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2012-6-11

他競技から学ぶ精神について

2012/06/11

 いかなるスポーツも、基本動作などを繰り返し練習することも大切だが、時には他競技の練習などをして、新しいヒントを得たり心身をリフレッシュすることも重要だ。例えば、世界のバレー強豪国であるブラジル代表はフットサルでアップを行なう。また、スペインのフットサルクラブは、ハンドボールやバスケットのようなゲーム遊びなどを積極的に練習に導入したりもする。今回のレポートでは、いくつかの例を交えながら「他競技から学ぶ」というコンセプトに注目してみたい。

*ラグビーとレスリング

 ラグビー強豪国がFWのタックル能力などの向上のために、レスリングの選手を相手にしたトレーニングを取り入れていることは、日本でも同じことだ。専修大学などのレスリングの名門が、そのよい例である。アイルランド、イングランドなどでも、頻繁にレスリング選手などと“他流試合”を行ない、新しい感覚を身に付ける習慣がある。やはり異なる競技、異なる呼吸、異なる間合いとの“組合い”は、普段は使わない筋肉やバランス感覚が要求されるため双方にも効果的な練習だろう。

①類似した動作などによる体幹強化、ストレッチ効果、怪我の予防

②タックルやうつ伏せの選手をひっくり返す動作、相手を床に倒す動作

③体力的にも共通した部分が多く、特に組み合いポジションの強化が期待できる


*バドミントン、バスケット、ハンドボール

 米国などではバトミントンとバスケットの関係性や相互性にも注目されている。特に長身のバスケットボール選手からのパス、バスケット選手の俊敏性やリアクション動作なども、バトミントン選手の練習にプラスになると考えられている。同じくハンドボール、バレーボールなども選手のメンタルリフレッシュのために、バトミントンに有効な練習メニューとして組み入れることが可能であろう。

①高い角度からのパス、シュート動作などにより肩を鍛える効果

②ジャンプ動作や素早いリアクションなどの類似点、相違点によるトレーニング効果

③重たいバスケットボールを扱うことにより、手首を鍛える効果が期待できる


*フットサル、ハンドボール、バスケット

 スペインの指導者などでは、このフットサル、ハンドボール、バスケットに対する共通概念の認識がとても強い。特にフットサルのようにサッカーに近いと思われる競技でも、やはり競技人数、競技コート、スペースに重点を置くのが大切だという認識だ。したがって、ハンドボールやバスケットはフットサル競技などが参照する対象である。

 スペイン・フットサル代表はバスケットを練習の合間に取り入れたこともある。また、世界最強と呼ばれるフットサル・スペイン1部の多くのチームも、ハンドボールやバスケットをヒントにした練習などを多く取り込んでいる。主に練習序盤のアップや精神的リラックスを目的としたタイミングでメニューに取り入れられている。

①ブロック動作やクロス(複数の選手が交差する動作)などの戦術的動作

②守備における戦術的動作、技術的動作など

③試合におけるスペース、時間配分、人数などの条件が似ている



 この他にも、たくさんの競技に「他競技から学ぶ」可能性があるはずだ。下の写真にも見られるように、スペインやブラジルではハンドボールやフットサルのポルテロ(GKキーパーの意味)は、テニスボールを使った遊びなどで反射神経を訓練したりする。また、トレーニング効果が薄くとも、心身のリフレッシュを目的とする場合もあるだろう。他にも、ハンドボールやバスケットなどの育成トレーニングなどでは、“フリスビー”や異なる種類の“ボール遊び”で運動感覚を鍛えることも頻繁に行なわれる。




 このように、指導者は何かの形で「他競技から学ぶ」という無限の可能性を試していただきたい。何もエリート競技の選手だけが、このような「他競技から学ぶ」ことを許されているわけではない。学校の部活や地域スポーツの場所などでも、選手が他競技と触れ合う機会を設けていただきたい。確かな理論と信念があれば、きっと選手育成だけではなく、各競技発展のためにも大きく貢献できるはずだ。


馬場 源徳(ばば もとのり)

 1981年長崎市生まれ。上智大学比較文化学部卒業。アルゼンチン・ベルグラーノ大学南米文学科修了。東京、ブエノスアイレス、バルセロナから台北を経て、現在スペインに拠点を置く。スペイン語・英語・中国語を中心に、翻訳家、通訳としても活動するフリーランスコーディネーター。ボールスポーツを通しての国際交流、青少年教育を中心に研究。異なる文化環境で培った社会経験を活かして、日本と世界の国際交流に貢献することを目標とする。好みの分野はボールスポーツに限らず、紀行文学、国際社会、ITテクノロジーなど。