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2013-1-21

チームレポート ローラーホッケーの強豪 『リセウ1972』

2013/01/21

  ポルトガル、スペイン、イタリア、スイス、アルゼンチンやブラジルでは一際盛んなスポーツの1つにローラーホッケーがある。ローラーホッケーは、その名前の通りホッケー競技の1種である。基本的には4輪のローラースケートを履き、スティック(木、又はプラスチック製)でパックと称されるボール(硬質ゴム/ 直径約7CMで夏用と冬用がある)を相手ゴールに入れて得点する。

 欧州ではリンクホッケーとも呼ばれるが、ルールはホッケーの要素を取り入れつつも、ゲーム展開はフットサルとバスケットボールに非常に近い競技内容である。日本国内でのローラーホッケーの認知度はまだまだ低いが、ポルトガルやスペインなどの欧州の国では比較的盛んなスポーツでプロリーグも存在している。今回は世界でも1、2を争う「ホッケー・リセオ・デ・ラ・コルーニャ」というクラブを取材してみた。

 この「リセウ」はスペインのプロフェッショナルリーグである「OKリーグ」に所属しており、毎年のようにバルセロナと首位争いを繰り広げる名門クラブとして知られている。リセウはスペイン以外でも非常に認知度の高いクラブであり、2011-12シーズンはイタリアのLODIで行なわれた欧州クラブ選手権の決勝で宿敵バルセロナを4-2で下し優勝している。また2012欧州選手権を優勝したスペイン代表にも3名の選手を派遣しており、リセウは名実ともにローラーホッケー界には欠かせない存在だ。そしてガリシア州・アコルーニャという市に本拠地を置くこのクラブは、バルセロナが本拠地を置くカタルーニャ地方のクラブに対抗する最大のライバルでもあり、今年もタイトル争いに名乗りを上げている。


プロクラブ・リセウの練習について

 リセウは下部組織に700人もの育成選手をかかえている。4、5、6歳ぐらいまではひたすらローラースケートを指導して、7歳ぐらいからスティックとボールを持たせるようにして彼らの英才教育がはじまる。育成年代は週に3回の練習をこなし、スペインのその他のボールスポーツのエリートクラブとほぼ同じ練習時間やシステムで活動している。優秀な下部組織でエリート選手を育てる、そして多くの優秀な選手がポルトガルやスペインのカタルーニャ地方へとプロ契約を結ぶ。

 1972年に設立されたリセウだが、プロのトップチームは週に7、8回の練習をこなしている。毎回の練習は約2時間で、フィジカルトレーニングを取り入れた細かい戦術トレーニングなどが行なわれる。私はリセウを取材する以前、ローラーホッケーの試合の映像をテレビでしか見たことがなく、取材を通して目の前でこのローラーホッケーを体感させていただいた。とにかく迫力満点の練習を見て、実に多くの事に驚きを隠せなかった。


技術の高さ

 以前からローラーホッケーの選手の技術の高さには、多くの人が驚かされると聞いていたが、まさに想像を超えるテクニックを持った選手ばかりだ。幼い頃からこの競技に特化したトレーニングを行ない、また世界を代表するクラブのプロ選手として活躍していることを考慮しても、驚きを隠せなかった。直径7CMほどの硬いボールをスティックで救いあげたり、足の回りで回したり、スティックのあらゆる箇所で浮かせてみたり、リフティングしたりもする。ちなみに、このボールは夏用と冬用があり、温度によって硬度が変化することから生じる“ボール感覚”のずれに対応できるようにしてある。


スピード

 そしてテクニックを一層際立たせるのがプレーのスピードである。40Mを約4・5秒で走り抜けるスピード、そしてスティックから叩き出される高速のパスやシュート、どれをとっても迫力満点だ。またプロテクターやローラースケートを装備していることもあり、重厚感とスピード感も楽しむことができる。



俊敏性と破壊力

 またゴールキーパーとの1対1の練習などを見れば分かるが、ボール捌きやフェイント動作は華麗としか表現できない。俊敏性、テクニック、スピード感に加えてシュートの破壊力にも驚かされる。プロのローラーホッケーの選手のほとんどが、ボールの威力とスピードから一度は鼻骨骨折すると言われている。


