2012-10-25

平成24年度 日本トップリーグ連携機構 審判研修会 特別講演 須黒祥子氏 質疑応答8月26日

2012/10/25

 8月26日に味の素ナショナルトレーニングセンターで行われた、「平成24年度日本トップリーグ連携機構審判研修会」で好評を博した、「公益財団法人日本バスケットボール協会国際審判員須黒祥子氏」の特別講演内での質疑応答の模様を全文掲載いたします。


橋本信雄(ファシリテーター:公益財団法人日本バスケットボール協会審判規則部前部長):

昨日のサッカーの西村さんはプロフェッショナルレフェリーですが、須黒さんは高校の体育の先生です。皆さんも、全員が何らかのお仕事をしながらレフリー活動をされていると思います。同じような境遇での活動と思いますが、須黒さんご自身もかなり海外に行かれていますが、去年、須黒さんの勤務先の教頭先生から電話が私のところにありまして、「もう来年は、須黒先生を海外に出さないでください」、ということも言われました。教員の方の中にも、長期に渡って休みをもらって、海外や国内大会、国体ですら参加するのに微妙な方が出てきている。このような状況で、どううまく対応しているかをお聞きしたいと思います。

須黒:一番重要なのは試合の開催時期が一番大きいと思います。

夏休み期間中ですと、比較的出ることは容易だと思いますが、授業期間中になってしまうと、私は現在、3年生の担任なので、事前に「このような行事があります」と、ことあるごとに報告しています。

同学年の先生方には、「大会がありますので、もしかするとご迷惑をおかけするかもしれません」とか、体育科の先生方にも、幸いうちの学校には他にもバスケットの顧問の先生がいますので、その先生にもご協力いただいて、他の体育科の先生方に「須黒先生はこういう大会があるから今週はいません」とか話をしてくださっていただいています。

あとはそういう時のために、皆さんもされているとは思いますが、かなり細々した仕事を自ら積極的に引き受ける。「やりますよ!それやりますよ!」誰でも出来そうな仕事だったら「私にぜひやらせてください!」という様な感じで他の方の仕事を引き受けるようにしています。

橋本:この中で、企業にお勤めの方いらっしぃますか?教員ではなく。結構いらっしゃいますよね。実際、休みとる場合は何日くらい取られますか?

参加者:年間で5日間くらいです。

橋本:そうですよね。他に企業にお勤めの方はいかがですか?

参加者:1週間です。僕はアメリカンフットボールで、ゲーム自体は土日、祝日しかないのですが、やはり研修会などいろいろ他の行事もあるので、有給休暇はすべて審判活動に使っています。

橋本:現状としては、おそらく企業にお勤めの方は、作今の状況からいうと1日、2日休むだけでも非常に嫌がられるのではないですかね。

例えば東京都の教職員の方は、授業期間中はあまりこころよく教育委員会が認めてくれないという難しい時代。私も、企業に勤めていますので、今回オリンピックの指名が(3週間の休暇が必要)来たとき「どうしようかな?」って真剣に悩みました。幸い、バスケットボール協会の場合には会長が麻生太郎さんで、元首相という方ですから、会長名で委嘱状を出したら、簡単に周囲からの理解をいただけました。

特に、学校の教員の方も、政治関係の方からの委嘱状をいただけると、非常に活動しやすいと思います。

毎年、この研修会でも、グループ討議の中で、「職場の折り合いや家庭との折り合いはどうしているのですか?」という話がありますが、それは人それぞれの職場や家庭の問題ですから、今更この場で他の方の環境を心配してもどうにもならない。そういうことは、自分が自分のなかで乗り越えていきながら、レフリーの活動をしていくことが大切。そのような気がします。
あと試合だけでなく、トレーニングもどのようにされていますか?

須黒:まず1つは、英会話が重要になってくると思うのですが、どの種目の方々も国際大会に行きますと、おそらくコミュニケーションのツールとして英会話が重要になってくると思います。

まずは、英語がしゃべれないと重要なゲームに割り当てられませんので、流暢にとまでは言わなくても、どんなことでも英語で対応できるように、試合がない期間も、定期的に最低週1回は英会話に行くようにしています。

トレーニングについてはジムに行きます。私の場合は、体育科がある学校なので施設が十分あるのですが、あまり生徒の前で学校外のことをひけらかすようなことは好きではありません。もちろん、子供たちは先生の頑張っている姿を見れば協力してくれると思いますし、保護者の方もすごく理解のある学校ですが、「それはそれ、これはこれ」っていう形で、自分で時間を作って別の施設でトレーニングを週1回やるようにしています。

橋本:サッカーの方いらっしゃいますか?サッカーは英語ですか?どんな風に英語などを勉強したりしていますか?

