『スポーツ環境の進歩に必要とされる“社会価値観”』
現代のスポーツ競争環境において、社会教育の重要性が以前よりも多く問われるようになっている。スポーツ心理学の発達、メディアの介入、社会規制の発達、スポーツのプロフェショナル化などに伴って、現代のスポーツ選手には様々な社会教育的要素が求められる。現代のスポーツ選手には、競争パフォーマンスの向上以外にも、実に多くのものが必要となる時代にある。
今回のコラムでは、スポーツアスリートやスポーツ環境の進歩に必要とされる『社会価値観』について考察する。スポーツ環境の発展に携わる皆様には、是非ともスポーツ団体やスクールにおける哲学形成などに参考にしていただきたい。『社会価値感』という言葉にあるように、今回のコラムで取り上げる価値観は、スポーツ環境のみならず社会生活にも当然ながら適用できる。
◆心の底から湧く、真のモチベーション
まず筆者は、スポーツアスリートに最も必要とされるエレメントに『モチベーション』というコンセプトを挙げたい。人生やスポーツの成功や失敗は、能力の優劣により全てが決定付けられるわけではない。スポーツの世界では、多くの場合、能力の高い選手ではなく、最後まで自分を信じきった選手が成功することも可能だ。自分を信じて、忍耐強くトレーニングに徹するための『モチベーション』は何よりも大切なエレメント。選手や指導者は、心の深い場所に存在するモチベーション、『真のモチベーション』をしっかりと探ることが求められる。この真のモチベーションが明確になれば、実際に目標設定などのステップへと移行できるだろう。
モチベーションがあれば、目標を達成するための努力を惜しまない。継続する力を維持したり、挫折から復活することもできる。またモチベーションがあれば、勇敢にリスクに直面することも可能となる。モチベーションが高ければ高いほど、チャレンジに意味や価値を見出すことができる。選手や指導者のモチベーションがあれば、トレーニングに徹するだけではなく、知識の追求や研究を怠らないポジティブな意欲も湧き出てくる。
またモチベーションがあれば、スポーツ環境だけでなく、私生活においても高い意識を持って目標を追求する姿勢が持てる。仮にモチベーションが欠けていたり、それが表面的なものであれば(それを“偽のモチベーション”とここでは表現する)全てが困難となることも容易に理解できる。
◆優れたものを求めて競争する姿勢
そしてモチベーションの次に、より質の高いものを求める『競争する姿勢』を取り上げたい。普通の人なら誰でもよりランクの高い、優れた車を購入しようとする。同じように、より大きな住宅環境を探し求め、そしてより理想にかなった結婚対象を探そうとする・・・ このように自身の生活レベルの向上のために『競争する姿勢』は、社会のあらゆる側面において観察される普遍的な価値観だ。当然ながらスポーツ環境にも、この『競争する姿勢』が占める重要性は高い。
スポーツ選手がより速く、より強く、より高く、より多くの得点を記録しようと『競争する姿勢』は当然の価値観かもしれない。またこれは社会生活の基本姿勢でもある。より高い自分を目標として自分と競う態度は、社会における自身の地位を高めようとする人間の本来の姿に忠実なものだ。
◆集団として、全力で従事する姿勢
本当のプロフェッショナルは何事にも決して手を抜かない。個人として、そしてチームとして共通の目的に向けて『全力で従事する姿勢』もスポーツ選手が成功を手にいてるための大切なエレメントだ。ここで重要となるのが、個人としてではなく『集団で従事する』ことだ。これはスポーツ環境(チームなど)に限らず、社会の競争環境(会社など)にも適用できる価値観だ。集団主義が個人至上主義を上回るからこそ、チームの成功が可能になる。集団としてのモチベーションを信じて、全力で従事する姿勢がグループに与えるエネルギーは計り知れない。
◆協調する姿勢、そこから生まれる“友情”という絆
