海外スポーツコラム一覧

2015-11-2

タイムアウトと情報伝達のまとめ

◆タイムアウトにおける情報整理について

 タイムアウトについてのコラム最終回だが、情報伝達のポイントなどを中心にまとめてみたい。まずタイムアウトにおける、情報の整理に気を遣いたい。タイムアウトでは選手が記憶、またはプロセスできる一定量以上の情報を伝達し続けないように気をつける。情報のパンクが発生すると、まず選手の多くはスイッチを切ってしまう。そのためタイムアウトでは、短いメッセージを単刀直入に強調すことがポイントとなる。

 そして情報の中でも優先順位をつけて、チーム状況を改善するための情報を厳選する。そこからの伝達方法を、様々なアプローチにより工夫する。同時にまとめた情報をカテゴリー化またはグループ化して整理する。例えば攻撃、守備、局面別に情報をまとめて順序よく伝達する。選手にとって理解しやすいタイムアウトを構築するためにこの情報整理が欠かせない。

overseassports97_01
◆情報伝達の『HOW』と『WHAT』について

 タイムアウトの情報伝達における、HOW(どのようにして伝達するか)とWHAT(どの内容を選び伝達するか)について考察したい。心理学によれば、メッセージの90%がどのようにして伝えるかという『HOW』の部分であり、実際に何を伝えるかという『WHAT』の部分は、全体のメッセージの10%に満たない。そのため『HOW(どのようにして)』の伝え方の部分こそが、メッセージの重要なポイントと考えられる。

◆口頭によらないコミュニケーションの大切さ

 タイムアウトにおけるコミュニケーションは、大きく『①口頭によるもの(Verbal)』、『②口頭によらないタイプ(Non-verbal)』の2つに分類される。コミュニケーションにおけるメッセージ性を考えれば、口頭によらないコミュニケーションは、口頭によるものと同等に重要である。繰り返しになるが、ジェスチャーなどを用いてメッセージの伝え方を強調することは、極めて重要なコミュニケーションの手段である。この口頭によらないコミュニケーションだが、主に、①選手との距離感、②姿勢や振る舞い方、③ジェスチャー、④顔の表現方法、⑤声のトーンなどのようなエレメントを使い分けることで効果的なものとなる。

overseassports97_02
◆タイムアウトにおける2つのポジション

 ボールスポーツのタイムアウトにはいくつかのポジションがある。ここでは代表的な①サークルポジション、そして②対面ポジションについて紹介する。

①『サークルポジション』とは、サークル状に選手が指導者を囲むポジションのこと。主に試合に出場している選手への情報伝達がメインとなる。傾向として指導者の目の前に、プレー中の選手が集まり、交代選手などがその周りを囲むポジション。指導者を囲める人数が限られているため、全員にそのメッセージは伝わりにくい。トレーニング中に用いるにしても、サークルポジションでは全体への修正は伝わりにくい。一方でゲーム形式やセットプレーなどの指示には、この緊密なサークルポジションが向いているだろう。

②『対面ポジション』とは、指導者の前に選手を1列に座らせたり立たせたりするポジションのこと。チーム全体に対しての伝達事項ならば、選手を一列に並べた方が効果的だ。また多少ではあるが選手を座らせることで、一時的にメンタル、フィジカルの回復も試みることができる。規律もとりやすく、全員にメッセージが伝わりやすいことから、トレーニングレベルでも導入しやすいポジションだ。

overseassports97_03
◆タイムアウトにおける指導者の姿勢について

 タイムアウトでは指導者の姿勢によって、メッセージの伝わり方は変化する。指導者の距離感、立ち位置、姿勢(しゃがみ、立ち、椅子座りなど)によって、メッセージの意味合いやトーンは全く異なる。例えばメッセージの一貫性というポイントから、インテンシティーを引き上げるためには、冷めた態度では選手の心に響かない。このような指導者の態度や姿勢は、自らの意識でコントロールできる要素だ。そのためタイムアウトやメッセージ伝達時に、指導者は自分の姿勢や口調とメッセージの一貫性などを意識したい。

overseassports97_04

 ジェスチャーの他には顔の表情によっても、メッセージを伝えることが可能だ。このような姿勢や態度におけるコミュニケーションのエレメントについては、普段のトレーニングから選手と指導者が共有していくことが望ましい。ふとした瞬間に、アイコンタクトや顔の表情によって意思疎通が取れることも、日常トレーニングあってのテクニックである。

