相手や味方選手の状況を認知しながら、各局面の状況での戦術選択(タクティカルアクション)に支配される。同時に技術とは、それを実行するための身体能力そしてメンタルの状態にも支配される。つまり技術動作とはゲームの状況に支配される。戦術理解をべースとして、個人技術または集団技術によってタクティカルアクションが完結される。同時に個人技術と戦術応用は常に切り離せない。戦術の応用には、技術の実行が必要とされる。技術実行には必要な体力も伴わなければならない。全ての要素は依存しあっている。

<アジリティー、コーディネーション、瞬発力というフィジカル基盤を大切にする>
トレーニングの原則について

 トレーニングの大きな目標として、選手を技術そして戦術的な側面から、実戦リズムや現実傾向に慣れさせることがある。そのためには、指導者と選手による共通のゲーム局面の理解が必要となる。フットサルのようなゲームには8つの局面が存在する、トレーニングでは必要に応じて各局面を強化する。またそれらの局面を、優先順位をつけてトレーニングする。そこでは、以下の4つのポイントに留意する。

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①現実と互換性のあるトレーニングを行なう
 トレーニングはあくまでもゲームに適用できるもの、つまり互換性のある構成であることが基本だ。そして競争べースのトレーニングによって、現実性の再現と難易度の向上をはかる。いずれにしろ可能な限り実戦に近づけた形の中で、ゲームで起こる可能性の高い状況を模倣する。現実性を持たせることがトレーニングの第1条件だ。

②それぞれのゲーム局面を分解してトレーニングする
 全てのゲーム局面を同時にトレーニングすることは、ほとんど不可能だ。そのためゲームの局面ごとにフォーカスを当てながらトレーニングすることが一般的である。また各ゲーム局面ごとでも、さらにその局面を分解(細分化)したトレーニングを計画することが望ましい。順序と秩序を理解し、段階的に難易度を引き上げる。また細分化された局面をトレーニングすることで、選手達はより深い共通理解に辿り着ける。

③異なるゲーム局面を連結させるトレーニングを行なう
 様々なゲーム局面を習得するのと同時に、それらを連結させるトレーニングにも力を注ぎたい。ボールスポーツは異なる局面の連続だ。瞬間ごとに局面が変化する中で、選手はロールチェンジ(役割の変化)を繰り返す。局面の移行ごとに、包括的なトランジションが起こる。そこでは広義的なオープニングへの知覚認知による対応能力が、決定的に大切なエレメントとなる。

④トレーニングの順応性、過強度、複合性、などを高める
 トレーニングの順応性、過強度、複合性、などを高めることで、段階的により高いレベルを目指すことができる。先述の『局面を連結させるトレーニング』でも同じだが、このようなトレーニングには知覚認知に強い刺激を与えることがポイントであもる。素早いリスタート、複雑な選択注意力などを中心とした高い個人戦術によってゲームの理解をより深める。

<現実のゲームよりも複雑なトレーニングを最終的には目指す>
トレーニング発展への5つのポイント
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①スペース・オリエンテーション。ポジショニング、位置関係、距離感などが実戦に応用できるようなトレーニングにおけるスペース設計を行なう。実戦でのスペース感覚、体の向き、空間スペース、走行距離、ポジショニングなどを普段のトレーニングから向上させる。

②段階的なレベルの引き上げ。戦術目的に合わせて、論理的、段階的にトレーニングの難易度を段階的に引き上げること。選手は順応しながら実戦に近い難易度のゲーム局面を理解する。その過程の中で技術動作を、正しい戦術的背景の中で実行する。

③ゲーム形式の構成の中から、仲間と協力するようなトレーニングを導入する。そのためには仲間選手を導入した、複数人数によるトレーニングを行なう。そして段階的に対戦相手を導入して、決断能力が要求される状況を作りだす。タクティカル・アクションを助長させながらより実戦に近づける。簡単な言葉にすれば、可能な限りゲーム形式に近づける過程を段階的に踏む。

④実戦よりも難易度(複合性、難解性)の高いトレーニングを導入する。導入段階では実戦で起こりえる局面にフォーカスして、選手が消化できるようなトレーニング構造を繰りかえす。その中でも難易度を引き上げ、局面ごとのタクティカル・アクションを強化するプロセスをまずは実践する。最終的な目標として、実戦よりも難易度の高いトレーニングを導入していく。その結果、実際のゲームの方が簡単という状況を作り出す。

⑤戦術能力をより高めるためには、トレーニングの技術・戦術的な難易度とは別に、より選手達にストレスをかけることも必要となる。このようなストレスは戦略的難度とも表現できる。選手達を不安定な状態でのトレーニングに慣れさせるのが目的だ。例えば、①時間制限、②疲労状態、③心理ストレス、④過度のスピード・・・といった不安定要素によりゲームストレスを戦略的に引き上げる。

<外的な戦略要素をトレーニングから模倣することも大切だ>
ボールプレスを中心としたインテンシティー

 攻撃、守備の局面にかかわらず、トレーニングは常にボールにプレスが成立する状況で行なう。守備側からプレスを仕掛け、戦術決断が容易ではない状況をスターティングポイントとする。そこから高度のタクティカルアクション原理によるトレーニング難度を目指す。フィジカル、メンタル的にも限界のインテンシティーでトレーニングは実行したい。なおボールプレスの中心となるフィジカル基盤が、①コーディネーション、②瞬発力系スピード、③アジリティー能力、と考えられている。

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ゲームの局面移行への対応力を養う
 ゲーム局面の切り替え、その他の局面への移行におけるエラーを減少させる。同時に局面移行における論理性(スムーズな流れ)などを向上させる。局面への移行では、戦術的に組織構成を行なう練習もとり入れる。包括的トランジションというコンセプトをトレーニングする必要がある。

トレーニングの順序立てとスパン分け
 ゲーム局面、そして異なるゲーム局面の連結トレーニングにいては、しっかりとした事前計画を行なう。長期的なスパン(マクロサイクル)を基盤として、トレーニングを計画する。中期スパン(メソサイクル)や短期スパン(マイクロサイクル)などに細分化するが、まずは可能な限り長期的なスパンでこのチーム構築概念を計画する。

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