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2012-8-22

判断力と動作の実行(3/3回)

2012/08/22

 判断力と動作の実行(3/3回)
*このレポートは「①情報の知覚」、「②判断の決定」、「③技術動作の実行」という3つのテーマに分けて構成してあります。


3・「技術動作の実行」について

 判断力と動作の実行、第3回目の最終章は、試合などの展開の中で起こりえる「情報知覚」、「判断のプロセス」、を経て各選手がどのようにあるアクションを起こすのか、つまり「技術動作を実行する」のかについて検証してみる。*もう一度、ある選手が動作を“実行”する前後に起こる現象を復習してみる。

*0情報(試合などの状況や瞬間ごとに選手を取り巻く外的情報)「第10回」を参照

*1知覚(選手がその外的情報かを知覚、取り入れるプロセス)「第10回」を参照

*2判断(知覚した外的情報に対して選手が下す判断、決定)「第14回」を参照

*3実行(以上の判断、決定に従って選手が行なう競技、技術動作)

*4結果(その実行に対する結果の分析)

 前回までに説明したように(第10回、第14回を参照)、選手はある状況を知覚、判断することによりついに「動作の実行」へと移行する。このアクションの実行とは最も目に見えやすく、結果に直接的つながる要素である。また、団体球技などにおける選手の知覚、判断、動作という一連のメカニズムの最後の形でもある。例えば単純にシュート動作が得点につながったか否かでも、簡単に判断することすら可能な要素である。しかしながら、指導者が決して忘れてならないのは、『情報知覚、状況判断などが最高のものであっても、必ずしも技術動作が成功しない場合もある』ということである。それは、例えばシュート動作に入るまでは完璧な判断を下しても、シュートが上手く行かずに枠を外れてしまうというように一般的な現象でもある。

 ここで指導者にとってキーポイントとなる「技術動作の実行のエラー」に対する概念を整理してみる。選手が正確に情報を知覚し、正しい判断を下したにもかかわらず、ある技術動作、例えばシュートを成功させられなかった理由を正確に把握することは指導者の任務でもあるからだ・・・

*まずは選手が技術動作の代表例である“シュート”を失敗する場合、頻繁に見られる3つの要因を検証してみよう。 (運や、キーパーなどによる介入を除いての検証)


<技術動作のエラーに伴う“3つ典型的な失敗の要因”>

①選手の体力的状態によるもの、体力的疲労からシュートが上手く打てずに枠を捉えることができない。

②シュートに移行する直前の動作の正確性に欠けたこと。例えば直前のボールコントロールが正確性に欠け、シュート動作の失敗に直結している場合など。

③相手DFのプレッシャー、限られた時間でアクションを行なう必要性からの“焦り”や“時間的プレッシャー”による失敗。

 そして今回のコラムの要点となる選手育成においてのポイントが、この「動作失敗における3つの要因」から読み取ることが可能となる。指導者の方々、指導者を目指す方々、そして選手でありながらもチームを率いるリーダーとなる方々にもご一緒に考察していただければ幸いである。

 上に記したように、この3つの要因を考えれば、『体力やスピードを強化すれば、動作ミスを解決できる』という考えに至る指導者が多く存在することも理解できなくはない。確かに、体力とスピードとは動作成功における他ならない不可欠要素ということに疑いはないだろう。しかし、体力とスピードに一辺倒した練習は、選手のケガ、選手の判断力や創造性の抑制、精神的疲労を引き起こしてしまう。

 ここで忘れてならないのは『選手は遅かれ早かれ、必要に応じた肉体的発展を遂げる。指導者の目的は選手が肉体的に成長することではなく、判断力や技術力を助長することにある』という大前提である。また、現在のスポーツ環境を考慮すれば、選手の限られた練習時間を最大限に活用して“インテリジェント”かつ“能力”の高い選手を効率よく育て上げる練習を用意することも指導者の大きな役割である。

 それでは、「技術動作の成功」を助長させるトレーニングの要点とは何か?スペインのサッカー指導者、フットサル指導者のいくつかの著書を参考にして以下にまとめてみる。


<技術動作を向上させるためのトレーニングに必要な要素>


A・スピードと正確性を限りなく実戦に近づけてトレーニングさせること。

実際の試合と同じ、またはそれ以上のスピードと正確性を要求しなければ、選手が試合で動作を正確に実行することは望めない。必要であれば「スピード」と「正確性」の要求を調整して練習の難易度を落とすことも、指導者の大切な役割である。


B・試合と同じように、必ず相手DFなどからのプレッシャー、または時間制限などによるプレッシャーを導入して実戦と同じような状況を作り出すこと。

指導者は創造性を駆使して、あらゆる形での“実戦”を想定した(またはそれ以上の難易度で)動作実行トレーニングを選手に用意すること。


C・練習を実戦に近づけて行なう場合、指導者はトレーニングを行なう選手を以下の4つのグループに分けて、それぞれに異なる適切な指示を与えること。

技術動作を実行する攻撃側の選手だけでなく、ボールを持たない攻撃側の選手の動き、守備側にも同様に細かく指示を出すこと。*以下の4グループに分けるて、明確な指示を出す。

①攻撃側で、ボールを持って技術動作を実行する選手

②攻撃側のボールを持たない選手

③守備側の選手で、ボールを持った選手に直接マークを行なう選手

④守備側の選手で、ボールを持たない選手をマークする選手

 いずれにしても、技術動作を向上させるためのトレーニングを構成するにあたり、全ての選手にA、Bで上記したスピード、正確性、プレッシャーという実戦を想定した要求を行なうことが最優先の課題である。最後に、このテーマに関してヘスス・ベラスコ氏が提言する指導者のためのアドバイスを付け加えておく。


『選手育成などのトレーニングを行なう場合には、試合と同等以上の正確性、スピードを要求することが大切である。スピードや激しさを試合よりも落として練習に望むことこそ致命的であり、トレーニングの意義を根底から否定しかねない』

 これは、まさにサッカー世界最強との呼び声も高い“FCバルセロナ”など、多くのスペインのサッカー指導者の方々が口を揃えて述べる-『練習を試合のような激しさで行ない、試合を練習のような感覚でこなす』-という哲学にも近いものだ。


馬場 源徳(ばば もとのり)

 1981年長崎市生まれ。上智大学比較文化学部卒業。アルゼンチン・ベルグラーノ大学南米文学科修了。東京、ブエノスアイレス、バルセロナから台北を経て、現在スペインに拠点を置く。スペイン語・英語・中国語を中心に、翻訳家、通訳としても活動するフリーランスコーディネーター。ボールスポーツを通しての国際交流、青少年教育を中心に研究。異なる文化環境で培った社会経験を活かして、日本と世界の国際交流に貢献することを目標とする。好みの分野はボールスポーツに限らず、紀行文学、国際社会、ITテクノロジーなど。