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審判員インタビュー一覧

2022-4-1

日本トップリーグ連携機構(JTL)審判プロジェクト 審判員活動PR企画【第6回】

 
 JTL審判プロジェクトでは、これまでに審判長会議や審判研修会の開催、関係省庁への働きかけなどを通じて審判員の方々の課題解決に取り組んできました。
 現在も各競技で多くの審判員が活動していますが、昨今判定の正確性やそれに伴う審判員の重圧が大きくなる中、その環境面、待遇面などでは改善の余地が多く残されているのが現状でその実態はあまり知られているとは言えません。そこでJTLに加盟する各リーグの第一線で活躍する審判員の方にインタビューし、皆様のストーリーをご紹介する月1回の連載企画を始めることにしました。
 一人でも多くの方にお読み頂ければ幸いです。
 
 第6回の審判員インタビューは、ホッケーの審判員をされている近藤聡史さん(JHA公認国際A級審判員)です。

 

審判員インタビュー 第6回
近藤 聡史こんどう さとしさん(JHA公認国際A級審判員)
 

 聞き手:澤健生(JTL審判プロジェクトメンバー、(公財)日本ラグビーフットボール協会)
 

モチベーションが、アプローチを創る

 
――ホッケーとの出会いは?
 
近藤:ホッケーは大学時代まで全く関わることがなかったのですが、友人に誘われて練習に行ってみたのがきっかけです。やってみたらとても面白くて入部しました。卒業してからもホッケーに携わっていきたいと考えていたところ、大学院に通いながら審判員という立場で関わっていくことになりました。審判員を始めた時にお世話になった方に基礎を作っていただいて、就職した会社でも活動に理解を示してくれる会社でもあったので、自分の中で高いレベルを目指していこうと思いました。
 
――ご経歴の中で、1000試合近い試合をレフリングされていることにとても驚きました。その数を積み重ねるために意識していたことはありますか?
 
近藤:気が付けば、1000試合を超えていた、という表現が正しいかもしれません。(笑)金曜日の出社時には、週末の試合に向かう荷物を持っていき、週末審判員として活動し、月曜日には職場に全国各地のお土産を持っていく、という1週間をずっと繰り返していたような、大きなサイクルになっていましたね。お土産はいらない、と言われても必ず買っていくようにしていました。日ごろの感謝の気持ちも含めて、自分の中では大事なことだったかもしれないですね。お土産がない日には、「あれ、今週はどこにも行ってないの?」という会話が生まれるくらいでした。仕事との両立はとても大切だと考えていましたので、職場の方々に理解を得ていただくためにも、日ごろの業務では恩返しの気持ちをもってコミュニケーションをとっていました。やはり自分の周りにいる方の理解が無いと続けていくことができない活動であるとは思うので、とても感謝しています。
 

近藤:また、職場でも私生活でも審判活動でも、様々なところにアンテナを張ることを意識しています。飲み会などもその一例かもしれません。(笑)ホッケーの勉強ももちろんで、日々アップデートしていく時間を取るようにしました。体力の維持に関しては、朝に10分でも身体を動かしていくという継続力は、目標を達成したいというモチベーションを持っていたからこそ、大切にしてこられたと思っています。モチベーションを強く持っていれば、アプローチの仕方は人それぞれある中で目標に到達するのではないかと思いますし、後輩の審判員にも伝えるようにしています。
 

 

「主観」的な判断が、レフリングの面白み

 
――ホッケーのレフリングは、早い動きの中のプレーで判断することが多いように思います。
 
近藤:レフリングは2つの種類に分けられると思っています。一つは探偵のように考えていく「事実」を判定すること、もう一つは危険度などを「主観」で判断すること。ホッケーという競技はその中でも「主観」の方が多いかもしれません。良いプレーに繋がるようだったらアドバンテージとしてそのままプレーを継続させるし、危険だったり明らかに反則であったりすればその場でファウルプレーと判定する必要があります。事実に基づいているような、ラインを出た・スティックに当たったなどということは答えが二択ですが、そうでない主観で判断するところには必ずしも正解があるわけではなく、多くのバリエーションがあることが面白みのあるところだと思います。もし審判員に注目いただける機会があるとするならば、そういった判断を見ていただくと興味が湧いてくるかもしれませんね。
 
