【2023年度指導者プロジェクト】
コーチング研修会インタビューVol.2
田邊奈那氏(ソフトボール/日本精工ブレイブベアリーズ コーチ)
柳瀬友紀氏(ソフトボール/外部指導コーチ)
日本トップリーグ連携機構では22年度より指導者プロジェクトの一環として、コーチング研修会を3期にわたり実施してきました。コーチング研修会とはNPO法人コーチ道の松場俊夫氏のご協力のもと、講義から指導現場での実践、事後課題までを研修課題とし、競技力だけでなく人間力も獲得できるような選手を育成するコーチングスキルを身に付ける研修会となっています。
多くの方にこのコーチング研修会を知っていただくために、実際に研修を受講されたOB・OGの方にお話をお聞きしました。
インタビュー第2弾は、コーチング研修会基礎コース第3期に参加された、ソフトボールの田邊奈那さんと、同競技の柳瀬友紀さんのお二人にお話を伺いました。
Q.現在指導をしている競技、カテゴリー、役割を教えてください。
田邊奈那さん(以下、田邊):競技はソフトボールで、今は女子ソフトボールのJDリーグに所属している日本精工ブレイブベアリーズというチームで、外野手をメインに指導をしています。
柳瀬友紀さん(以下、柳瀬):私も競技はソフトボールで、今は特に決まったチームはなくスポット的に、中学生から高校生を中心に大学生や実業団の選手の指導をしたり、ソフトボールクリニックに呼んでいただいたりしています。
(写真:左から田邊氏、柳瀬氏 ※以下同)
Q.引退後に指導者になろうとしたきっかけ、理由を教えてください。
田邊:大学時代に出会った恩師との出会いが大きく影響しています。私自身、もともとバッティングが得意ではなく下位打線だったこともあって、ずっとバッティングに対して「嫌だな」という苦手意識があったんですけど、その恩師が私の力を引き出してくれて、リーグでも何とかやっていけるところまで持っていってくれたんです。ずっと弱みだと思っていた部分を強みに変えてくれたことはすごく大きな出来事だったので、私も自分が受けた経験を活かして、選手自身が見つけられていない才能だったり埋もれてしまっている可能性を引き出してあげたいと思ったことが、指導者を目指したきっかけです。
柳瀬:私の場合、野球のスポーツ少年団の指導者だった父の影響を受けて、小学生の時に野球をきっかけにソフトボールを始めたんですけど、小・中・高と身近で出会った指導者の方にとても恵まれていたんです。そのおかげで、実業団まで長く競技を続けることができたし、出会った指導者への憧れもあって選手時代から何となく指導者になることを思い描いていました。
あとは、講習会などで色々な指導者の方とお話しさせてもらうと、やっぱりまだまだソフトボールの世界は古い考えの指導者の方も多くて、実際にそれが嫌で辞めてしまったり競技から離れてしまった子がたくさんいたんですよね。競技人口が減ってきている中で、そんな理由で辞めてしまうのはすごくもったいないことだし、実際に子どもたちと話した時に「もっと違う指導をしてあげたらこの子は上達できたはずなのにな」と感じたことが、明確に指導者を目指すようになったきっかけかもしれません。その子が持っている可能性を指導者側が摘んでしまったら絶対にダメだと思うし、田邊さんと同じように、可能性を引き出してあげたいと思いました。
(写真:柳瀬氏)
(写真:田邊氏)
Q.指導者の魅力や苦労を教えてください。
田邊:少しずつ対話を重ねていくと、段々と選手たちがチームでの自分の役割に前向きな姿勢になって、同時にプレーも変わってくるんです。今までの発想になかったことをポンっと投げてあげることによって本人たちが気づいて変わった瞬間はすごくやりがいを感じます。
柳瀬:私は実業団にいた時に兼任でコーチもしていたんですけど、やっぱり選手たちの意識が変わって成長する瞬間は目に見えて分かるので、それによって試合で良いプレーをして喜んでいる姿が見られることはやりがいのひとつです。難しい部分だけど大切にしていることは、実業団ではまず監督という存在があって、コーチがいる。いま教えているチームも、先生の存在がいて、私は外部コーチとして週末に指導をしているので、もともとの監督や先生の教えや考え方というところに対して出しゃばりすぎないようにするとか、チームの考えを尊重しつつも自分の考えや意見も伝えていくとか、そこのバランスにすごく気を付けています。
Q.コーチング研修を受講したきっかけを教えてください。
