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2012-4-30

ウズベキスタン代表との練習試合から感じたアジアのフットサル


 今回の海外スポーツコラムではスペインで多くの苦労を乗り越え、代理人を持たずに単独で活躍するフットサル選手からのレポートを紹介します。元日本代表、名古屋オーシャンズでも活躍したスペイン2部マルレイ所属の鈴木隆二選手です。今回はこの鈴木選手に、アジアのフットサル強豪・ウズベキスタン代表との練習試合を通してのレポートを書き綴ってもらいます。

馬場 源徳

2012/04/30


 2月9日、フットサルウズベキスタン代表と練習試合をした。結果は4-4の引き分け。自分としては常にアジアでトップ5には入るウズベキスタンとの試合はとても楽しみだった。と言うのも、現在のアジアを代表する国の力というのをピッチレベルで長い間体感していなかったからである。また、ウズベキスタン代表監督は、元タイ代表監督を務めていたスペイン人のプルピスである。彼はスペイン1部リーグの強豪チームを指揮していた経歴があり、国内では非常に評価の高い監督である。事実、前回のW杯直前(約10ヶ月前)にタイ代表監督に就任したにも拘わらず、グループリーグで世界の強豪国と素晴らしい戦いをし(イタリア代表にPKでの0-1の敗戦、ポルトガル代表と引き分け)、チームの強化能力を示していた。

 また、プルピス監督はシーズンオフになるとスペイン各地で実施される指導者クリニックにも積極的に参加し講演もする。筆者もバルセロナでの指導者講習会で彼の講義を受けた経験がある。また、代々木体育館で催されたプーマカップ2010決勝トーナメント(第16回全日本フットサル選手権大会)と平行して行なわれたフットサルラボでも講演をしている。

 そんな彼がウズベキスタン代表の監督になったことは、スペインが築いてきた経験や知識を、ウズベキスタン代表選手が吸収し体得していくことを意味する。それは日本人としてスペインでフットサルを学び、吸収している自分としては、アジア圏の他の国の選手がそれをどの様に吸収し、その過程をピッチでどの様に表現してくるのかという点においても興味深かった。

 ウズベキスタン代表と対戦してみて、全体的にとてもスピードがある印象を受けた。ウズベキスタン代表の選手たちは、オフェンス時は常にチームで何をするべきかを意識し、選手同士が上手く連動・連携していた。またディフェンスに関しても終始自分達の攻撃を、まさに「受ける」という感覚でうまく連携していて、組織された良いチームだった。しかし、実際に自分がウズベキスタン代表と対峙して一番感じたことは、普段のスペインリーグで常に感じている「こいつら来るぞ!」という戦いの迫力(緊張感)をあまり感じなかったということだ。一本一本のパスやドリブル、一つ一つのフリーランニングに、われわれに緊張感を与えるような、意図や意識を感じさせなかった。ディフェンスをしていて最後にどこにボールが出て来るかが読みやすかった。ウズベキスタン代表には、相手チームに攻撃をさせて、意図的にカウンター狙うという戦術もあるかもしれないが、その中でも攻守において一人一人の選手の特徴、又は武器を表現する姿勢は必要ではないか。試合では、まず「攻守において一対一で相手に勝る」という意識が重要な要素だと思われるのだが、その点において立ち向かって来る選手が少なかったことに、普段のリーグ戦で自分が感じている迫力というものを感じなかったのかもしれない。

 ウズベキスタン代表は、5月にドバイで開催されるアジア選手権(W杯の予選を兼ねる)に向けて代表の強化を図る為にスペイン遠征を行なっていた。今回の遠征では、スペイン1部リーグ所属のOID Talavera(4-1)、Marfil Santa Coloma(3-2)と、2部リーグ所属のSala 5 Martorell(4-4)、カタルーニャ選抜と2試合(5-0、5-3)、スペイン3部リーグ所属のチームのAlam_n(3-3)と練習試合を行なっている。

 プルピス監督が「今回の遠征では主に戦術面をチームに導入することを目的とした」とコメントしていることから、次回までにウズベキスタン代表が、これらに何を加えてくるのか、たいへん楽しみでもあるし、脅威でもある。


 昨年末に、フットサルアラブ首長国連邦代表とも親善試合をした。結果は7-1でSala 5 Martorellが勝利した。アラブ首長国連邦代表の選手達は皆体格は大きく、体をぶつければ強いが、ボールの運び方やフリーランニングの質は、まだまだフットサル発展途上国といった印象だった。しかし、アラブ首長国連邦代表監督も、過去にスペイン1部リーグのチームを指揮していた経験が何年もあるブラジル人監督のパドゥであり、またアシスタントコーチもブラジル人で、自分がブラジルに留学していた頃のチームメイトのラファエル・マルケスであった。彼は昨年までスペイン1部リーグで活躍していた選手である。また、元フットサル日本代表監督を務めていたブラジル人監督のセルジオ・サッポがフットサルカタール代表監督に就任している。カタールのリーグにも元スペイン代表選手やスペイン人監督が仕事をしている。こうしたことから、アジア諸国がスペインやブラジルなどのフットサル先進国から指導者や選手を招聘し、代表と自国リーグの強化を積極的に図っているのが分かる。


馬場 源徳(ばば もとのり)

 1981年長崎市生まれ。上智大学比較文化学部卒業。アルゼンチン・ベルグラーノ大学南米文学科修了。東京、ブエノスアイレス、バルセロナから台北を経て、現在スペインに拠点を置く。スペイン語・英語・中国語を中心に、翻訳家、通訳としても活動するフリーランスコーディネーター。ボールスポーツを通しての国際交流、青少年教育を中心に研究。異なる文化環境で培った社会経験を活かして、日本と世界の国際交流に貢献することを目標とする。好みの分野はボールスポーツに限らず、紀行文学、国際社会、ITテクノロジーなど。