『チームでのコミュニケーションと批判的思考(前半)』
今回のコラムでは、指導者によるチーム管理ツールの1つ、『コミュニケーション』について考えてみる。スポーツグループの管理において、人間グループを統率するという観点からも、指導者には人間力が求められることは以前のコラムでも繰り返し言及している。筆者の意見では、指導者がチームを統率するにあたり、最も大切な能力の1つがこのコミュニケーション能力である。当然ながら選手と指導者におこるコミュニケーションにも、いくつかの種類が存在する。分類から主軸となる、①選手個人との対話、②グループへの情報伝達、③批判的思考に基づく議論、という3つのブロックについて考えてみよう。
スペインなどの西欧文化では、『対話』こそが人間関係の基本と位置づけられている。西欧文化はディスカッションを好む傾向が強いことでもよく知られている。古代の哲学者も、対話による知識の洗練と共有を提唱している背景もご存知だろう。同じように西欧のスポーツ環境においては、指導者と選手の関係に対話することは欠かせない。やはり対話こそが、最も大切なコミュニケーションの方法だ。人間心理学としても、このメソッドが信頼関係の構築方法である。対話を介すれば、あらゆる情報伝達が可能となる。そして対話を上手に行なうことが、選手のモチベーションの向上への近道ともなる。なおスペインでは、『優秀な選手ほど指導者とのコミュニケーションが上手』と表現される。
そして対話を持つことで、①問題提起、②問題解決、③チーム内の確執解決などについて、指導者と当事者が共通理解に近づくことも可能となる。社会関係と同じように、スポーツ環境の大部分の問題解決が対話を通して可能となる。なお問題解決のための対話については、第三者の仲介役を同席させることを勧めている。
チーム内において対話の習慣付けができれば、その洗練化も意識したい。ソクラテス式問答法とも呼ばれるが、質問と討論の形式による論理的な共通理解も期待できる。質の高い対話により、理性的思考を刺激しアイデアを生み出すための質問と回答を、指導者と選手で常に実現できる。建設的なディスカッションは、感情をコントロールしながら、論理的にチーム背景を理解して、公平な形で実行することが理想だ。
指導者は毎回のミーティングにおいて、グループ全体に対しての情報伝達やコミュニケーションを行なう義務がある。またリーダーならば集団を代表して、1個人としての意見を述べる必要もある。そこでリーダーたちは、集団に対して明確な情報の共有を義務付けられる。リーダーによる論理だった明確な情報伝達は、グループの記憶や学習に大きく貢献する。戦術的、戦略的にグループが記憶を蓄積して成長するためにも、この情報伝達プロセスを日頃から洗練させたい。そこで指導者がグループとの連携を高めるためにも、以下のようなポイントに留意する。
①環境面の確保と準備
▪ミーティングの時間、構成、映像やマテリアルの準備
▪ボード、ビデオ、プロジェクターなどハード機材の準備
▪集中してミーティングを行なえる環境の確保
②指導者としての準備と覚悟
▪指導者としての身なりと振る舞い(態度、服装、口調)
▪選手たちの士気を高めるための準備(希望、団結、挑発)
▪情報伝達におけるトーンを有効活用する(音声、ジェスチャー)
③戦術・戦略的なアプローチ
▪客観的な観点から分析して問題提起を行なう
▪状況背景や解決方法などを論理的に説明する
▪感情のインプットなどで緊張感や闘争心を高める
▪緊張感をほぐすために冗談話などで団結をはかる
コラム前半のまとめとなるが、グループを統率するには、技術・戦術・戦略的アプローチだけではなく、メンタル的なグループ構築も大切となる。このグループ構築と共通意識の中心に存在するものが、コミュニケーションだ。そしてコミュニケーションの質を向上させるためには、①個人との対話、②グループへの情報伝達、③批判的思考の助長、というべースから洗練させていく。このプロセスにはゲームの深い理解だけではなく、多くの経験や知識、社会的スキルや人間としてのカリスマ力なども要求される。世界で活躍する高いレベルでの指導者になれば、このような目に見えないスキルも高い傾向にある。