チーム構築とマネージメントについて
よくあるディスカッションについて考えてみよう。チームのシステムに選手を順応させるのか、それとも選手にシステムを合わせるのか、という問題だ。確かに、地域やクラブなどによってその回答は異なるだろう。各クラブの哲学や現状から生じるバランスにも注意したい。固有の哲学を持ったり、特徴的な戦い方をするのもクラブやチームの魅力でもある。しかしプレーをしながら、知覚、決断、実行、分析を繰りかえすのは選手達でしかない。
スポーツにおける主役は、あくまでも選手である。どのような主役(選手)でゲームを演じるかは、チーム構築の根本的な問題である。まずは主役となる選手が自然体でプレーすることが、最良のパフォーマンス向上へのポイントとなる。エリートレベルになれば、クラブのシステムに当てはまらない選手を、簡単に切り捨てる指導者は多く見られる。しかし選手の可能性、そしてチームへの貢献の可能性を、指導者は明確に考慮しているだろうか?
ここでは、プレーモデル、クラブ哲学などに左右されない、『選手に最低限求められるエレメント』を、安定したチーム構築という観点から考えてみたい。一定の技術・体力・戦術・戦略という土台は欠かせない。そしてその上にモチベーションという要素を兼ねていれば、選手は十分に活躍することができる。攻撃そして特に守備の基盤となるのが『モチベーション』だ。そして試合における戦略・戦術を安定させる基盤が集団による守備だ。攻撃については、味方の選手を活かせるような戦術眼が必要となる。あまりにも自分勝手な選手は、能力が高く守備に強くても、チーム構築にはネガティブなポイントとなる可能性がある。
多くのボールスポーツクラブでは、競争レベルやカテゴリーが整理されている。そして地域ごとの競争レベルごとにより、選手の資質、フィジカルの特徴、技術レベル、戦術レベルが拮抗する傾向にある。例えばスペインフットサルでは、同じような能力を持った選手が、ほぼ同等のリーグレベルで競争する基盤がある。その背景には様々な理由がある。以下に『選手レベルの拮抗化』の背景にある、一般的なプロセスを整理してみよう。
同じような戦力の商品が出揃う中で、いかに差を生み出すのか?その答えを『質・量』という言葉に集約することができる。そこで『トレーニングの質と量』そして『個人・集団としての競争力』という2つのエレメントがパフォーマンスに決定的な影響を与えることになる。トレーニングの質量を高めるには、クラブ、コーチングスタッフ、指導者の文化、教育、情熱とそれを支えるバックグラウンド(予算、施設など)が必要だ。そして選手のパフォーマンス(競争力)を引き出すためには、彼らのメンタルサポート(精神的ケア)も必要不可欠だ。その大きな理由として、各選手は異なる価値感、家族、教育、背景、信条、文化を持っていることがある。
異なる人間を全く同じような駒としては扱えない。スタッフ、指導者、スポーツ選手である以前に、私達は『人間』である。作戦ボードやデータの管理が全てではない。選手をいかに人間として扱うかによって、パフォーマンスの差は決まる。チーム構築とマネージメントにおいて最も大切なもの、それが『人間性』という言葉かも知れない。高いレベルの指導者になれば、誰もが口を揃えて以下のような言葉を口にする。
『難しいのは、トレーニング内容やボード上の戦術ではない。チームの人間的な管理やパフォーマンスの引き出し方がずっと難しい。メンタルの部分で勝負は決まるからね』
指導者、選手、チームの成功の鍵を握るのが、人間的マネージメント能力であることを見直したい。本来スポーツには、会社や家族と同じように人間で構成される集団活動という原点がある。同じような環境で競争する選手達の場合、特にこのような人間的なマネージメント(メンタルケア、安定した生活、良好な人間関係など)がパフォーマンスや怪我などに影響する。プロのサッカーチームや、エリートの育成クラブには、メンタルケアを担当する精神科医が在籍する。それほどメンタルケアの重要性は高い。アマチュアクラブで資金が苦しい場合、コーチ陣は仕事を上手に分担する。限られたリソースの中で、選手にかかるストレス負担を軽減するために、多くの工夫も求められる。