海外スポーツコラム一覧

2013-4-1

ボール競技を通しての「クリスマス慈善チャリティーイベント」

2013/04/01


 西欧の各国では毎年のようにクリスマスが盛大に祝われる。毎年11月ぐらいになると、ほとんどの街がライトアップされ「よいクリスマスを」、「メリークリスマス」といったメッセージが街角のいたるところで見ることができる。クリスマスツリーを置く商店街、クリスマスケーキやプレゼントなどで賑わう店先・・・家族と過ごす12月24日をこの国々の多くの人々が楽しみに待っている。

 今やクリスマスプレゼントを楽しみにする人達の姿は、もはや欧州に限ったことではないだろう。そして何よりもこのクリスマスイベントを象徴するのが、家族と共に過ごす贅沢なパーティーの時間でもある。大勢の兄弟や親戚が集い、過ぎ去る年をねぎらうのが西欧におけるクリスマス文化の特徴とも表現できるだろう。

<ドイツのクリスマス。欧州では街中がライトアップされて人々は家族との年末のひとときを贅沢に楽しむ伝統がある>

 さてこの大切なクリスマスの時期に、多くのボールスポーツが慈善チャリティーイベントを開催する伝統が欧州には根強くある。貧富の差が日本に比べると激しい西欧だが、「このクリスマスには全ての人が清き夜を楽しめるように」というキリスト教の教えと伝統の影響を受けてのイベントである。今回のコラムではこの西欧で盛んに行なわれる「クリスマス慈善チャリティーイベント」について詳しく取材してみる。


*「クリスマス慈善チャリティーイベント」の概要とは?

 まずは、この「クリスマス慈善チャリティーイベント」の概要について説明する。このイベントの趣旨は、あるボールスポーツクラブがある特定のスポーツイベントを開催し、その収益や寄付物資を恵まれない家庭に届けるというものだ。例えばプロクラブのエキシビジョンマッチなら入場料金、または寄付物資などをそのまま地元の教会、赤十字、家庭保護団体などに寄付することが一般的である。またアマチュアクラブならば、地元にあるライバルクラブとのトーナメント戦などを開催し、参加選手およびその両親が食料品などの物資を寄付するというものだ。他にもイベントの入場料の代わりに玩具を寄付するなどして、恵まれない家庭に貢献するなど様々な方法がある。なお概してクリスマスの季節になると、西欧の人々は普段よりも慈悲深く振舞う傾向があると言われている。

<このようなクリスマスイベントで寄付される物品などは、障害者の保護団体や赤十字団体などに寄付される>


*どのようなスポーツがこのようなイベントを催すのか?

 イタリア、スペイン、フランス、ポルトガルなどの国々では、あらゆるボールスポーツがこのチャリティーイベントを積極的に開催している。典型的な競技の例がバスケット、ハンドボール、ホッケー、サッカー、フットサル、パデル、バレーボールなどである。アマチュアクラブからプロクラブまで多くのクラブが独自のチャリティーイベントを開催するが、最も典型的なものが友好試合や交流戦などを媒体としてのイベントである。

<ハンドボールクラブのクリスマスチャリティー大会の広告(左)パデルやテニスでも同じようなイベントが毎年開催される(右)>


*最も典型的なチャリティーは食品やおもちゃ玩具の寄付

 このクリスマスイベントにあたり、最も一般的な寄付品が食料品とおもちゃ玩具である。やはり欧州でも現金を寄付することに抵抗のある人々は多く、恵まれない家庭のための食料品(原則としては賞味期限が長いもの)や子供達のために玩具(原則として使い古されていないもの)を寄付することが一般的である。また各支援団体などに寄付金を贈るケースも見られる。各イベントを開催するクラブの大部分は、その寄付物資の全てを家庭支援団体などに贈呈する。


*抽選会、グッズ販売、ドリンクスタンドなどによりクラブは微収入を得る

 クリスマスの慈善チャリティーイベントは、出費を抑えるために通常は公共の体育館で行なわれる。クリスマスイベントならば、試合会場を借り切ることにも便宜を図る区役所なども多いのだ。イベントの多くは無償であるが、ほとんどのクラブが100円抽選会、福袋、グッズ販売、ドリンクサービスなどによって微収入を得ている。また年末宝くじをクラブを通して購入するシステムも、クリスマスの季節には盛んに行なわれている。

<プレゼントや寄付物品の授与セレモニーの様子。参加した子供達が、選手、スタッフ、父兄らが見守る中、寄付品などが地元のボランティア団体に寄付される>


*クラブのスタッフはボランティア活動となる

 利益を目的としないチャリティーイベントであるため、各クラブの選手やスタッフ達はこの1日はボランティア活動が基本となる。クラブに予算があれば、食事や交通費などの手当てが出されるクラブもあるが、基本的には無償での社会貢献活動である。先述のように、微収入を得るクラブはここからクラブスタッフの交通費または軽食費などの負担を軽減することも可能となる。

<選手やスタッフはボランティアとしてイベントに参加する。クラブのイメージアップ、団結、宣伝など多くの相乗効果も得られるイベントだ>


*各クラブにとっては大きな宣伝効果も得られる

 このようにボランティアで、社会貢献の側面が目立つチャリティーイベントだが、主催クラブにとってもイメージアップのための大切な行事でもある。地元の新聞や、ニュースが慈善チャリティーを好意的に取材することもあり、各クラブにとっては大きな宣伝効果が期待できるからだ。また少年クラブや下部組織を持つクラブにとって、父兄の理解やサポートを得るためにも、このような年末行事は重要な役割を果たしている。

<指導者はコーチであり、そして若き選手達の教育者でもある>


*クラブの団結、人々の団結

 そして今回複数のクリスマス慈善チャリティーイベントを取材して、私が最も強く実感したのが、「人々の団結」という言葉であった。各クラブにとって、このようなチャリティーイベントなどは確かに大きなイメージアップとなり宣伝効果もあるだろう。しかしそれ以上に多くのクラブは、自分達のクラブ、地元の人々、そしてクリスマスという伝統への愛着のために団結して貢献しているという印象を受けた。

「指導者はコーチであり、若き選手達の教育者でもある」

 今回取材したハンドボール、バスケット、フットサルなどのクリスマスチャリティー大会などでは、多くの選手や指導者がボランティアで働く姿を取材した。地元の郷土愛であり、多くの人々の自分達のクラブへの愛着がくっきりと見てとれるイベントでもあった。育成年代を抱える多くのクラブは、自分達の“絆”を何よりも大切にしている。クリスマスに行なわれるこのチャリティーイベント。彼らの自尊心と、社会貢献には深い感銘を受けた。


馬場 源徳(ばば もとのり)

 1981年長崎市生まれ。上智大学比較文化学部卒業。アルゼンチン・ベルグラーノ大学南米文学科修了。東京、ブエノスアイレス、バルセロナから台北を経て、現在スペインに拠点を置く。スペイン語・英語・中国語を中心に、翻訳家、通訳としても活動するフリーランスコーディネーター。ボールスポーツを通しての国際交流、青少年教育を中心に研究。異なる文化環境で培った社会経験を活かして、日本と世界の国際交流に貢献することを目標とする。好みの分野はボールスポーツに限らず、紀行文学、国際社会、ITテクノロジーなど。