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2012-9-5

ボールで遊ぼう・スペインの高齢者健康プログラム

2012/09/05

ボールで遊ぼう・スペインの高齢者健康プログラム

 世界でも有数の高齢化社会と長寿国で知られる日本。長寿国の話題になると、ヨーロッパではスペインやフランスの名前が挙げられる。特に少子化の進むスペインでは日本の地方都市と同じように、多くの高齢者を街でみかける。日本でもお年寄りの方々がゲートボールや散歩などで体を動かしているように、スペインにも高齢者が集まって体を動かす場所が存在する。それが今回のテーマとなる「メインテナンス・トレーニング」だが、スペインでは特にボール遊びなどが導入され、バリエーション豊かに高齢者が運動を楽しんでいる姿が印象に残るプログラムだ。


「メインテナンス・トレーニング」と呼ばれる体力維持への取り組み

 スペインのあらゆる市町村が取り組んでいるこの高齢者向けの「メインテナンス・トレーニング」では、参加者を40歳以上または65歳以上の大きく2つのグループに分けて行なうことが通例とされている。年齢層が高い参加者のために、毎回のセッションは50分ぐらいで行なわれる。各グループは8人から20人ぐらいまでの高齢者の参加者で構成されており、各グループにつき1人のトレーナーが指揮を取りながら、参加者に対して運動メニューを指示する形式となっている。欧米などで盛んなフィットネスやダンスレッスンを想像していただければ分かりやすいだろう。このプログラムが開催される場所は、市役所、体育館、運動場などの他にも公園、または学校や市役所などの空き室などだ。このプログラムは何よりも、その“メインテナンス(状態の維持)”という名前からも想像できるように、高齢者の運動不足を解消して健康を“維持する”ことが第一の目的とされている。日本の小学生が夏の朝にラジオ体操を行なうように、スペイン人のご老人達にはこの様な集いの場所が存在するのである。


「メインテナンス・トレーニング」の内容

 それではスペインの「メインテナンス・トレーニング」ではどのような運動を行なっているのだろうか?

 簡単な筋力トレーニング、ジョギング、ストレッチ運動などの他にも様々なボールを用いたメニューが取り入れられていることが特長だ。*プログラム全体の特徴としては、静止状態で行なう運動メニューが少なく、多くがウオーキングなどを交えた有酸素運動の要素を取り込んでいることだ。バスケットコート全体をゆっくり大きく使って実行する運動が多い印象を受ける。読者の皆様にはバスケットやサッカーのウオーミングアップを想像していただければイメージが描きやすいであろう。さて今回は複数回にわたり取材させていただいた、スペインのある州立体育館のプログラム内容を参考にしてみる。意外と参加者が絶えないこと、ご年配にもかかわらず楽しそうに運動に没頭される姿には感服させられてしまった。(*特定箇所のストレッチや筋肉トレーニング、またリハビリ目的としての動作には静止状態によるトレーニングを取り込んでいる)

<主なプログラム構成内容>

①移動式ストレッチ

「ウオーキング+移動しながらのストレッチ運動など x10分ほど」

 バスケットコートや運動場に参加者は1列、または2列に広がる。音楽などはかけず、歩きながらトレーナーが率先して各7メートルごとに異なるストレッチ動作を30ー40秒ほど実行する。筋力負荷はほとんどなく、歩きながら体を温めながら関節や筋肉をストレッチする。バスケットコートならばコート内を往復しながら様々なストレッチ動作をこなす。10分間ほど行ない、簡単な水分補給の時間を用意する。

<例> - ウオーキング + 背伸びのストレッチ + ウオーキング + アキレス腱伸ばし + ウオーキング + 首のストレッチ・・・

②移動式筋力トレーニング

「ウオーキング+ステップ+スクワットなどの筋力トレーニング x10分」

 ①のメニューで体が温まったら続いてステップを早めたり、筋肉負荷を強めたメニューへと移行する。例えばウオーキングのステップの速度を上げたり、または各7メートルごとに簡単な筋力トレーニングメニューを織り交ぜる。スクワットなどの足腰に負荷をかけるメニューを取り入れて、①と同じようにトレナーに従いながらコート内を往復する。10分間ほど行ない、簡単な水分補給の時間を用意する。

<例> - ウオーキング + 両足スクワット + ステップ(歩幅や速度を変えたウオーキング> + 片足スクワット + ウオーキング + ふくらはぎの筋力トレーニング・・・

③ボールを用いての個人動作

「反射神経や関節可動を向上させるようなボール遊び x10分」

 体の軸が温まったら、続いてボールや投げ輪などを用いた“ボール遊び”へと移行する。テニスボールを片手で掴む、ドッジボールを投げる、バランスボールを転がす、また投げ輪などを使って反射神経などを向上させるメニューを行なう。主に個人で行ない、毎2、3分ごとにボールの種類などを変えて遊ぶ。またリハビリメニューなどを行なっている参加者は、個別に筋力トレーニングなどの別メニューをこなす。競争させることはなくマイペースで行なう。10分間ほど行ない、簡単な水分補給の時間を用意する。

<例> テニスボールを地面に投げて片手でキャッチする + ドッジボールなどをパス交換する + 投げ輪などをトレナーと投げあう・・・

④ボールを用いた対人でのゲーム遊び

「対人でのトスゲーム、バトミントン、変則でのボール回しなどx15分」

 体も温まりボールを使っての“ウオーミングアップ”が終わったら、簡単な対人ボールゲームで盛り上がる。二人組み、三人組などに分けて無理のない範囲で対戦させる。ペアで協力して、他のペアと得点を競うこともある。バドミントンは特によく見かけるゲームで、その他にもボール回しやフリスビーなども見られる。やはり高齢者の方とはいえども、ここでは結構な盛り上がりを見せる。皆さんの負けず嫌いな心意気が伝わってくる。組み合わせなどを変えて15分間ほど行ない、全メニューが終了する。

<例> バドミントンゲーム + 簡単なボールを使ったトスゲーム + キャッチボールなど・・・

 今回この「メインテナンス・トレーニング」の取材にあたり、いくつかの公共施設などを取材させていただいた。全体の印象としては、やはりボールを使ったメニューが多い。これはサッカー以外にもバスケット、ハンドボール、テニスなどを好むスペインのお国柄なのであろう。なによりもこのプログラムに取り組まれていた高齢者の方々は、とても楽しそうに参加されていた。汗をかいて楽しそうに運動に興じている方々を見るのは清々しいものだ。日本でも高齢化が進むこの頃、これからもご老人の健康維持のオプションとしての“ボール遊び”にも注目してみたい。


馬場 源徳(ばば もとのり)

 1981年長崎市生まれ。上智大学比較文化学部卒業。アルゼンチン・ベルグラーノ大学南米文学科修了。東京、ブエノスアイレス、バルセロナから台北を経て、現在スペインに拠点を置く。スペイン語・英語・中国語を中心に、翻訳家、通訳としても活動するフリーランスコーディネーター。ボールスポーツを通しての国際交流、青少年教育を中心に研究。異なる文化環境で培った社会経験を活かして、日本と世界の国際交流に貢献することを目標とする。好みの分野はボールスポーツに限らず、紀行文学、国際社会、ITテクノロジーなど。