スペインから学ぶ3種類のトレーニング方法
2012/06/30
スペインの指導者や監督は、優秀な選手にどのような選手を求めているだろうか。頻繁に聞かれるのが『上手な選手、賢い選手、頭のいい選手』という表現だが、本当に必要とされる選手としての要素とは何だろうか。
『判断力、挑戦心、決断力』
私たち日本人の伝統的気質からか、状況判断力、リスクを恐れずに無理なプレーに挑戦する心、そして決断力という問題点を、しばしば欧米の指導者はわれわれに指摘している。日本のサッカー選手が徐々に海外で活躍し、成功を収めている事例を考えていただきたい。現在に至り成功を収めた選手は、概して中盤(MF)、守備(MF)の選手でありフォワード(FW)の成功が非常に難しい事実などに注目したい。また同時に、長年日本代表についても懸念されてきた攻撃力不足、得点力不足、ストライカー不在という事実を考えてみたい。
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得点を求められるストライカーやフォワードは、最も激しい守備に対峙して、瞬時に判断を下し、高い技術を駆使して状況を打開する必要がある。言い換えれば、フォワードの選手を育てるには、高い順応性や創造性が求められる練習を必要とする。私たち日本人のメンタリティーや伝統的気質以外にも、異なる“トレーニングの方法”にこのような問題解決への鍵があることに目を向けていただきたい。
今回は、スペインなどのバスケット、ハンドボール、フットサルやサッカーを含む多くのボール競技の指導者たちが使い分ける3種類のトレーニング方法について考察してみたい。フットサル代表監督を務めるミゲル・ロドリゴ監督が、日本フットサル、サッカー界の発展を目的として導入しているトレーニング理論はスペインのボール競技指導者には広く浸透しているものでもある。
指導者や各チームの必要性や状況に応じて大きく異なるが、ここではトレーニングの方法論に限定して以下の3種類のスペイン式トレーニング方法を分類してみる。
『①分析的トレーニング(敵が存在せず、判断力を要求しない反復練習)』
『②グローバルトレーニング(敵を配置し、状況に応じて判断を必要とする練習)』
『③インテグラルトレーニング(実戦形式の中で、特定のテーマに取り組む練習)』
例えば練習する内容が“ボール回し”という特定の技術動作であると仮定する。スペインの指導者の多くは、ある特定の技術動作、テーマを3種類のトレーニングに分類する。そしてチームの練習時間や、選手が必要とする要素に応じてメニューを組み合わせるのである。それでは“ボール回し”を具体的に3種類の各トレーニング方法に取り込んでみる。
**「“ボール回し”」の例**
『①分析的トレーニング(敵が存在せず、判断力を要求しない反復練習)』
パス練習、対面パス、三角形でのパス回し
障害物ありでのパス
パススピードを変えながらのパス
パスの種類を変えながらの練習など・・・
『②グローバルトレーニング(敵を配置し、状況に応じて判断を必要とする練習)』
三角形でのパス回しに“鬼”を1人加えて行なう、対人のボールポゼッション
人数を増やして(例えば4対2)行なう、対人のボールポゼッション
タッチ数を制限して行なう、対人ボールポゼッション
ビブスの色や条件を変更しながら行なう、対人でのボールポゼッション
移動しながら行なう、対人のボールポゼッションなど・・・
『③インテグラルトレーニング(実戦形式の中で、特定のテーマに取り組む練習)』
素早いカウンター攻撃の実戦練習(2対1、3対2など)
ピボットを配置しての実戦練習(ピボットに必ずパスを送るかは指定、判断可)
パスの最低/最高回数を設定しての実戦練習
時間、スペース、数的有利、数的不利などを設定しての実戦練習など・・・
テーマが“ボール回し”の場合なら、例えば以上のように3種類のトレーニング方法に分類する。それがトレーニングを組み立てる前提となる。そして指導者たちは各トレーニング方法の特徴を選手、チームの状況、必要な要素やトレーニングの状況やシーズンの時期などを考慮しながら順序立てを行なうことが必要となる。以下に、最も簡単なトレーニングの順序立ての例を作成してみる。
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日本やアジア諸国では「分析的トレーニング」(敵が存在せず、判断力を要求しない反復練習)の比重が多いとよく指摘されるが、ボール競技特有の不確実で予測不能な状況判断という要素を無視することはできない。勝利するという目標のために必要不可欠な得点をする、得点をさせないというボール競技の本質を考えると、やはり判断力を伴う対人の「グローバルトレーニング」(敵を配置し、状況に応じて判断を必要とする練習)は有益である。そして時間、状況などを条件付けての実戦形式の「インテグラルトレーニング」(実戦形式の中で、特定のテーマに取り組む練習)へと発展させて体系化したトレーニングを指導者は作成しなければらない。いずれにしろ、選手を『チームのために戦えるインテリジェントな選手』へと効率的に導くことが、多くの指導者には求められている。
最後に、スペインフットサル指導教本、また日本代表監督ミゲル氏の著書である『フットサル戦術バイブル』などを参考に、私が簡単にまとめ上げた『チームが必要とする選手』と3種類のトレーニング方法のグラフを作成してみる。日本のボール競技の現場で奮闘される指導者の方々に、何かしらのヒントを得ていただければと願っている。
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