参加者:私は今、iPhoneに有料のデータを入れてずっと聞いています。スピードラーニングの形で。英語に慣れるという事では苦手意識がなくなりますね。

橋本:他に「私はこのような語学の勉強している!」という方いらっしゃいますか?

参加者:以前、ラグビーのアカデミーを見学に行かせてもらったのですが、その時からTOEICを定期的に受けるというシステムがあると聞いたので、今でも半年に1回くらいですけれども、定期的に少しずつやるようにしています。

橋本:他にいらっしゃいますか?どの競技でも国際審判を目指す場合は、やはり語学の向上が必須だと思うのですが、こればかりは30歳過ぎてからは、なかなか上達しません。ましてや、40際,50歳になってからでは、残念なことに覚えたことがもう2、3時間後にはもう出ていってしまいます。やはり、若いうちから相当やらないと英語力というのは身につかないですね。

ですから、皆さんの後輩にも1日でも早く英語の勉強は勧めてください。それと、バスケットボールの審判に関してですが、語学力とプレゼンテーション力ですね。いわゆる「見栄え」です。今回、オリンピックで審判員は30名いましたけども、須黒さんが一番小さかったです。バスケットボールは背が高い選手が行うスポーツですから仕方が無いのですが、プレゼンテーションでやや劣るというマイナス部分はご自身としてどの様に感じていましたか?またどのように解決しようとしましたか?

須黒:やはり橋本さんがおっしゃったように、背の高い選手が多くて私などがコートに入っていくと「貴方、本当にバスケットやっていたの?」って感じで思われます。

そういう意味では、我々は非常にハンデがあると思いますね。幸いに、女子のバスケットボールは過去にオリンピックに出ていて、今回は残念ながら出ていませんが、世界選手権には出ているという背景もあって、日本の審判という信頼感はもっていただいても、背が低いという事はすごいハンデです。ロンドンの街中で、実際にロシアの背の高い190cm以上ある女性審判と一緒に歩いていて、周囲の人に「あなた達レフリーなの?」って聞かれました。ロシアの彼女は「背が高いしバスケット選手だったのかしら?」って聞かれたのですが、私の顔を見た時に、「あなたは柔道の選手なの?」って聞かれましたから・・・

もう、日本人は「柔道」にしか思われていないですね。それぐらいのものですので、やはりプレゼンテーションは重要ですね。

ですから、私は少しでも背を高く見せるように、姿勢を良くすることは心がけています。特に、自分でビデオを見て、「周りからどういう風に見えるのか」を考えます。少しトレーニングが時期的に怠っていたりすると、やはり筋力が落ちたりするのか、姿勢が悪くなったりしますので、改めて体幹トレーニングをしたりするとかして常に意識するようにしています。

それからシューズですが、ゲームの時にはヒールが少し高めのシューズを履いています。あれで多分3㎝くらいは稼いでいますね(笑)。あとはインソールで更に調整して、1センチでも背が高く見えるよう意識しています。

それと、上半身のトレーニングもしていますが、五輪に来ていたプエルトリコの男性審判ほど胸板厚くありませんので、審判ユニフォームの下にウエアを何枚も着て、体が少しでも大きく見えるように工夫しています。やっぱり弱々しい印象のレフリーにはターゲットになりますし、信頼感も少ないというので、やはり「見た目」というのは非常に重要ですので、あとは余談になりますが、髪の毛を少し立たせてみたりもしています。(笑)

橋本:須黒さん?トータルで何センチくらい高く見せていますか?

須黒:本当に私、コートに立つとめちゃめちゃ大きくなりますよ!WNBAの女性レフリーは、普通に立っていると私より大きいのですが、ゲームの時には私と同じか、少し大きいくらいですので、相当に稼いでいます!(笑)

橋本:皆さんの中で、他にも同じような工夫していらっしゃる方いますか?

参加者:前までは「自信なさげに見える」と言われ続けて、実際控えめに立っていました。最近は胸を張るようにしたら、「最近堂々としているね!」って言われるようになりました。

参加者:ラグビーの審判ですが、私、非常に小さいのですが大きく見せる努力はやっています。鏡を見たりとか、ビデオを見たりですとか、意識して手を出す位置を大きめにしています。

橋本:審判指導者の立場として、レフリーの見た目というか、そういった部分は指導の中に取り入れていますか?

参加者:ボディーランゲージといいますか、体の線で自分の意思を伝えることは非常に大切だと思います。例えば、トライの時には、レフリーがレフリーらしさを出してほしい。「これは間違いなくこれはトライです!」って、笛を吹くことによってトライという瞬間を伝えることも大切ですが、低いところから見たよっていう感じで、起き上がってくるような姿勢の大切さも指導しているので、「見栄え」といったところは非常に大事になると考えて指導しています。

橋本:よく下から上がってくるトライのジェスチャーを見たことありますね。そんな意味合いがあるのですね。ホッケーの方いらっしゃいますか?ホッケーは、試合の一番の見せ場というか、意識しているところありますか?

