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2013-3-4

リーガ・エスパニョーラを日々戦い抜く「オルトラ監督」

2013/03/04

「ホセ・ルイス・オルトラ監督」

 先日スペインサッカー1部(リーガエスパニョーラ)の監督を独占インタビューできる機会をいただいた。メディアからの関心も非常に高く、膨大なプレッシャーを受けるスペインサッカーの最前線で戦うのが、国内北部デポルティーボ・ア・コルーニャを率いるホセ・ルイス・オルトラ監督だ。現役時代よりスペインリーグを戦っており、2001年からサッカー監督としての道を歩み始めている。2011年からは、デポルティーボ・ア・コルーニャ(当時2部)を率いて1部復帰に大きく貢献した。

 オルトラ監督は、スペイン国外では大きな成功こそ成し遂げてはいないが、長年の経験からスペインサッカーの現状を深く理解している。また、スペイン国内では同監督のサッカー哲学が「堅実な勝利よりも、美しく攻撃的なサッカーを目指す」であることでも知られている。その気さくな人柄でも知られるオルトラ氏だが、その風貌や厳しい指導からも「ボス」などと称されている。

<ホセ・ルイス・オルトラ氏(1969年生まれ・バレンシア出身)>




Q1.あなたは多くの修羅場をくぐってきた監督として知られています。2部からの昇格や、残留争いなどを多く生き延びてきた。そこであなたが考える“サッカー監督としての人生観”を教えてもらえますか?

 「まず僕のことを“あなた”と呼ぶのは止めてくれよ(笑)。普通に友達のように話してくれればいい。スペインのサッカーは国民スポーツとして、大きなメディアの注目が集まる大衆スポーツだ。勝敗の結果が最も大切なんだ。スペイン人のサッカー指導者や選手は“勝てば英雄、負ければ犯罪者”のような扱いをされる」

 「“勝てば英雄、負ければ犯罪者”ということは、つまり1試合ごとの重要性が非常に高いということだ。1試合の勝敗が大きくシーズン全体を影響するようにね。明日のことだけ考えては生きられないが、“1つ1つの試合が最も大切”という哲学は大切だと思う」


Q2.それはスペインや欧州その他のボールスポーツにもある、マイクロサイクル(毎試合ごとにトレーニングプランを作成する方法)と関係していると理解してもいいですか?

 「その通りだよ。メソサイクルのように2ヶ月の中期的プランを立てるよりも、私のように難しいシーズンを過ごすことの多い指導者は、1試合ごとに全てがかかっている。そのためごく短期間のマイクロサイクルでトレーニングは計画するのがごく一般となっているね」

 「選手のコンディション、フロントの解任、資金問題、その他多くの問題が成績の不安定なクラブでは発生する。6ヶ月後のことを考えてチームプランやトレーニングプランを作成するのは、結果を求められるプロやセミプロフェッショナルの世界では非常に困難なことだね」


Q3.例えばサッカーやフットサル以外のボールスポーツで、何か参考にしているスポーツなどはありますか?

 「ホッケー競技にとても関心と興味を抱いている。僕は実際多くのヒントをホッケー競技から得て、練習メニューに取り込んでいるよ。サッカーのアイデアが尽きた時は、参考になるんだ。バスケットもそうだね。とにかく他競技からはスペースを作り出す動き、ブロック、ボールキープ、戦術やセットプレーと多くのことを参考にできるね」


Q4.オルトラ監督は選手をまとめるのが非常に上手で、試合前の指示や選手へのスピーチが非常に素晴らしいと聞いている。具体的にスピーチのコツがあれば教えてもらえますか?

 「現役時代から多くの優秀な監督に恵まれたことで、僕は選手として監督から何を言われたら励まされるか、嬉しいか、落ち込むかを十分理解しているつもりだ。選手を勇気づけるための僕なりの決まりごとを、今日はいくつか紹介しよう」

“選手を集めてのスピーチは毎週2回と決めている”

 「選手を集めてのスピーチは毎週2回と決めている。これは非常に重要で、選手の意識統一、自尊心の維持、士気の高揚などたくさんの大切な役割を備えているんだ。試合前のロッカールームでの指示を加えれば3回のスピーチとなるが、しっかりと事前に考えて書くことをお勧めするよ。選手を上手く勇気付けることが、監督としては非常に大切な役割だからね」

