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2013-9-16

「ワールドゲームズ」についての考察

2013/09/16

 読者の皆様は「ワールドゲームズ」というイベントをご存知だろうか?このワールドゲームズは、1981年より4年に1度、夏季オリンピックの翌年に、国際オリンピック委員会(IOC)の後援を得て国際ワールドゲームズ協会(IWGA)の主催によって行なわれるスポーツイベントだ。筆者も2013年カリ大会に参加する機会をいただいた。南米のコロンビア、赤道に程近く常夏のカリは大きな活気に包まれた。それでは今回は、”オリンピックの補完的大会”としても知られるこの”ワールドゲームズ”について特集してみる。

◆ワールドゲームズの由来について

 1980年、世界テコンドー連盟のキム会長らの働きかけにより、オリンピックに参加できない競技種目による国際大会の助長を目的として、ワールドゲームズは発足した。日本からは相撲、空手道、空道などが名前を連ねている。韓国発のテコンドーのスパーリング競技が、2000年よりオリンピックの正式競技種目となっていることも、同テコンドー連盟の強い働きかけあってのことと言われている。

 

◆ワールドゲームズとオリンピックの”補完性”

 また1980年以降、オリンピック競技の規模拡大に平行して、同競技として認められていないスポーツ種目の増加が、近年では著しく見られている。”オリンピックの補完的大会”と記したのは、綱引きやトライアスロンの例にあるように、ワールドゲームズ競技種目とオリンピック競技種目の入れ換えの可能性が存在するためである。ワールドゲームズを主催する国際ワールドゲームズ協会(IWGA)は、国際オリンピック委員会(IOC)のサポートを受けており、今後も両者の発展的な関係が期待されている。

 ラグビー・セブンス競技(7人制)などが、ワールドゲームズとオリンピックの”補完性”の1例でもある。ワールドゲームズでは、2001年秋田大会より、男子ラグビー・セブンス(7人制)が開催されていることは多くの人がご存知だろう。2001、2005、2009年と3回連続でフィジーが優勝したこの7人制ラグビーだが、オリンピック2016年リオデジャネイロ大会より、正式に同競技が追加されることが決定した。そのため2013年大会がワールドゲームズにおける同競技最後の実施となり、以降はオリンピックに”格上げ”されることになる・・・そのようなことからワールドゲームズは「第2のオリンピック」と呼ばれたりもするのだ。

 それでも国際オリンピック委員会は、同大会への参加者を10500人に限定する方向性を示しており、ワールドゲームズから多くの競技がオリンピック競技へとアップランクすることは、事実上とても容易な事ではない。

 


◆ワールドゲームズの種目などについて

 それではワールドゲームズの競技種目などに目を向けてみよう。2013年コロンビア・カリ大会に目を向けてみると、公式競技には実に親しみ深い競技が名を連ねている。日本の学校教育でもお馴染みの、ソフトボール、綱引きのように以前オリンピック競技として知られた競技もある。またビリヤード、ボウリングといった世界共通の種目も多く見られる。そして今となっては世界中で多くの人に愛される”日本発”の空手道、柔術、相撲などもワールドゲームズの競技に入っている。

 またワールドゲームズでは、開催地の施設によって参加種目が限定される。そのため競技種目のために新しい施設を建設することは、原則として認められていない。そのような背景もあり、ワールドゲームズは低コストで経営可能な大会とされている。また同大会では、一般的に30-40種目が競技種目として競われ、メダル表彰なども執り行なわれる。

 2013年はコロンビア・カリで開催されるワールドゲームズだが、実に120カ国から4000人を越える選手が集まり、とても見ごたえのあるイベントとなった。”スポーツ・フォー・オール(全ての人々のためにスポーツを)”として、市民参加型スポーツイベントやコンサート、展示会なども義務付けられており、街中で活気のある文化的イベントが開催される側面も見られた。

 

◆国際ワールドゲームズ協会(IWGA)加盟競技の一覧

■合気道
■エアースポーツ
■アーチェリー
■ビリヤード
■ボディビルディング
■ブールスポーツ
■ボウリング
■カヌー
■キャスティング
■ダンススポーツ
■フィストボール
■フライングディスク
■体操

■ハンドボール
■ホッケー
■柔術
■空手道
■コーフボール
■ライフセービング
■ネットボール
■オリエンテーリング
■パワーリフティング
■ラケットボール
■ローラースポーツ
■ラグビー(7人制)
■ソフトボール