◆個人的な修正や指摘を促す『RAPPORT(ラポール)』

 指導者が言葉だけでなく、選手との距離感、姿勢、態度などによって選手との信頼関係や協調性を築くこともできる。例えばタイムアウトなどで選手に個人的に注意をしたい場合、または選手の態度に変化を加えたい場合、指導者は独自のジェスチャーやアイコンタクトで個人選手に注意を促すことができる。このようなコンセプトを、RAPPORT(ラポール)と呼ぶ。

overseassports97_05
◆トーンなどを巧みに操るテクニック

 そしてタイムアウトやコミュニケーションには、音声や口調を巧みに操るテクニックも大切だ。①呼吸法、②声のボリューム、③ジェスチャー、④沈黙やタイミングどり、⑤声のトーン、⑥口調のリズムやスピードなどがその代表だ。

①呼吸法によって、指導者のメンタル状態が理解できる。口調や呼吸が速ければ、指導者に焦りやストレスの蓄積がある傾向にある。

②ボリュームとスピードを程よく上げることで、メッセージのインテンシティーを高め、選手のモチベーションを高めることができる。メッセージのボリュームについてだが、音声が強ければ、メッセージの重要性を強調できる。

③ジェスチャーについては先述したように、メッセージの伝達率を高めるために大切なエレメントだ。

overseassports97_06

④沈黙などを入れることで、情報の質を向上させることもできる。一瞬の沈黙を挟めば、指導者が発するメッセージのインパクトも向上する。また数秒間のタイミングを置くことで、選手たちの注意力や理解度もアップする。

⑤トーンチェンジは、選手の注意を促したりする特殊な効果もある。いきなりボリュームを上げたり、トーンを変えることで、選手の緊張感や注意力を引き上げることもできる。

⑥落ち着いた口調ならば、選手に落ち着きを伝えることが可能となる。早口のタイムアウトでは、選手の理解が望めない。まずは落ち着いてタイムアウトを行なうことが、選手の理解促進のためには好ましい。口調やリズムを調節することで、コミュニケーションを向上させることができる。

overseassports97_07
◆トレーニングからのタイムアウト導入について

 普段のトレーニングからタイムアウトを導入して、選手と指導者における情報共有や処理能力の向上を試みる。スペインACBバスケットリーグの著名な監督の中には、毎日のミニゲームなどでタイムアウトを導入する方々もいる。60秒以内で情報伝達を行なう習慣を、トレーニングレベルから導入しようというアイデアだ。このようなアイデアで、指導者の伝達能力だけでなく、選手の注意力などもトレーニングできる。

◆タイムアウトについての注意事項(まとめ)

   *タイムアウトを使う目的を明確にして一貫性を持たせる
   *問題の特定、原因分析、解決方法、注意事項を整理する
   *整理した情報を、シンプルかつ単刀直入に伝える
   *それでも本来伝えたいメッセージは100%は整理できない
   *どんなに整理された情報でも、選手は100%を理解できない
   *情報強化にはジェスチャーやビジュアリゼーションなどを利用する
   *ジェスチャー以外にも選手との距離感、姿勢、顔の表情なども工夫する
   *呼吸法、沈黙、タイミング、トーン、ボリューム、スピードを調節する
   *トレーニングや練習試合から積極的にタイムアウトをトレーニングする