2007-9-10

レスタータイガースの成功理由とは

2007/09/10

日本トップリーグ連携機構海外研修レポート(6)


 英国ラグビーの最高峰「プレミアシップ」で常に好成績を残し、リーグ内でも有数の集客・収益を記録するレスタータイガースを訪問し、そのラグビークラブ経営に関する成功理由について伺った。日本に並ぶサッカー大国イギリスにて、ラグビー競技がその人気を維持し、世界に通じる競技レベルを保つことは、日本スポーツ界にも一致した課題といえる。
日本トップリーグ連携機構海外研修での同クラブ訪問の目的としては、スポーツが多様化する現代に、スポーツの価値と魅力を高めながら、ファンとなる「ステイクホルダー」を獲得する方法を、同クラブ経営から参考となるべき点を見出せればと考える。

1.「レスタータイガース」とは


□イギリス レスター地方を拠点に持ち、1880年レスターフットボールクラブとして設立。126年の歴史をもつ名門クラブ。(都市人口28万人)

□イギリス最高峰のプロラグビーリーグ「プレミアシップ」加盟のチーム

□1998年から2002年まで4年連続でプレミアシップタイトル獲得。2000/2001は全英トーナメントとなる ハイネケンカップを獲得。

 カップ戦5回(79,79,80,92,96) プレミア5回 (87,94,98,99,00,01)、欧州連覇2000年、01年

□イングランド代表をはじめとする、世界屈指の代表選手が所属。
 2003年ラグビーワールドカップ 豪州大会 イングランド代表主将 マーティン・ジョンソン選手

 英国ラグビー最高峰「プレミアリーグ」に所属し、120年以上の歴史を誇る名門チーム。近年では、プレミアシップでの優勝と、英国ラグビー選手権「ハイネケンカップ」で優勝を飾り、その実力と人気はトップクラスのクラブである。ラグビー界で世界選抜チーム「バーバリアンズ」結成の際には、このレスタータイガースがホームクラブとした由緒ある歴史を持つクラブ。

2、「タイガースビジネスプラン」とは

マネジメントディレクター David Clayton氏による

レスタータイガースの事業計画書。
<目次>

1.パフォーマンスの概要

2.事業計画書

3.市場計画
4.KPI(市場業績評価指標)


 マネジメントディレクター David Clayton氏より「タイガースビジネスプラン」の説明を頂いた。

David氏の前職はサッカーのマネジメントを行い、4年前にレスタータイガースの経営スタッフとして転職。近年3年間でクラブのビジネスプラン、スタッフポジションを整理したという。 

「タイガースビジネスプラン」は各部門のマネージャーが3年計画のプランを作り、常に更新と見直しを行い、目標達成を図ることに取り組んでいる。

<ビジョン>

世界で最高の成功を収め、最もサポートされるクラブとなり、その地位を維持すること。

<ミッション>

毎シーズン トップリーグにおり、利益を生み出すクラブに成長し、その成功と利益を維持することが使命であること。


 ラグビー競技は「アマチュアリズム」というラグビー憲章のもと、商業的な活動の一切を禁じられていた。ラグビーアマチュア規程では、スポンサー獲得なと商業活動はもとより、選手のプレーに対する報酬。すなわち「プロフェッショナル選手」の存在も認められていなかった。

1995年ラグビーアマチュア規程の撤廃により、選手の報酬やクラブの商業活動を認めるようになった。ラグビー界のアマチュア規程撤廃より10数年。タイガースは最も早く黒字化に成功したクラブであるが、2000年までは 赤字体質でいたという。

<収入の割合>
□マーケティング部門

 55%
□リーグ分配金

 17%
□チケットセールス

 28%

収入総額
1,500万ポンド
(約35億円)


 チケットセールス一番の収入源となり全体の3割。マーチャンダイジング(グッズ)レプリカジャージの販売が50%を占め、その金額は通常のクラブの4倍にも及ぶ。

コミュニティースポンサー、クラブ主催イベントコーチングクリニックなど、地域活動を通じての収入も大きな収入源となっている安定したチケット収入と、各種マーケティング収入および、リーグからの分配金を財源とする。2000年には570万ポンドの収入が2006年には3倍に膨らんでいる。
 参考までに、イギリスのサッカークラブエバートンFCは、その収入源のうち、47%が放映権収入によるリーグ分配であるという。

<クラブ収入の伸び率>

クラブの収益は、毎年伸張しており、プレミアシップの下位リーグ「コカコーラチャンピオンシップ」所属チームの収入を大きく上回っている。

05-06シーズンでの主な達成として

・ 利益20%増加で記録 _1520万

・ ギネスプレミアシップで2位

・ ハイネケンカップで準々決勝進出

・ ギネスAリーグで優勝(2シーズン連続)

