2007-7-2

ナショナルトレーニングセンター(CAR)に関するレポート 〜スペイン・カタルーニャ州〜

2007/07/02

日本トップリーグ連携機構海外研修レポート(2)

陸上競技施設
宿泊施設
学校教室

■ナショナルトレーニングセンター(CAR:Centre d’Alt Rendiment)はバルセロナ市内から20kmの郊外に位置し、施設は全ての競技に対応できる設備が整い、施設内には宿泊所、小学校、中学校、高校までの教育施設(クラス)もあり、選手は競技中心に生活ができるようになっている。
 この施設はもともと、身体にハンディ・キャップを抱えた障害者を雇用していた工場施設であった。そこをバルセロナオリンピック開催前にナショナルトレーニングセンター(CAR)として施設をリニューアルしたものである。
 このCARには、32種類という、実に多岐にわたった、充実した施設が設置されている。陸上用トラックなどの一般施設はもちろん、テコンドーや柔道、フェンシングやグラスホッケースタジアムまで完備されている。また、サッカーに関しても、アルゼンチンやボリビアなどのナショナルチーム、スイスやスコットランドのクラブチーム、また、日本からも、横浜マリノスが使用した例としてパンフレットに紹介されている。


■選手の多くはナショナルレベルの選手や素質のあるジュニア選手であり、最高の施設と最高の指導者の下、科学的トレーニング、栄養士による食事の管理、(医療施設・選手へのマッサージ等も含めた)メディカル心理学者によるカウンセリング等を受けることにより、トップアスリートとしての精神・技術を学んでいくシステム、育成方法となっている。
 ジュニアクラスの多くの選手は親元を離れ、国からの奨学金、または、各競技団体からの奨学金などによりこの施設内で生活を行っている。また同時に、この施設内は、選手育成だけではなくエリートコーチの育成も行っている。
 コーチ育成には、スペイン国内だけのトップコーチ育成スタッフだけではなく、国外からも積極的にトップコーチ育成スタッフを受け入れ、世界水準のコーチ育成に努めている。特に、シンクロナイズドスイミングは、近年飛躍的な成長をとげてきた種目である。世界トップレベルである日本から藤木麻祐子氏をコーチングスタッフに招聘し現在に至るという結果を残している。ちなみに、指導者育成コースは、毎週月曜日・水曜日・金曜日に4時間の共通科目、専門科目のコースを設けている。

■運営資金に関しては、国から50%、各NFから50%の運営資金で成り立っている。

また、施設の充実化を図るため、施設のリニューアルし、体育館建築と併せて、2008年までに(2年間で3回に分け)54億円が投入予定されている。

体力測定
心肺機能測定
メディカル・マッサージ
研究発表会

■トップアスリートからジュニアクラスまでの様々な競技者が、一同に生活し、トレーニングすることにより、競技者同士の横のつながりや情報交換などがスムーズになされ、またオリンピックや世界選手権出場経験選手も多く、ジュニアからトップまでの共同生活の中での縦のつながりもあり、選手のモチベーションの維持、向上には非常によい環境である。また、トップアスリートや指導者による講習会や、各種大会(オリンピック・世界選手権)に出場した経験、体験談などの発表も頻繁に行われており、トップアスリートをより近い位置で見ることによって、将来に向けたトップアスリートの選手達も多くのものを学ぶ機会が与えられた施設である。

 

■選手育成に関しては、新しい人材を発掘し、選手の資質、素質を見極め、選手のレベルにあったコーチングスタッフを配置し、最大限サポートする事がこの施設の最も目指すべき方向性である。ただやはり、課題として非常に難しいのが、団体種目(球技系)の選手育成に関することで、どちらかといえば、個人種目重視の施設であった。

■スペインナショナルトレーニングセンターとしてのCARは、広大な敷地に様々な競技施設がある。しかしながら、個々の施設のクオリティーはさほど高いものとは思えない。
 日本においては、2007年に完成予定の西が丘ナショナルトレーニングセンターは、世界に誇る、最新のトレーニング環境と機器を有する施設ではあるが、CARの説明にあたったArbert氏の言葉を借りれば、「施設はいずれ最新ではなくなる、ナショナルトレーニングセンターの機能として大切なものは・・・」
 (1)トレーニングセンター内における競技間を越えた人的な交流
 (2)技術・知識ノウハウの共有
 (3)トレーニングプログラムの開発
 (4)コーチングスタッフの充実
 つまり、ハード面よりソフト面の重要性を強調していた。
 CARは、スペイン人以外の海外の優秀なスタッフの招聘と海外の一流選手の招聘など開かれたトレーニングセンターとして、競技力向上の面からも機能している。
 日本でもトレーニングセンターの機能として、ソフト面のプログラムの充実を最大限考慮すべきではないだろうか。