フットサルやバスケットとの類似性

 戦術やゲーム展開だが、「ホッケー」というよりもバスケットやフットサルに類似している印象を受けた。パス回しからローテーション、ブロック、クロス、ピボット、またはライン間でのプレー、セカンドポスト、このような様々な戦術概念がバスケットやフットサルとローラーホッケーが似ている理由だろう。バスケットやフットサルを楽しめる人にとって、この競技は非常に親しみやすいものであるだろう。そしてGKが膝をついて特殊なポジションを取ることなども印象に残った。


練習内容について

 リセウの練習内容は、バスケットやフットサルの練習に似た構成だ。約90分で構成される練習内容は、主に体力的要素を含んだ前半部分(1,2,3)そして戦術的要素をより多く含んだ後半部分(4,5,6)に分けられる。前半は監督補佐、そしてフィジカルトレーナーが管理しており、後半は総監督が中心になって指揮を執っている。やはりローラースケートを装備しているため、股関節は重点的にストレッチする傾向にある。

 なおリセウの場合、ジムなどで行なうフィジカルトレーニングは週に1回のみしか行なっていない。ほとんどの場合フィジカル要素を含んだ練習内容を用意することにより、より実戦に近い状況の中でフィジカルトレーニングを行なうインテグラル式トレーニングを重視している。主な練習内容の例は以下の通りである。

1. ウオーミングアップ

2. 筋力トレーニング+ストレッチ

3. サーキットトレーニング

4. スプリント、シュート、3対2、1対1

5. テーマ+局面ごとの戦術練習

6. 審判をつけてのゲーム形式練習

7. ストレッチ、クールダウン


*監督インタビュー



 リセウ監督カルロス・ヒル氏(アルゼンチン出身)に、自身の哲学などについてインタビューしてみた。勝利者のメンタリティーを持つことで有名なカルロス監督だが、彼の哲学から何か面白いヒントを得ることができればと願っている。


*日本ではあまり知られていない“ローラーホッケー”について

「この競技はフットサルやバスケットにとても似通っています。まずは読者の皆様には、フットサルやバスケット、ハンドボールをイメージしていただければと思います。事実多くのコーチが、それらを参考にした練習メニューなどを導入しています」

*スペイン・ローラーホッケーの本質とは?

「スペインがボールスポーツで素晴らしい成績を残していますが、それには大切な理由があると思います。勝利のカギは、攻撃することにあります。バスケットリングのついた公園に子供が二人いると想像してください。ボールを彼らに投げれば、ボールを奪った方はすぐにドリブルやシュートを仕掛けるでしょう。攻撃すること、それがボールスポーツにおける人間の本質ではないでしょうか」


*ボールスポーツにおける勝利の哲学とは?

「先述した通り、ボールスポーツにおける本能は“攻撃すること”にあります。自然体それは攻撃することです。そして攻撃するためにはボールを保持することが必要不可欠です。ボールを回して、守れば、攻撃されることはなく常に攻撃する側にあるからです。ボールを保持すること、ボールがなければボールをできるだけ有利な位置で奪いかえすことにスペイン指導者の哲学があると思います」


*守備の重要性について

「もちろん現代スポーツにおける守備の重要性は高まる一方です。戦術が発達して、守備が組織されているのが現代ボールスポーツの特徴でしょう。しかし私は守備の重要性も、やはりボールを奪い返して攻撃するための手段にしか過ぎないと考えています。日本の指導者の方々も、ぜひガンガン攻めたてて、ボールを常に支配しているようなチームを作ってください。選手もきっと楽しんでプレーしてくれるはずです」


馬場 源徳(ばば もとのり)

 1981年長崎市生まれ。上智大学比較文化学部卒業。アルゼンチン・ベルグラーノ大学南米文学科修了。東京、ブエノスアイレス、バルセロナから台北を経て、現在スペインに拠点を置く。スペイン語・英語・中国語を中心に、翻訳家、通訳としても活動するフリーランスコーディネーター。ボールスポーツを通しての国際交流、青少年教育を中心に研究。異なる文化環境で培った社会経験を活かして、日本と世界の国際交流に貢献することを目標とする。好みの分野はボールスポーツに限らず、紀行文学、国際社会、ITテクノロジーなど。