マイクロサイクルによるトレーニング計画
2013/03/18
「マイクロサイクル」による練習計画
部活動やクラブ活動に従事する指導者の方々、またチームマネージャーとしての役割を果たす選手は、どのようにして毎週の練習内容を計画しているだろうか?欧米において練習のプランニングに適用される「マクロサイクル」、「メソサイクル」、そして「マイクロサイクル」などは、ボール競技やサイクリング競技などでも頻繁に導入されるトレーニング計画基準である。
「マクロサイクル」は1シーズンを周期とした長期的計画のことを一般的には指しており、「メソサイクル」では2週間から2ヶ月ほどの中期的計画のことを意味する場合が多い。そして「マイクロサイクル」とは、毎試合(毎週)ごとに先週の試合や、次週の対戦相手、クラブのカレンダーなどに合わせて練習内容を計画するという練習計画基準である。
今回のコラムでは、毎回の試合を1つのサイクルとして計画される「マイクロサイクル」による練習のプランニング方法を特集してみる。スペインハンドボール育成のプロフェッショナルとして知られる、ここではシェスコ・エスパル氏やその他の専門家の意見を参考にしながら、この「マイクロサイクル」によるトレーニング方法を検証してみる。
<マイクロサイクルの定義>
もちろん指導者にとって、毎日の練習をフレキシブルに変更させる能力は大切である。また育成年代などでは、長期的な計画を優先するクラブも存在するだろう。一般的なマイクロサイクルは、週末の試合に照準を合わせた1週間ごとの練習計画だ。このマイクロサイクルの構成には、毎週に控える試合に照準を合わせて、選手に要求するトレーニング内容などを忠実に実行できるという長所がある。また試合が週に2試合あるトップレベルなどでは、3日ごとにマイクロサイクルを組み立てるクラブも多くある。
欧米では多くのハンドボール、バスケット、フットサル、ホッケー、サッカーなどのエリート指導者が、この週ごとのマイクロサイクルによる練習計画を実施している。まずはマイクロサイクルの順序立てを復習してみる。
<「マイクロサイクル」の構成における5つのステップ>
① 週末の試合+フィードバック+情報収集を行なう(スカウティング)
② チームが必要とする、トレーニングの必須要素をリストアップする
③ 週の練習カレンダーにその必須要素を振り分ける
④ その他のエレメント(フィジカルトレーニングなど)を振り分ける
⑤ 試合に向けての最終準備を行なう
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① 週末の試合+フィードバック+情報収集を行なう
チームの試合を分析して、指導者はそこから情報を収集、チームの問題点や改善点を導き出す。可能であればビデオや統計を取得することにより、より具体的な問題を抽出することができる。またエリートクラブの指導者になれば、試合の各10分ごとに敵チーム、相手チームの分析なども行ないより細かく戦術状況を研究することが可能である。またアマチュアクラブでも、試合のビデオが入手できれば対戦相手のスカウティングを行なうことができ、マイクロサイクルトレーニングの構成に役に立つだろう。
② チームが必要とするトレーニングの必須要素をリストアップする
トレーニングに必要となる要素がリストアップできたら、マイクロサイクル(この場合は1週間単位のサイクルと仮定する)のトレーニングセッション内容を計画する。ここでは次の対戦相手の特徴、ケガ人、リーグ戦などの外的情報を分析することも大切である。以下にマイクロサイクルの構成にあたり、考慮すべき5つの項目をリストアップしてみる。
<マイクロサイクルの構成にあたり、考慮すべき5つのポイント>
(A)クラブや選手ごとの戦術面における成熟度
(B)選手の年齢に応じた戦術的な優先事項(育成年代の場合)
(C)チームのフィジカルコンディションおよび事前準備
(D)次の試合で予想される戦術的、戦略的シチュエーション
(E)これまでの各選手のパフォーマンスに対する評価
*ここで覚えておきたいことは、各週の課題としてリストアップする戦術項目を3つほどに限定することだ。トレーニングのテーマが複雑になり過ぎては、短いマイクロサイクルの中で選手との意思統一をとることが困難となる。
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③ チームが必要とする要素(例えば3つ)を、マイクロサイクル(週)のカレンダーに振り分ける。
マイクロサイクル(週)のカレンダーを作成する場合、試合の前日、後日に練習を行なうことは避けるようにしてサイクルを構成する。例えば3日間の練習時間が確保でき、土曜日が試合という仮定でプランニングをする。どのようにトレーニング要素を分配すればよいだろうか?アマチュアクラブの場合、欧州では月、火、木で練習するクラブが大部分である。このマイクロサイクルでも同じ月、火、木を利用して①攻撃、②守備、③戦術練習を配置してみる。
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 |