――そういう点では、難しさもありそうな・・・
 
近藤:逆に、「主観」での判断が多いが故に、選手目線に立って考えることも大切にしています。一旦できるだけ客観的に考えてみるなど、そのような対応を心掛けてできるようになってから、トップレベルに進んでいけるきっかけになったような気がしています。選手とのコミュニケーションという点では、試合中にも言葉以外でも表情や細かいジェスチャーで伝えることもテクニックの一つだと思いますし、試合前後にも話すことも多いです。
そういう点では、「審判員も選手と一緒にプレーをして、試合を作っている」という意識を持つことを大事にしていて、それを忘れないようにすれば、おのずとコミュニケーションも円滑に取れるのかなと思っています。観客の皆さんにも分かりやすいゲームを選手と審判員で作っていくことで、ホッケーの魅力を伝えていくことができると考えています。
 

近藤:2名の審判員の間に優劣はないですし、一方の失敗は自分ごとに捉えています。一心同体のようなイメージでペアを組んでいますし、ジェスチャーやアイコンタクトでお互いを理解していくことも必要なスキルかもしれません。一貫性という点でも、試合前に入念なミーティングをおこないますし、大会ごとに解釈の統一などは他競技同様に実施し、選手がフェアなゲームをできるような環境を整えています。
 

国際審判員から、東京オリンピックのホッケー競技の責任者への挑戦

 
――国際審判員としても多くの試合をご経験された後、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会へ勤務されたとお聞きしました。
 
近藤:東京オリンピックでは、ホッケー競技の責任者として、スポーツマネージャーという立場で運営をおこないました。そのポジションは、国際競技連盟と日本協会の推薦が必要なのですが、国際審判員としての経験やその過程で得た人脈などもあり、お話をいただきました。お話をいただいた時には、「こんなチャンスは二度とない」と思い、二つ返事でお受けさせていただきました。その後、当時の職場にどう説明しようとか悩むことになりましたが。(笑)スポーツマネージャーとして、様々なステークホルダーとの調整事項をおこなって本番を迎え、大会を成功させることができたのはとてもいい経験になりました。
チャンスは絶対に逃さない、というのは審判員活動の際にも常に思っていました。レベルの高い試合の割り当てなどで急な欠員が出た時などにも、チャンスがあれば手を挙げて、ということを意識していましたし、「自分の前に国際大会への選出の電話が掛かってきていて、回答を保留している間に、君が手を挙げていて行くことになっていたよ」とのちに聞く、というエピソードもありました。その挑戦の積み重ねが、目標を達成するために重要なことだと思います。
 

――現在は、日本協会の審判部長・アジア連盟の審判委員長として活動されているかと思いますが、国際審判員の育成はどのように考えていますか?
 
近藤:プレーヤーであったら勝負の世界ですから、勝てば世界に出ていきますが、審判員はそうではありません。選ばれることには主観的判断だったり、政治的なバランスだったりなども要因として存在します。審判員自体は努力している人もいますから、そのような人の後押しができるような活動をしていけるように、繋がりを意識しながら活動していきたいと思っています。いい連鎖を作って行けたらいいですね。
オリンピックでの経験もあり、アジア連盟でも審判委員長を任せていただけました。アジアの存在感を世界で示していければ、日本の地位向上も出来ると思っていますし、自分がこの立場であることはポジティブに捉えて、日本の審判員の国際進出をサポートしていければと思っています。
 
――レフリング以外の専門でも、様々な役職で精力的に活動されていますよね。
 
近藤:Road to 2030コミュニティという日本ホッケー協会に4年ほど前に立ち上がった取り組みで、「Japan Hockey Road to 2030」を策定し、今後 10 年の活動の基盤となるビジョン・理念・スローガンを策定しました。今はそれに基づき、戦略的にどう取り組んでいくか、というところに注力して今後のホッケー界の未来に向けた活動もおこなっています。
 

審判活動は、普通だと得られない経験と友人に出会える

 
――審判活動の中で得た繋がりは、やはり大きいのですね。
 
近藤:審判員をしていたことで、繋がっていった人脈などはとても強いと思います。長いときには2週間同じホテルで寝食を共にしますし、まるで家族同様のように過ごしていましたよね。全国47都道府県に、「今夜泊めて!」と言ったら泊めてくれる友人がいるくらい(笑)、とても強い絆も生まれます。そんな関係の友人がたくさんできるというのは、本当に素晴らしい事だと思います。
 

――将来、審判員を目指そうかと考えている方に向けて
 
近藤:トップレベルの審判員になったとしても、経済的なメリットを受けられるわけではありませんが、何よりも年代や職業を超えた信頼できる仲間ができること、日を追うごとに増えていくこと。これが一番素晴らしい事だと思います。普通の社会人生活だと得られない経験だと思いますし、審判活動以外でも頼ることのできる友人が多くいます。考え方を変えれば、審判活動と一緒に日本全国に友人ができ、旅行のようなことも経験できるという、素晴らしい経験だと思っています。
 
――本日はありがとうございました!
 
 
※この事業は競技強化支援助成金を受けておこなっております。