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審判員インタビュー一覧

2022-10-4

日本トップリーグ連携機構(JTL)審判プロジェクト 審判員活動PR企画【第9回】

 
 JTL審判プロジェクトでは、これまでに審判長会議や審判研修会の開催、関係省庁への働きかけなどを通じて審判員の方々の課題解決に取り組んできました。
 現在も各競技で多くの審判員が活動していますが、昨今判定の正確性やそれに伴う審判員の重圧が大きくなる中、その環境面、待遇面などでは改善の余地が多く残されているのが現状でその実態はあまり知られているとは言えません。そこでJTLに加盟する各リーグの第一線で活躍する審判員の方にインタビューし、皆様のストーリーをご紹介する連載企画を行っています。
 一人でも多くの方にお読み頂ければ幸いです。
 
 第9回の審判員インタビューは、フットサルの審判員をされている小林裕之さん(FIFA 国際レフェリー)です。

 

審判員インタビュー 第9回
小林 裕之こばやし ひろゆきさん(FIFA 国際レフェリー)
 

 聞き手:備前嘉文(JTL審判プロジェクトメンバー、國學院大學准教授)
 

友達に誘われて始めたサッカー

 
――サッカーを始めたきっかけ
 
小林:サッカーを始めたのは、中学1年の部活からです。通っていた学校は全員が必ず部活動に入らなければいけなくて、本当は水泳がやりたかったのですが学校にプールと水泳部がなく、仲のいい友達がサッカー部に入るということで私も一緒に入部しました。最初はプレーヤーとして始めたのですが、その時は走るのが大嫌いだったので、専らゴール前でじっとしていられるゴール・キーパーをやっていました(笑)。
 
――そこからはずっとサッカーですか?
 
小林:高校に上がる時に、本当はアメリカンフットボールをやってみたいと思ったのですが、友人に誘われて高校のサッカー部の練習に参加したら、先輩から「もちろん入部するよね?」という雰囲気になり・・高校でもそのままサッカーを続けました。大学は部活動ではなく、サークルで仲間と楽しくサッカーをする活動をしていました。
 
――フットサルに関わるようになったのはいつからですか?
 
小林:フットサルと出会ったのは17歳の時です。大阪の住之江に民間のフットサル施設が出来て、そこで大会が開催されるということで、審判のアルバイトの募集があったので始めたのがきっかけですね。当時はまだフットサルという競技自体が普及していなかったので、サッカーの小さい版的な感覚で、ルールもあまりわからないままスタートしました。
 
――フットサルに触れてどう思いましたか?
 
小林:サッカー部の練習や遊びでよくミニゲームをやっていたのですが、自分たちが遊びでやっていたことが競技として成り立っているのを知って、とても面白いなと思いました。サッカーと違うところは、攻守の交替が目まぐるしく、一瞬目を離したらもう1点入っているスピーディーな試合展開が魅力ですね。
 
 

 

最初はアルバイトからスタートした審判活動

 
――本格的にフットサルの審判をされるようになった経緯は?
 
小林:しばらくはアルバイトとして審判をしていたのですが、私の1つ上で、当時そのフットサル施設でアルバイトをしていた先輩から、「フットサルのリーグを立ち上げるので協力してもらえないか」と誘われて、将来ずっとアルバイトでやるのもな・・と思い、社会人としてしっかりライセンスと取ってやってみようと思ったのが20歳を過ぎたぐらいですね。
 
――なぜ国際審判を目指そうと思われたのでしょうか?
 
小林:アルバイトで審判をやっている時から、後にフットサルの日本代表になる選手たちのプレーを間近で見る機会があって、自分では到底出来ないようなプレーを一番近くで見られるという喜びがありました。それが審判をずっと続けられているやりがいの一つですね。それが上のレベルに行けば行くほど、想像を超えるようなプレーが行われて、そういったプレーを見るのが楽しくなってきました。
 
 

 

フットサル関連の仕事に従事している

 
――普段はどのようなお仕事をされているのですか?
 
小林:普段はフットサルの民間の施設をインターネットで予約出来るシステムを開発している会社を経営しています。そして、民間の施設の方と一緒にフットサルの大会やイベントの企画や運営をする事業も行っています。
 

 
――大学卒業後から現在のお仕事をされてきたのですか?
 
