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2012-12-11

スペインの夏休み合宿 “キャンパス”

2012/12/11

スペインの夏休み合宿 “キャンパス”

 スペインや南欧の夏休みはとても長い。多くの会社員や公務員の人々は、決まって8月などに20日ほどのまとまった休みを取ることが多い。日照時間の長い夏を思いっきりエンジョイするのが南欧の国民性とも言えるだろう。スペインの子供たちの夏休みもとても長い。なんと約2ヶ月半も学校を休むのだ。そして日本やアジアの国々と違って、スペインには子供達が長い時間を過ごすような“学習塾”がほとんど存在しない。また受験戦争という言葉を知らないこの国では、一般の子供達にかけられるストレスやプレッシャーはあまりないのが現状だ。それではスペインの子供達はどのようにして、両親が仕事に出ている間の時間を過ごしているのだろうか。今回のコラムでは、スペインのわんぱくな子供達を預かる“キャンパス”という終日型のスポーツイベントを密着取材した。


キャンパスというイベントについて

 スペインの子供達の多くが5歳ぐらいから12歳くらいまでの期間にこの“キャンパス”という活動を体験する。キャンパスとは毎日いろいろなボールスポーツを通して多くの新しい友人を作って、わんぱくな子供達を疲れ果てるまで運動して楽しませることを大きな目的としている。このイベントを通して子供達は毎日のように様々な集団競技を楽しめる。10日くらいがキャンパスの期間だが、あるキャンパスを終了して違うキャンパスに“ハシゴ”するような少年も少なくない。キャンパスで練習する競技の例は、ホッケー、バドミントン、水泳、バスケット、ラグビー、そして国民的スポーツのフットサル、サッカーだ。


<スペインでは5歳くらいからキャンパスに参加することができる。子供達のお気に入りは国民的スポーツのサッカー・フットサルだ。特に年齢の低い子供達はフットサルからサッカーを学ぶ>

 このようなキャンパスは、各イベントごとに1-2週間ほど、毎日地域の運動グラウンドや体育館などで行なわれる。また市内の博物館や、社会見学のようなイベントも織り交ぜており、内容は実に盛りだくさんだ。例えば市内の科学博物館を訪問する、ゴルフ場へ行きゴルフ体験コースを楽しむ、魚市場を訪れる・・・などである。自分の子供を預ける両親としても、スポーツだけでなく社会見学なども企画してくれるキャンパスがあれば、安心して仕事に集中できるという仕組みだ。また子供達はこのような場所を通じて新しい友人と出会い、交流して、協調してスポーツに取り組むことを覚える機会を得る。

 キャンパスが行なわれる時間帯は、両親が出勤する朝の9時から仕事が終わる午後の3時(または午後の5時)ほどまでである。このようなキャンパスは毎日約7、8時間にわたって30-40人くらいの子供達が一緒に時間を過ごすという、“共同生活”の要素を含んでいる。各キャンパスには“モニター”と呼ばれる成人のコーチ陣が複数名いて、このモニターがこのキャンパスに参加する子供達のお世話役となる。


<ゴルフ体験コースの様子。モニターと一緒に、陽気にキャンパスを楽しむ少年達>


キャンパスの時期や料金など

 

 スペインの典型的なキャンパスは6、7月の頭に多く行なわれる。春休みなどを利用したキャンパスも存在するが、最も盛んな時期は6月末から7月末までだ。春先になると多くのサッカークラブやスポーツクラブが、自分たちのキャンパスの宣伝を始める。サッカーやフットサルに多くの時間を費やすキャンパスは、特に少年達には大人気となる。そのため、大部分のキャンパスではサッカーやフットサルの時間を多めに用意してある。有名なクラブや、名前の知れたサッカー選手などが広告塔となる場合は、満員となることも多々ありだ。現状としてはキャンパスによっては総合スポーツ型もあれば、サッカーに特化した特訓型キャンパスも存在する。


<サッカートレーニングに特化したキャンパス。有名なコーチなどを招いて、サッカーの練習に重点を置いた日程で厳しいメニューをこなす>

 キャンパスの参加費は週に5000円から1万円ほどと安めに設定されている。有名なクラブなどが開催する場合はもっと高い値段のこともあるだろう。参加者の年齢は6歳から12歳までだが、5歳くらいの少年なども時々見かける。各キャンパスの中で集まった参加者の年齢層に応じて、複数のグループに分けて同じぐらいの年齢の子供同士が活動できるように工夫している。

キャンパスの時間割の例 *(半日型/室内フットサル/1週間のスケジュール)

時間帯 月曜日 火曜日 水曜日 木曜日 金曜日
09:00-10:00 ホッケー
鬼ごっこなど
バスケット
ホッケー
バドミントン
バスケット
ホッケー
ボール遊び
フットサル
基礎練習
10:00-12:00 フットサル
基礎練習
フットサル
応用練習
フットサル
戦術練習
フットサル
基礎練習
ビーチサッカー
12:30-13:30 水泳 ゴルフ体験 ゲーム遊び 社会見学
*科学博物館
閉会式
13:30-14:30 バスケット ゴルフ体験 フットサル 社会見学
*魚市場
解散


キャンパスで印象に残ったこと

 複数のキャンパスを取材して印象に残ったことは、キャンパスの厳しさである。他の子供達との共同生活を通して、いじめをする少年や、自分勝手な少年や、グループでの行動などが苦手な子供達に対して、スペイン人の成人モニターの方々は、かなり手厳しいという印象を受けた。注意しても他の参加者を尊重しない子供達には、容赦なく大人のルールを適用してグラウンドを走らせたり、厳しくしかったりする光景も取材の中でよく見た。

 また毎日のチームスポーツや集団行動を通して、スペイン人の子供達はすぐに他人と仲良くなる。“他人を恐れない”と表現できるかもしれない。見知らぬ相手とも声を掛け合って、様々な競技をこなして思いっきり楽しんでいるのがとても印象に残った。また成人モニターとも自分の意見を交換するなど、スペインの少年達の大人の部分を感じることもあった。自分勝手な印象の強いスペインの子供達であるが、このようなスポーツ活動を通して、思ったよりも“集団性”や“厳しさ”を磨かれているのかもしれない。

 とにかくスペインの“キャンパス”は長時間の子供達の共同生活だ。精神的にも体力的にもとても大変なイベントである。異なる学校の、様々な年代の子供達が短期間ではあるが多くのボールスポーツを通して交流する。そして大人のモニターがそれを管理して手助けする。スペイン人のボールスポーツに対するこだわりと、彼らの他人に対してオープンな性格を象徴するようなイベントと表現できるだろう。


馬場 源徳(ばば もとのり)

 1981年長崎市生まれ。上智大学比較文化学部卒業。アルゼンチン・ベルグラーノ大学南米文学科修了。東京、ブエノスアイレス、バルセロナから台北を経て、現在スペインに拠点を置く。スペイン語・英語・中国語を中心に、翻訳家、通訳としても活動するフリーランスコーディネーター。ボールスポーツを通しての国際交流、青少年教育を中心に研究。異なる文化環境で培った社会経験を活かして、日本と世界の国際交流に貢献することを目標とする。好みの分野はボールスポーツに限らず、紀行文学、国際社会、ITテクノロジーなど。