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2012-1-24

ボールを持った子供達

2012/01/24

ボールを持った子供達、遊びながら培う「判断力」


 私は母国日本以外にもスペイン、アルゼンチン、台湾などの国々で仕事をしながらの長期間生活した経験がある。また、色々な国を訪れてはスポーツ環境に目を通すことに興味を持っている。小学校のグラウンド、公園、空き地、スタジアムを見て「将来のスターはここで生まれるのか」などと感じることがよくある。今回はボールで遊ぶことについて考察してみる。南米では、生まれた子供に初めて贈るプレゼントは、決まってサッカーボールで、ストリートでサッカーに興じる姿をよく見かける。スペインなどではどうだろうか?

 スペイン、ポルトガル、イタリアやフランスのような国では、頻繁にボールを持って登校する小中学生や、ボールを抱えて両親に連れられる幼児を見かける。もちろん若者や大人もボールを使ったスポーツが大好きだ。そのボールの量に比例して、一般開放しているボールスポーツ用の多目的グラウンド(バスケット、フットサル、ハンド、ホッケーなどが練習できる簡易グラウンド)の数は、日本とは比較にならないほど多いことに驚かされる。そのような多目的コートでは一日中、あらゆるボール競技などを、様々なカテゴリーの人々が練習している。そして競技に参加する女性の多さにも驚かされる。


「多くのサッカー先進国の子供達はよくボールで遊ぶ。それは多くのボール競技の発展に関連している」



 ボールの数の多さは、スペインの街を歩くとすぐに気がつく。あらゆる場所でボールを持った子供や若者を見かける。バルセロナのように人口密度の高い街では特に顕著である。広場、公園、空きグラウンドには常にボールを持った青少年達がいる。学校の課外スポーツもほとんどがボール競技だ。子供達はボールさえあれば友達作りには困らないようである。サッカー大国ということも確実に影響を与えているのだが、ボールを使った室内競技の人気は、スペインではとりわけ目を引く。

 また運動を普段は全くやらない若者も、公共の場所で一緒になってボールを蹴ったり、投げたりしている。日本では、公園によってはボール遊びは禁止されていることを考えると、やはり環境の違いに気がつくものだ。ビーチに行っても、歩行者天国でも、何と教会や警察署の目の前にある広場でもボールを使って遊んでいるのである。もちろん、一番人気はミニサッカーだ。荷物の入ったバッグやヘルメットなどで簡易ゴールを作って、とにかく試合を真似して遊ぶ。バスケットはリングがないと試合にならないため、やはり場所が限られている、ハンドやラグビーはコンタクトが多すぎるからか遊びでは少ない。公園の木と木と間にロープをくくったりする“即席バレーボール”も少なくはないが、主に南米系の女性の方が好んで遊んでいるようだ。それでも、全体的に考えると、日本に比べて圧倒的にボールで遊ぶ人々を目にする機会が多い。


「ボールで遊ぶ子供達は、ボールを扱う技術だけではなく、判断力に長けている」



 実は、私自身もスペインの公園や、空きグラウンドで友人とフットサルに興じることは少なくない。友人と誘い合わせて行ったり、時間帯が分かっていれば時々、友達2、3人などで空いた多目的コート(20x40mでゴールなどが設備されている無料開放施設)に向かう。新しい知り合いなども作れるし、仕事の合間などにリフレッシュにもなる。そして競技とは関係のない、ストレスを感じない楽しみには本当に癒されるものである。ほとんどの人は、集まった場所で即席ゲームに興じるのが普通だ。そのような遊びにも、やはり勝ちたい、相手を負かしたい、という心は誰にでも存在する。たくさんのスペイン人の青少年達を観察して、彼らの全ての根底にある「情熱」に気がついた。彼らは遊びでも本当に負けず嫌いなのである。それは情熱と伝統がなせることだろうか。そして競技的な視点から観察するとスペインの子供達にあって、日本人の子供達に欠けている「判断力」という言葉が浮かんできた。


「判断力」



 例えば、サッカー、バスケット、フットサルなどにおいて、技術では日本人の選手が勝っても、判断力では圧倒的にスペインの子供達の方が勝るのはどうしてだろうか?多々ある理由の中から、今回は、スペインなどの子供達の「ボール遊び」の環境の多さに注目したい。

 子供達はビブスもマーカーなしで、人で混雑した校庭のグラウンドや、公園などの公共の場所でボール遊びを毎日のように行なっており、自然とあらゆる判断力が養われる。昼も夜も関係なく、暗くても問題はない。人数が違っても、ぼろぼろのボールでも、とにかく必死にボールを奪い合う。バスケットでもミニサッカーでも、とにかく少人数同士で対戦する。日が暮れるまで1対1を繰り返す。3人なら2対1、4人なら2対2、6人なら3対3、7人なら4対3・・・様々な状況の下でとにかく対戦形式で遊ぶ。他人同士でもごく当たり前に即席チームを作る。チームが多ければ即席3チームで勝ち抜き戦、青少年に至っては小銭を賭けて、賭けサッカーも頻繁に行なう。彼らにとってはその全てが「本気の遊び」だ。そんな遊びを毎日繰り返している子供達は、成長するにつれて対人の判断力が鋭く磨かれていく。道行く人にぶつからないように、味方の子供達と叫び合いながら、遊びながらゴールを目指す日々。そこには大きな視覚、聴覚における判断力が要求される。


*最近スペインサッカーの育成部門では、クラブの練習メニューとしても取り入れられている“意図的に混雑化させるトレーニング”(実戦よりも人数やボール数を増やして行うトレーニング)は、この「校庭などでのサッカー遊び」からヒントを得ているといわれる。

 スペインでは頻繁に見かけるボールを持った子供達。様々な場所で楽しそうに、がむしゃらにボールを追いかけて遊ぶ子供達。彼らは対戦しながら遊び、創造性を豊かにする。そして色々な技を試したり磨いたりする。テレビで憧れる選手のプレーを真似したり、目の前にいる近所の友達や年上のお兄ちゃんの技を盗んだり、研究したりする。空き地や公園など、あらゆる場所で他人と即席でチームを作ったり、ゲーム形式で対戦することに慣れている。口論は日常茶飯事で、荒いプレーも時々見られる。それでも、「遊び」が「喧嘩」にならないようにコントロールする。口論のしたたかさも備えている。そして相手への適度なリスペクト、挑戦心、そして自然と身に付いた挑発的な態度にも目を見張るものがある。

 一見何も考えずに、ストリートで遊んでいるように見える子供達。彼らは気づかない間に人数、状況、賭けの有無、見ている人達、仲間、相手のプレーなどに臨機応変に対応して遊んでいる。対人での磨かれた「技術的な判断力」はもちろんだが、「状況や相手を見極める判断力」をも身につけている。彼らは、こんな毎日のボール遊びから、団体競技において非常に大切な「判断力」のエッセンスを会得しているのだろうか。


馬場 源徳(ばば もとのり)

 1981年長崎市生まれ。上智大学比較文化学部卒業。アルゼンチン・ベルグラーノ大学南米文学科修了。東京、ブエノスアイレス、バルセロナから台北を経て、現在スペインに拠点を置く。スペイン語・英語・中国語を中心に、翻訳家、通訳としても活動するフリーランスコーディネーター。ボールスポーツを通しての国際交流、青少年教育を中心に研究。異なる文化環境で培った社会経験を活かして、日本と世界の国際交流に貢献することを目標とする。好みの分野はボールスポーツに限らず、紀行文学、国際社会、ITテクノロジーなど。