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2013-2-19

スペインの36時間フットボールマラソン

2013/02/19

 スペインの36時間フットボールマラソン

 スペインの道端には、夏が近づくと“フットボールマラソン”の広告が見られるようになる。24時間、または36時間という長時間のフットボールマラソンということで、始めてこの名前を耳にすると冗談にも聞こえるが、確かにスペインではこの“フットボール36時間マラソン”が各地で行なわれている。また、優勝チームなどに与えられる賞金も、3000ユーロ(約36万円)などと豪華なものだ。また数年前には賞金6000ユーロ(約70万円)という大会なども見かけることができた。

 日本にもイベント会社やフットサル場の経営で似たような催しがいくつか見られたが、スペインのそれとはどう異なるのだろうか?さて、今回はスペイン全国で夏の初めあたりから催されるこのスポーツイベントについて自身の体験談を交えながらレポートしてみる。

<24時間(左)、36時間(右)マラソンの広告。賞金は優勝チームには1200ユーロと豪華だ>


“フットボールマラソン”の種類分けなど

 フットボールマラソンと呼べども、実際は7人制、8人制、またはフットサル(5人制)の大会がその大部分を占めている。やはり11人制のフルサッカーは、場所も消耗する体力も尋常ではないため、フットボールマラソンには適していないのであろう。また、“36時間”以外にも“24時間”や“12時間”というコンセプトがあり、都市などによっては“48時間”の大規模な大会なども存在する。他にもバスケット、ハンドボールなどの室内競技でも稀ではあるが催され、日本ではフットサル以外にもバレーボールやバスケットのような人気の大衆スポーツならば面白いイベントとなりそうである。


“フットボールマラソン”の開始時刻や参加チーム数など

 この“フットボールマラソン”は、場合にもよるが土曜日の午前中(例えば朝の10時)に開催されて、予選などを行ない、翌日(日曜日)の夜の20時ぐらいに決勝戦や順位決定戦で幕を閉じるのが通例だ。やはり、社会人が参加できるように週末に開催される場合が多い。リーグ形式、または総当り戦による予選は文字通り“徹夜”で続けられ、試合によっては深夜2時半、または早朝の6時にキックオフとなる。

 参加チームは10から30チームぐらいで行なわれており、コート数は2面、3面などを備えたスポーツ施設で行なわれるのが通例だ。もちろんフットサルなどは室内競技のために体育館を利用して行なわれ、天候を気にせずに開催できるために人気は高い。また、チーム数の多さなどからスペインではフットサルマラソンが8人制サッカーマラソンなどよりも人気だ。


“深夜の時間帯など会場はどのようになっているのか?”

 “フットボールマラソン”が行なわれる日程では、会場などは開放されている。常に利用できる更衣室やシャワールーム、そして休憩スペース、売店やレストランなどが用意されている。このような売店やレストランは大会スポンサーである場合が多く、常に選手や選手の友人や観客で賑わっている。休憩スペースで友人や、家族と談笑しながら早朝2時の試合を待つチームもいれば、帰宅して仮眠をとるチームもある。


“試合時間や登録選手について”

 もちろん、まともに公式戦のような試合時間で多くの予選をこなすことは体力的に不可能である。徹夜の予選ということもあり、試合時間は公式戦の約1/2ぐらいの長さで行なわれる。また、選手交代は無制限に設定されており(フットサルに本来交代制限はない)、登録選手数なども多めの人数で行なうことができる。そのため、多くの友人や複数のチームを混成して大きなチームを形成する。大きなチームなどは応援団を連れてくる場合もあり、各チーム雰囲気は様々である。


“参加チームのレベル分けなどについて”

 大会によっては、県リーグ登録以上のみの参加などの“エリート大会”もあれば、逆に“県リーグ以上のチームは参加不可能”という条件の大会もある。いずれにしても、チーム名を変更したり、登録選手を混成したりして、多くのチームが賞金や上位進出を狙うのが醍醐味だ。また参加チーム数も非常に多く、懸賞金などがかかるために、高いレベルの試合が盛りだくさんで地域レベルの向上にも貢献している。地域によっては、プロクラブ顔負けのようなチームが多く参加するマラソン大会も見られる。


“観衆や試合を取り巻く雰囲気について”

 もちろん大会の趣旨に左右されるが、スペイン人の国民性もあり、またサッカーへの情熱もあってか、どんな小規模なマラソン大会でも選手や観客は盛り上がる。ピクニックがてらに食事をする友人達のギャラリーもあれば、監督のようなおじさんたちが騒ぎ立てるチームもある。また多くのチームが休憩中にも試合を観戦するために、会場全体が競技の緊張感を高めている。決して何かの県大会や予選ではないのだが、盛り上がりは素晴らしく“お祭り”のようだ。スペイン現地の雰囲気から表現すれば、“マラソン”ではなくて“賞金争奪戦”と表現した方がよいだろうか。


“フットボールマラソン”のスポンサー、地域活性化の目的について

このように多くのチームが参加する大会は、多くの選手だけではなく、友人や観衆が集う場所でもある。そのため、地域のスポーツ施設や多くの飲食店などがスポンサーとなって関わっている。また、参加賞(シャツや食事など)や景品なども用意される場所も多い。その他、多くの審判やスタンドなどにも仕事が振り分けられるために地域活性化のイベントともなっている。また、マラソンの決勝戦などは地元のテレビ局などが取材したり、地元の有名なテレビ解説者が実況したりもする。

<スポンサー広告で埋め尽くされた“フットボールマラソン”の広告の一部分>

 たくさんのスポンサーが参加するこの“フットボールマラソン”。地域のスポーツ施設や市役所の協力を得て、格安の参加費で豪華な懸賞金などをかけて盛り上がる。なお上の写真にある大会の懸賞金は、1位が1500ユーロ(約18万円)、2位が1000ユーロ(約12万円)、3位が500ユーロ(約6万円)となかなかの金額だ。多くのチームや若者達がスポーツを通して触れ合う場所、競い合う場所としての役割だけではなく、家族や友人達の集いの場所としての機能も果たすこの“フットボールマラソン”というイベント。特にスペインでは、小さな街の市役所などが積極的に体育館を貸し出して、このようなイベントを手助けしている。

 日本でも最近流行している社会人フットサル、または女性に大人気のバレーボール、また規模は大きいが野球やソフトボールなど・・・このような集団スポーツを、地域活性化や社会人の交流の場所として提供する方法の1つとして、この“フットボール36時間マラソン”のアイデアを活用できるかもしれない。


馬場 源徳(ばば もとのり)

 1981年長崎市生まれ。上智大学比較文化学部卒業。アルゼンチン・ベルグラーノ大学南米文学科修了。東京、ブエノスアイレス、バルセロナから台北を経て、現在スペインに拠点を置く。スペイン語・英語・中国語を中心に、翻訳家、通訳としても活動するフリーランスコーディネーター。ボールスポーツを通しての国際交流、青少年教育を中心に研究。異なる文化環境で培った社会経験を活かして、日本と世界の国際交流に貢献することを目標とする。好みの分野はボールスポーツに限らず、紀行文学、国際社会、ITテクノロジーなど。