 「1回目のスピーチは、試合明けの最初の練習で必ず済ませること。試合を振りかえり、分析して、選手と話をすることが大切だ。選手を集めて監督として冷静な結論を伝えるんだ。“何がプラスで、何がマイナスか”しっかり全員と意思の疎通をはかって、過去の試合を清算するんだ。これで新しい週のスタートをしっかりと切ることができる」

 「2回目のスピーチは、試合前日などに行なうことが多い。練習の状況や、対戦相手の分析などから選手に勝利のための解決策を伝えるんだ。難しい試合こそ、このスピーチは大切で、選手のモチベーションを試合前に最高まで引き上げる。また練習の反省点などを話し合うのも、このタイミングが最適だろう」

“試合前のロッカールームでは、スピーチを短くまとめること”

 「そしていよいよ試合を迎えるわけだ。試合前のロッカールームでは、ごく短めの注意事項だけを伝えるようにしている。2つほどの試合でのポイントを復習して、選手に明確なアイデアを伝えることだ。3分間でも長すぎるかもしれない。監督によっては、この直前スピーチまでスターティングメンバーを明かさない人もいる」


Q5.アジアのサッカーやアジアの選手などについてどう思いますか?アジアのクラブを率いるとしたら、オルトラ監督はそんな経験を楽しむことができますか?

 「アジアの選手が世界にも通用する技術やスピードを備えていることは、もう十分証明されたと思っている。日本人選手のナカタ(中田英寿)やカガワ(香川真司)がその代表例だろう。やはり言語の問題などから戦術的な問題がある印象はあるけど、僕がこれまで見た選手はどれも素晴しかった。確かに南米の選手のような強烈なインパクトはないけど、日本人や韓国人の選手はとても規律を重んじる選手だね。スペインのように自分勝手な選手ばかりを面倒見るよりは、日本のクラブを指導する方がコーチングを純粋に楽しめそうだよ(笑)」

 「それでも自分勝手な“ヒラメキ”はボール競技においては非常に大切なエレメントだ。スペインで輝く選手は、自分の個人戦術の120%を試合で常に引き出せる。日本にだってそんな選手がたくさん出てくるといいね。Jリーグなどにもこれからも注目しておくよ」


Q6.それでは最後に、これから指導者を目指す人や選手を目指す若い人材に何かアドバイスをもらえますか?


“常に進化し続けること”

 「常に進化し続けることだと思う。スポーツはとても速く変化している。指導者は常に新しい情報、テクノロジー、理論などに注意しておくべきだ。常に進化して、新しいことを学ぶ姿勢は、指導者には欠かせない要素だ」


“希望とモチベーションをもつこと”

 「これは選手も指導者にも適用できることだけど、希望やモチベーションがなければ何事も達成できるはずがない。だから、他人よりも常に高いモチベーションで各競技と向き合うことが大切だ。逆にモチベーションがあれば、いろいろなことを達成できるはずだ」


“伝達して、突き動かす能力”

 「そして最後に、指導者やリーダーとなる人間は、他の選手に自分のモチベーションや情報を伝達する能力を磨かなければならない。ただ知識があるだけでは、宝の持ち腐れだからね。僕たち指導者には、選手にモチベーションや情報を伝えて、導いて、火をつけ、そしてグループ全体を突き動かすことが求められる」

 「これから指導者を目指す方には、自分なりの伝え方、選手の動かし方を経験とともに学んで欲しい。文化が違っても、“知識の伝達方法”だけでなく“カリスマ性”や“リーダーシップ”だって必ず磨くことができるはずだ」

*なおオルトラ監督は、クラブの成績不振と経済危機のために2012年一杯でトップチームを離れることが決定した。惜しまれながらの解任だが、これからも同監督のスペインサッカー最前線での奮闘が期待される。(このインタビューは、2012年12月20日に行なったものです)


馬場 源徳(ばば もとのり)

 1981年長崎市生まれ。上智大学比較文化学部卒業。アルゼンチン・ベルグラーノ大学南米文学科修了。東京、ブエノスアイレス、バルセロナから台北を経て、現在スペインに拠点を置く。スペイン語・英語・中国語を中心に、翻訳家、通訳としても活動するフリーランスコーディネーター。ボールスポーツを通しての国際交流、青少年教育を中心に研究。異なる文化環境で培った社会経験を活かして、日本と世界の国際交流に貢献することを目標とする。好みの分野はボールスポーツに限らず、紀行文学、国際社会、ITテクノロジーなど。