スポーツ環境では基本的価値観として教えられる『協調する姿勢』だが、これは集団競技に限ったエレメントではない。個人競技においても、スポーツ圏外の環境においても、メンバー、家族、友人との協調なども意味している。人と助け合う姿勢は、目標を達成するために必要不可欠なものだ。先述にあるように、自己超越のためには競争環境が欠かせない。しかし健全な競争環境には、協調性が求められることを忘れてはならない。ここでの協調性とは、弱点を分析して自己向上するための姿勢、学習を続ける意欲、目標を達成するための努力・・・ など仲間達と励ましあう姿勢を意味している。そして協調性が生み出す『友情』という強い絆は、スポーツに従事する全ての人々にとって欠かせない財産となる。
◆尊重する姿勢『リスペクト』
社会価値観の基本でもある『リスペクト』だが、他人を尊重する姿勢以外にも、ここではフェアプレーを助長する態度、ルールも守ろうとする意図、ライバルを尊重する意味なども含まれている。人間感情の基本でもある『リペクト』の特徴は、『①相互作用であること』 + 『②後天性であり習得可能』ということだ。他人を尊重しなければ、他人は尊重してくれないのが世の決まりだ。そしてこの『リスペクト』という感情は先天性のものではない。あらゆる物事を尊重する姿勢とは、日々の教育や指導により、いかなる段階でも習得することができる。
エリートスポーツは競争環境だ。人生は山あり谷あり、全てが順調に進むことはない。『努力する姿勢』を忘れてはならない。また競争環境において、無償で勝ち得るものなど存在しない。あらゆるチャンスにも必ず犠牲や努力が必要とされる。そして『努力』という概念の意味は、苦難を超えるためにある。苦難を受け入れ、前進する、目標へ向けて迷わない『努力』だ。努力とスポーツ競争環境における成功は、一般的に正比例する関係にある。
◆自己超越というコンセプト
完璧というものが人間の空想に過ぎないとしても、完璧を求めることは『自己超越』というステップを歩むことを意味する。仮に人生に挫折しても、再度挑戦すること、目標を再設定することが『自己超越』の継続には欠かせない。ここで大切となるコンセプトが2つ存在する。①『自己満足の度合い』と②『物事に対する自信』である。いかに自分自身がそのプロセスに対して満足するかで、自己超越の達成度は変化する。そして自己超越を大きく助長する要素は、やはり何事にも自信を抱くことだ。もっと上手く、もっと高く、もっと速く、不可能なものはないという自信が自分の限界を打ち破るためのモチベーションになる。
◆自己犠牲の姿勢
自分の大切な目標のために、友人とのパーティーを何度あなたは欠席した経験があるだろうか。『自己犠牲』なくして真の成功は不可能だ。娯楽の時間を削ってでも、夢を追いかける。何事を達成するにも、代償はつきもの。自己犠牲は必要不可欠だ。一見して困難に見える目標の実現でも、人間には順応力が備えられている。目標に向けて、いかに従事して努力する方法を自ら導き出す能力を人間は備えている。
皆様にはここで、ビル・ゲイツ、スティーブン・ジョブスのように時代を塗り替えた企業家らの苦労話しを考えていただきたい。画期的な発明の裏には、血の滲むような努力が隠されている。天から降ってくる宝物など存在しない。教育の段階から、いかなる成功も可能ではあるが、運や偶然にいよる成功は存在しないと強調する必要がある。何かが起こるまで待っていても、目標を達成することは不可能だ。自己犠牲の精神をもって、何かを実行することで、①従事、②努力、③自己犠牲、④試行錯誤、⑤目標到達・・・といったステップが現実のものとなる。
◆高い要求を維持する姿勢
スポーツ環境においては、フィジカル、練習態度、継続性、プレーの正確性、活動への従事の度合いなど・・・全てにおいて『高い要求を維持する』ことが指導者や選手の義務だ。そして完璧を目指して自己超越を実践するには、『①モチベーション』、『②責任感』、そして『③高い要求の維持』、という3つの要素が必要不可欠だ。目標を高く設定することで、達成感も比例して大きくなるはずだ。自分自身に対する要求の高さで、その人間が現状に満足するタイプかが明確になる。現状に甘えてしまうと、自己超越のプロセスを進めることは困難となる。また自己超越のプロセスを諦めると、仕事、学問、スポーツなどの全てが消極的な“時間潰し”へと惰性化してしまう恐れがある。
◆適切な感情コントロール能力