・ チケット販売記録達成 13,181枚

・ 全リーグとハイネケンカップ試合は完売

・ 記録的な商品の売上げ、ヨーロッパクラブ

ラグビーNo1



<シーズンチケットセールスのクラブ別実績比較>

05-06シーズンでのシーズンチケットセールス

・ プレミアシップ加盟チームで最高の実績

・ シーズンチケットが全体の80%を占める



<チケット販売実績と来季販売予測>

・ 02-03シーズン以降 チケット販売実績は最大数を維持

・ 05-06シーズンは完売を記録

・ 06-07、07-08シーズンの販売予測では、大きく増加を予測。

・ 現状「Wolford Rord」スタジアムは飽和状態で運営。収容人数を上げるためにはスタジアムの改修が必要。


 これまでの実績よりクラブの収入の伸び率は過去最大を記録している。

チームの好成績を原動力に、チケットセールやマーチャンダイジングが好調であり、特にホームでのシーズンシートの販売率がプレミアリーグの他クラブと比較しても突出している。注目すべきは、チケット販売がホームスタジアムの最大収容人数に達しており、その多くはシーズンシートとして販売されているということ。すなわちシーズン当初に、年間ゲームの80%のチケット販売売り上げが確定し、常にチケット不足状態の人気チケットであるということである。

この飽和状態を改善し、収容人数を22,000人に上げるためには2,500万_(625億円)もの費用が必要という。再開発の代案として、近隣の「Walkers」スタジアムへの移転という方法で12,000_〜15,000_と比較的費用を抑えた方法もあるようだが、地域のラグビーファンのホームスタジアムの愛着心からか、安易な移転が出来ないともいう。
 ここまでの実績から、同クラブは英国最高峰のラグビーリーグに参加しており、その中でも随一の収益性を誇るチームであることが分かる。実力と人気を兼ね備え、マーケティング収入・チケット収入を安定的に伸ばす優れたクラブ経営を達成している。
 日本国内のスポーツにおけるリーグ活性具合をはかる「観客動員」「チケット販売」に関する取り組みについて、その具体施策と効果を見てみる。

<地域活動>

タイガース地域部門の目標は

・試合チケットの販売

・レスタータイガースに対して肯定的で良いイメージと好意を築く

・より広い地域でチケット販売に理解と貢献してくれる環境を作っていく

・ジュニアラグビークラブ、地域グループ、学校、大学など良い関係を築き、持続していく

地域の具体プログラムとして

1.提携とレスタータグラグビー

2.地域コーチングコース

3.試合日コーチングクリニック

4.タイガース ロードショー

5.学校のプログラム

6.タイガース研修センターの経営

地域プログラムは主に、「生徒・ジュニアラグビークラブ・地域グループ・大学生」を目的としている。

<地域活動>の目標の第1には「試合チケットの販売」とある。

レスタータイガースというクラブが、ラグビーを通じた地域活動をあらゆる層に行うことで「タイガースファン」として囲い込み、チケット購入に結実するように取り組まれている。また、その取り組みは地域の幼少層から学生まで、比較的低年齢の層に対しても行われている。

近年の日本国内スポーツの取り組みには「地域社会貢献」といった活動は良く聞かれるが、同クラブのように「試合チケットの販売」を念頭においた地域活動を計画的に行っていることは取り組みの意気込みの違い感じる。コミュニティーへの関係構築を行うことで、ゲームの成績に左右されない熱心なファンを維持しているのかも知れない。国内スポーツで聞かれる「地域密着」や「ホームタウン」といった取り組みの、さらに発達したビジネスモデルといえる。

<サポーターサービス>

サポーターサービスの全体的目的は、付加価値生産品やサービスを発展していく事により、レスタータイガースへのサポーター親近感と忠誠心を強めていくこと。

サポーターサービスは7つの利益項目により成り立っている。

・メンバーズクラブ

・ジュニアタイガークラブ

・試合プログラム販売

・トラベルクラブ

・アフィニティークラブ

・タイガールート(誕生日商品抽選)

・スクラッチカード

<サポーターサービス>では、チケット販売やグッズ購入に直結するファン層を囲い込むあらゆる仕組みが準備されている。タイガースを応援する熱心なファンを「サポーター」として囲い込み、「サポーター会費」「シーズンチケット」など高額商品の販売を期待できる優良な顧客として確保している。

タイガースのビジネスプランでは、「観客動員」「チケット販売」に関して、安定的なセールスを確保するために、地域と顧客対象者に対するアプローチに大変な労力をかけて、育成し長く付き合っていく方法を確保していることがわかる。ホームスタジアムの80%を前売りであるシーズンチケットで売り切ってしまうことは、チケッティングビジネスとしては、大変な実績であり、その結果をここ数年達成し続けているということは、タイガースビジネスプランが成功している事業計画であるとわかる。

また、聞くところでは、現在飽和状態のスタジアムの大きさを解消するためには、同じ町にあるサッカースタジアムへ移転することで、チケット収入を伸ばすことができる、という施策も持っているというが、「Wolford Rord」スタジアムから離れたくないとされる、熱心なサポーターの声も聞こえるなど、チームへの愛着を持つファンが多く存在している。

