2007-7-2

〜広報・スポンサーシップ・ソシオ制度に注目して〜

2007/07/02

日本トップリーグ連携機構海外研修レポート(1)


 FCバルセロナ(以下バルサ)は、特にここ2年、クラブとして数々の栄光を手にしており、スポーツのレベルとしても経営的にもいい時期を過ごしているクラブであった。従業員は少数精鋭ながらも、組織化の程度が高く、部門化が進んだ各セクションで働いており、さながら巨大企業の様相を呈していた。
 今海外研修では、6部門の各担当者から貴重なお話を伺う機会に恵まれた。お話を聞かせた頂いた中でも記述可能及び情報量を確保できた部門で、さらに、特徴のある部門と思われる広報、スポンサーシップ(マーケティング)、ソシオ制度の3部門にスポットを当ててみた。


広報部門(情報量の多さ・リクエスト対応・積極的な情報配信)


 
広報部門は、クラブとマスメディアの仲介役である。広報部門の働きによって、バルサがどのようにプレスに扱ってもらえるかが決まるため、非常に重要な部門とされている。スタッフは、専属職員が15人、記者会見の主催、ソーシャルイベントの仕切り、メディアからされるリクエストの対応、取材パスの発行、クラブ情報の配信を主な業務としている。
世界的にも注目度の高いクラブであるため、日常的な対外コミュニケーションの範囲は、バルセロナだけでなくかなり幅広い。
取材陣に発行する年間パスは、250〜300。TV関係の技術スタッフを加えて800を超えるパスを発行する試合も珍しくない。その他にも約70社のマスメディアと常時コミュニケーションをとっている。
 これら世界中のマスメディアからの多様なリクエストに対応するため、広報部門にあるドキュメント管理部門には、過去60年間分のドキュメントが管理され、いつでも引き出せるようになっている。

FCバルセロナの会見場

 また、マスメディアからのリクエストを一方的に受けるのみではなく、積極的に情報配信も行っている。各スポーツの結果だけでなく、スポンサーとのパートナーシップ契約締結について、日本ツアーの予定など、事細かに情報を作り出し、情報発信をしている。これらの情報に関するチェックとコントロールの全てをこの広報部門が担っている。
 さらにバルサは、独自の情報チャネルを持っている。ソシオ情報誌、新聞、書籍の3つの紙媒体を筆頭に、WEB、そして専属スタッフ40人を抱えているバルサTVの計5つを独自メディアとしてコントロールしている。さらに、質・量ともに充実した環境が整えられている為、マスメディアによって伝わり難い情報も、これらの独自メディアを使うことにより、適宜、有効的に情報を発信することが可能となり、強みとなっている。

スポンサーシップ(ブランドイメージのUPを原則・スポーツ実績の評価・社会的評価)

 基本的なスポンサープログラムとしては、

(1) 広告宣伝プログラム(ex.イベントや施設でのスポンサーロゴを設置する)
(2) ホスピタリティー(ex.枠を確保して招待する)
(3) リレーショナルマーケティング(ex.ソシオをはじめとするファンにマーケティングを行う権利)
(4) アソシエーション(ex.提携クラブのユニフォームにロゴをはる)

が用意されている。
 特に、重要視していることとして、スポンサーの保護、ブランドイメージ、スポーツの実績、スポーツ以外の実績の4つのキー概念をあげた。
スポンサーは、排他的独占権だけでなく、数そのものにも制限がされていた。オフィシャルスポンサーは、6社。その他のスポンサーは、2社に制限されている。現在はオファーが多く、制限数を超えるため断っている状況であった。例え、好条件のオファーがあったとしても、クラブのブランドイメージが下がると思われるところからのスポンサードは断るようにしていた。
 また、スポーツの実績については、興味深い話を聞くことができた。
『スポーツの実績を継続してあげることが最も大切なことである。
常に投資をしてくれる企業を確保するためには、成績もある一定の水準を保たなければならない。そのために2004年と2005年に優勝した時の主力メンバーは、ほとんど2010年までの複数年契約を結んでいる』とのことであった。
 さらに、スポーツ以外の実績の重要性についても強調された。