1日目 ③戦術確認 試合反省 セットプレー 修正など フィニシュ |
2日目 ②守備戦術 中盤の構成 数的不利 カウンター |
3日目 ①攻撃戦術 数的有利 速攻 フィニシュ |
4日目 試合日 情報収集 |
情報分析 問題点の摘出 課題の設定 |
ここで注釈しておきたいのは、マイクロサイクルにおいての攻撃練習と守備練習の配置順序だ。マイクロサイクルを提案する指導者の多くは、攻撃要素を週末の試合に近いトレーニング日に配置することを薦めている。その理由は、試合の直前に攻撃パターンを復習させることにより、試合中に攻撃戦術をよりスムーズに引き出すことが可能となるからである。これはバルセロナ・ハンドボールの指導者シェスコ・エスパル氏らも同じ理論を唱えており、練習の効率アップのためにも参考にしたい。つまり仮に次の試合において最も大切な課題が守備戦術であれば、守備戦術を最後の練習日にあてることも可能である。
<マイクロサイクル、守備、攻撃、戦術練習の配置 (練習x3日)>
*攻撃戦術に重点を置いてサイクルを構成する場合
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④ その他のエレメント(フィジカルトレーニングなど)を振り分ける
マイクロサイクルの大枠が決まれば、フィジカルトレーニング、ミーティング、リカバリー、ビデオセッションなどその他のエレメントを、マイクロサイクルの中で余った時間に振り分けていく。アマチュアクラブなど練習時間が限られている場合は、戦術練習の前後にこのようなエレメントを組み込むことが一般となる。なお、プロクラブのように練習時間が豊富なクラブは、このようなエレメントを独立した練習メニューとして扱うことが可能である。
また特に現代ボールスポーツの中でも大切なウェイトを占めるフィジカルトレーニングは、インテグラルトレーニングとして各トレーニングセッションに取り込みながらも、フィジカルトレーニングの内容構成に注意を払って振り分ける必要があることにも留意したい。戦術練習にフィジカルトレーニングをどのように組み込むか、などは各指導者によって大きく意見が異なるポイントでもある。またリカバリーや、ビデオセッション、娯楽活動なども大切な練習のエレメントとして活用したい。
<フィジカルトレーニングについて>
フィジカルトレーニングを構成する大きな要素となるのが、パワー、スタミナ、スピード、柔軟性である。ストレッチは毎日の練習などで行なうことを前提とし、その他のパワー、スタミナ、スピードという3大要素の順序立てを簡単に紹介する。*エリートレベルではフィジカルコンディションの派生要素となるコーディネーション、バランス、俊敏性・・・なども同時に強化する必要がある。
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⑤ 試合に向けての準備を行なう
指導者は組み立てたマイクロサイクルプランに従って、トレーニングメニューを実行に移す。もちろん細かい内容や、メニューの形などは随時変更することが可能だ。しかし練習メニューを変えても、各サイクルで設定した目標や、克服したいエレメントは一貫することが可能となる。マイクロサイクルを忠実に実行することで、最も客観的かつ現実的なトレーニングプランを組み立てることができる。
試合が近づけば、事前に立てたゲームプラン、トレーニングにおけるチームの現状を考慮して試合への最終準備を行なう。ここで指導者が準備しなければならない要素は、数多くある。以下に、試合直前に(マイクロサイクルの最終局面で)指導者が準備するべきエレメントを以下に挙げておく。
<指導者が試合に向けて準備するエレメント>
1. ライバルとのゲームプラン+選手の招集リスト
2. 平日のトレーニングから導き出した分析結論
3. 試合前日(または当日)に行なう選手へのスピーチ
4. ピッチや対戦相手などの外的条件など
5. 試合当日の日程+ウオーミングの調整など
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欧米では、各ボールスポーツで毎週のように公式戦が行なわれる。そしてチームが必要とする戦術などは毎試合、毎週ごとに変化していく。またプロレベルの指導者にとっては、長期的チームプランニングを立てることは非現実的でもある。試合の勝敗が最も重要視される欧米のボールスポーツでは、まずは「毎週の試合に全てをかけて戦う」という哲学が存在する。そのため長期的プランニングよりも、短期間のマイクロサイクルによるトレーニングプランが主流となる傾向がある。
<欧州の指導者がマイクロサイクルを選択する主な理由>
*対戦相手に合わせた戦術変更、試合ごとに変わる戦術・戦略
*選手の流動、負傷、調子などによる戦術・戦略の変更
*クラブフロント陣の入れ替えにより、長期的プランニングが困難である
*変動するスケジュールにより、長期的プランニングが困難である
*カップ戦、リーグ戦でのポジションによるクラブ優先事項の変動
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