小林:大学を卒業してすぐフットサル関連の事業をやりたいという気持ちはあったのですが、自分がどれぐらいできるか不安だったので、まずは社会のながれや仕組みを知るために一般企業に就職しました。そして、就職して営業職を2年ぐらいやっていた頃に、当時の会社の社長さんから声を掛けていただき、転職しました。それから何年か働いたのちに、自分の会社を立ち上げて、その会社から今の事業を引き継いだというながれですね。
 
――仕事と審判活動を両立させるためにどのような工夫をされているのでしょうか?
 
小林:今は自分の会社で仕事をさせてもらっていて、インターネットが普及しているのでノートパソコンがあればどこでも仕事が出来る環境があります。しかし、他の企業に勤めながら審判をされている方からは、スケジュールの調整が大変という話も聞くので、私自身はとても恵まれた環境にいると思いますね。
 
 

 

子どもの出産に立ち会えなかった・・

 
――審判の活動をやっていて、大変なことはありますか?
 
小林:やはり自分たちのプライベートの時間を削られるのは大変なところですね。例えば、子どもの授業参観に行けないなど、子どもの成長を見る機会や家族との時間が減ってしまうのはどうしてもありますね・・。
 
――休日はどのように過ごされているのでしょうか?
 
小林:シーズン中は試合や仕事で家を空けることが多くなるので、何も予定がない時はなるべく家族との予定を優先して、家族サービスにつとめています(←ここ強調してください!笑)。
 
――ご家族の方は審判活動についてどのようにお考えになられていますか?
 
小林:妻はもう諦めていますね・・。一人目の子どもが生まれる時にちょうど女子の代表チームの帯同審判でスペインに行く機会があったのですが、スペインから帰る日の朝に当時臨月だった妻から「今から病院に行きます」と連絡があり、結局そのまま産まれて私は出産に立ち会えませんでした。そのようなこともあったので、妻は理解してくれているというか・・仕方がないと思っているのではないでしょうか。
 
 

 

フットサル自体のステータスを高めることも重要

 
――フットサルの審判をしていて、よかったなと思うことはありますか?
 
小林:今振り返ると、私自身、学生時代はとても身勝手な性格だったなと思います。それが審判をすることで、多くの方に見られますし、様々なことを考えながらやらなければいけないので、審判の活動を通じて人として正しい方向に導いてもらえたなと思いますね。なので、フットサルに関わるすべての方に感謝の気持ちを持って、そのフットサルをもっとたくさんの人に知ってもらいたいと思い活動しています。
 
――日本国内のフットサルの審判の現状はいかがでしょうか?女性の審判も多いのでしょうか?
 
小林:現在フットサルでは、男子4名、女子3名の7名が国際審判として活動しています。トップのフットサル1級の審判の中にも、女性の方もだいぶ増えてきましたね。プレーのスピードはやはり男子の方が早いのですが、サッカーに比べてピッチが小さいので、女性の審判も男子の試合を担当することは十分可能性がありますね。
 
――若い世代の審判の方も多いのでしょうか?
 
小林:若い世代は正直少ないですね。もっと20代の若い人たちにもフットサルの審判の世界に入って来て欲しいのですが、サッカーであればJリーグにはプロの審判もいらっしゃるので、どうしても審判で上をめざすとなるとサッカーの審判に行く人の方が多くなるのではないかと思います。そういったところからも、もっとフットサルの競技自体や審判のステータスを高める必要はありますよね。
 
 

 

 

夜中からの試合開始

 
――国際大会での活動を通じて、大変だったことはありますか?
 
小林:最近の経験でいうと、今年の4月にUAE(アラブ首長国連邦)であった大会に派遣されて行ったのですが、大会期間中がちょうどイスラム教のラマダンの時期でした。イスラム教徒の皆さんは日の出から日没まで食事が取れないので、彼らの安全を確保するために日没後から試合が行われました。大会では1日3試合あったのですが、1試合目の開始が19時キックオフで、フットサルの試合はトータルで1試合約90分あるので、3試合目のスタートが23時というのがありました。最初スケジュールをもらった時に、「この時間は間違いではないの?」と思ったのですが・・。試合が終わると0時を回っていて、その時はとても疲れましたね。
 
――他に海外で大変だった経験はありますか?
 
