2007-7-2

エバートンFC訪問レポート

2007/07/02

日本トップリーグ連携機構海外研修レポート(3)

エバートンFC ホームスタジアム
「グディソン・パーク」

 今回の海外研修では、スペイン・バルセロナのプログラムに次いで、10月13日から10月18日までイギリスにおける研修を実施した。10月16日には、リバプールに拠点を置くエバートンFCを訪問した。エバートンFCでは、Gary Townsend(Sales Manager)とTracy Weston(Head of Marketing)の二人のスタッフからマーケティングを中心としたプレゼンテーションを受けた。以下、その内容をリポートする。


1.エバートンFCの概要

 
1878年創立、The St Domingo church School(教会の日曜学校)のサッカーチームから始まる。同じ都市のLiverpool FCはEverton FCの一部がグラウンドの移転問題で分裂して1892年に創立したクラブで、同じ都市で対抗意識は非常に強い。

 イギリスは貴族制度がまだ存続しており、会長はBill Kenwright CBEその人一代限りの貴族であり、非常に社会的立場の高い人のポストである。英国のフットボールクラブは株式を発行しており、上場クラブと非上場クラブがある。エンターテイメントビジネスとして確立されており、試合を中心にさまざまなサービスを絡めてビジネスが成立している。
 エバートンFCは、非上場の株式会社で、1300人の株主がいるが、ほとんどは小口の株主。会長が25%、グレッグファミリーが23%、ウッズ氏が19%、上位3者でホールディング組織をつくりクラブを事実上支配している。1938年に創立した株主協会がある。株主協会か、株取仲買会社を通じて売買は可能。クラブの理事は年度総会で選出される。理事会は年に6-8回。さらに全会員が参加する総会が四半期にある。以上の株主によりクラブのコーポレートガバナンスがなされている。

サポーター組織
 Evertonia(エバトニア)という会員制組織がある。1995年には障害者のサポーター組織が公認されている。

ユース組織
 Academyがあり、若手の育成を実施している。20人以上のフルタイム職員があたり、引退後の選手がコーチになっている。理学療法士やスポーツ心理専門家も配置されている。イングランド代表のWayne Rooneyが育ったことで有名。

普及のための地域事業は独立した子会社(Everton Football in the Community (EFITC))を2004年につくり、学校、子ども、女性、障害者を対象に活動を実施。

試合以外の事業
 クリスマスイベント、結婚式、会議、イベントでのスタジアム使用。ラウンジ施設があるために可能である。

メガストアーによるグッズ販売。

エバートンモバイル(携帯サービス)

エバートンラジオ(ネットと連動した情報サービス)

エバートンTV 年間7000円か月800円で契約する有料TV

ephoto 選手の写真などをWEBからダウンロードできる会員サービス]

ギャンブル事業 くじを発行する(英国では企業がギャンブルビジネスすることが可能)

eAuction クラブが選手のグッズなどの記念品のオークションをWEBで実施している。

スタジアムツアーの実施

The Study Centre

行政と連携し地域の子どもがインターネットやマルチメディアを学ぶセンターを経営している。すでに200の学校、8000人の子どもが参加している。

世界戦略
 クラブは世界戦略を担う国際部を2005年9月に設置し、カナダ、アメリカ、Australia, China, Japan, India, Malaysia and South Africaなどとプロジェクトを実施している。

2.エバートンFCのマネジメントとマーケティング


2-1 エバートンFCの収入分析



エバートンFCの2006会計年度の総収入は5800万ポンドである。その内訳は、以下となっている。

エバートンFC 2006年度総収入内訳

放映権料収入 45%
入場料収入 32%
マーチャンダイジング&ケータリング 13%
スポンサーシップ収入 9%
その他商業収入 1%




 この総収入の内訳から言えることは、収入の45%を占めるイングランド・プレミアリーグからの分配金を除いた部分で、その収入のほとんどを入場料収入に依存している点である。約100年の歴史を持つイングランド・プレミアリーグの各チームの伝統的収入構造も同様である。つまり、イギリスのサッカーチームの収入の大半は、入場料収入中心といえる。日本のスポーツマーケティングに置き換えれば、プロ野球のマーケティング構造と類似していると言えるのではなかろうか。