■スポーツクライミング
■スカッシュ
■相撲
■サーフィン
■綱引
■水中スポーツ
■水上スキー

◆過去のワールドゲームズについて

 以下にワールドゲームズの過去の経歴を調べてみよう。1981年に第1回大会がアメリカのサンタ・クララで開催されており、1260人のアスリートが18種目を競演した。それから32年、ワールドゲームズはその規模を約3倍に拡大した。また日本の秋田でも第6回大会が2001年に行なわれ、公式競技26、公開競技5が実施されている。なお当時の観客数は30万人に達している。この秋田大会は県や市町村の負担、民間からのスポンサー、寄付、入場料などの収入が、支出総額の22億1千万円を大幅に上回る黒字となり、国際大会としては大成功に終わっている。

 ヨ-ロッパで行なわれた2005年ドイツ・デュイスブルク大会では、102の国や地域から約3400名もの選手が参加した。また同大会の模様は147の国や地域で放映され、日本からも23競技に112名の選手が参加している。なお当時の日本勢のメダル数は、合計18個に終わっている。そして2009年には台湾の高雄(ガオション)で行なわれた前回大会では、105カ国から5000人にも及ぶアスリートが集結、過去最大の規模となった。また日本からは162名が参加、メダル合計19個を獲得している。

 2013年大会の当初の予定はドイツ開催とされていたが、経済危機などの深刻な影響から、コロンビアがそのポジションを受け継ぐことになった。南米のリオデジャネイロでの夏季オリンピック開催決定に象徴されるように、時代に伴ってワールドゲームズも南米で開催されることが決定した。なお2017年の開催地は、欧州ポーランドのブロツワフに決定している。

 

◆低費用のワールドゲームズ

 通例では約10日間にわたり行なわれるこのワールドゲームズだが、室内競技などが多いこと、低予算の競技が多いことなどから、低費用で実施できることも大きな特徴だ。日本の秋田で行なわれた2001年第6回大会では、31競技、93カ国から約3300人の参加者があり、約22億円の費用がかかったと計算されている。またワールドゲームズを主催する都市には、会場を既存のものでまかなうことが原則として求められている。そのため大規模な施設の改修や建築が必要とされるオリンピックに比べると、非常に低予算の大会となる。日本では、東京都港区にある日本ワールドゲームズ協会が2013年より特定非営利活動法人として統括しており、その他の情報などについて問い合わせることも可能である。

◆ワールドゲームズの公式競技や公開競技について

 ワールドゲームズにも、オリンピックと同じように公式競技(実施競技)、公開競技などが存在する。公式競技はメダルをかけて競争する既存の競技である。公開競技とは一般種目入りを目指す種目が、委員会の支持を得るべく、エキシビジョン形式でのトーナメントなどを披露するプログラムを一般的には示している。

 2013年のコロンビア・カリ大会では、コロンビアフットサル協会、オリンピック協会の支持を得て、フットサル競技を公開種目の一端(ガーデンスポーツと称している)に導入している。12カ国のフットサルチームが集まり、トーナメントや公開トレーニングなどを行ない、委員会やファンに大きく競技アピールを狙った形だ。なお試合はどれも2000人を超える満席で、熱気に溢れた国際試合を毎日楽しむことができた。また試合の様子も国内テレビで放映されており、マイナースポーツへの関心度の強さが伺えた。

 

 筆者もフットサルエキシビションの委員として今回のワールドゲームズに参加した。マイナースポーツのフットサルとはいえ、サポーターで満員となった会場では南米のエネルギーとスポーツへの情熱を肌で感じる貴重な経験となった。また遠い南半球の地まで来たものの、ワールドゲームズはどの競技も想像を超える充実した施設と高い競技レベルで、多くの観衆を魅了していたのが印象に残った。なかなかスポットライトを浴びないマイナースポーツにとって、このような国際大会に参加することがいかに重要かを実感することができた。

馬場 源徳(ばば もとのり)

 1981年長崎市生まれ。上智大学比較文化学部卒業。アルゼンチン・ベルグラーノ大学南米文学科修了。東京、ブエノスアイレス、バルセロナから台北を経て、現在スペインに拠点を置く。スペイン語・英語・中国語を中心に、翻訳家、通訳としても活動するフリーランスコーディネーター。ボールスポーツを通しての国際交流、青少年教育を中心に研究。異なる文化環境で培った社会経験を活かして、日本と世界の国際交流に貢献することを目標とする。好みの分野はボールスポーツに限らず、紀行文学、国際社会、ITテクノロジーなど。