小林:コロナ禍になる前は、毎年マレーシアでアジア各国のトップレフェリーが集まってセミナーが開催され、そこでフィットネステストも行われるのですが、マレーシアの日中は暑いので、朝の6時にホテルのロビーに集合して、7時から本気のフィットネステストをやりましたね・・。海外では、その環境に自分のコンディションを合わせなければいけないので大変でしたね。
 
――海外では審判のステータスは日本と違いますか?
 
小林:もうまったく違うと感じましたね。大会に派遣されて行っているので扱いが違うのはもちろんなのですが、運営の方や選手などは我々審判に対して非常にリスペクトを持って接してくれますね。当然試合になれば熱くなるのですが、試合以外の場面や街中ではとても気さくに接してくれますね。
 
――海外に行って、他の国の審判や選手とコミュニケーションをとるために、日頃から語学のトレーニングはされていますか?
 
小林:語学に関しては、ネイティブの方と1対1で行う英会話のレッスンを週に1回・2回ずっと継続して行っています。
 
 

 

間近で感じられる審判と選手のコミュニケーション

 
――日本代表がAFCフットサルアジアカップ出場のため中断しており、10月から再開となりますが、フットサルのどのような点に注目したら面白いでしょうか?
 
小林:フットサルの競技については、先ほどもお話したように攻守の切り替えがとても速いので、目まぐるしく変わる試合展開に注目してもらえたらと思います。フットサルは選手の交代も自由なので、いろいろな選手を見ることもできると思います。
 
――試合の中で、審判のこのような点に注目したら面白いということはありますか?
 
小林:もし会場で試合を見る機会があれば、試合中に選手と審判がどのようなコミュニケーションを取っているか、表情、また観客席との距離が近いので審判の声も聞こえると思います。時々怒っている時もありますが・・どのようなことを話しているのかを聞いてみるのも面白いのではないかと思います。
 
――近年、いろいろな競技でビデオ判定が導入されるようになりましたが
 
小林:フットサルでも前回のワールドカップから、サッカーのVARに近い形でビデオサポートが導入されました。あくまで現段階では最終的な判断を下すのは主審で、その判断材料のひとつとして活用されています。
 
――テクノロジーの活用についてはどう思われますか?
 
小林:テクノロジーの導入に関しては、これは時代の流れなのかなと思います。フットサルでも、ゴールが入った・入っていないなど、人間の目ではどうしても判断が難しい場面があるのは事実なので、そのような時にテクノロジーに頼ることはいいことだと思いますね。一方で、やはり主審の主観による判断は必要で、そこは人としての倫理観や考え方に大きく由来する部分なので、機械には出来ないところなのではないかと思いますね。
 
――テクノロジーの導入は審判の心理的な負担を減らすことになりますか?
 
小林:私自身まだ経験したことはないですが、やる前は少しプレッシャーに感じることもあると思います。一方、最後の砦というか、もし審判が間違った判断をしても正してくれて、正しい方向に試合を導いてくれる安心感はありますね。
 
――今、スポーツ界でもSNSで選手などに対する誹謗中傷が問題になっていますが・・
 
小林:SNSに関しては、私自身も閲覧したり、プライベートなことを投稿したりしています。しかし、試合のことに関しては、自ら検索したりすることはないですね。もし何か書かれてもそれは仕方ないなと思っています。
 
――最後に、これから審判を始めて、国際審判をめざす方にメッセージをお願いします
 
小林:フットサルは遊びでもすることができるので、なかなか競技者以外のところに目を向けにくいのですが・・もし競技者として自分自身がトップをめざすことに厳しいと感じることがあれば、審判になることでトップの舞台に立つことも可能だということを知ってもらえたらと思います。フットサルの世界はアットホームだと思うので、1歩目を踏み出してもらえれば、2歩目、3歩目は多くの人がサポートしてくれるので、是非勇気を持って飛び込んでもらえればと思います!
 
――以上でインタビューを終了させていただきます。本日はありがとうございました!
 

 
 
※この事業は競技強化支援助成金を受けておこなっております。