田邊:コーチングに興味があったのもありますが、今の状況にちょっとやきもきしていたところがあったんです。選手とコミュニケーションを取ろうとしているけど、お互いに「いい距離間」のままそれ以上詰められずにいて、感じていることとか考えていることもなかなか選手から出てこないという状態でした。そんな時にチームからの連絡メールでコーチング研修会の案内が届いたので、もやもやしている今の状況が打破できたらと思って受けることにしました。
柳瀬:私は、高卒からずっと同じ会社、同じチームで、すごく居心地が良く恵まれた環境の中で競技をしてきたんですが、引退後に実業団には残らず一度社会に出るという選択をしました。もしそのまま指導者になってしまったら、きっと私は指導者として伝えられる幅が少ないなって感じたんです。競技に関してはずっとやってきたことなのでアドバイスできたとしても、人生を左右したり、選手が何か決断をしなければならないような場面で相談を受けた時に、きちんと答えられるような指導者になりたかった。色々な勉強をして、経験値を伸ばしたいという思いと、教える時に何となく教えるのは失礼だし、コーチングに「スキル」があるとは知らなかったので、受けてみようと思いました。
Q.参加してみて、ご自身の指導方法に何か変化はありましたか?
田邊:選手と向き合って会話をする時間が作れました。最初は、事後課題があるので「やらなきゃ!」というところからだったのですが、会話をしないと出来ないし何も始まらないので、まずは選手と会話をすることを意識するようになりました。それまでは選手とのコミュニケーションで顔色を気にしていたところがあったんですけど、コーチングとしての指導に意識を向けて会話をするようになったら、良い意味で顔色が気にならなくなり、「変化を見逃さないように観察しなきゃ」という気持ちにシフトすることができました。
柳瀬:スキルに関しては、もちろん知らなかったことがたくさんあるんですけど、自分が大切にしていた部分だったり、これは合ってたんだ!という部分もあって、そこに対する根拠を持つことが出来て、指導に自信が持てるようになりました。今まで何となく伝えてきたことも、「こんな効果があるんだ」という効果の部分を研修で知れたので、効果の先まで観察するようになりました。特にフィードバックとアドバイスの研修では、今までフィードバックだけをしていたつもりだったのに、「毎回アドバイスまでいってるよ」、って教えられた感じがして、すごく気を付けています(笑)。
Q.実際の指導現場で、選手との関係性に何か変化はありましたか?
田邊:明らかに選手の方から「今のどうでしたか?」とか、「自分は今の良いと思うんですけど、どうですか?」などフィードバックを求めてくれるようになりました。会話が増えたことによって、私が普段選手のどんなところを見ているのかなど、私自身を選手に深く知ってもらえましたし、「こんなことを聞いても良いんだ」って思ってもらえて、どんどん対話が増えていきました。
柳瀬:いま教えているチームに研修で教わった「承認」をやってみたら、雰囲気がガラッと変わりました。私は週末しか指導ができないので、その間は毎日選手と関わっている先生に協力をしてもらって「承認」をやり続けてもらったんですけど、もともとあんまり明るい雰囲気ではなく、ミスをした時など謝れない空気感があったのに、今ではすぐに「ごめーん!」と明るく言い合える空気になっています。毎日見られないからこその変化は、驚くほど感じました。
(写真:柳瀬氏)
(写真:田邊氏)
Q.指導に対する意識に変化はありましたか?
田邊:これまではどこかで「選手は勝手に育つもの」と思っているところがあったんですが、グッドサイクルで学んだように、プレーに関することじゃなくても、どんな些細なことでも会話を続けることが指導者として大切なんだと思いました。思い返せば、私が指導者を目指すきっかけとなった恩師も、「どうでもいいことを話すことが大事なんだ」とよく言っていたことを思い出しました。その人のようにはなれないかもしれないけど、今は自分の色も出していけたらなと思っています。
柳瀬:可能性を潰さずに、より磨いてあげる、押し付けない、偉そうにしない、怒らない、など気を付けようと思っていることはこれまでと変わらないのですが、伝えなければいけない厳しいことをどう伝えるかで悩んでいるところがありました。でも、「伝えなければいけないネガティブワード」も、伝え方次第できちんと伝えられるということが研修で分かって、逆に選手の気持ちが掴めることもあるんだと知れました。そういう指導のメリハリみたいな意識を学べたことは大きかったです。
Q.コーチング研修会を受講して自信になったところはありますか?
