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2013-2-4

スペイン人監督による「女子チームを指揮すること」についての考察

2013/02/04

*スペイン人監督による「女子チームを指揮すること」についての考察

 つい最近、スペイン某女子フットサルクラブのホセ・カルロス監督が、女子クラブを指揮して全国リーグ1部を戦うことについてのインタビューに応じ、「女子の試合や練習は、競技という観点からはとても退屈で仕方ない」と発言した。男子クラブを長く指揮した同監督ではあるが、女子カテゴリーでの指導への順応には大変苦労したようだ。


<ホセ・カルロス監督、「選手とは一定の距離を保って接することを心がけている」と女子の選手を横一列に並べながら戦術説明を行なう>

 日本でも多くの指導者にとって、女子チームと男子チームとでは指導法や接し方に大きな違いがあるだろう。また女子クラブを率いるプロセスのなかで、何かしらの悩みを抱えている指導者も少なくないかもしれない。今回のコラムでは有名な女子フットサルクラブを取材して、スペインという日本と異なる文化の中で、女子の競技指導に従事する指導者たちの率直な意見を聞き、このテーマに対するヒントを探してみたい。

 今回インタビューの対象となったのは「Javier Pardeiro Casabella」・ハビエル氏、そして「Sergio Blanco Mera」・セルヒオ氏の2名だ。ハビエル氏はスペイン1部の「ブレーラF.S」という女子チームの監督を務めて4年目の監督だ。同監督はこれ以前にも、長く男子フットサルプロクラブの監督を務めていた。一方のセルヒオ氏だが、スペイン北部のコルーニャ州の女子フットサル大学選抜、女子サッカークラブ、女子フットサルクラブなどを男子クラブと並行して指導している。両監督とも女子カテゴリーの指揮には定評があり、彼らの意見を参考にしたい。


*女子スポーツ界が背負う大きな問題について

「まず男子と女子の選手を比較する前に、忘れてはならないことがあります。それは多くの競技では、女子クラブの指導者側に多くの問題があることです。スペインの場合、多くの競技で優秀な監督や指導者は、男子クラブを指揮することを目標にかかげています。メディアの関心、自身の将来へのステップ、給料、自身の経歴として、男子クラブを率いる方が監督として競争力を得られるからです。残念ながら女子クラブを率いる監督には、指導者として優秀ではない、または野心のない人が多くいます。まずは女子の選手の弱点などを話す前に、女子の環境の改善が必要かもしれません。女子スポーツは多くのハンディキャップを背負っているのが現状なのです」-セルヒオ氏


*グループのために自己犠牲ができるのは男子だろう

「男子のグループの場合、チームのための自己犠牲をすることに抵抗がない傾向にあります。しかし女子の場合は『チームが大切』とは言いつつも、自分が主役だと感じさせてあげることが必要です。スペインの文化には女性は愛情を注がれ、大切にされるべき、という考え方があります。よくも悪くも女性が甘やかされる文化なのです。この文化が少なからずスポーツにも影響します。逆にスペインの男子は、幼い頃から他人とボール遊びなどで競うことに慣れています。伝統的に男子の場合、少年コーチなども厳しく少年に接します。風当たりの強い人間関係の中で育ち、競争グループに生き残る男子の選手は、自然と自己犠牲のルールを覚えます。スペインで女子に対して厳しく接することは、アジア文化よりも難しいかもしれません」-セルヒオ氏


<写真(左)一番右側、写真(右)一番左側のセルヒオ氏は、「とにかく女子選手とは個人的なコンタクトをとらずに、平等に扱うことがポイント」とアドバイスしている>


*女子は規律を重んじて、素直に順応してくれる

「わたしは指導者として男子を7年間、女子を4年間プロリーグで指揮してきた。女子の選手は多くの場合、決められた約束を守る。仕事をしっかりとこなし、決まり事とノルマを達成するという観点からは、女子チームで仕事をする方が効率はいい。スペインの男子は、プロレベルになれとプライドが高い選手ばかりです。すぐに監督に反抗したり、自分が正しいことを証明しようとしたりする。反骨心があるのです。いずれにしろ女子の方が素直に指示に従う傾向がある」-ハビエル氏


*女子のロッカールームでは細心の注意を払うべき

「プロやアマチュアの女子チームを率いて、男子と決定的に異なって注意するべき問題がある。それがロッカールームでの選手間の“いざこざ”や“口論”に対する対処法だ。男子の場合、多少のもめごとは自分たちで解決することができる。ケンカしたって明日には友人に戻れるだろう。だが女子の場合はそう簡単にはいかない。試合や練習の後にささいな問題でもあれば、必ずスタッフが介入して問題を処理することが必要だ。もしも女子の選手に問題解決を任せると、チームに亀裂が入ることも考えられる。これは非常に重要なポイントだと覚えておいて欲しい。結論から言えば、女子はよりセンシティブということだ」-ハビエル氏

<写真(左)2列目中央、写真(右)左から2人目のハビエル氏、「ちょっとした“嘘や冗談”も女子の選手には通じない場合がある。彼女たちはとても純粋だ」とコメントしている>


*女子に対しては100%平等に扱うこと

「女子クラブを率いて、他の指導者からよく聞く言葉があります。それは『女子の選手を扱う場合には100%平等に接する』というルールです。悪い表現をすれば、『彼女達の嫉妬心を引き起こさない』ということでしょう。男子にも同じような嫉妬心はあるだろうが、スペインの指導者は概して『この嫉妬心が女子のグループに対してポジティブに働くことはない』と考えています。例えば男子なら、特定の選手を厳しく指導したり、特殊な冗談を言ったりできます。男子の場合、それがポジティブに作用することが期待できるからです」-セルヒオ氏


*決して冗談でも嘘をつかないこと

「私は男子のクラブを指揮する時、選手に対して冗談や“ハッタリ”のような言葉をかけることがある。男子の場合、そのような“ユーモア”の感覚を受け入れやすい傾向にある。それが結果的に正しくても、正しくなくても、決して大きな問題には発展しないだろう。ところが女子チームを率いる場合、指導者はとにかく選手と『正直に接すること』が大切になる。何事も理由を明確に説明することだ。あらゆる誤解を招かないことがポイントだ。女子チームが指導者の明確なノルマをこなしてくれることを信じて、正直かつ明確に情報を伝えるべきだ」-ハビエル氏


*監督としての満足度では女子クラブもかなり大きい

「女子クラブを指導する場合、多くの技術的動作や、戦術的動作を指導することが可能となる。たくさんの技術や知識を伝えて、選手達の成長に貢献できるというポイントに、女子クラブを率いる楽しさがある。戦術練習の理解や実行においては、女子の方が男子よりも効率が良かったりする。また、女子はまじめに話を聞いてくれるため、指導者として『もっと準備しよう』という気持ちが湧いたりするね」-ハビエル氏


馬場 源徳(ばば もとのり)

 1981年長崎市生まれ。上智大学比較文化学部卒業。アルゼンチン・ベルグラーノ大学南米文学科修了。東京、ブエノスアイレス、バルセロナから台北を経て、現在スペインに拠点を置く。スペイン語・英語・中国語を中心に、翻訳家、通訳としても活動するフリーランスコーディネーター。ボールスポーツを通しての国際交流、青少年教育を中心に研究。異なる文化環境で培った社会経験を活かして、日本と世界の国際交流に貢献することを目標とする。好みの分野はボールスポーツに限らず、紀行文学、国際社会、ITテクノロジーなど。