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2015-3-23

最高の選手を目指す・インビジブルトレーニングについて(前半)

はじめに

 素晴らしい選手と最高の選手の違いについて考えよう。 コラム46回『エクセレンシア・自己超越』や、51回『間接的・インビジブルトレーニング』などでも、トレーニング外の時間から選手の競争力の強化についは研究したことがある。近年ボールスポーツの進化にともなって、スポーツ環境の競争レベル、要求度は高まる一方となっている。そのような時代の中、選手にとってインビジブルトレーニングのように、トレーニング時間外でのリカバリー、自己管理、戦術確認、緊張感の維持などは欠かせない。

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トレーニング外の時間をどう過ごすのか?

 明らかではあるが、トレーニング外における日常の時間はトレーニング時間よりも圧倒的に長い。例えば毎日2時間のトレーニングを実施すれば、残りは22時間も残されている単純計算だ。つまり90%以上の時間が、トレーニング以外の時間となる。限られたトレーニングで最高のパフォーマンスを発揮できるためには、日頃から目に見えないトレーニングを実行することが必須条件だ。これを欧米のスポーツ研究では、『インビジブルトレーニング』と称している。エリートの選手になれば、このような日常からの管理は徹底的なものとなる。トレーニングで最高のパフォーマンスを発揮できるように、各自調整を行なうことは選手の成功の鍵となる。また選手がトレーニング外の時間をどう過ごすのか、指導者側からも細かくサポートが求められる。

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トレーニングにおける超回復の原理

 生理学的観点から見れば、スポーツトレーニングとは『超回復の原理』に基づいて構築される。トレーニングでは生理的な負荷を段階的、部分的に調節しながら、超回復を引き起こすことを目的とする。コーチ陣は各競技、各トレーニングサイクルで目標となるフィジカル要素を分析して、トレーニングから合理的かつ段階的に選手のレベルの引き上げを目指す。これがスポーツの生理学的視点から見た『超回復の原理』だ。

リカバリーを促進させる義務

 トレーニングの負荷によって、選手は局地的に疲労を蓄積することになる。コーチングスタッフ、そしてフィジカルトレーナーの狙いには、試合で想定される負荷をトレーニングから再現することがある。トレーニング後の超回復を引き起こすにあたり、各トレーニング間に適切な回復時間を与えることがポイントとなる。選手が過度の疲労蓄積をかかえると、パフォーマンスは顕著に低下する。筋肉疲労が正しく回復できない状態で、理想的なパフォーマンスの維持は期待できない。選手は毎回のトレーニングや試合後、リカバリー、休憩、栄養補給などを適切に行ない超回復を促進させる義務がある。その努力の結果、毎回のトレーニングにおける最善のパフォーマンスが可能となるだろう。

リカバリーの促進の意味について

 選手はインビジブルトレーニングと称される、トレーニング外での努力と工夫により、リカバリー時間を短縮することができる。リカバリーの質が向上すれば、怪我の可能性が減少して、オーバーワークの危険性も低くなる。同時にホルモンバランスの回復なども促進され、エネルギー供給システムも健全に機能しやすくなる。また単純明快ではあるが、それにより筋肉のダメージ修復も促進される。つまりスポーツ選手はトレーニング外における時間から、常に選手としての自覚を持って行動する必要がある。

水分補給の大切さとは

 補給という観点から、超回復のプロセスで決定的なポイントとなるのが、栄養補給、そして水分補給である。適切な水分、栄養の補給によってのみ、超回復およびパフォーマンスの向上が可能となる。ミネラル、イオン、ビタミン、アミノ酸などを含んだ水分補給も好ましい。

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選手の精神力とオーバーワークについて

 リカバリーの天敵となるオーバーワーク(過度のトレーニング)について考えてみよう。モチベーションの低下だけではなく、怪我にも直結する恐れのあるオーバーワークだが、①選手の技術・戦術・体力不足などを理由とする指導者の不安感、②集中力不足など、選手の心理的問題に対する指導者の不信感、という大きな理由が考えられる。選手への不信感や圧迫から、多くの指導者はオーバーワーク(過度のトレーニング)に陥る危険がある。オーバーワークを防ぐためには、選手と指導者の信頼関係が必要となる。選手の集中力もパフォーマンスも安定していれば、指導者は安心してトレーニングを切り上げるだろう。また高い集中力や精神力を備えた選手ならば、トレーニングや試合でも安定したパフォーマンスを披露するだろう。そのため多くのスポーツ研究者は、選手の心理強化をオーバーワークの未然防止のポイントに挙げている。トレーニング以外の時間から、選手の精神力を向上させることを意識したい。