田邊:最初の方だったと思うんですが、自分の中に答えがあるという考え方をグループワークで実践した時に、選手だけではなく自分もそうなんだ、自分にとっても答えは自分の中にあったんだな、という事に気づけたことが、その後の指導をする時にすごく自信になりました。選手の答えを引き出そうとするだけではなく、自分自身の意識が広がったことを実感した瞬間でした。
柳瀬:グループワークの時によく、「穏やかな表情で話しを聞いてくれる」と言っていただいたんですけど、それは私の強みだなって思えました(笑)。その反面、日ごろから人間観察が好きで、良くも悪くも人の顔色を伺う癖もあるんですよね。それで悩んでしまうこともあるので、その癖を自分では何とかしたいなと思うことがよくあったのですが、「その場から逃げずに他人のことで悩むのはすごく仲間思いだ」と言ってもらえたんです。同じ指導をする立場のみなさんに自分の癖を肯定してもらえたことは、すごく自信に感じました。
Q.他競技の指導者との交流から何か学びはありましたか?
田邊:どんな競技でも、コーチ歴が長い方でも短い方でも、みなさん試行錯誤して悩まれているんだ、と感じました。同じなんだな、という安心感ではないですが、やっぱり同じ競技ではそんな風に感じなかったかもしれないです。グループワークでも他競技ならではの意見がもらえるし、知らない競技のことも知ることができてとても新鮮でした。実際にみなさんの指導現場に行ってみたい!と思いました。
柳瀬:競技性が詳しく分からないからこそ湧き出てくる疑問みたいのがたくさんありました。女子チームを教えている男性コーチとか、同性同士だとあまり悩まないようなことも想像以上に丁寧に指導をされているんだな、と感じましたし、色んな世代の方がいらっしゃったので、同じ競技やカテゴリーじゃないからこそ、自分にとっての当たり前を考える時間をもらいました。
Q.約3か月間に渡る研修会でしたが、参加に苦労はありましたか?
田邊:JDリーグは雨で試合が延期になった場合、月曜日が予備日になるのでそこの心配はありましたが、たまたま私は被らなかったのと、日程自体は前もって分かっていたので特に参加に問題はなかったです。2週間に1度というペースもすごく参加しやすかったです。
柳瀬:最初の案内で全日程が分かっていたので、早めにスケジュールを立てて確保がし易かったです。職業柄どの曜日でも仕事によって左右される条件は変わらないですし、職場の理解もあって問題なく参加できました。開始時間も、20時スタートでちょうど良かったです。帰宅して少し余裕を持たせるために20時半でも良かったです(笑)
Q.最後に、受講を考えている方にメッセージをお願いします。
田邊:始まる前は、どんな方が来るのかな、ちゃんと話せるかな、と不安があったんですが、日ごろ交流する機会がない他競技の方々とのグループワークは学ぶことばかりでしたし、短い時間でしたが本当に濃い時間でした。「どうしようかな」と思う気持ちがあれば、まずはやってみることをお薦めします。
「知ってるな」と思っていることでも、スキルとして学んで実践した後では選手からの反応が全然違うことを実感したので、ぜひみなさんにもそれを実感してもらいたいです。
柳瀬:緊張感を持ちながらかしこまって始まった研修会でしたが、「口外しない」という大前提のもとで進められた研修だったので、これも言っても大丈夫なんだ、という安心感から、いつの間にか私にとって「いつでも相談できる場所」になっていました。読書が好きで指導書などもよく読むのですが、やっぱり同じ指導者という立場で他競技の方とのグループワークは、本を読む以上に学べることがたくさんありましたし、リアルタイムで課題に一緒に取り組めたことはすごく支えになりました。コーチングに自信がある方にも、不安ばかりの方にもおすすめしたいですし、どちらにとっても良い研修になると思います。