参加者:私は比較的身長があるのでそのまま大きくしますけど、小柄な審判員の方は工夫をしているようですね。少し走って行って、ひきつけてからジェスチャーを出すとか工夫をしているようです。

橋本:この間の女子のオリンピック世界予選では女性の方が審判されていましたよね。競技によってはそういった見せ場というか、ここ一番があると思います。バレーボールはどうですか?

参加者:やっぱり笛を吹いて、注目させてから出すというタイミングとか。きわどいケースは、早めに強めに出すとかを考えてやるようにしています。

橋本:他の競技の方はどうですか?

家永昌樹(ナビゲーター:日本ハンドボール機構GM):

ハンドボールの場合、選手の近くでカードを出したりする場面があるので、立つ位置ですよね。非常に距離感を大事にします。ヨーロッパの人は2m、100kgsあって、自分も182cmですが、2mの選手のところに立つと見上げないといけないので、それだけで負けてしまいますね。ですから、距離を取って、ちょっと下がり目でカードを出します。逆に、背の低い選手に対しては近くに寄りすぎると威圧しているように周囲から見えますので、またこれも距離を取って逆に選手の顔を上げる角度をコントロールしています。身長の差がある場合にはかなり気をつけてスペースを取るようにしています。できるだけ、まっすぐより少し上が見栄えが良いので、相手を指す場合でも格好良く見えるように、「距離を取る」ということにはかなり気をつけています。

橋本:ハンドボールの場合はペアで、そういうところも打ち合わせするのですか?ジェスチャーとかも。

家永:だいたい、判定はパートナーに任せてしまうので、一緒に出すというと、よっぽどの見せ場というような感じです。例えば今はもうやらないのですが、特別にレッドカードを出す場合の時は、わざと2人で寄って行って、ワンテンポおいて会場をざわざわさせながら、コートの真ん中に立ってすべての注目をさせて、「見られているな」っていう状態からそこでカードを出すようにやっていました。

橋本:ペアの良い面と悪い面ってなんですか?悪いところはなんとなくわかるのですが…

参加者:良い面は、毎回同じペアで吹くので、特に話をしなくても判定の基準が合ってくる。アドバンテージというのもあるので、その判定基準も変わらないという利点があります。

橋本:時には、相手がちょっと変な判定をするときは、どんなすり合せというか…

参加者:相手が体調が悪いなっていう時は、どちらかがフォローしなくてはいけないので、私たちもチームとしてお互い協力し合ってやっています。マイナスなところは、長い間ずっと一緒にいますと飽きてくるというのはあります。(笑)

橋本:大会によっては試合も生活も全て一緒だと思うのですが、どうやってリフレッシュしていますか?

参加者:会場に入っても、敢えて試合の少し前くらいに一緒になる場合もあります。それ以外の時は特にお互い拘束をせずにバラバラに行動するとかということはしますね。

橋本:相手の考えていることですとか、なんとなく分かるものですか?

参加者:まぁ、そうですかね。

橋本:試合後の反省でお互いの意見の相違とかはありませんか?

参加者:特にはありませんが、自分の相方は意見が合わないときは、すごく顔が赤くなるんです。その時、自分の考えと違うのかなとか考えますね。

橋本:須黒さん、バスケットボールでペアもしくは3人が常に一緒ならどうしていましたか?

須黒:多分、辞めていますね。やはり、常に一緒にいるっていうことだったら、ちょっと厳しいかな?色々な意味で。

橋本:やはり、お互いが生身の人間なので…中には「あいつが好きだ、嫌いだ」ではなくて、何か波長が合わないとか色々なタイプの人がいると思うのですが、そういった中でずっとペアを続けて同じような判定基準を保てる、非常にハンドボールのレフリーの方々は大変なご苦労もあるのかなって思いますね。

家永:やはり一番弊害っていうのは、合う、合わないっていうのはどうにでもできるのですね。実際、(先程参加者が)言ったように20日間海外に行っても、寝るときだけ一緒で、早く街に出て別々に買い物して「1時間後ここに集合ね」とか、会場に行ってわざとバラバラで他のペアの人と話をするとかコントロールできますが、さっきおっしゃっていた、それぞれの本業の仕事の部分ですね。僕は、どこでも行けますよ。オファーがあって行けても、ペアがいけないと僕も行けなくなってしまうので、やはりそこの調整というのが非常に難しい部分ですよね。ほかの競技と違って弊害になってきてしまいます。

橋本:岸川さん、主審にラインを任せるとかの関係はどうなっていますか?

