海外スポーツコラム一覧

2014-5-26

グループの絆を深めるための心理ゲームについて

 団体種目のボールスポーツに従事する場合、グループ管理は最重要課題の1つだ。グループ内の摩擦を減らし、可能な限り健全で協力的な集団を形成することは、高いトレーニングの質の追求に直結する。今回のコラムでは、日常のトレーニング以外にも大きな効果をもたらす『グループの絆を深める心理ゲーム』を紹介したい。英語ではアイス・ブレーキング(氷を打ち砕く)と呼ばれるテクニックであり、心の扉を開く心理セラピー(今回紹介するものはゲーム形式)である。なおコラムの作成にあたり、スポーツ心理学者のグラシエラ・ロイス先生にはたくさんのアドバイスを頂いた。この場をもって感謝の意を表したい。

 前置きとして強調したいのが、グループ意識の向上のためには“恥”を捨てて親近感を持つことの大切さである。パーソナルスペースとも呼ばれる、人間の距離感を短くすることが信頼への近道だ。選手間の心理的な距離を近づけるために、有効な方法として“ボディーコンタクトを助長する”ことが欧州では重視されている。スペインなどでは、一般常識としてボールスポーツ環境のウオーミングアップからグループ意識を高めるためにフィジカルコンタクトが重視される。今回の心理ゲームもこのボディーコンタクトと親密な関係性がある。そのようなグループ意識を高めるためのウオーミングアップについては、別回のコラムで詳しく取り上げたい。

overseassports_0062_01

◆視覚、聴覚を無効化しての心理ゲーム

 ボディーコンタクトの助長につながる心理ゲームであるが、今回は典型的な“目隠しゲーム”のバリエーションを紹介したい。この“目隠しゲーム”は、集団として実践するインビジブルトレーニングの一環であり、チームパフォーマンスの向上には欠かせない、集団意識に好影響を与えることが期待できるメソッドだ。“目隠しゲーム”の準備は至って簡単だ。ビブスやタオルなど目隠しの機能を果たせるアイテムがあれば、様々なバリエーションのゲームを実践できる。どの年代でも、性別を問わず、どのような場所でも、短時間で実践できるのが特徴だ。なお選手に一定のサプライズと喜びを与えるためにも、あくまでも通常のトレーニング日に実践すると効果を発揮するだろう。

目隠しゲーム”に必要なマテリアル、スペース、時間など

◆選手全員分のビブス(目隠しの機能を果たすもの)

◆僅かなスペース(6mx6mでも十分に可能)

◆時間はごく短時間(3分間でもできる)

◆録画機材(映像に記録することもポイント)

overseassports_0062_02

①選手を円陣の形などに集合させる

 まずは選手全員を練習場の一角に集合させる。可能ならば、選手には特別なゲームを行なうことなどを事前に伝えない方が好ましい。この“目隠しゲーム”は、ごく日常のトレーニングに参加するような感覚で、ウオーミングアップの前などに簡単に行なうことが可能だ。まずは選手を何気なくサークル型に集合させる。ここで重要なポイントは、選手は自分のポジションを意識しないように自然体で集合させることだ。

②選手全員に目隠しをする(基本ルール)

 選手をサークル型に集合させたら、まずはビブスまたはタオルなどを手に持たせ、各自にしっかりと目隠しするように要求する。目隠しをさせることで、視界を完全に塞ぐ。心理学的に考えれば、視界を失った選手は、不安からかすぐに口頭のコミュニケーションに依存しようとする。対象グループのレベルや需要にもよるが、まずは目隠しをすることにより口頭のコミュニケーションを助長することが可能となる。

overseassports_0062_03

③口頭のコミュニケーションを禁止する(ルールの追加)

 ここからルールの追加が可能となる。今回のコラムでは、追加ルールとして口頭のコミュニケーションを禁止した。目隠しをした状態の選手が、口頭のコミュニケーションもできない状態となる。幼い少年グループなどの場合は、恐怖心に襲われて逆効果となってしまうかもしれない。また大人の選手でも、知覚情報の源となる視覚、聴覚をブロックされた選手は心理的な不安に襲われるだろう。

overseassports_0062_04

④選手達を手を伸ばせる位置まで近づかせる

 サークル形に集合した選手達を、前方に5、6歩近づかせる。視覚、聴覚を奪われた選手達は、自然と触覚に頼り自分の位置を確認するだろう。手を伸ばして、小さな歩幅でその他の選手との距離感を確かめようとするはずだ。この時点から、選手同士がコミュニケーションをとる唯一の方法はボディーコンタクトに限定される。先述にあるように、人間の距離感を埋めるには理想的な状況が作り出されたことになる。

⑤様々なバリエーションのゲームを考案する

 このように選手間の唯一のコミュニケーションが、フィジカルコンタクトに限定された場合、パーソナルスペースを取り除くことは非常に容易となる。ここからコーチングスタッフは実に無限のバリエーションのゲームを要求することが可能だ。ゲームの内容に工夫を加えるのは、コーチングスタッフの腕の見せ所だ。たとえば①身長順に並ばせる、②三人組のグループを形成する、③手を繋がせる、④ボールゲームを行なう、⑤アイコンなどを形成させる・・・とゲームのバリエーションは無限だ。

overseassports_0062_05

ゲームバリエーションのいくつかの例

◆身長順に並ばせる

◆複数人数のグループなどを形成させる

◆手を繋がせて、特定の行動をとらせる

◆簡単なボールゲームを要求する

◆「組体操」やジェスチャーを要求する

 今回は“目隠しゲーム”の例として『年齢順に並ばせる』という難易度の高いゲーム要求をしてみた。ボディーコンタクトのみを介して、お互いの年齢を確認し、視界の塞がれた状況でも順序を整えるという難題だ。この難易度の高いゲームを通して、選手達からは以下のような現象が確認できた。

overseassports_0062_06

⑥録画することの重要性

 このような“目隠しゲーム”を録画を通して確認してみよう。ゲームの内容にも左右されるが、選手同士の距離感がしっかりと打ち壊されている。とても愛情のある映像が見られるだろう。普段は殺伐としたトレーニングに慣れた選手達も、いくらか心が和むだろう。このような心理的ゲームを、指導者の皆さまも試してみてはいかがだろう。選手に録画した映像を見せることも、グループ意識などを向上させるにはよい方法だろう。普段は触れ合うことのない選手達も、このようなゲームを通して接近する機会を得る。

overseassports_0062_07

おわりに

 このようなゲームは、難易度や条件などを変更させることで、様々な年代やグループに対してこのような目隠しゲームを用いることが可能だ。目隠しゲームは本来、他人同士の間にある“恥”を捨てるために考察されたメソッドである。青少年がキャンプなどで仲間と打ち解けるために用いることが一般だ。だがこの種類のゲームの応用性は計り知れない。競争環境、エリートカテゴリーにも十分応用することが可能だろう。