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2014-7-14

プロゴルフツアーの男女格差

 日本のスポーツ界で、世界の潮流と異なる現象をみせている競技がある。プロゴルフツアーの男女の格差だ。米・欧・アジア・豪・南アと主だった海外ツアーは男子ゴルフが主役となって引っ張っているのに対し、日本は女子ゴルフに耳目が集まることが多い。多くの試合を開催し、次々とスターが現れる日本の女子ゴルフ界の熱気の要因を探ると――。

 今季、日本の女子の試合数は昨年より1試合増えて計37試合。3月の開幕から11月末の最終戦まで、夏場の2週を除いで毎週、試合が行われる。男子の国内開催数が23試合と年々減少傾向にあるのとは対照的だ。賞金総額も女子は32億5000万円と2年連続で史上最高額を更新。そのうえ今年はアマチュアの活躍も加わって一段と盛り上がりをみせ、テレビの視聴率も好調と聞く。

 年々、女子の大会が増えている最大の理由は、試合前日に行われる「プロアマ大会」の存在だ。一般的には選手1人にアマチュア3人が1組になって団体戦形式で18ホールを回る方式をとる。

 主催会社としては取引先を招待してプレーしてもらい、その後の売り上げアップに結び付ける狙いがある。公言こそしないが、試合そのものより、前座であるプロアマ大会に重きを置く主催者がないわけではない。

 招待された企業幹部は、女子プロと一緒に回る楽しさを実感し、「我が社も女子の大会を開こう」という思いが湧いてきても不思議はない。

 これまでゴルフの試合を開催していなかった業態からの新規参入が続いている。2012年はバッグ販売大手のサマンサタバサジャパンリミテッド、昨季はほけんの窓口グループ、今季は不動産販売会社のセンチュリー21などが新規に冠スポンサーとなった。

 男子ツアーにもプロアマ大会はあるが、プロとアマチュアの飛距離の違いもあって、プロはバックティーからティーショットを放ち、アマはレギュラーティーかフロントティーから打つ。そうなるとプロとアマは離れ離れになる時間が多くなるが、女子ツアーの場合はプロと男性アマは同じティーグラウンドから打つ。ティーショットするまでの待ち時間にワンポイントレッスンをしたり、ゴルフに関することや他のスポーツのことなどを話す機会が多くなるというわけだ。

 大会経費が男子に比べ女子の方が少なくて済む事情もある。男子の大会だと主催・協賛企業は賞金額や運営費を合わせて4億円前後の経費を負担しなければならない。だが女子だと男子より少ない大会日数や出場者数の関係で、総経費は男子の半分程度で済むといわれている。

 先日のある新聞紙上で、丸山茂樹選手がコラムを書いていた。一部を要約すると「最近の男子プロを見ていると、会話の下手な選手が多すぎる。プロアマ大会に参加する人に気持ちを和ませるおもてなし精神、という点でも男子は見劣りする」という内容だった。これについては、日本女子プロゴルフ協会(LPGA)が重視する女子選手への教育の効果が見落とせない。

 LPGAは1996年から毎年オフ、新人と2年目の選手を対象に2泊3日の「新人セミナー」を実施している。挨拶の時の頭の下げる角度や名刺の受け取り方、敬語の使い方やインタビューの受け方、スポーツ選手のメーク法など、専門家に依頼してきめ細やかに指導する。そこでスポンサーやファンあってのツアーだという感謝の気持ちを叩き込むのだ。

 2010年5月に遅延プレーの罰を不服として試合を途中棄権した三塚優子選手(当時プロ4年目)に、2年間の新人セミナー受講の義務を科したことがあった。今年1月に若い選手が交通事故を起こしたときには、対策の一環として今後は新人セミナーなどに交通安全講習を加えることも決めたようだ。

 またLPGA主催の日本女子プロ選手権の開催期間中、新人選手にギャラリー整理やスコアボード掲示などの仕事を割り当て、多くの裏方の支えがあって大会が成り立っていることを肌で感じさせる取り組みも行っている。

 ゴルフは2016年から五輪での正式種目となる。まさにゴルフ界にとっては好機到来。五輪で日本がメダルをとることになったら子供たちに夢を与え、ゴルフへの興味も広がる。男子はもちろん、今は一応の隆盛ぶりをみせる女子も気を緩めずに、ゴルフ界の各団体が一丸となってさらなる活性化への努力を重ねる時である。

ninomiya

 二宮 幸博

 1948年5月9日生まれ 北海道富良野市出身

 同志社大学文学部卒

 1971年日本経済新聞社入社

 1972年から プロ野球(主に旧近鉄、旧南海球団)担当

 1984年から ゴルフを担当

 毎試合、大きな仕事をやりとげたヒーローを取材することによって、取材する側(記者)もパワーや元気をもらう。逆に打たれた投手やエラーをした選手であっても「次は絶対リベンジする」といったプラス思考の選手を取材することで、記者側も前向きになれる。スポーツ記者にはそのような楽しさがあることを伝えたい。

二宮 幸博さんはスポーツジャーナリストOBによる社会貢献グループ「エスジョブ」に参加されています。

S-JOB(エスジョブ)公式サイト