2-2 ファンベースのマーケティング


 エバートンFCでは、マーケティング部門は下図のようになっており、ファンリレーションシップを中心としたマーケティング活動が行われている。

エバートンFC
マーケティング部門の組織図

 ファンに対するシーズンチケットの販売を収入の柱とする以上、当然のことともいえる。このマーケティングチームのファンへのアプローチは、完全なデータベースマーケティングといえよう。その他、コミュニケーション部門がウェブサイトの活用、ウェブサイト以外の広報手段、寄付金の募集などを通じてファンベースマーケティングの側面的支援を行っている。

一例として、のコミュニケーション部門のデータを紹介しよう。エバートンFCのウェブサイトには、年間50万人の実質アクセス数があり、25万世帯36万人のメーリングデータベースを保有している。さらにエバートンTVは、その開設以来、200%の伸びを示している。以上のようなファンデータをもとにマーケティングを展開している。

 観客動向調査によれば、エバートンFCの観客は、25歳〜45歳までの男性がその85%を占めている。その調査を踏まえて専任の担当者を置き、女性ファン拡大のための特別プログラム「Everton – it’s not just for boys」を実施している。その結果、昨シーズンに獲得した新規ファンのうち4人に1人が女性ファンという成果を残している。

 エバートンFCがファンベースマーケティングを実施し、かついかにファンを大切にしているか、そしてファンがいかにエバートンFCを愛しているかを表すのが下の写真である。

「グディソン・パーク」のピッチサイドに埋め込まれたプレート


 スタジアムのピッチサイドにはいたるところにこういったプレートが埋め込まれてあり、エバートンFCを愛したファンの遺骨の一部が埋葬されている。

 また、スタジアム内には多くの会議室、パーティースペースが設けられており、スポンサーやファンが食事をしたり、パーティー(結婚式を含む)を開催したりすることができる。これは、ファンサービスの一環であるとともに、会議室の貸出料や飲食料がチームの大きな収入にもつながっている。一方でチームロゴやチームマスコットを利用したマーチャンダイジング(商品化)は、スポンサーであるJJBというスポーツ用品販売店に権利を委託しており、それは収入目的であるとともに、広報的な意味合いが強い。


3.エバートンFCから日本のチームマネジメントが学ぶべきもの


今回のエバートンFC訪問において、日本のチームマネジメントが学ぶべきものの第一はファンベースマーケティングそのものである。チームマーケティングの基本としては、有料入場者の恒常的確保が不可欠である。むろん、そのために日本においては、各リーグにおけるホーム&アウェイ方式の導入の検討がなされなければならないが、それ以前にファンの拡大ための積極的な方策を実施する必要がある。以下、今回のエバートンFC訪問からの提言である。

(1)各リーグの試合会場において観客の動向を調査し、その実態を早期に把握するべきである。そのことによりマーケティングターゲットを認知することができる。

(2)ウェブサイト、メールデータベースを活用し、積極的に情報を発信するとともにコアなファンの拡大を図る。

(3)選手の中心とした地域ファンとの交流を通年で定期的に実施し、ファンとのコミュニケーションを促進する。

(4)スポンサーについても積極的にチーム、選手との交流機会を設けるべきである。

イングランド・プレミアリーグ試合風景

(5)イギリスのサッカーファンにとっての試合は、エンターテイメントそのものであり、1試合35ポンド(日本円7,000円)という高額のチケットを買ってもスタジアムに来場している。チーム側は試合内容のみならず、ファンを満足させるプログラムを常に開発している。日本においても試合会場に足を運んでくれるファンの満足度をいかに向上させるか、そのプログラムを開発し、実施すべきである。

(6)スポーツの試合においてその主役は選手と観客である。観客が選手個人を良く知ることこそ応援の第一歩である。チーム側は選手たちのプロフィールを含めた情報をいかに観客に伝達していくかが重要である。

(7)コアなファンの集まりであるサポータークラブ、後援会等の活性化策の検討が急務である。