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2015-10-19

タイムアウトにおける情報伝達について

◆タイムアウトの情報整理について

 タイムアウトを要求してからの順序について考えてみよう。選手をタイムアウトが聞けるポジションに集合させる。ベンチに座らせる、または円陣を作るなどしてタイムアウトを始める。それでは肝心の情報伝達については、どう整理できるだろう。

 タイムアウトの情報伝達の構成順序としては、①どのような現象が起こっているのか、②なぜその現象が起こっているのか、③どうすればその現象を解決できるのか、という3つの論理段階を踏む。このような分析構成をもって、攻守にわたるポイントを整理する。時間は60秒と限られているために、情報整理の能力も鍵となる。

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◆不必要な情報を与えすぎないこと

 タイムアウトの限られた時間内で、不必要なゲーム状況について言及しても時間が不十分だ。また個人選手の批判や指摘などに時間を使っても、状況解決には近づかない。タイムアウトでは限られた時間を有効に使うことが、何よりも優先事項となる。しっかりと試合の状況を改善することで、ゲームの流れを引き寄せる。チームのおかれた問題を的確に分析することが優先となる。

 情報の与えすぎによる、思考回路のブロックにも注意したい。仮にバレーボールやバスケットのようにセット休憩やコミュニケーションの時間があれば、情報伝達の許容量は増加するかも知れない。いずれにしろタイムアウトの乱用や、不必要の情報を過度に伝達することは避けたい。

◆タイムアウトをとらないマネージメント方法

 なお選手の個人的な批判や戦術修正ならば、タイムアウトをとらずとも交代の中で修正できる。選手をセットで交代させ、複数の選手に集団への指示を与えることも可能だ。例えばフットサルでは4人のフィールド選手を同時に交代させることで、タイムアウトをとらずとも集団への戦術修正やセットプレーの指定などを行なう監督も多い。この場合選手は60秒以上の情報処理の時間、また回復時間を与えられるため、タイムアウトよりも効果的なケースも考えられる。あくまでもタイムアウトは緊急事態、試合の最後の局面のために大切に守っておくというマネージメントも可能となる。

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◆タイムアウトにおける情報伝達のポイント

          ①状況改善のための情報を優先する
          ②選手達に情報や指示を与えすぎない
          ③メッセージは簡潔にそして単刀直入に
          ④試合中のベンチワークでは伝達できない情報を
          ⑤既に発生した事にはあまり時間を使わない

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◆選手の情報理解の能力について

 選手達のコミュニケーションにおける情報理解能力には、大きな個人差がある。準備された100%の情報に対して、70%しか理解できない選手もいれば、場合によっては40%しか理解できない選手もいるだろう。また試合中のタイムアウトの状況などでは、疲労、集中、観衆、審判、雑念など、さまざまな外的要素によっても情報伝達率は低下する。つまりはこの40%~70%の情報に対しても、外的影響から情報の半分しか伝わらない状況も考えられる。これを『情報の鈍化』と表現する。以下の図にもあるが、指導者はこの情報の鈍化を理解しながらタイムアウトの情報発信を考えたい。

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 また情報の鈍化は、選手の理解力や疲労状態などにも左右される。それとは別に、情報伝達の欠落(情報欠陥)や情報の不純性という問題も存在する。どんなにゲームを分析しても、指導者が選手に情報を伝達する中で、どうしても言語化して情報が整理できないケースだ。情報の鈍化では、選手の理解能力だけが問題ではない。コーチの言語力、情報伝達力、整理整頓のスキルなども大きなポイントとなる。

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◆情報を明確に伝達するための工夫

 指導者は限られた時間のタイムアウトで、メッセージの誤解や矛盾には細心の注意を払い、可能な限り明確に情報伝達を行なう。はっきりとしたメッセージで、混乱や勘違いを避けることが第一優先だ。同じメッセージでも選手の理解によっては、全く異なった意味合いで解釈される可能性がある。そのため明確にメッセージを伝達するように、指導者は日頃のトレーニングから練習する。いかにして情報伝達率を向上させるのか?口頭によるコミュニケーションを効率化するエレメントも多々あるが、ここでは情報伝達における、①ビジュアリゼーション、②ジェスチャー、③アテンション、という口頭によらない3つのキーワードを強調したい。

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◆口頭によらないコミュニケーションのエレメント

①ビジュアリゼーションとは、『目に見えるもの』を指している。作戦ボードなど、選手の目に見えるマテリアルを使いながらメッセージを伝達する手段だ。目の前に起こる問題や現象を、ボード、マーカーなどを用いて分かりやすく伝達できれば、指導者の説得力は強化される。また得点ボード、ファールカウント、タイマー、観客の様子などを指差したりすることで、選手に戦略的なメッセージを発信することもできる。

②コーチングの大きなエレメントの1つがジェスチャー、つまりは『身振り手振り』である。このジェスチャーにより、メンタル面、戦術面での指示をより強調して伝達できる。また選手と指導者の間で、毎日のトレーニングから共有される“ジェスチャー言語”を用意しておくのも望ましい。

③この場合のアテンションとは『注意力を促す』という意味だ。ボールスポーツ選手の情報収集力を高めるために、まずは選手の注意力を促す。名指しで選手を呼ぶ、選手達の目を見る、選手達をしっかりと1列に並べる、チームを一喝する、机を叩く、沈黙を利用するなど、様々な注意喚起ができる。まずは選手の注意力を要求して、タイムアウトに最大限に集中させることが情報伝達の近道となる。