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2015-11-16

選手のメンタリティー強化と成功体験について

 スポーツエレメントを表現する時に、日本語では『心・技・体』と表現したりもする。またスペインでは『体力、技術、戦術、戦略、メンタル』などの重要性が認識されている。今回のコラムでは、チーム強化の大きな課題となる『メンタリティー強化』について考えてみたい。取り組み方、姿勢、背景を含んだスポーツメンタリティーの重要性は計り知れない。競技によらず、多くの選手やチームは、メンタリティーレベルで自分達に限界ラインを引いてしまっている。簡単に言えば、日本、スペイン、オーストラリア、台湾など私が知る限りの地域では、スポーツ文化に妥協しているチームや選手が大部分を占める。

 確かにアマチュアスポーツとプロスポーツの違いを忘れてはならない。大部分の人々にとって、スポーツはあくまでも趣味の領域である。しかしお金を貰うプロレベルでも、プロフェッショナルとして真摯に向き合っているのだろうか?どの国にも複雑な問題が存在する。しかしチャンピオントロフィーだけあればいい、という『形と妥協の文化』はどこのスポーツ世界にも存在する。真摯にスポーツに向き合う私達は、育成年代の選手形成の段階から、健全なメンタリティーの改善に向き合う義務がある。

<成功や報酬に捕らわれず、自発的に長期間、スポーツを追及できるか>
◆必要なハードワークの舞台が『逆境』

 チームや選手が本質的なメンタリティーの部分から、本当に成長しているかをいかに確かめるのか。そこで大切なのは、数値でも、得点でも、感覚でもない。ここでは逆境にさらされた状況における、パフォーマンスや向き合い方を評価したい。選手やチームは『逆境』を経てこそ成長できる。逆境においてこそ、体力、技術、戦術、メンタルが本当の意味で試されるからだ。簡単な試合でしか実力を発揮できなければ、素晴らしい選手とは言えない。

 逆境つまり厳しいトレーニングや激しい試合があってこそ、本当の競争力を経験できる。真の素晴らしいプレーや競争力とは、このようなサバイバルの中でこそ磨かれる。そして試練の中で、人間は挫折、成長、淘汰、矛盾する。メンタリティーを向上させるために、困難があってこその成長となる。同時に素晴らしい対戦相手があってこその、進化だ。またゲームでは強固な守備があってこその、攻撃となる。①逆境、②経験、③蓄積というサイクルから成長したい。

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 逆境を選手に経験させるには、①綿密に計画されたトレーニング、②難易度の高い試合、が必要となる。トレーニングとゲームを通してこそ、選手達は大きく成長できる可能性を持っている。また筆者の意見ではあるが、逆境に向かいあうメンタリティーを強化するために、③守備に重点を置いたトレーニング強化を行なうことも、強固なメンタリティー形成には役に立つと信じている。しっかりと集団守備をすることで、チームへの自己貢献を覚えることができる。そしてチームの進化やハードワークの大切さを、ボール技術を問わずにチームで体現できる。全員がしっかりとゲームに関与し、向き合うべース作りとしても守備は大きなポイントとなる。

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◆逆境を乗り越えるためのメンタリティー

 インテンシティーの高いトレーニング、難易度の高い試合などの逆境を乗り越えるには、選手の強いメンタリティーが求められる。守備のトレーニングも概して、メンタル的には楽なものではない。指導者は素晴らしい選手の技術・戦術的な側面だけでなく、日頃から選手達のメンタリティー高揚にも努めたい。トレーニングで改善できないことも多々あるが、選手のメンタリティーを上手にケアしたい。ここで鍵となるのが、『①自発的なモチベーション、②適度の集中力、③集団優先のスピリッツ』の3つである。

<選手の管理は怠らない。それでも選手の自発性が最大のポイントとなる>

①自発的なモチベーション
 ここでは自発的なモチベーションや、心の底から沸いてくるスポーツへの情熱を“真のモチベーション”とも表現する。表面的な理由ではなく、心の底からなぜその競技をやりたいのか。またどんな目標を達成したいのかというモチベーションについて、しっかりと考える。この“真のモチベーション”に欠ける選手は、遅かれ早かれ積極性を失っていく。そしてスポーツに対する積極性を失えば、選手はすぐに進化を止めていく。またそのような選手は、進化を止めるだけでなく、自然とグループ内での規律も失っていく。結果としてモチベーションに欠ける選手は、チーム全体にも悪影響を与えるだろう。まずは選手や指導者が、しっかりと自身のスポーツに対するモチべーションを明確にしたい。

②適度の集中力
 真のモチベーションと基礎体力、基礎技術があれば、選手は進歩し続けることが可能だ。トレーニングによって個人戦術などを助長することも可能だ。指導者も同じように、高いモチベーションがあれば学び続けることができる。しかし選手も指導者も、集中力を欠いては何事も達成できない。他の職種にも同じことが言えるだろう。人間は誰でも集中力に欠けると、何度も同じ失敗に直面してしまう。集中はピリピリと適度に保つことが望ましい。選手は反対に集中しすぎると、過度の緊張やストレスにより、プレーが発揮できなかったりする。そのためトレーニングと試合のインテンシティーは平行して要求したい。高いインテンシティーのゲームを求めるならば、日常のトレーニングから、ストレスなどの心理的プレッシャーを引き起こし、集中力を持ってゲームに対応させる環境を目指したい。

③集団主義“チームスピリッツ”
 個人的なメンタルエレメントとしては、『モチベーション』、『集中力』の2つが大きなポイントとなる。同時にチームスピリッツも、チームスポーツに取り組む選手にとっては非常に大切なエレメントとなる。選手はいかに優秀でも、自己中心的なメンタルではチームの進化には貢献できない。チームスポーツという原点において、忘れてならないのが『チームススピリッツ』である。

 自分の欲求よりもチームの勝利を優先することが、素晴らしい選手の条件となる。これは高いレベルの競争になれば、より顕著な問題として現れる。このような集団を優先する“チームスピリッツ”の助長によって、意味のない自己中心的なプレーも抑制される。育成年代からクラブ教育の中でチームとしての成功を教育することが、大人になっても本当に利己的でない優秀な選手を生み出すポイントでもある。

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