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2012-11-26

水泳プールを活用したトレーニング

2012/11/26


 水泳プールを活用したトレーニング

 2012年8月、猛暑のスペインでは秋から始まるリーグ戦に向けて多くのボールスポーツチームが始動し始めた。6、7月の夏休みで十分に休息を取った選手達が、各地でプレシーズンに入り実戦へ向けてトレーニングを開始する。そのため夏の静けさが目立ったグラウンドや公園は、8月中旬になると様々なクラブなどのトレーニングで大変な盛り上がりを見せてスペインの夏の終わりを感じさせる。

 この「プレシーズン」が始まると、大部分の競技のクラブチームは夏休みでなまった体を鍛えなおすべく体力づくりなどの準備を始める。やはり長丁場のリーグ戦(欧州では通年9月から翌年の6月まで)に向けて、コンディション調整を重視するクラブが多いことが理由である。また、スペイン南部の多くのプロフェッショナルクラブなどは、避暑地でこのプレシーズンを行なう。2012年のスペインは猛暑で夕方も暑苦しかったが、それでも新しいシーズンを前に声を張り上げる指導者や選手達の姿が印象に残った。公園やグラウンドだけでなく、海岸沿いのビーチや町外れの住宅街などを走りこむチームが多く見られて爽やかだった。

 またスペインの隣国であるポルトガルなどでも、毎年このプレシーズンの時期はほとんど同時期にあたる。そのためリーグ戦が始まる前にスペイン、ポルトガル、フランスなどの競技レベルのチームなどは積極的に練習試合や合同練習を企画する。ハンドボール、バスケット、フットサル、サッカーなどがその代表であり、シーズン前に地方ではカップ戦やエキシビションが多く行なわれている。このような交流試合は地域活動であり、各スポーツ競技やお互いのクラブを宣伝するいい機会にもなっている。また指導者や選手の大切な交流の場としてもこのプレシーズンが活用される。


<今回は水球のゴールキーパーからヒントを得た“水中トレーニング”を紹介する>

 今回のコラムではプレシーズンに行なわれる多くの準備活動などの中でも、2012年の夏に特に印象に残った“水中トレーニング”を特集する。2012年8月中旬にスペイン西部で行なわれたこの合同練習は、特別な集中力、柔軟性、バランス、技術動作が要求されるハンドボール、フットサル、ホッケーなどのゴールキーパーが水泳プールに集まって実施された。多くのスポーツ選手のリハビリや体力づくりなどにも水泳プールは広く活用されているが、ボールスポーツのトレーニング(今回はゴールキーパーを対象に実施された)にもプールを利用するという試みだ。水球のゴールキーパーからヒントを得たとされるこのトレーニングだが、以下にその内容や重点などを整理して紹介してみる。


<全身運動の水泳は、ゴールキーパーのウオーミングアップとして活用することもできる>

“水中トレーニング”水泳プールを活用したトレーニングの概要 (1-6)

<股関節などキーパーの守備動作に特化したストレッチング(1)>

 まずは水泳用のプールに入る前に、ゴールキーパーの守備動作に特化したストレッチングを行なう。股関節、両肩、臀部などを中心にストレッチングを行ない準備運動に備える。なお、ストレッチではゴールキーパー独特の技術動作のためのストレッチも入念に行なうこと。5分間ほど。

<水泳動作(競泳)によるウオーミングアップ(2)>

 

 水泳のクロールや平泳ぎの全身を利用した運動で、有酸素運動を行ない全身のウオーミングアップを20分間行なう。特にゴールキーパーは全身を用いた技術動作が多いため、クロールや平泳ぎといった全身運動は、最適のウオーミングアップであるだけでなく関節可動域のストレッチ効果も期待できる。また関節や足腰などにかかる負荷も少ないため、硬い地面やピッチで行なう運動に比べてメリットを挙げることができる。競泳用のプールなどで、約15分間続ける。

<水泳プール(子供用)の抵抗力を利用した筋力トレーニング(3)>

 深さ1メートルほどの子供用のプールを利用して、水の抵抗力を利用した筋力トレーニングを行なう。股関節やハムストリングなどのストレッチング動作を水中で力強く行なうことで、筋力トレーニングの効果を得ることもできる。まずは静止状態で片足ずつトレーニングを行ない、次に上半身へのストレッチング+筋力トレーニングへと移行する。続いて水中で深く腰を落とし、横に素早く移動したり、バックステップ、水中スクワットなどの運動を行ない足腰全体のトレーニングに重点を置く。水中で両手を広げて、最大限に水中での抵抗力を受けるように心がける。足腰のトレーニングが終了したら、プールサイドに足をかけての腹筋や背筋へと移行する。15分間ほど、複数のメニューをこなす。