岸川剛之(ナビゲーター:公益財団法人日本ラグビー協会審判委員会委員長):

若い時ですと、上の方がやられると線審のときは遠慮してしまう。ただ、その逆もあって、うまくコミュニケーションが取れて励ましてもらえる形になりますと、すごく自分が安心できるという場合もあります。

橋本:サッカーの方どうですか?副審の方とのコミュニケーションですが。

参加者:基準がやっぱり一定でないといけません。主審としては最初の10分くらいに基準を示すのですが、そのあと選手に伝わっても副審に伝わっていないっていうこともままあります。それで、副審の基準で旗をあげられると、下せる場合と、下せない場合がやはりあって、副審の信頼感を失うってことは、主審としては良くないことなのでそこのところは、少し似ていると思います。

橋本:サッカーの副審はオフサイドを見ることが一番の仕事ですか?

参加者:それだけではありません。(橋本:あれはアドバンテージあるのですか?)そうですね、キーパーにボールが渡ると採用しない時もあります。

橋本:他の競技の方で、相方や副審とのコミュニケーションで何か工夫されている方はいらっしゃいますか?

参加者:ソフトボールですが、日本リーグ担当が今33名いて各地に行って担当するのですが、我々がやるのは、九州と一部だけです。あとは各開催地の地元の方が担当されます。そうするとやはり、事前の打ち合わせを長くとるようにしますし、ゲームの後に反省会をしっかりやります。組んだことが全くない地元の審判と組むときには試合前に綿密な打ち合わせはよくします。

橋本:そうすると、セカンドとサードの基準が違うこともあるわけですね。

参加者:そうですね。ローテーションというのがありまして、時計回りに2塁塁審が外野にフライが上がった時に、2塁に3塁の塁審が入ったりしますが、それが上手くいかないと空いているベースがあってそこに選手が入ってきて、タッチプレーのケースがあるのですが、そこを上手くやっていかないと誤審というか割れるジャッジをしてしまうので気をつけています。

橋本:あとこの際、何か須黒さんに質問等ありましたら、いかがでしょうか?

参加者:コーチ、監督の異議についてなんですけども、サッカーでは主審、副審になるとある程度監督と距離がありますが、バスケットでは非常に近いと思うのですが、そういう時のバスケットでの対応や、JBLとオリンピックでは監督の態度はどう違うのですか?

橋本:どちらかというと国際大会やオリンピックの方が楽かもしれないですね。JBLが、一番マナーが良くないかもしれないですね。外国人コーチが多くて、とんでもないことを言ってきたりしますよ。やはり日本人のレフリーが理解できないと分かると、どんどんつけあがって、更にとんでもないこと言ってくる場合があります。何かにつけて、一つ一つにコーチや選手が言ってきて見苦しいのがJBL。須黒さんのWJBLという女子のリーグでは去年サッカーでいうイエローカードに該当するテクニカルファールをコーチに与えたことはありましたか?

須黒:テクニカルファールって、日本人は吹かれるとちょっとその人の人格までも否定したような気持になるようですね。特に、年下の女性の人に男性の年配のコーチがテクニカルファールを吹かれると、「人格否定」というイメージがあったようですが、私にとってはいわゆる他のファールと同じように、「ある程度の線を越えたらそれについてはどうであれ吹きますよ!」っていうスタンスでやってきています。

去年あったケースでは、私の相手の方が勘違いでミスをしてしまったのです。その時に、あるコーチが私に訴える気持ちで私の肩をおもむろに後ろからガッと掴んで、「須黒さんお願い!!」って言われたのです。そのケースは明らかにミスジャッジと思われたのですが、コーチの態度としては良くないものでしたので、テクニカルファウルをコールしました。コーチの方もその部分は分かっていらっしゃったので、試合後に謝罪に来られました。

橋本:他にご意見、質問が無いようでしたら、須黒さんから本日のまとめをお願いします。

須黒:今日は、昨日に比べるとわりと一般的な話が多かったと思うので、参考になったかどうか分かりませんが、皆さんの中からオリンピックに行かれる方もいらっしゃるかもしれませんし、世界のリーグや世界のトップの大会に行かれる方もいると思います。そういった中で、私が一番伝えたいのが、「誰にどのタイミングでチャンスが来るかわからない」ということです。私のような一教員でもどういうところで選ばれるかわからないので、その時に準備不足で、実際の現場で良いパフォーマンスを発揮できないなんてことが無いように、というのが私からの皆様への願いです。ですから、体調管理、トレーニング、英会話、といったことを日頃からしっかりとやっていただければ、思いがけないチャンスが訪れても平常心と日頃の判定基準で対応できると思います。

今後も更に精進していただいて、一人でも多くこの中から世界の舞台でも活躍されることを心からお祈りしています。拙い話でしたが、皆様に支えられながら1時間半お話しさせていただきました。今日は本当にありがとうございました。