このような、充実したマーケティングプランを達成するためのクラブ経営を支えるスタッフはどのような規模となるのか。

<構成組織>

□選手、育成部門

□セールス・マーケティング

□広報プロモーション

□財務

□スタジアム管理

レスタータイガースは、約40人のプロパースタッフ(選手を除く)により運営されているという。

また、これまでの成功している理由のひとつに、選手をリタイアした際にクラブのスタッフとして働くことが伝統的にあり、人材の確保と継続的なコミュニティー形成に良い影響をもたらしているという。

クラブの広報PRセクションとなるコミュニケーション部門は、「タイガースウェッブサイト」「メールマガジン」「メンバーズイベント」「ニュースレター」「ダイレクトメール」など、様々なマーケティング活動の中軸を担当しており、その部門のスタッフは約2、3名での担当者とサポートスタッフで運用されているという。

<ビジネスの成功のサイクル>

□スポーツ(競技)の成功

□収入の増加

□選手への投資

という好循環サイクルを「成功」として考えられている。

チームの成功は、増収増益を生み、さらなる選手補強に

投資をすることで、さらに安定したチーム成績を期待する。


 この考え方はスポーツに限定されたビジネスモデルではないが、この「天使のサイクル」ともいうべき強者の理論を継続することにより、クラブはより一層高い安定収入と競技力の向上を期待している。

成功の仕組みを明確に打ち出し、その成功のサイクルを回転させるための要素を理解し、取り組みことができている。ビジネス界では極当たり前の経営計画ではあると思うが、商品となる素材価値が「チームの勝敗」に大きく依存されるスポーツビジネスでは、すべてのチームが手法だけを踏襲すれば成功するとは限らないと思う。

 しかしながら、タイガースは伝統的な地域のメリットを徹底的に生かし、幼少層からのタイガースファンへの誘導など、大変地道な活動を行うことで、優良顧客の安定確保からの「シーズンチケット販売の好成績」の実績を維持している。他のライバルチームと比較し、このような収入部分での安定確保が出来ていれば、戦力補強への投資や、成績不振での観客動員数などが計算でき、継続的な成績確保のための事業計画も維持できるということである。



最後に。

 レスタータイガースのビジネスモデルからみる「レスタータイガースの成功理由」は、「強者の天使のサイクル」に見事に乗った、英国ラグビー界でもっとも成功しているクラブであると感じた。

ただ、単に伝統的に人気のあるスポーツで、古くから大きな収益を生んでいたわけではなく、ラグビー界のプロ化という改革期からスタートされた、ここ数年での成功モデルであったということ。さらには、サッカー人気が大きく台頭する英国スポーツ界での「ラグビー人気」を維持できていることに注目するべきところであると感じた。
 このような地域密着に取り組み、根強いファンを獲得しながら強化育成を達成しているチームを、日本国内のプロスポーツにも見ることができる。プロ野球やサッカーJリーグの「福岡ソフトバンクホークス」「浦和レッズ」がその取り組みに近くあると感じられた。それぞれ、チーム拠点地の地域性を生かした「ホームタウン」でのファン獲得が、リーグ最高水準な観客動員数と安定収入を確保し、競技レベルの向上につながっていると思われる。

 トップリーグ連携機構という組織では、「リーグ運営」を中心とした集合組織であるために、単独のクラブ経営とは、その業務内容が一致するところではないが、その参加するクラブの安定的な活動が確保できることで、リーグ全体の底上げと人気確保、さらには「世界へ通じる競技レベルの向上」までが期待できるということであろう。
 「地域密着」というスポーツクラブの取り組みが良く聞こえてくるようになってきている。レスタータイガースという成功しているクラブには、相応のノウハウと人材があり、さらにはそれを上回る関係者の努力により達成しているということが重要であるとわかった。ひとつの競技団体の長い歴史や文化を生かしながらも、他ビジネス・スポーツ界での成功のノウハウや人材を取り入れ活かすことが大切である。まさに、トップリーグ連携機構のような多競技の集合団体といった組織の連携や連絡、競技間交流はスポーツ界を活性させ、リーグやクラブの「成功」へのきっかけになると感じた。
 「レスタータイガース」というクラブを訪問し、一番印象に残ったことは、ファンと通じ合い、スポーツとチームを愛し、一緒に育てることで「スポーツ」はさらに大きく成長し発展できる、ということのように思えた。

 末筆ではあるが、今回のトップリーグ連携機構海外研修をお世話いただいた連携機構関係者、ならびに現地での調整・通訳にご協力をいただいたスタッフの方、そしてクラブの大変重要な経営企画をお話いただいたレスタータイガース ピーター氏、デイビッド氏、マット氏に深い感謝の意を申し上げます。