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2012-7-23

判断力と動作の実行(2/3回)

2012/07/23

 判断力と動作の実行(2/3回)
*このレポートは「①情報の知覚」、「②判断の決定」、「③技術動作の実行」という3つのテーマに分けて構成してあります。



2・「判断の決定」について

 それでは前回の「情報の知覚」に続いて、「判断を行なう」プロセスについて典型的とも呼べる守備の戦術練習を参考にしながら考察してみる。*まずは、ある選手が競技の中で『判断を行う』前後に起こる現象を復習してみる。

*0情報(試合などの状況や瞬間ごとに選手を取り巻く外的情報)「第10回」を参照

*1知覚(選手がその外的情報かを知覚、取り入れるプロセス)「第10回」を参照

*2判断(知覚した外的情報に対して選手が下す判断、決定)

*3実行(以上の判断、決定に従って選手が行なう競技、技術動作)「第16回」を参照

*4結果(その実行に対する結果の分析)

 さて、前回にも触れたように選手は競技のなかで様々な「情報」を知覚して、「判断」を下すプロセスへと入る。つまり情報知覚における観察力、分析力を助長するようなトレーニングを推進することが非常に重要であり、指導者がこの問題を無視してトレーニングを構成することは、選手育成において大きな問題となってしまう。(第10回を参照)

 今回は、ボール競技ではごく一般的に起こりえる“ワンツーパス”の可能性を含む戦術的練習を例にとりながら、選手が下すべき「判断」について検証してみる。記事をご覧の指導者の方々にとって選手の判断力を定める1つのポイント、または練習に取り込むヒントを得ていただければと望んでいる。

 以下の戦術練習は、多くのボール競技でも取り上げられる局面ではあるが、今回はスペイン・フットサル界のヘスス・ベラスコ監督との公開練習および、同監督の著書である“フットサル育成教育」の判断力の査定に関するチャプターを参考に作成してみる。

 上の図に見られるような、ゴール前での典型的とも言える攻防を想定してみる。三角形の守備側の選手(今回はAとBの選手)を例にとって、判断力の向上へのヒントを探ってみたい。最も基本となるのが、守備側の(A)が攻撃側のボールホルダーである(C)にプレスをかけに出た状況を想定した練習である。

*守備側の(A)がボールホルダーである(C)にプレスをかける

*攻撃側の(C)は(D)にパスを送り素早く(A)の裏のスペースを使う

 ワンツーなどを中心に起こりえる攻撃に対して、守備側の選手は短い時間内に判断を迫られることになる。今回は守備の(B)の選手を例にとって、守備戦術の向上、そして判断力向上へのヒントを考えてみる。さて、この練習で考えられる主な守備戦術的選択肢としては、以下に挙げる3つの可能性がある。

【図1】

選手Bはボールを受ける選手(D)にプレスをかける。裏のスペースを突いてくる(C)への対処は味方の(A)が戻ることを想定して、(D)へのプレスをかける。

【図2】

選手Bは裏のスペースを使ってくる(C)を警戒して、ワンツーパスの可能性を考慮しながら(C)よりも自陣側に深く後退する。

【図3】

選手Bは守備の(A)と連携して、まずは味方の(A)に(D)と(C)の間のパスコースを切らせる。この(A)の動きを判断して、(C)へのワンツーパスのコースを限定することで、インターセプトが可能となるポジション取りを模索する。具体的には、(C)よりも前方向にポジションをとり、ボールカットからカウンターへの移行を考える。

<それぞれの解決方法に対する考察>

【図1】

(B)はボールを受ける(D)にプレスをかける。しかし、Aが判断を誤れば2人の守備の選手が(D)を追いかけてしまい、抜け出してくる(C)への対応が不可能となってしまう。戦術的判断を無視した「直感的」判断である。ワンツーに対応することすら困難となりえる。

【図2】

(B)は“戦況を読む”ことを実践しようとしている。守備動作としても戦術的動作であり、味方(A)のカバーを行ない、パスコースを警戒するという戦術的にも正しい判断とも呼べるであろう。もしも(B)が大声で(A)に後ろから指示を出して、ボールを受けた(D)にプレスをかけさせれば、判断はより正しいものとなる。

【図3】

もしも(B)がこの様な判断を下せれば、選手の判断力は非常に優れているに違いない。味方選手(A)のカバーを行なうだけでなく、攻撃側の(C)の動きなどを利用して、カウンターという現代ボール競技における最も危険な攻撃を意図的に作り出そうとしているからである。残念ながら育成年代では、選手が自発的にこのような判断を下すことは期待できない。経験が豊富な選手のみが理解できるコンセプトである。

 まず、判断力を養うために最も大切なのは、このように選手達が明確に理解できるような戦術的練習をトレーニングに取り込むことである。指導者が丁寧に説明を行い、選手に伝えることに成功すれば、必ず選手達はより好ましい解決方法を模索、習得することを覚えるからである。言い方を換えれば、このような「判断力向上」のための練習を取り込まない限り、選手達は永遠に何が正しいかを考えることなく、「直感的」な行動を繰り返してしまうのである。ここに指導者としての重大な責任が存在する。サンペドロ氏がサッカーなどの育成現場に携わる指導者のために、1つのアドバイスを提言している。

『ゲーム形式での練習こそが、戦術的判断を選手に伝える最高の手段である。子供にやらせるような単純なゲーム遊びから、変則ルールでのゲームなどは、球技の種類を問わず戦術的な概念を豊富に取り込める媒体である』


馬場 源徳(ばば もとのり)

 1981年長崎市生まれ。上智大学比較文化学部卒業。アルゼンチン・ベルグラーノ大学南米文学科修了。東京、ブエノスアイレス、バルセロナから台北を経て、現在スペインに拠点を置く。スペイン語・英語・中国語を中心に、翻訳家、通訳としても活動するフリーランスコーディネーター。ボールスポーツを通しての国際交流、青少年教育を中心に研究。異なる文化環境で培った社会経験を活かして、日本と世界の国際交流に貢献することを目標とする。好みの分野はボールスポーツに限らず、紀行文学、国際社会、ITテクノロジーなど。