<水泳プールを利用したセービングやスライディング動作などの練習(4)>

 筋力トレーニングが終了したら、各競技のゴールキーパー特有の技術動作を水中で繰り返し行なうメニューへと移行する。セービングや、ゴール前での1対1の守備動作、またシュートブロックの動作などを素早く、力強く水中で繰り返す。正しいフォームの確認だけでなく、ストレッチング効果、筋力トレーニング効果も同時に得ることが可能となる。また水中にスライディングするため、グラウンドで行なう技術動作の練習に比べて選手にかかる精神的ストレスの軽減も期待できる。例えば危険な後ろ方向へのジャンピングセーブなどの動作は、浅めのプールならば筋力トレーニングやフォームチェックをしながら安全に練習できる。15分間ほど、複数のメニューをこなす。

<水泳プールを利用したバランス、コーディネーションのトレーニング(5)>

 できるだけ浅いプールで、片足スクワットや、難易度の高いバランスやコーディネーションのトレーニングを行なう。ジャンピングスクワット、足をクロスしながらのセービング動作、激しい横飛び動作などを用いて難易度の高い動作を素早く激しく実行する。ここでのポイントは、水中でなければ選手がバランスを崩してしまうような難しい動作を練習すること。例えば浅めのプールで片足でのスクワットジャンプなどを行いながら、両手を利用してストレッチを行なう。*難易度を上げる場合には下半身でコーディネーションを繰り返しながら、上半身でキャッチボールなどを同時に行なう。15分間ほど、複数のメニューをこなす。

(*プロプリオセプティブトレーニングと称されるような両手、両足でそれぞれ異なったコーディネーションや難易度の高いバランス動作を繰り返すことが望ましい。このようなトレーニングでは、神経や筋肉を含む身体の各関節や運動情報を伝える感覚受容器への伝達を向上させることが期待できる)

<水泳プール(子供用)の抵抗力を利用したボールトレーニング(6)>

 水球の用具などを用いる、またはビーチボールなどを用いてボールゲームやPKの練習を浅めのプールで練習する。特に下半身にかかる筋力負荷が期待できる上で、関節などにかかるストレスが少なく、心身のリフレッシュにもなる。難易度や運動強度はトレーナーが選手の競技レベル、心身の状態、シーズンへの時期などを考慮して調整することが必要である。15分間ほど、複数のメニューをこなす。

<水中でのスクワットや筋力トレーニングでは、関節への負担を軽減することもできる>

 この一見して風変わりな“水中トレーニング”だが、猛暑の8月のスペインにはピッタリのプレシーズントレーニングとして多くの競技にも活用できそうだ。このようなトレーニングは、例えば選手の精神的リラックスにもなるだろう。指導者はゴールキーパーが得失点やチームの勝敗に関わる大切なポジションであり、彼らにかかる精神的負担が他の選手とは異なるということを忘れてはならない。

 日本の夏場はプレシーズンに重ならないことが多いが、この“水中トレーニング”を様々な競技に活用できないだろうか。例えば夏場のバスケット、ハンドボール、バレーボールクラブの練習では、先に紹介したようなゴールキーパーの練習に限らず、水泳プールを活用するトレーニングはメリットがありそうだ。水泳プール以外にも砂浜や芝生などのグラウンドで練習を実施することでも、似たような効果が期待できるだろう。サッカーやフットサルでしばしば砂浜でのトレーニングが取り入れられているのは、足首や足腰のトレーニングおよび、心身のリフレッシュなどを目的としている。


馬場 源徳(ばば もとのり)

 1981年長崎市生まれ。上智大学比較文化学部卒業。アルゼンチン・ベルグラーノ大学南米文学科修了。東京、ブエノスアイレス、バルセロナから台北を経て、現在スペインに拠点を置く。スペイン語・英語・中国語を中心に、翻訳家、通訳としても活動するフリーランスコーディネーター。ボールスポーツを通しての国際交流、青少年教育を中心に研究。異なる文化環境で培った社会経験を活かして、日本と世界の国際交流に貢献することを目標とする。好みの分野はボールスポーツに限らず、紀行文学、国際社会、ITテクノロジーなど。