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2012-7-9

チームの結束力について

2012/07/09

 日本人の私達にはおなじみの“結束力”という言葉がある。多くの部活やクラブでも“結束”や“団結”という言葉が用いられ、横断幕などにも書かれている言葉だ。スペインのスポーツチームにはそのような内容の横断幕は存在しないが、トップクラブの指導者達の間では“チームの結束”というコンセプトがしっかりと研究されている。今回はスペインのプロスポーツの心理学者達がどのように“結束力”という概念を解釈して、クラブのチーム強化に応用しているかを考察してみる。


「チームの結束力とは何か?」

「そのような結束力を向上させる要素とは何か?」

「どのような方法でこの結束力を培うか?」

 先日、スペイン北部のエリートバスケットチームとフットサルクラブの関係者などが集まり、“チームメンタリティー”についてのセミナーが行なわれた。クラブをグループではなくチームとして成長させるためのメンタリティー教育は、地域クラブにとっては非常に重要であるという主題であった。

 そして1つの大切なテーマとして取り上げられたのが、『チームにおける結束力』であった。チームの定義、結束の定義、必要な要素、結束を高めるためのドリルなどが講義の主な内容であった。このレポートが日本で集団競技に関わる指導者、選手の方々に少しでも参考になる内容であればと願っている。



チームの定義とは、グループとチームとの違いは何か?

 グループ(団体)とは同じクラブ名などの下に属する選手や人々である。しかしチームとは同じクラブ内で連携を取り合い、役割分担をこなす、結束したグループである。このコンセプトは、競技における“チーム”にも全く同じ定義があてはめられた。


結束力のあるチームを構築するにあたり、必要不可欠となる要素は何か?

*コミュニケーション

*メンバー個人同士の連携

*メンバー各個人の役割分担

*メンバー同士の信頼

*個人主義ではなくチームの優先


どのようにして、他人同士で構成されるチームの結束力を高めるのか?

*個人のメンバー同士による信頼を高め、互いに連携する習慣をつけること。


能率のよいグループ、そしてチームを作り上げるにはどの様な人材が必要か?

*まずはモチベーションの高い人物が集まるグループであること。

*高い“プロフェッショナリズム”と“カリスマ性”を備えたリーダーがいること。

*グループとしての仕事分担が明確に、厳格に、正しく、参加型で構成されること。

*自己評価、自己批判のシステムを導入して問題点の修正ができること。

*何事も運任せにはしないこと。


しかし、結束した強固なチームの妨げとなる要素とは何であろうか?

*チームを無視した個人主義

*集団としての目標の相違(目標の食い違い)

*選手達などの間に起こる相違、混乱、曖昧さ

*内部の決まりごとに対する不履行

*内部におけるコミュニケーションの問題

*選手やスタッフ同士の対立関係

*内部における度を過ぎた、激しすぎる競争環境


チームの結束が全体にもたらす相乗効果

*グループとして設定した目標をチームが受け入れ、追求する姿勢

*円滑なコミュニケーション

*内部の決まりごとに対する理解と寛容

*困難な状況を乗り越えようとするグループとして忍耐力

*パフォーマンスの向上

*チームとしての認識、地位、満足感の確立

*選手、スタッフ、関係者に湧き上がる満足感



チームの結束力の向上のために必要とされる要素は?

*最も大切な課題は、効率のよいコミュニケーションを助長して、各選手、またはチーム全体としての態度に変化を加えること。この“コミュニケーションの助長”を大きく2つに分けると以下の通りである。

(1)コーチ、スタッフ陣に必要となるコミュニケーションの向上。

(2)選手やその他のメンバー同士のコミュニケーションの助長。


<コーチ、スタッフ陣が注意すること>

①コーチ、スタッフ陣はチームの選手にそれぞれの役割を明確に伝える。

②チームとしての「誇り」の気持ちを高める。

③現実的であり、挑戦できる範囲の高い目標を設定する。

④このチームが他のチームとは異なるという自己意識を植え付ける。

⑤チーム内部におけるグループの分裂、細分化を避ける。

⑥チーム内部の衝突を避けるために、定期的に祝い事などの機会を設ける。

⑦人員の激しい流動を避けること。

⑧コーチ、スタッフ陣はチームの選手が形成するグループと連絡を保つこと。

⑨チームを形成する各選手の性格や特徴を把握しておくこと。


<現場の選手やマネージャーが注意しておくこと>

①チームメートをよく理解して、個人の違いを認め合う努力をする。

②可能な限りチームメートの手助けをする努力をすること。

③チームや個人の行動に責任感を持つこと。

④監督やスタッフに対して誠実に正直に接すること。

⑤選手間の衝突などは迅速に解決、溜め込まないこと。

⑥選手個人の目標とチームの目標の間にあるバランスを保つこと。

⑦最大限に約束を守り、努力すること。



チームの結束力を向上させる大切な目標とは?

(1)チームに集団としての自尊心、プライドを築き上げる 。

(2)設定された目標の達成に必要不可欠な“結束の重要性”を理解させる。

(3)試合などを前にしてモチベーションを高揚させやすい環境を作りだす。


<チームに集団としての自尊心、プライドを植えつけることは指導者の課題>


*提案可能なグループワーク(毎週チーム内で行なうことで結束力を高めるためのグループ内でのドリル)・・・ドリルNo・01

**チームの結束力を高めるためのドリル/試合後に行なえる簡単なドリル**


*ステップ・1

チームを3、4人の選手で構成される複数のグループに分ける(第①グループ-A・B・C班、第②グループ-D・E・F班) *コーチは参加しない。


*ステップ・2

終了した試合について、各班が簡単な試合についてのレポートを作成する。


*ステップ・3

終了した試合について各班にレポートを作成させる。

**A、B、C班の第①グループは、チームに対して試合での批判的な内容を中心に(どこが改善できるか)レポートを作成する。

**D、E、F班の第②グループは、チームに対して試合でのポジティブな内容を中心に(どこが上手くできたか)レポートを作成する。


*ステップ・4

第①グループ(A・B・C班)と、第②グループ(D・E・F班)を討論させて、試合についての簡単な結論を落ち着いた状態で作成する。*コーチやスタッフが書記や司会の役割をこなす。


*ステップ・5

試合ごとにグループ構成、班構成(人員)をシャッフルして、チームの結束力の向上につとめる。キャプテンや“まとめ役”の選手には司会、書記も任命する。

<セミナーに用いられた参考文献>

『現代サッカーのメンタリティー強化、監督そして選手のためのガイド』

著者-ボイロス・ガルシア

『指揮するのか、それともリーダーとなるのか?、グループ結束の要点』

著者-ホセ・カラスコサ

『チームの結束力について』

著者-グラシエラ・ロイス


馬場 源徳(ばば もとのり)

 1981年長崎市生まれ。上智大学比較文化学部卒業。アルゼンチン・ベルグラーノ大学南米文学科修了。東京、ブエノスアイレス、バルセロナから台北を経て、現在スペインに拠点を置く。スペイン語・英語・中国語を中心に、翻訳家、通訳としても活動するフリーランスコーディネーター。ボールスポーツを通しての国際交流、青少年教育を中心に研究。異なる文化環境で培った社会経験を活かして、日本と世界の国際交流に貢献することを目標とする。好みの分野はボールスポーツに限らず、紀行文学、国際社会、ITテクノロジーなど。