展示品の中にも「unicef」の文字が

 『スポーツの功績としてのみ判断していただくのではなくて、スポーツ以外のバリューを理解していただきたい』と、語るように、FCバルセロナ財団が行うエイズ撲滅キャンペーン、津波被害者救済チャリティーマッチなどの慈善活動・平和活動・教育サポート活動等の取り組みについて紹介がされた。また、ユニセフと提携して子供たち救済のために経済的な見返りなしで名を掲載していること、逆に、ユニセフの活動に150万ユーロの寄付をしていることを例に挙げ、社会的なブランドイメージ向上を図っていることも説明された。
※FCバルセロナにおける、メインプロジェクトは主な2点。

・ At home

・ Abroad
と、位置づけ、他の機関、機構とのコラボレーションが積極的に行われている。定期的なチャリティーマッチを初め、“Fair Play and Sport”と題された教育プログラム、多国間、異文化間との交流、クリスマスキャンペーンなど多岐に渡り、「スポーツをすること、自然教育へのアクセスは子供の権利である」との理念の下、“子供に夢を与える”諸活動は、国内のみならず、全世界中へと波及的に広がっている。

ソシオ制度(32億円・キャンペーン・会員特典)


 クラブには、年会費2万円の“ソシオ”という会員

制度が存在する。会員数は約16万人、会費だけで32億円近い収入を得ている。

 もちろん、最初から会員が多かったわけではない。

このスタジアムがソシオ一色に染まる

 2003年11月、財政難のラポルタ政権時、クラブ役員でソシオ制度が再考され、「グランデコビックチャレンジ」というスローガンのもと、「ソシオ会員100万人獲得キャンペーン」と打ち出された。それは、国内のみではなく、世界マーケットを視野に入れたこのキャンペーンで、ファンやサポーターを増やすのではなく、よりコアなソシオ会員を増やすことに注力していた。現在、ソシオの15%は海外の会員である。日本にも、既に全体の1%にあたる1,700人のソシオ会員がいる。欧州スポーツマーケットフットボールモニターが行った、そのチームがある国以外にどれだけのサポーターがいるかという調査で、バルサはレアルを超えてNO.1となった。
 ソシオへの会員特典は、ソシオキットの作成、配布、スポーツ施設開放、バルサミュージアムへの無料入場、住宅保険、スクール、2ヶ月に1度無料で送られる情報誌、携帯メールでの情報配信がある。また、その他にもクラブ主催イベントへの優先的参加、早割チケットの購入、最高40%のディスカウントチケットの購入などの特典もある。
 本拠地カンプノウスタジアムでのバルサ戦では、98,000人のキャパシティーに対し、ソシオ会員が85,000人分の年間指定席を購入している。ということは、年間指定席を購入している85,000人が権利を行使すれば、それだけで会場がほぼ満員になるという状況なので、会員でなければ試合観戦をする機会には恵まれない。また、ソシオ会員が購入した年間シートの再販もクラブが斡旋してくれるため、会員としてのメリットとしては十分にある。
 ソシオ会員は、クラブの最高権力者である会長を選ぶ際の投票権(1票分)や、1年に1度行われる経営方針を決める機会への投票権を持つことができる。また、会員になるには、「クラブの名誉を汚さないような言動をとる」という規約を遵守せねばならない。会員が単なるサービスの受け手としてのみの存在ではなく、自らが経営参画していると感じられるこの制度は、ロイヤリティーの高い会員を生み出しているのかもしれない。

 2002年に106,135人だったソシオ会員は、クラブのさまざまな取り組みにより、2004年には120,379人に増加しており、今でも増加傾向にある。

バルセロナ市内の様子
練習を行うバルサ選手
選手へのインタビューフロア