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メンタルトレーニングの必要性について

 選手は一般のトレーニング以外にも、メンタルトレーニング(精神的メインテナンスなど)を実践する義務がある。選手としての自己管理に、メンタルトレーニングは欠かせない。特に短期的に現実可能な目標を設定する場合に、メンタルトレーニングは計り知れない効果をもたらす。目標を設定して、ストイックに計画を実行する精神力を持った選手の成功は保証される。選手達は、モチベーションを維持させるために、各自メンタルトレーニングを実施する必要がある。

最高のメンタルトレーニングはストレス解消

 最も大切なメンタルトレーニングとは、ストレス解消かもしれない。そしてストレス解消の中で最も有効とされる方法が、『話す』という行動だ。例えば練習前に、信頼できる人間に心境や状態を打ち明かしてみよう。計り知れないストレス解消となり、トレーニングにおける集中力が高まるだろう。その他にも人間がポジティブ思考を保つためには、様々な方法が考えられる。大切な大会や、トレーニング期間の前には、信頼できる人間に心境を打ち明けるだけではなく、心の不安をコントロールする方法を工夫したい。様々なストレス解消方法の中には、呼吸のリズム調整、食事制限の解禁など実に多くの種類がある。

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イメージトレーニングについて

 イメージトレーニングの一部分とも解釈されるが、動画などを用いたビジュアルトレーニングも、メンタルトレーニングの大切な一種である。試合やトレーニングの再現となる状況や、試合などで必要とされる動作を、ビデオやビジュアルボードなどを通じてインプットする手段である。PCはインターネットなどを通して、指導者、選手両者によるイメージ共有も可能な時代を利用したい。あた選手一人でも、インターネット動画などを通して、競技に対するイメージを深めることができる。

スポーツ選手と清潔管理について

 スポーツ選手の日常におけるパフォーマンスと、私生活からの清潔さや規則正しさは密接に関係している。皮膚を清潔に保つ、しっかりと爪を切る、シャワーなどでしっかりと体をリラックスさせる。また歯磨きや手洗いを、規則正しく実行する。規則正しく清潔な生活習慣は、選手のメンタリティーそしてパフォーマンスに計り知れない影響を与える。それでは以下に、この『スポーツ選手と清潔管理』のポイントを挙げてみよう。

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日常生活からの変化と調整について

 私生活から意識を高め、習慣に変化を与えること。トレーニング不足を補う方法、またはリカバリーを促進する方法は無数とある。私生活の中から選手は高い意識をもって、各自の体調管理などに向き合いたい。例えば、自転車、散歩、ジャグジー、水圧マッサージ、サウナ、マッサージ、ストレッチ、酸素カプセル、栄養食品、清潔管理、骨盤調整、美容管理など・・・日常生活のリソースから変化を与えることが可能だ。選手はそれぞれの必要性に応じ、トレーニング外の時間からも体調管理などの調整を実行したい。

怪我には適切な対応をとる

 万が一怪我が発生した場合、まずは早急に措置をとる。RICEなどの基礎知識を理解した上で、選手は日常のトレーニングに取り組みたい。また怪我後のリハビリや回復分析などは、リスク管理も含めプロフェッショナルの人材に依頼することが望ましい。競技性質や選手体質を理解したドクターは重宝するべき人材だ。このような管理を怠れば、怪我の回復が遅れるだけではなく、選手生命にも大きな影響を与える可能性がある。

時間管理と優先事項について

 選手の時間管理でも、食事時間、休憩時間、遊び時間など、トレーニング外でのマネージメントと優先事項の決定が選手には求められる。己の時間管理に優れている選手は、トレーニングや試合でより高いパフォーマンスを可能とできる。スペイン人指導者がよく口にするが、『トレーニングと私生活の姿は同じであり、試合でのパフォーマンスも日常生活の反映に過ぎない』ということだ。いかなる仕事や学問においても、毎日の時間配分とタスク管理は欠かせないのと同じである。

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